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地の魔将 参戦す

地の魔将

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「頼む、予想が当たれ! この後砂塵が無くなる。その後はおそらく竜騎兵が包囲しつつ敵の分断に入る! 俺たちは敵の分断の手伝いに専念するぞ」

 最初に応えたのはヘラオで、ブラックホーンから飛び降りると、飛び込んでいく。
 それに同時に砂塵が無くなってきた。

「な!」

 モルフィが驚きの声をあげる。
 既に敵はある程度の部隊に分断されつつあった。

「これが、あいつの得意技だ! 来るぞ‼」

 リザードンマンたちが来た方角をみると、小型の竜にまたがったフルプレートの竜騎兵たちが突撃してきた。

「進めぇ! 人間の首を討ち取るのだぁ‼」

 グルグルと人間を囲みつつ、分断を更に早めていく。
 俺たちもそれを助けるために、一番遅れている部隊にモルフィたちが突っ込む。

「ま、魔獣⁉ お、おのれぇ、魔族め裏切りおって‼」

 さすがに人間の精鋭部隊、そう簡単には崩れてくれない。
 しかし、ヘラオが一人で部隊を壊滅しだしたあたりで、包囲の速度が増した。

「モルフィ! 遅れをとるな」

「はい!」

 娘も、ベア型に乗りながら人間たちを狩っていく。
 そして、ある程度戦闘が進むと、俺は更に指示を出した。

「よっし! 包囲を解け‼ 集団から離れるぞ‼」

「え⁉ ここまで分断したのに?」

「いいから、ここにいると死ぬぞ!」

 ヘラオもブラックホーンにまたがり、戦線を離脱していく。
 竜騎兵もリザードマンたちも、連携のとれた感じで、敵に気付かれるか気付かれないかの絶妙な間隔を保ちつつ、離れていっていた。

「うまい、更に練度が増している」

 俺たちも離脱をしていると、敵は追って来ない。
 この混乱した状況を打破するために、せっかく穴の開いた包囲から次第に集まりだしていく。
 先ほどとは違い、一か所にごちゃっと集まった窮屈な陣形が完成していった。

「おいおい、まぢかよ。こいつは俺も知らねぇぞ」

 昔は、この密集した場所に戦車隊が突っ込み、再度竜騎兵が殲滅にあたっていた。
 しかし、今は違う。

「これが今の実力か……」

 戦車四騎に対し、後ろに小さな投石器が取り付けられている。
 それが一斉に放射されると、人間の陣に命中していった。

「固まりすぎだ! 散れ、散るのだ‼」 
「うわぁぁぁあ!」

 放ち終わると同時に、投石器が切り離され独立した戦車部隊が敵に向かっていく、
 弓兵、盾兵、槍兵、操縦、アイツの戦車は特別な技術はもっていないが、練度が桁違いだ。
 これは、強い生産性はかなり低いが、戦場での活躍は凄まじい。

「すごい、これが本当の魔族軍……」
「えぇ、懐かしいですね。更に練度が増しております。あの大戦でこれを披露してほしかったものです」

 バタバタと大地をシンボルとした旗が戦場を駆け巡る。
 縦横無尽に勢いよく場を支配する魔族、東を守護し、人間との戦争で一番の武功をあげた魔将。

「アマイモン‼」

 何が起こって、彼が俺たちを助けることになったのかわからないが、この戦闘にはアマイモンは不戦を申し出ていたのでは?
 しかし、今目の前には人間の軍を敗走させ、悠々と俺たちの前に向かってくるアマイモンの軍団が見えた。
 その先頭から一騎、竜騎兵がこちら向かって駆けてくる。

