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爺、転生す

夜が差し迫る

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 ざわざわ。
 鋭い眼差しが店内の客を捉えていく。 マスターがよそよそと出て来たが、邪魔だと言われすぐに奥に引っ込んでいく。

「おい! 何度も言わせるな、この中に」

「俺だが」

 ギロリ、三人の兵士の顔が俺を向いた。

「ちょっと! ゼン、なにやったのよ」

 そんなことは俺が訊きたい。 それよりも、相手は俺を探しているということだ。
 食べかけのパンをテーブルに置き、身構える。

「貴様が? 随分細い男だな、噂はやはり噂か」

「何を言っている?」

「うるさい! 一緒に来るんだ!」

 ツカツカと近寄ってきるが、あまりにも隙だらけだ。

「ま、待ってください! ゼンになんの用ですか⁉」
 アリーアが俺の前に立ちふさがって兵士を塞ぐ。

「はぁ! なんだと! 邪魔だ!」

 ブンっと大きく手が振り上げられた。 なんだと、こいつら、か弱い女性に手を出すつもりなのか?
 すっと、体が動く。 彼女を襲おうとしていた腕を細いと言っていた腕が受け止めた。

「な!」

「小僧ども! 自分より弱い存在に向かって暴力をふるう! それが兵士のというのか⁉」

「ち、貴様の方が小僧ではないか!」

 バンッ! 腹部に向けて、掴まれていない腕が向かってくる。
 俺は掴んだ腕を軽く引っ張ると、彼の腰は浮く。

「へ?」

 バランスを崩した相手の懐に潜り込み、相手の前襟をつかむと、左手をグイっと引っ張る。

「おぁ⁉」

 腰が更に浮き上がり、そのまま姿勢を低くしたまま背中を相手の腹にあて、一気に引っ張る。
 グンッ! バランスを完璧に失った相手は、そのまま勢いよくテーブルと床に背中を強打した。

「グハァ‼」

 ギロリ、他の二人を睨みつけた。 ビクっと体が震えたように思える。
 すると、相手は腰に差していた剣を抜く。

「ち! なんだお前は⁉」

 こちらも、槍を取り出そうとしたとき、俺の腕にアリーアがしがみついてくる。

「や! やめなって、相手は兵隊さんだよ⁉ この街に喧嘩うるつもり?」

 確かに、頭に血が上ってしまって、咄嗟に反撃してしまったが、少しやり過ぎたか?
 しかし、相手は引き下がれないだろう。面子を潰されたのだから、剣を構えじりじりとすり寄ってくる。

「はぁ、腰が引けている! それでは無理だ」

 戦う前からビビっていては勝負にならない。 練度が低く精神面も弱いとみた。
 そのとき、ドアから新たな人影が入ってい来る。 新手か?

「はいはい! 終了! お前たち剣を下げろ、それと隊長、あなたは相手を侮りすぎている。まったく山岳都市オフトの正規兵が聞いて呆れてしまうよ」

 茶髪でぼさぼさの頭と牛乳瓶の底のような眼鏡をつけ、ソバカスが目立つ顔立ちをしていた。
 そんな人物がお店に入ってくる。 服装などの見た目は先ほどの兵とあまり変わりないが、はっきとわかった。【強い】と。

「お? いいですね。僕を見てすぐに臨戦態勢に入った。いや! 見事、雑兵ではかなわないわけですよ」

 ギロリと後ろに控えた兵を睨みつけると、「ヒィッ‼」と言いながら、床でのびている隊長と思わしき人を連れて外へでていった。

「これはこれは失礼したしました。自己紹介が遅くなりましたが、私はこの山岳城塞都市オフト正規軍、山岳遊撃隊所属のカリスと申します。階級は少佐、以後お見知りおきを」

「で、そのお偉い少佐様が、なぜ俺のような人を兵を使い探しているのですか?」

「おんやぁ、ちょっと違いますね。私はたまたま、遭遇しただけで、探しているのは、この都市のえら――い人、我が将であられる。ザフト中将であられますぞ」

 なんとも大きな存在がいきなり登場した。 おもわず槍を握る手に力が入ってしまう。

「それで、何の用でしょうか?」

 姿勢を正し、相手を見据えた。 それを見たカリス少佐は満足そうに左手の中指でズレた眼鏡をなおすと、こう告げた。

「至急、正門近くの詰め所までご同行願いたい。すでに馬は容易しております」

「理由は? 聞いても教えてくださらなそうですが」

「えぇ、あなたは見た目よりも随分と腰が据わっておられる。まるで伝説の魔物と対峙しているようだ。体が縮こまってしまいますよ。これほどの実力を理解できない私の部下には、あとでキツイお説教が必要ですね、それと、内容ですがここではちょっと言えない話題と思っていただければ幸いです」

 やはり、ろくな内容ではないと思ったが、既に外に馬を用意しているということは、既にここは囲まれ・・ていると認識して間違いないだろう。
 それに、正面の男を突破できる自信もあまりなかった。

「そうそう、やはりあなたは聡い、武力だけでなく頭まで聡明だとは、いやはや御見それいたしました。では」

 こちらの態度で判断したのだろうか? 出入口を指さしながら、俺に来るように指示してくる。

「ねぇ! 待ってよ」
 
 一歩歩こうとしたとき、腕を掴んだままのアリーアが引き留めた。

「ぜ、ぜったい大変なことに巻き込まれちゃうよ! ね? いまから事情説明して、お断りしたら?」

「そうしたいが、きっとこれは俺たち側に拒否権はない、だろ? 少佐様」

「ふふははは! そうですね。その通り、拒否権はもともと存在しておりませんよお嬢さん」

 今まで眼中になかったかのように接していたアリーアを見たカリス少佐、すると、彼女の杖を見たとき、あの分厚い眼鏡の奥に潜む怪しげな瞳が光った。

「あら、あらあらあら! これは、なんたる巡り合わせ、普段神を信仰しない私ですら、今はありがとうと言いたくなる。では、もう一つ提案というなの命令で恐縮ですが、ゼンさん、そちらのお嬢様もご一緒に来ていただけませんか?」

「わ、わたし⁉」

「えぇ、そうです。お二人、揃ってどうかご同行願います。手荒な真似はしたくありませんので、どうか、我々の我がままを」

 大きなため息がでた。 断ることが不可能ならば、行くしかないであろう。俺は槍とアリーアを近くに引き寄せ、歩き出した。
 それを見てカリス少佐も揃って外へ出た。 案の定、外には無数の兵が待機し、ぐるりと店を囲んでいる。
 しかも、先ほどの兵とは違い練度も統率もけた違いだった。

「なにが、たまたまだ」
 
 わざと、あの無作法な部下を向かわせ、こちらの実力を試したに違いない。
 
「おや? 気のせいですよ気のせい」

 薄気味悪く笑ながら、馬車へと案内された。怯える彼女を気遣いながら馬が走り出し、デコボコとした道を城門に向かっていく。
 すでに外は暗くなりかけ、夜がせまっていた。

 
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