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旗立つ 深き杜より出 魔の王 蘇り

陽動部隊の裏

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***

 クヒヒヒヒッ! あの雑魚どもめ、どこまで半端モノどもを足止めできるのか見者じゃな。
 薄暗い地下通路を、バジリスクが先導していく。

「こちらです。もう少しで広い場所に出られるのでお気を付けを」

「気を付けると申しても、この城には既に敵の兵力は殆ど残されていないではないか」

 我々はゴブリンやレッサーデーモンを囮に、敵をおびき寄せその隙に城を落としてしまう作戦にでた。
 こちらの兵力は二十体程と、地下通路で通れるギリギリの数であったが、わざわざ魔国から連れてきた精鋭と例のアレを託されたのだから、万が一にでも負けは考えられない。

「この臭い場所も、後に綺麗にせねばな」

 酷い臭いの中を、なぜ私のような上級魔族が行かなければならないのか、しかし、この作戦が成功すると、元老院での私の発言力は増しあの忌々しいクソどもの見返すことができる。
 そう思うと、この空間が勝利へと繋がっているならば、まったく耐えられた。
 むしろ、好ましくすら思えてならない。

「まだか⁉」

「は、はい、もう少しのはずなので……⁉」

 先頭を歩いていたバジリスクが静止の合図を送る。

「何事じゃ⁉」

「お静かに、敵です」

 な、なんだと?
 敵は、荒野に出ているのではないのか? そもそも、なぜ地下などに? ま、まさか、我々を待ち構えていたというのか⁉

「か、数は?」

「わかりませんが、おそらく数体かと」

 それを聞いて一気にホッとした。
 
「なんだ、その程度か、ならば正面から突破すればよいではないか」

「それなのですが、あそこに見えているのは、アマイモン配下でもとびきりの曲者たちでして」

 バジリスクが警戒するほどの曲者? ふん! 馬鹿めが、こちらは魔国の精鋭を引き連れているのだ、今更数体の魔族にビビっていられるか!
 そう思い、後ろの兵に合図を送ろうとしたとき、敵からコンタクトを受けた。

***

「そろそろ、隠れていないで出てきてくれませんか?」

 隠れているのか、気配を駄々漏らし状態では意味がないと思える。
 ケトル様に言われて、こんな場所で待っていると本当に表れた。

「つくづく、恐ろしい……」

 どこまで彼は見えているのか、どこまで彼が築く道が続いているのか、それを私はずっと見ていたい。
 私の問いかけに観念したのか、物陰からかなりの数の魔族が現れる。

「へえ、本当に来るんですね」

 私の後ろに座っていた白人狼とボロボロの剣をもつスケルトンが立ち上がる。

『カタカタカタカタ』
 
 残念なことに、彼とは一度も会話が成立したことはありませんが、私の言葉は理解しているようなので、問題は無い。
 
「ヒヒヒヒヒッ! そなたたち、たった三体で何ができると言うのか⁉ この半端モノの犬めが」

「あん? てめぇ、アマイモン様を愚弄する気か?」

 白人狼の毛が逆立ち、牙をむき出しにしながら威嚇を始める。
 スケルトンも心なしか、イライラしているように見えた。

「ヒヒヒヒヒッ! しかも、ホブ・ゴブリンに一体はスケルトンではないか⁉ ゴブリンにも劣る雑魚が最後の砦では、アマイモンも底が知れたものよ! 行け、この雑魚どもに本当の強さを思い知らせてやるのだ」

「ウォーーーン!」


 相手が飛び出してくる瞬間に、白人狼が吠える。
 すると、相手は一瞬怯んでしまった。

「アマイモン様を貶した罪、死をもって償えクソどもが!」

 飛び出しそうになるのを私は無理やり静止させた。

「おい! ゴブリン風情が俺たちを指揮できるなんて思うなよ! その手を離しやが……⁉」

 ググググッ、彼がいくら力を込めてもビクともしない。
 よく鍛えられ、素晴らしい戦闘能力を持っているようですが、まだまだといったところでしょうか?

 そうこうしている間に、敵が目の前に迫ってくる。

「さて、ショーの始まり始まり!」

 最初にスケルトンに敵が攻撃を開始する、相手が弱いと思ってのことだろうが、その攻撃をするっと回避するなり、刃こぼれ激しい剣で腹を一撃で貫いた。

「ほう……見事、次はあなたの番ですよ!」

 手を離すと、解き放たれた獣は勢いをつけてど真ん中に飛び込んでいく。
 
「ガルルルルッ‼ 錆びることのない牙の贄となれぇ!」

 ザクっと、一撃で敵の腕を爪が切り離し、鋭い牙はすれ違いざまに敵の命を奪っていった。

「見事見事! さすが、スケルトンもさぞかしご生前は名のある将だったのですね」

 見事な剣舞に、全てを蹂躙する勢いが合わさると、数という敵の利点は機能を失いかけた。
 しかし、相手も雑魚ではないようでしぶとく抵抗を続けている。

「先ほど、自らの主を愚弄されたと仰っておりましたが、私も相当ムカつきましてね……」

「ゴブリンがぁ! 死ねやぁ」

 ザッシュッ! 飛び込んできた雑魚を手刀で一刀両断にすると、周りは何がおきたのか理解できていない。

「半端モノ、その認識を改めてもらわねばならない。いったいあなた方はあの大戦で何を得たのですか? 本来見える道を踏み違え! 己の腹を肥やし、未来ある魔族を死地に追いやる責任を取らねばならない! その覚悟は貴様らにあるのか⁉ いや、無い。 しかし、あの方は違った。そう! 違ったのだ。全てを背負い全力で勝利へと進む姿、その道に生える雑草を根絶やしにするのが私の役目であり、使命なのだ」

 バリバリバリ、本来の姿に戻っていく。
 怒りが、怒りがこみ上げてくる、あぁ、私の愛しい愛しい主よ。 
 このヘラオが槍となり、あなた様の未来を道を切り開く役目となることを誇りに思う。

「な、なんだアイツは?」

 変化が終わると同時に、数体の魔族の首が飛び、私の周りには不自然な空間ができあがる。
 
「ば、バカな⁉ あ、あの御姿は、ま、まさかヘラ……」

 私の名を呼ぼうとした魔族の口を塞ぎ、ドロドロとした用水路に放り投げた。
 しかし、大戦を知っている魔族が数体いたようで、士気は一気に下がり逃げ出そうとする個体も現れる。

「む、無理だ! あれは魔族なんかなじゃい! あれは――ブフェッ‼」

「逃げるな! 逃げるでない! 敵はたったの三体ではないか⁉」

 また、数でしか状況を把握できない雑魚、こんなアホどもに主は屈したというのか?
 ならば、このクズどもを全て処理すればケトル様の未来は明るいのでは?

「クソが、役立たずどもが、バジリスク! 例の物を早く!」

 
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