「ん? 随分見ない間に華奢になったな?」

 俺とヘラオは不思議に思い、待っていると竜騎兵から降りてきたのは、意外にも女性だった。

「前魔王軍のケトル様でしょうか?」

 フルプレートの奥から、随分と綺麗な声が聞こえてくる。

「あぁ、一応ケトルだが、此度は助かったありがたい」

 戸惑いを隠せない、まさか、これから捕まったりしないだろうな?
 可能性が無いわけでもないが、そうするなら、人間の軍を襲うことなどなかった。

「ご挨拶が遅くなり申し訳ございません、私は……」

 兜を脱ぐと、金色の髪に褐色の肌、鼻が高く蒼い色の瞳が特徴的な顔が現れる。
 それは、全てアマイモンの特徴と類似していたが、俺が知っていアマイモンは男だった。

「私はアマイモン二世、先代の父に代わり家督を継ぎました。そして、我のアマイモン軍はこの時をもってケトル様の軍へと加わりたく馳せ参じましたことをここに」

 ザっと、膝をつき頭を下げる。
 な、なに? アマイモンの娘? 嘘だろ? アイツにこんな可愛い娘がいたなんて。
 いや、それどころじゃない、今聞かなければいけないことは。

「お、おぉ、感謝する。しかし、なぜ? それに父上は? 領地にいるのか?」

「父は、もうおりません、先日命を絶ちました」

「なっ⁉ アマイモンが? なぜ?」

 ゆくり立ち上がり、自分の軍を見めて淡々と語りだした。
 
「父からお話は常々聞いておりました。私の憧れであります。先の大戦では私は戦場に赴くことはありませんでしたが、初陣をこう飾ることができました」

 アマイモンはこの子に、ずっと俺のことを話して聞かせていたようだ。

「あの厳格な父が憧れ、あの人が後の魔国を率いるべきだと言っておりました。それも、あなた様が追放された後も変わりませんでした。しかし、父は老い次第に生きる気力を失っていきます。そのとき、私の配下がこの杜で敗れました」

 あの時の戦闘は確かにアマイモンとシルバータイガーの合同軍であった。
 
「その話を聞いたとき、父は久しぶりに喜びました。魔国はもうダメです。先代魔王とは違い現魔王はクズです。重税、死刑、拷問、やりたい放題で元老院の傀儡くぐつと化しております」

 そうか、やはり腐り始めていたか、薄々そんな気がしていたが、どうやら本当のことのようだな。
 鉄の香りが戦場を通り過ぎていく、この懐かしい匂いの中に、今まで感じたことのない香りが混じっていた。
 それは、あのアマイモンの血を引き、更に父以上の兵を初陣で率いた魔族で、とびきりの美人ときている。

「だから、最後のとき私に父はこう告げました」

『よいか、ケトル様と一緒に戦え、それは未来の魔国を……いや、世界を救うこととなる! 必ず、だから彼を助けてくれ』

 アマイモン……そうか、感謝する。
 
「父の願いと私の英雄様にお仕えできるなんて、一生で二度とありません、だから私はすぐに返事をして、魔国からの依頼を断り、こうやって参陣しました」

「ま、まさか、断ったことで」

 アマイモンは自害したと? そう思ったら、違う答えが返ってくる。

「父は自ら魔王城へと赴き、魔王の前で自らに火を放ちました」

『この魔国に巣くう病魔どもよ! よく聞け、今あの方が舞い戻る‼ この地に世界に真の安寧をもたらすのは彼しかおらぬ‼ よ――く見ろ! これが、大戦で死線を体験した老兵の目よ、貴様らの赤子のような瞳ではない、そして覚悟も違う‼』
 
 そして、火を纏い、自ら命を絶ってしまう。
 アマイモンらしいと言えばらしいが……なぜ、なぜ先に逝ってしまう?

「主……」
「ケトル様」

「す、すまない、いや、本当に凄い魔族だったよお父さんは」

「父は、最後まで笑っていたそうです。だから、ケトル様、どうかお願いいたします。そのお力で魔国をいいえ、世界を救ってください」

 ジャリッと地面を強く踏みしめ、唇をかみしめながら心の奥でアマイモンの姿に礼を言う。

「あぁ、わかった。だが険しくもあり、死ぬかもしれないぞ」

「もとより、覚悟はできております」

 俺は彼女に手を差し伸べた。 
 すると、小さく笑顔になると手を握り返してきくれた。

「お父さんと似ていると思ったが、違うところもたくさんあるな」
「?」
「とびきり美しく、とびきり手が柔らかい」

 ぎゅっと力が籠められる。 
 俺も握り返し、ここにアマイモン軍と杜の連合軍が誕生した。
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