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同棲開始
お手伝い
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その日は、朝から動き出していく。
電車で何往復もするよりは、ということで彼が近くのレンタカーショップで車を借りてくれると、すっとマンションの前にやってくる。
「へぇ、車運転できたんだ」
ちなみに、私は自慢ではないがペーパードライバーであった。
免許証なんて身分証明書の代わり程度にしか考えていない。
しかも運転しなくとも、ゴールドになるのが不思議であるが、今となっては運転していない時間のほうが長いのでハンドルを握るのも怖かった。
「運転できますよ。自分の車も一応持っていますが狭いので……」
狭いと言っても、大学生で車を持っているなら十分である。
借りてきてくれた車は、いわゆるファミリーカーと呼ばれる分類の車で、シートを倒すとソコソコの荷物が入りそうなので、思った以上に簡単に済むのかもしれない。
「ありがとうね、お金は払うから」
「いえいえ、気にしないでくださいって言っても、神薙さんは気にするのでしょうから半分でどうですか? こっちは運転好きなので気晴らしにもなるので」
素直に承諾するとは思っていなかったが、すぐに妥協案を述べてくれた。
運転が好きでも、私の引っ越しに付き合ってくれるのは忍びない、むしろお金を払いたいほどだが、彼がそういうのなら私は小さく頷いてちょっと困った顔を見せることにした。
「そう、なら今回だけね、ありがとう。ただし、引っ越しを手伝ってくれたお礼は別だからね」
私の応えを聞くと、ぷっと笑い笑顔になる。
その幼さが所々に残り、大人といっても人懐っこさがにじみ出てきていた。
「わかりました。楽しみにしていますね」
そう言うと志賀くんは、車のアクセルを踏んでゆっくりと前に進みだしてくれる。
あまり路側帯などには寄らずに、私に圧迫感を持たせないような運転をしてくれていた。
(この子、相当車で誰かを乗せているわね)
若いのに助手席に乗っている人にストレスを与えないような運転なんて、なかなかできるものでない。
この間は、部下と言っても私より年上の男性に取引先まで送っていただいたが、かなり疲れてしまった。
「運転上手なのね」
「そうですか? ありがとうございます」
ちらっと、こちらを横目で確認すると彼は「音出しても?」と尋ねてくるので、「いいわよ」と応えると、ラジオのスイッチを入れた。
ゆっくりとジャズの音楽と共に、パーソナリティの耳に心地よい声が車内に広がっていく。
ナビにも一応住所を入力しているが、私も道案内をしつつドライブを楽しむことにした。
「ここよ」
「へぇ」
物珍しそうに、アパートに到着すると邪魔にならないような場所に駐車し、急いで物を運び出していく。
前々から準備はしていたが、二人だとやはりスムーズなうえに、箱に入れたときは大したことないなって思っていた荷物が予想以上に重かったが、志賀くんがひょいっと持ち上げてくれていたので、ちょっとだけ、ほんの少しだけカッコイイなんて思ったのは秘密である。
「この部屋、素敵ですね」
「そう? 何にもないわよ。女性にしては殺風景でしょ?」
土日も基本的にベッドとソファーを中心とした生活、平日は忙しくて殆ど眠るために帰ってくる場所と言っても差し支えなかった部屋であった。
洗濯と食器を面倒と思わずにやっていると、そこそこずっと小奇麗なままだった。
「仕事、仕事ばかりで……殆ど趣味も無いし、だから家具とかも増えなかったの使わなかったしね」
私の言葉を聞いているのか、いないのか、部屋をキョロキョロと見ては、満足そうに頷いているのでちょっとだけ居心地が悪い。
もう、殆ど何も無いのに、なんだか嫌である。
しかし、それも最初のうちだけで後は引っ越しに集中してくれた。
「うっし! これで最後ですかね?」
「えぇ、ありがとう」
まさか、本当に車一台分で終わるなんて……。
すっぽりと収まってしまった荷物を見て少しだけ寂しくなる。
「これ、全部持っていくんですか?」
「えっと、不要なものは殆ど処理しちゃったから、着替えや仕事関係のものがメインだから、それでもだいぶ面積をとっちゃうけど大丈夫?」
クローゼットは大きいのが良い! マンションを選ぶときの条件の一つであった。
だから、今住んでいる場所は、私の服や靴類が入ってもまだ十分なスペースが残っている。
「良いんじゃないですかね? 俺もあまり家にいませんし、問題ないと思いますよ」
車の中で話し合ってきたが、さすがにソファーはマズイということになり、今物置に使っている部屋を整理し、私の部屋にする案で固まりつつあった。
今朝、ちろっと確認したが十分な広さで窓もあって光も入ってきていたし、狭い方が持ち帰りの仕事をするときに集中できたりもした。
「それじゃぁ布団とかも用意します?」
「そうね、一旦荷物を置いて、整理してからにしようかしら」
私たちは、車に乗りこんで元来た道を戻っていく。
お昼は、昨日私がつくって残っていた料理を食べてが、やはり水分が抜けてパサパサしていたが、彼は喜んで食べてくれた。
「さて、行きますか」
午前中に、部屋の整理と言っても眠れるスペースと必要最低限のものを設置して、徐々に片付ける作戦に切り替え、午後からまた彼の運転で布団やお風呂のときに使うような品を中心に買い物に出かけていく。
