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旗立つ 深き杜より出 魔の王 蘇り
同盟成立
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暗殺を企んでいた地下組織は、あっという間に捕らえられていく。
元々があまり数のいる組織ではななかったようで、現状のアマイモンの政策に反対する立場の連中がけしかけたようであったが、その根もいずれは駆逐されるだろう。
「スッキリしたか」
「えぇ、すごくスッキリいたしました。ご協力ありがとうございます」
実は、モルフィにお願いをして襲ってきた魔族の一体だけ生け捕りにしていた。
ちょっとだけ、力を入れて仲良く会話を楽しんだら、ペラペラと話してくれ、なんの障害もなく進んでいく。
「これで、ずいぶんと風通しがよくなったろ?」
「確かに、これで前から考えておりました政策が可能になります」
ペンを持つ手が震える。
久しぶりの大切な書類に目を通し、間違いがないことを確認すると、名前を書いていく。
「これで、わが国と杜との正式な同盟が完成いたしました」
アマイモンが書類に目を通し、控えていた部下に渡すと大切そうにしまわれた。
「よろしく頼む、今の俺たちには戦力と呼ばれるモノは殆ど存在しないと思ってくれて構わない」
「大丈夫です。私たちが持てる全ての力を使って世界に平和を取り戻します」
この表面だけ仮初の平和の上に成り立っている世界は、脆く儚い。
自らが、そのバランスを崩してしまったことは知っているが、それは望んでいたことでなく、引き起こされたことであった。
では、あのまま黙って殺されていれば良かったのか? その答えは否だ。
「誰かがやらねば、さらに世界は酷くなる。ならばその重荷を全て俺が背負う、だが、俺一人では重すぎる。潰れてしまうだろう」
目の前には、褐色の美人魔将アマイモン、隣には常に鬼の血をひく可愛い娘のモルフィがいる。
杜には、ヘラオも控えているので個体値で考えるとかなりの有能な兵を持っているが、絶対数があまりにも少なすぎた。
「でも、周りに皆がいれば俺は何度でも立ち上がれる気がする」
くいっと、先日搦め手で出された彼女と肌と同じ色の飲み物を飲む。
もう、毒の心配はないだろう。
「ほう、これはなんていう飲み物なんだ?」
「紅茶と呼ばれておりますね、生みの母が唯一私に残してくれたものらしいです」
そんなものがあるのか、何か複雑な事情があるようで気になるが、今は聞くのは無粋と言うものだろう。
しかし、彼女は周りの兵を遠ざけると、俺とモルフィに対し淡々と語りだしていく。
「実は、父の部屋を亡くなってから一度簡単に整理したことがあり、その時に小さな木箱の中にこの飲み物の葉が入っており、淹れ方も書かれておりました。ちなみに、これは魔族にとっては軽い神経毒の効果がありますが、私やケトル様、それにモルフィさんのような方には効き目がありません」
な⁉ 神経毒だと?
俺は、慌ててテーブルに置くとアマイモンを見つめた。
だが、彼女はくすくすと笑っているだけで、自分も同じものを飲み始める。
「大丈夫ですよ。先ほども言いましたが、人間の血が流れている我々にとっては無毒です。少しだけ尿意をもよおしやすいですが」
まて、今なんて言った?
「お気づきになられましたか? 私は純粋な魔族ではございません、ケトル様のような半分でもモルフィさんのように先祖返りでもありませんが、四分の一は人間の血が流れております。そして、独自に調べたところ私の母が人間の血を引いていたようでして、この紅茶は母が人間の国から持ってきたもののようです」
なんだ? 何が起きているんだ?
「今は、個人的に輸入しておりますが、戦争が始まればもう飲めなくなりますね……」
待て待て、思考が追い付かない、モルフィだって急に爆弾発言を聞かされて固まっている。
「誰も目に入らない場所に、小さな手記が残されておりました。私の母とどうやら父は一時期、この城で一緒だったようです。しかし、母はある魔族と恋に落ち、二体は抜け出してスラムで暮らすよになったみたいですが……その後はどうなったのかわかりません、ただ、生まれた私を引き取ったとき父は泣いておりました」
人間の血をひく母は、きっと魔族側からかなり酷い仕打ちを受けていただろう、それをどういった理由かはわからないが、アマイモンは庇っていたのか?
だが、魔族と結ばれたく、駆け落ちし行方不明になるも、その子どもを探し出し養子に向かい入れた?
「な、なんだか素敵なお話のような感じがします」
モルフィが瞳を輝かせながら、身を乗り出してきた。
「ふふ、モルフィさんが考えているようなことが実際にあったのかはわかりませんが、少なくとも自分がどういった存在なのかは理解できました」
アマイモンほど血が薄くなると、通常の魔族では感じ取られない、それこそ父親クラスの実力ならあるいは……。
「私は幸せモノです。三体の親にここまで育ててもらいました。本当に感謝しております」
最後の一口を飲み込むと、立ち上がり、城下を見つめた。
「だから私は、是が非でも父の願いを叶えたい! また、母や本当の父のように好きあいながらも隠れて過ごさなければならない世の中は間違っている! 私の願いは、この世界を本当の意味で平和にしたいのです!! だから、ケトル様お力を私に貸してください、わが軍はあなた様の手足となり荒野を駆け、谷にその声を響かせます!」
ざっと、勢いよくこちらを向き、跪いて頭を垂れる。
その決意、俺は受け止めきれるのか? いや、受け止めないといけない。
俺はなんたって世界を救う存在になるんだからな!
