年下の男の子に懐かれているうえに、なぜか同棲することになったのですが……

安東門々

文字の大きさ
上 下
15 / 46
新生活

居心地

しおりを挟む
***

 仕事が捗って仕方がない、なぜなら私は今最高に調子が良かった。
 営業部の人たちには申し訳ないけれど、数字もよく企画部内の案もすんなりステークホルダーに通り、新規も増えたので調子が良いに決まっている。
 あの日以来、志賀くんはお酒の気配もなく普通に生活していた。
 ただ少しだけ、ほんのちょっとだけ距離が近くなったのは認めるが、決して恋云々ではない。

「……ん!」

 美味しいご飯に、居心地のよい居住空間と気遣ってくれる同居人は想像以上に私生活を快適にしてくれ、体調含め凄く調子が良くなっていた。

「……さん!」

 最初はどうなることかと思ったが、これなら部屋が空くまで大丈夫なような気がしてくる。
 そ、そのたまに大人な関係に発展することもあるが、男女が一緒に住んでいたらたまには起きちゃうわよね、なんて自分に言い聞かせて納得させていた。
 ただ、不安なのは彼は私を一人の女性としてみているのかな? って、思う時がたまにある。
 
 自分の姿を手鏡で確認してみると、所々やはり二十代前半のころのような若さは消えかかっている。
 そんなことを考えていると、仕事が止まってしまった。

「ダメダメ、今調子が良いんだから集中しないと!」
 
 自分に気合を入れて仕事に戻ろうとするが、不意に顔のよこにヌッと誰かが寄ってきて、耳元で私の名前を呼ぶ。

「神薙さんってば!」

「え⁉ ど、どうかした⁉」

 あまりに急なことで思わず握っていたボールペンを落としてしまう。

「もう! どうかしたの? じゃないですよ。さっきからずっと呼んでいるのに」

 少し不機嫌顔になった手毬さんが私を見下ろしていた。

「そ、そうなの? それはごめんなさいね。それで何かあった?」

 彼女は私が落としたボールペンを拾ってくれると、そっと机に置いてくれる。
 
「あ、それなんですが……」

 キョロキョロと周りを確認して、私に顔を近づけてきて耳元でこう囁く。

「あの……実は相談したいことがありまして」

 チラっとメモ用紙を手渡してくる。そこにはお店の名前と電話番号が記載されていた。

「すみません、良いですか?」

 これはきっと飲んで話したいのだろう、私は小さく頷くと喜んでくれる。
 彼女は満足したのか自分の席に戻り仕事を再開しはじめた。
 私は、いまもらったメモに書かれたお店を調べてみると、意外なことに大衆居酒屋で彼女のイメージではあまりないが、私はかなり好きな雰囲気のお店だった。

「そう言えば、最近飲んでいないわね」

 前まで晩酌が大好きだったのに、今では控えている。
 原因は志賀くんがお酒の香りだけでも酔うということが分かってから、とにかくアルコール類は家には持ち込まないようにしていた。
 
 手毬さんとは会社の飲み会では何回もあるけれど、二人きりというのは今まで無かった。
 女性数名で集まってお洒落なお店って誘われたこともあったけど、その時は疲れていて断ってしまった記憶がある。

「あ、連絡しておかなくちゃ」

 鞄からスマートフォンを取り出して、同居人へメッセージを入れておく。

『今日は遅くなります。ご飯も要りません』

 つい最近になってようやく連絡先を交換したのだが、いったい私たちは今まで何をやっていたんだよと、ツッコまずにはいられない。
 しかし、タイミングを逃すとこれがまた不思議で中々聞き出せないんだよね。

 あとは送信ボタンをタップするだけなのに、自分の文章があまりにも淡白すぎないかと心配になってくる。
 
「スタンプとかも送ったほうがいいのかしら? それとも絵文字?」

 今の若い人って絵文字を使うのかしら? それすらもわからない。
 スタンプの欄には、デフォルトのやつ以外は入っていないので、かなり味気ない。
 散々考えたすえにたどり着いたのは、やはりそのまま送るということだった。
 たった一言でここまで悩んでいては体がもたないと判断し、送ったが既読の文字がついて返事がくるまで何度も見返してしまった。

「さて、残り片付けますか」

『了解! それじゃぁ先にお風呂とか済ませていますね』

 シャワー派の彼はいつも入浴時間が短い、それでいてあんなに良い匂いなんてやはり若さなのか?
 なんて馬鹿なことを考えていたが、ちらっと時計を確認するともう少しで退社の時間になってしまう。
 手毬さんも鬼気迫る表情で仕事をこなしていたので、私は自分の仕事の量を考えてこっそり彼女にメールを送信する。

『手伝うからファイル添付して送って』

 私のメールに気が付いた手毬さんは、こちらをチラっと見るとパッと喜び、さっそく送ってきた。

「う、ちょっとは遠慮しなさいって」

 送られてきた仕事量をみて、締め切りが明後日のも送ってくるあたり、やるわね! なんて思ってしまう。
 まぁ、遠慮されるより良いかもしれない、私は気合を再度注入し仕事へと向かっていく。

***

「ぷはぁ~! よかったです。本当にありがとうございました‼」

 無事に仕事が終わり、私たちは目的の居酒屋に到着しさっそくお酒を飲み始める。

「いいの、私も自分以外の仕事の進み具合を確認出来てよかったし」

 私の言葉に少しバツの悪そうな表情に変わるが、運ばれてきた料理をみるなりすぐに上機嫌、こうコロコロと表情が変わるあたり凄く可愛いと思う。
 ほっぺも柔らかそう、髪だって痛んでいないし……。
 卑屈になりそうな思考を無理やりとめて目の前に置かれている金色の液体を飲み込むと、全身に染み込んでいく。

「う、お、美味しい」

「ですよね! ここ、グラスまで冷えているので」

 確かに、若干白いほど冷えているグラスにビールなんて最高ではないだろうか。
 彼女もビールをちびちびと飲んで、楽しそうにメニューを選んでいた。

「それで? 相談あるんでしょ?」

 サラダとオニオンフライが運ばれてきたところで、私は本題にはいる。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

処理中です...