電車で何往復もするよりは、ということで彼が近くのレンタカーショップで車を借りてくれると、すっとマンションの前にやってくる。
「へぇ、車運転できたんだ」
ちなみに、私は自慢ではないがペーパードライバーであった。
免許証なんて身分証明書の代わり程度にしか考えていない。
しかも運転しなくとも、ゴールドになるのが不思議であるが、今となっては運転していない時間のほうが長いのでハンドルを握るのも怖かった。
「運転できますよ。自分の車も一応持っていますが狭いので……」
狭いと言っても、大学生で車を持っているなら十分である。
借りてきてくれた車は、いわゆるファミリーカーと呼ばれる分類の車で、シートを倒すとソコソコの荷物が入りそうなので、思った以上に簡単に済むのかもしれない。
「ありがとうね、お金は払うから」
「いえいえ、気にしないでくださいって言っても、神薙さんは気にするのでしょうから半分でどうですか? こっちは運転好きなので気晴らしにもなるので」
素直に承諾するとは思っていなかったが、すぐに妥協案を述べてくれた。
運転が好きでも、私の引っ越しに付き合ってくれるのは忍びない、むしろお金を払いたいほどだが、彼がそういうのなら私は小さく頷いてちょっと困った顔を見せることにした。
「そう、なら今回だけね、ありがとう。ただし、引っ越しを手伝ってくれたお礼は別だからね」
私の応えを聞くと、ぷっと笑い笑顔になる。
その幼さが所々に残り、大人といっても人懐っこさがにじみ出てきていた。
「わかりました。楽しみにしていますね」
そう言うと志賀くんは、車のアクセルを踏んでゆっくりと前に進みだしてくれる。
あまり路側帯などには寄らずに、私に圧迫感を持たせないような運転をしてくれていた。
(この子、相当車で誰かを乗せているわね)
若いのに助手席に乗っている人にストレスを与えないような運転なんて、なかなかできるものでない。
この間は、部下と言っても私より年上の男性に取引先まで送っていただいたが、かなり疲れてしまった。
「運転上手なのね」
「そうですか? ありがとうございます」
ちらっと、こちらを横目で確認すると彼は「音出しても?」と尋ねてくるので、「いいわよ」と応えると、ラジオのスイッチを入れた。
ゆっくりとジャズの音楽と共に、パーソナリティの耳に心地よい声が車内に広がっていく。
ナビにも一応住所を入力しているが、私も道案内をしつつドライブを楽しむことにした。
「ここよ」
「へぇ」
物珍しそうに、アパートに到着すると邪魔にならないような場所に駐車し、急いで物を運び出していく。
前々から準備はしていたが、二人だとやはりスムーズなうえに、箱に入れたときは大したことないなって思っていた荷物が予想以上に重かったが、志賀くんがひょいっと持ち上げてくれていたので、ちょっとだけ、ほんの少しだけカッコイイなんて思ったのは秘密である。
「この部屋、素敵ですね」
「そう? 何にもないわよ。女性にしては殺風景でしょ?」
土日も基本的にベッドとソファーを中心とした生活、平日は忙しくて殆ど眠るために帰ってくる場所と言っても差し支えなかった部屋であった。
洗濯と食器を面倒と思わずにやっていると、そこそこずっと小奇麗なままだった。
「仕事、仕事ばかりで……殆ど趣味も無いし、だから家具とかも増えなかったの使わなかったしね」
私の言葉を聞いているのか、いないのか、部屋をキョロキョロと見ては、満足そうに頷いているのでちょっとだけ居心地が悪い。
もう、殆ど何も無いのに、なんだか嫌である。
しかし、それも最初のうちだけで後は引っ越しに集中してくれた。
「うっし! これで最後ですかね?」
「えぇ、ありがとう」
まさか、本当に車一台分で終わるなんて……。
すっぽりと収まってしまった荷物を見て少しだけ寂しくなる。
「これ、全部持っていくんですか?」
「えっと、不要なものは殆ど処理しちゃったから、着替えや仕事関係のものがメインだから、それでもだいぶ面積をとっちゃうけど大丈夫?」
クローゼットは大きいのが良い! マンションを選ぶときの条件の一つであった。
だから、今住んでいる場所は、私の服や靴類が入ってもまだ十分なスペースが残っている。
「良いんじゃないですかね? 俺もあまり家にいませんし、問題ないと思いますよ」
車の中で話し合ってきたが、さすがにソファーはマズイということになり、今物置に使っている部屋を整理し、私の部屋にする案で固まりつつあった。
今朝、ちろっと確認したが十分な広さで窓もあって光も入ってきていたし、狭い方が持ち帰りの仕事をするときに集中できたりもした。
「それじゃぁ布団とかも用意します?」
「そうね、一旦荷物を置いて、整理してからにしようかしら」
私たちは、車に乗りこんで元来た道を戻っていく。
お昼は、昨日私がつくって残っていた料理を食べてが、やはり水分が抜けてパサパサしていたが、彼は喜んで食べてくれた。
「さて、行きますか」
午前中に、部屋の整理と言っても眠れるスペースと必要最低限のものを設置して、徐々に片付ける作戦に切り替え、午後からまた彼の運転で布団やお風呂のときに使うような品を中心に買い物に出かけていく。
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