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神隠し

霧の正体は?

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 あの一連の出来事から、すっかり我々の実力を知ってくれた村人たちは、オドオドしながらも協力的になってくれる。
 アリーアに関しては、目の前で攻撃魔法をぶっ放したのが大きい。 感嘆の声が村中から湧き上がって、俺よりも彼女に注目が集まっていた。

「それで? 今知っている情報を全て教えてくれませんか?」

「はい、それなのですが、一番の被害にあった村がありまして、その村の衆は強い御仁を探す旅に出ており、誰も消息を掴んでおりません」

 それが、もしかするとあの落石事故にあった一団の可能性がある。

「女性も連れ去られ、残った男たちは帰らず、その前に大規模な山狩りを行ったのですが、そこでも多数の働き手を失いました」

 部屋の中が一気に暗くなっていく。更に付け加えるなら、元々外との交流を良しとしなかった村で、この合併村にも最後まで反対していたようで、一度は集まったが結局は離れて生活していたそうだ。
 孤立した存在というのは、常に狙われやすい。 それは、自然界では当たり前のことで、もう殆どの人がいなくなるまでに陥ったらしい。

 だから、あまり詳しく誰々が住んでいたなどの詳しい情報はないという。

「で? 敵の素性と言っても、把握しているのは少ないと思いますが、何かわかることを教えてください」

「はい、ヤツは生き物なのか、それとも死神なのか、まったく見当もつかないんですよ。 忽然と現われては消えているので」

「それでは対策のしようがないでのでは?」

 せめて、苦手なものでもあったら助かるのに。

「ですが、一度だけ牛飼いのモンが、棒で殴ることに成功しております。そのとき、確かに手ごたえを感じ、相手も一瞬怯んだと言っておりました」

 ならば、敵にダメージを与えられる可能性は十分にあるということだな。 これが霞のような存在なら、いよいよ物理攻撃専門の俺の出番は無くなると思ったが、どうやらそうでもないらしい。 
 
「現われる周期的などはありますか?」

 これには、首を横に振られる。 つまり、不定期ということだ。

「ただ、前回の山狩り以降、頻度は上がっていると思います。今まで若い人を重点的に狙っていましたが、今では老人でも平気で連れていきます」

 何か相手にとって大きな転換だったのだろうか? とにかく、今ある情報ではここまでが限界だった。
 正直言うなら、殆ど理解できない。 いったい、相手はどんな存在なのだ。
 
 そう思っていると、空が明らんでいる。 さすがに疲れ、朝は現れないと言っていたので、俺とアリーアは少し休ませてもらうことにした。


「ねぇ、ゼン、今回の相手はなんだか不思議ね。前回はバフォメットの姿を真似した魔族が発端だったけれど」

「あぁ、こうも各地で一斉に魔物やそれに近い存在たちが、動き出したのは偶然ではないはずだ。きっと何かある」

 嫌な予感がゾワっと背中を伝う。 こう、底知れない何かが蠢いているように思えてならない。
 だが、今は目の前の事に集中しなければならないので、意識を戻して話を進めていく。

「なら、相手が動いてから行動に移るしかないのか」

「そうですね、後手になってしまいますが現状ではそれしか方法がございません」

 相手が拠点にしている場所などがわかれば別だが、人を犠牲にしてまで追跡できるかもわからないのに。
 
「皆生きているといいね」

 アリーアが寂しそうに呟く、この人は優しい。 それに強い。少しだけ頼りない場面があっても、あの魔法は心強かった。
 自分の頭で何か解決策がないか考えながら、通された家で休むことにする。
 小さな小屋で、寝るには十分だ。 アリーアは隣の小奇麗な小屋に行く。 最初は同じ小屋を案内されたが、私が全力拒否をした。
 なぜなら! 結婚もしていないのに、男女が同じ空間に寝るなどあってはならない! 既にその誓いは破られているが、この構えだけは自ら崩せない。

「さて、寝るかな」

 槍を脇に置き、埃が舞う薄い布の上に横になる。
 疲れているためか、すぐに睡魔が襲ってきた。 俺は抗わずにゆっくりと目を閉じる。

 ゴソゴソ。 ん? 人の気配がする? 失念していたわけではないけれど、殺気がこもっておらず、気づかなかった。
 うっすらと目を開けてみると、そこには俺の上にまたがり、顔を高揚させ興奮した女性がいた。

「む! セリス⁉」

「あれ? 起きちゃった? ぐっすり眠っていたから、イケると思ったのに、まぁいいか♪」

 何が「まぁいいか♪」だ! そう思っていたが、まだ体が眠りから完全に覚めておらず力が思うように入らない。
 そうしている間に、彼女の顔がドンドンと近づいてきた。

「えへへへ、この時を私は待っていたんだ」

 
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