年下の男の子に懐かれているうえに、なぜか同棲することになったのですが……

安東門々

文字の大きさ
上 下
11 / 46
新生活

アルバイトくん

しおりを挟む
 憂鬱だ、なぜこのタイミングで? そう思わずにはいられない。
 
「係長、今日行ってくれるかい?」

 係長……部長が私の背中ごしに話しかけてくる。
 一度も苗字や名前で呼ばれたことがないけれど、他の人にもそうしていたような? そこの新人くんとか、そんな感じでかなり付き合うのが苦手な人である。

「あ、はい! 部長、もちろんです」

 私相手にメールが来て、一応CCで部長にも届いていた。
 重い腰を上げて、出かける準備を整えていく、弊社は珍しい商材を取り扱っており最近の売りはなんと言っても、常温硬化液体ガラスを用いた建築物の防錆が売れている。

 その資料と価格や詳しい内容を聞きたいとステークホルダーの営業部長から入っていた。

「行ってらしゃい、あの会社は神薙さんのことを凄く気に入っていますよね」

 隣の席の人に声を掛けられた。
 そうなのかもしれない、いつも私に連絡をくれた。もちろん、最初に私が訪ねて営業をしたというのも理由の一つかもしれないが。

「それじゃぁ行ってくるわね」

 忘れ物がないことを確認すると、私は出社したばかりだったが外へと出て行く。
 会社から少しだけ離れているが、歩いて行ける距離なのでいつも徒歩で向かっていた。

 途中のカフェで帰りにテイクアウトでアイスコーヒーを買うのが、この会社へいく楽しみの一つなのだが、今日に限ってはそうは思えなかった。

「今日はいないわよね?」

 不安になりつつ、目的の場所に到着する。
 つい最近できたばかりの会社、ちょっと前は雑居ビルの一つに間借りしているような感じだったのに、今ではビルを一つ持つまで成長していた。
 しかも、本当に一瞬でここまで到達したのだから、経営者は凄い人なのかもしれない。

 かもしれない、この曖昧な表現は私は何十回も訪れているのに、未だにこの会社の経営者に会ったことが無かった。

「得体の知れない代表取締役社長か……」

 まるで、漫画の世界かのような設定に最初は不安であったが、支払いが遅れたり理不尽な注文などは一度もなく、会社内でも良い顧客リストに入っている。
 
「お⁉ 神薙さん、おはようございます。今日も綺麗ですね」
 
 私に会うたびに、冗談を言ってくる守衛さん、もう御年六十五を迎えたと聞いていたので、私からしてみると父のような感覚だ。

「もう、そう言ってくれるのは田村さんだけよ」

 私も冗談ぽく返すのがお互いの挨拶のようなもので、いつも肩の力を抜いてくれる存在である。
 最初のころは、本当に助かっていたが最近ではあまり緊張もしなくなり、肩に力は入らないでいた。
 だけど、今日は今日だけは違う……!! いつものように入ると、下を向きながら歩いていく。

「お? 神薙さん、お疲れ様です」
「神薙さんどうも‼ おはようございます」

 やめてやめて、顔なじみに社員さんから挨拶がくると、私もいつもの笑顔で返していくが、内心はとても焦っていた。
 どうか今日はいませんように、むしろ今後は顔をあわせませんように、そう願っていたのに、神様はあっさりとスルーしてくれたようだ。

「おはようございます神薙さん」

 ここ数日、よく耳にした声が聞こえてくる。
 思わずビクッと体が固まってしまうが、頑張って振り返り引きつる顔を整えながら挨拶を返した。

「お、おはよう志賀くん……」
 
 清掃のアルバイトをしており、いつも会社にいる頻度が高い、掃除だけでなくフロアのコピー用紙の補充だったりと幅広く雑用もこなしているようだ。
 私の顔をみるなり、パッと笑顔になるその仕草はいつも通りなので、最近は可愛いなんて思うこともあったが、今は違う。
 
「そ、それじゃぁ、私は待ち合わせがあるから失礼します」

 急いで待ち合わせ場所の会議室へ向かおうとするが、掃除用具を持った彼に追いつかれしまう。
 そして、小声でこんなことを聞いてきた。

「どうでした? 今朝のご飯は?」

「――ッ⁉」

 ドキッと心臓が飛び跳ね、私はあわてて彼にぐっと近寄り、右手の人差し指を口にもっていく。

「シーーッ! な、何を急に言うの⁉」

 自分では、小声で言っているつもりだが、もしかすると声が漏れているかもしれない。
 でも、周りをチラッと確認してみると、誰も私たちのことを見ていなかった。
 安堵しながら、小声で会話を続けていく。

「私たちが一緒に住んでいるのは、秘密なんだから黙っていて、わかった?」

 きょとんとした表情になるが、理解してくれたのか軽くポンっと手と手を叩くと、私の顔にぐっと彼の顔が近づいてきた。

「わかりました。二人だけの秘密ですね……」

「!!」

 こ、これはヤバいかもしれない。
 一気に顔に血が集まっていくのが感じられ、すぐに離れるとヒラヒラと手を振って笑顔で私を見送り仕事に戻っていってしまった。

「な、なんなのよ本当に……」

 それからの商談は散々な結果と言っても過言でない、普段の私を知っていてくれたのでなんとか凌げたが、これが新規なら絶対無理だったと確信する。
 帰ったら絶対に注意しなければならない、仕事とプライベートは違うということを教えないとだめだ。
 それでも、こんなに動揺する私もどうしたものかと……歳はこちらが上なのに、全然年上だと認識されていないかもしれない。

「うぅ……み、見てなさいよ」

 私の中でちょっとした計画が頭に浮かんでくる。
 ちょっと恥ずかしいけれど、お、大人だってわからせてあげるんだから!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺以外、こいつに触れるの禁止。

美和優希
恋愛
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の高校二年生の篠原美姫は、誰もが憧れる学園のヒメと称されている。 そんな美姫はある日、親の都合で学園屈指のイケメンのクラスメイト、夏川広夢との同居を強いられる。 完璧なように見えて、実は男性に対して人の何倍も恐怖心を抱える美姫。同居初日からその秘密が広夢にバレてしまい──!? 初回公開・完結*2017.01.27(他サイト) アルファポリスでの公開日*2019.11.27 表紙イラストは、イラストAC(sukimasapuri様)のイラスト素材に背景と文字入れを行い、使用させていただいてます。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...