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旗立つ 深き杜より出 魔の王 蘇り

烏合の衆

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 ゾロゾロ、一糸乱れぬ行軍を続けるアマイモン軍、その中の中央に俺はなぜかいた。

「なぜこうなった? おかしいだろ、ここの場所はアマイモンの場所だろ⁉」

 近衛兵にがっちりと警護され、更に襲われてもビクともしない完全防備の車を竜騎兵三騎に引かせているので、すこぶる快適だった。
 しかし、本来ならここには俺一体だけでないく、アマイモンやモルフィもいるはずだったのに……娘なんて戦闘と聞くと我先にと、カブトにまたがって先陣に入っていく。
 アマイモンも、何を考えているんだか、部隊を引き連れて先頭集団に交じっていた。

「全員、戦うの好きすぎるだろ」

 俺は思わず笑いそうになってしまう。
 だってそうだろ? こんな猛者たちを俺は命令一つで殺しかねない。
 全ての責任が俺に圧し掛かってきているのに、それをゾクゾクと寒気を感じつつも楽しいと思ってしまう。

「俺もたいがいだな」

 他の魔族のことは言ってられない。
 自分の中に眠る何かに悪態をつきつつ、地図を広げた。

「さて、正直言えば今回の戦闘は何もしなくていいだろう、集まった敵の数は多くて四百体程度という情報だろ?」

 周りを見渡すと、鉄の鎧を身にまとった正規の軍隊が千五百体いる。
 数と質で上回っているのだから、小細工なんてしないで、圧倒的な武力をもって敵を鎮めるのが得策だ。
 
「敵の目的は」

 これは、大きな後ろ盾が存在するのは間違いない。
 おそらく魔国にかしかけられたアホが、レッサーデーモンたちを集めて決起したのだろうが、意図も見え見てでつまらなすぎる。

「だが、あえてそれに乗っかるって、俺はどんだけ性格が悪いんだ」

 自分の性格が捻くれているのを改めて理解させられる。
 あえて、敵の誘いに乗るなんて考えられない。
 いま、アマイモンが出せる兵力の大半をこの戦闘に注ぎ込んでいた。

「さて、どうくるかな? 楽しめよお前たち」

 
***

「敵! 約千五百‼」

「ば、バカな⁉ 主戦力の大半を投じてきただと?」

 ひっそりと行われた軍議の中で中級魔族たちが慌ただしくなる。
 物見の報告が正しければ、今、アマイモンの城塞都市には兵力が殆ど残っていない。

「くしししし、ここまで作戦が上手くいくなんて、やはりケトルと言う半端モノ、前回の大戦での功績は全てまぐれということか、いや、魔族の力が強かっただけなのじゃな!」

 胸に魔国の元老院の印をつけた怪しげな魔族が、フードの奥から光る眼を覗かせつつ、告げる。

「ゴブリン、レッサーデーモンたちよ! 敵は弱い、数も我々の半分以下という情報が入った! この戦いに勝利したならば、魔国はそなたたの国を認めよう!」

 その声に呼応しだすゴブリンたち、嬉しそうにはしゃぎだすレッサーデーモンたち、集まった個体は皆ボロボロの衣服と粗末な武器しかもっていなかった。
 中央には、ケトル暗殺に失敗した地下組織の生き残りが、歓喜の声をあげている。
 この戦いに勝利できるかもしれないと思い始めていた。

「バカめ、精々時間稼ぎでもしておれ」

 魔国本隊が到着するまで、敵の進軍を止める。
 それだけしか伝えられていない、ゴブリン・レッサーデーモン軍、指揮するのは僅かな地下組織の連中だけであったが、魔国の本隊が到着するまで耐えると、彼らだけの国が貰えると信じており、全力で相手を止められると信じていた。

 だが、魔国本隊などという幻想は一生待っても来ない。


「さて、私はここいらで抜けるとするか……手柄は美味しくいただかなければ」

 クヒヒヒヒっと、薄気味悪い笑い声をだしながらフードの魔族は消えていく。
 残された兵たちは、士気も高まりいつ敵が来てもよい構えをとっていた。

***

「敵影確認! 数四百、砂丘に小城のような石を積み上げてつくられた場所におりますが、殆どは前面に出ております」

 ほう、まぁ、その程度の城で籠城をしても、意味がないことぐらいはわかるか、ならば野戦一択だが、報告によれば百体ずつに分かれ、三つに部隊を展開している。
 まるで、こちらを囲むような陣形に疑問を覚えた。