元々があまり数のいる組織ではななかったようで、現状のアマイモンの政策に反対する立場の連中がけしかけたようであったが、その根もいずれは駆逐されるだろう。
「スッキリしたか」
「えぇ、すごくスッキリいたしました。ご協力ありがとうございます」
実は、モルフィにお願いをして襲ってきた魔族の一体だけ生け捕りにしていた。
ちょっとだけ、力を入れて仲良く会話を楽しんだら、ペラペラと話してくれ、なんの障害もなく進んでいく。
「これで、ずいぶんと風通しがよくなったろ?」
「確かに、これで前から考えておりました政策が可能になります」
ペンを持つ手が震える。
久しぶりの大切な書類に目を通し、間違いがないことを確認すると、名前を書いていく。
「これで、わが国と杜との正式な同盟が完成いたしました」
アマイモンが書類に目を通し、控えていた部下に渡すと大切そうにしまわれた。
「よろしく頼む、今の俺たちには戦力と呼ばれるモノは殆ど存在しないと思ってくれて構わない」
「大丈夫です。私たちが持てる全ての力を使って世界に平和を取り戻します」
この表面だけ仮初の平和の上に成り立っている世界は、脆く儚い。
自らが、そのバランスを崩してしまったことは知っているが、それは望んでいたことでなく、引き起こされたことであった。
では、あのまま黙って殺されていれば良かったのか? その答えは否だ。
「誰かがやらねば、さらに世界は酷くなる。ならばその重荷を全て俺が背負う、だが、俺一人では重すぎる。潰れてしまうだろう」
目の前には、褐色の美人魔将アマイモン、隣には常に鬼の血をひく可愛い娘のモルフィがいる。
杜には、ヘラオも控えているので個体値で考えるとかなりの有能な兵を持っているが、絶対数があまりにも少なすぎた。
「でも、周りに皆がいれば俺は何度でも立ち上がれる気がする」
くいっと、先日搦め手で出された彼女と肌と同じ色の飲み物を飲む。
もう、毒の心配はないだろう。
「ほう、これはなんていう飲み物なんだ?」
「紅茶と呼ばれておりますね、生みの母が唯一私に残してくれたものらしいです」
そんなものがあるのか、何か複雑な事情があるようで気になるが、今は聞くのは無粋と言うものだろう。
しかし、彼女は周りの兵を遠ざけると、俺とモルフィに対し淡々と語りだしていく。
「実は、父の部屋を亡くなってから一度簡単に整理したことがあり、その時に小さな木箱の中にこの飲み物の葉が入っており、淹れ方も書かれておりました。ちなみに、これは魔族にとっては軽い神経毒の効果がありますが、私やケトル様、それにモルフィさんのような方には効き目がありません」
な⁉ 神経毒だと?
俺は、慌ててテーブルに置くとアマイモンを見つめた。
だが、彼女はくすくすと笑っているだけで、自分も同じものを飲み始める。
「大丈夫ですよ。先ほども言いましたが、人間の血が流れている我々にとっては無毒です。少しだけ尿意をもよおしやすいですが」
まて、今なんて言った?
「お気づきになられましたか? 私は純粋な魔族ではございません、ケトル様のような半分でもモルフィさんのように先祖返りでもありませんが、四分の一は人間の血が流れております。そして、独自に調べたところ私の母が人間の血を引いていたようでして、この紅茶は母が人間の国から持ってきたもののようです」
なんだ? 何が起きているんだ?
「今は、個人的に輸入しておりますが、戦争が始まればもう飲めなくなりますね……」
待て待て、思考が追い付かない、モルフィだって急に爆弾発言を聞かされて固まっている。
「誰も目に入らない場所に、小さな手記が残されておりました。私の母とどうやら父は一時期、この城で一緒だったようです。しかし、母はある魔族と恋に落ち、二体は抜け出してスラムで暮らすよになったみたいですが……その後はどうなったのかわかりません、ただ、生まれた私を引き取ったとき父は泣いておりました」
人間の血をひく母は、きっと魔族側からかなり酷い仕打ちを受けていただろう、それをどういった理由かはわからないが、アマイモンは庇っていたのか?
だが、魔族と結ばれたく、駆け落ちし行方不明になるも、その子どもを探し出し養子に向かい入れた?
「な、なんだか素敵なお話のような感じがします」
モルフィが瞳を輝かせながら、身を乗り出してきた。
「ふふ、モルフィさんが考えているようなことが実際にあったのかはわかりませんが、少なくとも自分がどういった存在なのかは理解できました」
アマイモンほど血が薄くなると、通常の魔族では感じ取られない、それこそ父親クラスの実力ならあるいは……。
「私は幸せモノです。三体の親にここまで育ててもらいました。本当に感謝しております」
最後の一口を飲み込むと、立ち上がり、城下を見つめた。
「だから私は、是が非でも父の願いを叶えたい! また、母や本当の父のように好きあいながらも隠れて過ごさなければならない世の中は間違っている! 私の願いは、この世界を本当の意味で平和にしたいのです!! だから、ケトル様お力を私に貸してください、わが軍はあなた様の手足となり荒野を駆け、谷にその声を響かせます!」
ざっと、勢いよくこちらを向き、跪いて頭を垂れる。
その決意、俺は受け止めきれるのか? いや、受け止めないといけない。
俺はなんたって世界を救う存在になるんだからな!
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