年下の男の子に懐かれているうえに、なぜか同棲することになったのですが……

安東門々

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新生活

困惑とは違うけれど、驚愕

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 ポロリと箸で持っていた銀杏が落ちていく。
 バッチリ彼と目があってしまい、しかも名前まで呼ばれている。

「え? 何々? 誰?」

「……んん?」

 双方の相方が私と志賀くんを交互に見てくるので、私はこの状況をどうにかできないかと酔った頭を働かせて考えていく。
 
「もしかして、先輩知り合いですか?」

「え? えぇそうよ、仕事でよく行くところのアルバイトをしているのよ」

 ナイス! これなら顔を知っていても怪しまれないだろう、後はこのままお互い何事もなくスルーしてくれれば完璧なんだから、私は視線で彼に合図を送ると、気付いてくれたのかニッコリ笑い隣の男性に話しかけた。

「と、いうことで俺、この人たちと飲むから」

「「はぁ⁉」」

 お友だちと声が重なってしまった。
 なぜそうなる⁉ 意味がわからず困惑していると、手毬さんが「いいぞぉ――!」なんて言い出して、座布団を用意し始めた。

「悪い、後で埋め合わせするからさ」

「まぢかよ……はぁ、わかったよ。今度絶対だぞ」

 いやいや、キミももう少し頑張りたまえよ、なぜすぐに諦めて引き下がっているのかい?
 そうこうしているうちに、私の隣にとっと座ってくる志賀くん、なぜかすこぶる上機嫌だ。

「ど、どうもぉ」

 引きつった顔で挨拶してしまう。
 頼むから何も言わないで貰いたい、一気に酔いがさめていく気がしてダラダラと変な汗が出てきそうだ。

「ちょっとぉ、神薙さん! ほらほら、紹介してくださいよ。誰ですか? このイケメンは」

 ちょっと呂律がわまわっていない彼女に言われて、私は渋々彼を紹介するこにした。

「そ、そうね、紹介って言っても名前ぐらいしか知らないのだけれど、志賀しが たつきくんです。私の得意先様でアルバイトをしているのよ」

 よし、自然に話せたような気がする。
 このまま何事もなく過ごせそうな気がしてきた。
 しかし、手毬さんがお花を摘みに緊張して表現が変になった行ったとき、隣でソフトドリンクを飲んでいた彼が少し不機嫌そうに私に顔を近づけてくる。

「なんで急にこんなことになるよの? もう少し考えて行動してって……」

 志賀くんの方を向くと、綺麗な顔が目の前にあり私は思わず後ろにさがってしまいそうになったが、右手をぎゅっと彼の左手が重なってくる。

「え? え?」

 グルグルと視界がまわりだしていく、酔いではなく、なんだろ緊張と表現したほうが合っていた。

「名前ぐらいしか知らないんですか?」

 少しうるっとした瞳が私をじっと見つめてくる。
 
「あはは、えっと、それはあれよ。方便っていうか、もう! ちょっと離れてよ」
 
 更に近づいてくる彼を無理やり離すと、手毬さんがちょうど戻ってくる。
 ヤバイ、かなり変なドキドキばかりで全然お酒の味がしない。
 その後は、彼女の力により再度筋肉フェチを志賀くんが親身になって聞いてくれたので、お互い話すことはあまり無くなったが、良かった……これで少しは安心できるかもしれない。

「それで、樹くんは神薙さんのことが好きなんですか⁉」

「ブッーー!」

 ハイボールを吹き出しそうになってしまう。
 なんで急にそんな展開になったのだ、これ以上は何か壊れてしまいそうな気がしてならない。
 私は急いで会話を終わらせるために二人の間に入ろうとしたが、その前に志賀くんが口を動かしてしまった。

「うん、好きだよ」

 なんともあっさりとぉ――! その「好き」次第では大変なことになりかねない。

「えへへへ、私も神薙さんのこと好きなんですよぉ」

 酔い過ぎた彼女も何を言っているのか、デロデロになっており既に会話は成立していなかった。
 良かった。これなら、この会話も曖昧にできるかもしれない。

「でも、樹くん……」

 いつの間に下の名前で呼ぶようになっただろうか? しかも、なんだか怪しい感じがしてならない。

「神薙さんって年下は恋愛対象にはみれないらしいですよぉ~」

 ふにゃふにゃとした口調で、それだけを言ってまたトイレに行ってしまう。
 このチャンスを逃すなんてあり得ない、私は素早く店員さんを呼んでお会計をしてもらうことにした。
 しかし、隣の彼はなぜかムスっとした状態になってしまい、ちょっと乱暴に立ち上がると手毬さんが来る。

「えぇ、もう終わりなんですか?」

「終わりよ終わり! さぁ、送ってあげるから帰るわよ」

「うぅ、ありがとうございます先輩、一生付いていいきます」
 
 そんな根性は私は求めていないが、彼女の好きにさせよう。
 なんとかタクシーに乗せて代金を渡すと、車は出発していく。
 
「ふぅ、もう一時はどうなるかと思ったけど……」

 二人っきりになる。火照った体に夜風が当たり心地よさが増していく。
 しかし、今まで黙っていた彼は何を考えているのか、もう一台タクシーを呼び止めて私の手を握って乗りこんでいく。

「何? 電車で帰らないの?」

 バタンとドアが閉まり、住所を告げると車は走り出していく。
 少し離れているが特別混んでおらず、家まで到着するなりカードを取り出して支払いを済ませてしまう。

「いいの? 私も払うけど」

 今日の飲み会代は私が全額だしたが、大学生にタクシー代を奢ってもらうのは気が引けてしまう。
 だけど、志賀くんは黙ったまま自動ドアをくぐり部屋に向かって歩いていく。
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