「これは、数で勝っているときによくやる陣形だがな……」

 相手は物見を放っていないのか? いや、そんなことはない。
 数に劣るなら、強固な陣形を取るべきだ。 いや、そもそもゴブリンやレッサーデーモンに陣形が組めただけマシと感がるべきなのか。

「だが、これで俺たちがやるべきことは決まったな、モルフィに伝令!」

 俺の指示を先陣を駆けている娘に伝えに行ってくれた。
 さぁ、楽しい楽しい一方的な戦闘の始まりだ‼

***

 私の元に、愛する人から指示が下った。 
 その瞬間に、全身に更に力がみなぎってくるような感覚になる。

「カブト、行くわよ」
 
 直前にアマイモンから部隊を預からせてもらえ、私の周りには竜騎兵が二十体もいる。
 みんなよく鍛えられて強い、少し味見をしたい気持ちを抑えて、私は目の前の敵に集中した。
 すると、後ろから声が聞こえてくる。

「右翼! 私に続け! 左翼敵を囲むのだ! 逃がすな、この機会に殲滅する‼」

 アマイモンが軍の指揮を始めると、一斉に動き出した。
 先陣を走る私たちの後ろに、後詰の部隊がぴったりと行軍してくる。

「ふふ、楽しい!」
 
 なんだが、ワクワクしてきた。
 ケトル様、私はこれからどこまでも走り続けていけるかもしれない。

「行くわよ! 狙うは敵大将の首ただ一つ! その足が引きちぎれ、腕が飛ばされても、歯を食いしばり目を見開き、命尽きるまで敵に抗うと誓え! 我らは世界を光へと導く先陣である、その誉れを背にいざ参る‼」

「「るぁぁぁぁ‼」」

 竜騎兵たちが武器を構えると、敵の姿がチラっと見え出した。

「カブト、暴れるわよ」

 敵は私たちの姿を確認すると、慌てだし、動きが鈍くなる。
 これはつまらない、つまらなすぎる! 怯んだ中央部へ私たちの部隊は突撃していく。

「横を見るな! 後ろを振り返るな! 前だ前だけを見ろ!」

 ブンブンと斧が舞うたびに、ゴブリンが消し飛んでいく。
 レッサーデーモンの小さな棍棒はカブトに当たっても、痛みはないのか逆に爪で一撃で殺されていった。

「よ、弱すぎる!」

 私たちが風穴を一発で開けると、敵は散り散りになり始める。
 それを見越してなのか、アマイモンは最初から包囲殲滅戦の陣形を完成させており、既に左翼の部隊は退路を塞ぎ始めていた。

「すごい、私たちも負けてられないわね」

 逃げ惑う敵兵の中を突っ切っていく。
 目の前には、粗末な城から逃げ出しはじめた中級魔族が数体、あれを私は逃がさない。

「敵前逃亡、許さないわよ!」
 
***

 味方の歓喜が聞こえてきた。
 
「早過ぎね?」

 安全な車の中から降りて、近衛兵に思わず言ってしまう。
 伝令の兵が到着する前に、勝利を知ってしまった。

「伝令! 敵、壊滅状態、これから殲滅戦へと移行いたします」

「あ、あぁ、ご苦労」

「それに、モルフィ様率いる部隊が敵の大将の首を討ち取ったとのご報告も」

「お、おう! よくやった! 被害状況などをまとめて詳しく報せてくれ」

 頭を下げた兵がまた前に戻っていく。
 被害と言っても、殆ど無いだろう。
 もう少し持ちこたえるかと思ったが、一方的過ぎしてまった。

「これでは、まったく楽しくないではないか」

 まぁ、アマイモンの仕事はいっきに進んだし、モルフィも暴れたのでスッキリしたかもしれない。
 しかし、これはあくまで敵の陽動に過ぎない。

「さて、メインはどうなるかな」

 
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