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大軍くる

平原 武神ヘラオ再降臨 編

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 何もない、膝に届くかどうかの草が一面に広がっている。
 ただ、見た目に反して爽やかな風はこの平原には吹かない、ただサワサワと静かに生命感の薄い気配だけが支配していた。
 そんな世界に、今日に限っては命で溢れていた。

「ほう、これはこれは、随分と重厚な」

 薄っすらと目を開いて確認すると、人間の軍が列を乱すことなく進んでくる。
 恐らく、魔族側とは違い訓練をしっかりと積んだ兵が大半だろう。

「シルバータイガーの二番煎じたちですが、数が厄介ですね」

 旗印を確認してみると、先日の部隊よりも随分と格下であることが伺える。
 しかし、数が桁違いであった。

「群れるとは違った表現ですね、そう連携のとれた陣形に、きっちりと機能する指揮系統が厄介ですが、これが人間との戦いの醍醐味」

 薄っすらと笑みが浮かんできてしまう。
 隣にはいつも主がいたが、今回は違い私が大将である。
 後ろに控えているブラックホーンの角を優しく撫でると、すりすりと頬ずりをしてきた。

「行きましょう、敵は大きく多く、また強いです。ですが、これが戦というものであり、常に我らは不利であった」

 私が直接率いるのは、僅か百体程で敵は千五百人とまともに戦って勝てる見込みなど皆無であった。
 ホブゴブリンの姿からメキメキと本来の姿に戻り、最初から本気をだすつもりである。

「さて! 戦の時間ですよ‼ この時を私たちは待っていた。我が主の元へ敵の首を並べそれを城とし、再び覇を唱えん! そのために、目の前の人間どもを贄とする。死を恐れるなとは言わない、ただ生に固着しろ、例えどんなことがあろうと活路を自ら切り開くのだ、その先に勝利があると思え‼」

 静かな平原に、私の声だけが広がっていくが、気配は確かに応えてくれた。

「よしよし、合格ですね」

***

「報告! 敵影確認いたしました!」

「何? 随分と早い遭遇であるな、やはり報告にあった魔族であるか? それとも魔獣か?」

 腹についた肉が邪魔し、きつくなった鎧が擦れてしまい痛みが増しているが、皆の前それをひた隠しにしなければならない。
 正直面倒だとおもった。 若僧の家柄だけが取り柄の部隊が壊滅状態に陥り、魔族も散り散りになってしまい、その尻ぬぐい役に選ばれるなんて嫌でしかない。

「どれどれ」

 部下が報せてきたので、一応確認してみる。
 レンズを覗いてみると、確かに数体の魔獣とホブゴブリン? らしき、個体が見えていた。

「あれが敵か? 我が軍千五百の前にたった数体の魔獣とゴブリン⁉ いやいや、何かの間違いであろう」

 馬鹿らしい、先の大戦では必死に保身を考えてなんとか生き延び、ようやくこの地位に就いたというのに、面倒ごとを押し付けられたと思ったが、取り越し苦労であったか……。
 馬車の中に戻り、鎧を脱ぐと腹にできた擦り傷に薬を塗りこんでいく。

「い、いかがいたしますか?」

「ん? 気にするな、進め、あれで攻撃してきたら、そのとき殺せばよい、あの程度で私を呼ぶな!」

 一礼し、慌てて持ち場に戻る兵、本当にバカで仕方がない。
 魔族たちに気を使いながら生きるだけで、平穏で贅沢な暮らしができている。

「これを早く終わらせ戻って、風呂に入りたい……」

 戻ってからのことを考えながら、力を抜いて酒を飲み始める。
 きっと、若僧どもは油断したに決まっている、この数で押し切ってしまえば何も問題ない。
 魔族の軍と合流し、あの杜を攻略し早く帰路につくことばかり考えてしまう。

 しかし、先ほどから外が騒がしい、まさかあの数体で攻めてきたというのか? それで、これほど騒ぐなど変だ。

「誰だ⁉ うるさい――ッ!」

 イライラし馬車からでると、そこは既に戦場と化しており、混乱した兵たちが魔獣たちに襲われていた。

「な、何があったのだ⁉ 何が、おい! 誰か状況を説明しろ!」

 しかし、叫んでも誰も反応しない、馬車もなぜか進みが遅く、兵たちの動きも変である。
 おかしいと思い、馬車から降りると、足元がズルっと沈んでいく。

「⁉ しまった、湿原か、やられた! 後退、退くぞ湿原から抜け出すのだ!」

 だが、この混乱した状態では反応できる兵が殆どいない、なぜならここは軍の最奥、私がいた場所は最後尾に近い。
 そこまで敵は我々を引き付けていたのだ。

「なぜ湿原など通った! なぜ、誰も進言しなかった⁉」

***

 敵が予想よりも早く進軍してきた。
 私は不思議に思ってしまう、こちらの姿は確認していると思うが、弓を構えるわけでもなく、我々なんて見えていないような行軍のしかたが気になる。

「これはどういうことでしょうか?」

 考えられるのは、相手の司令官が大馬鹿であること、もしくは、何かの策がある可能性があるが、この程度の数に対し策をたてる必要性は皆無である。
 あるのは、その数に任せて蹂躙することなのだから。

「だとすると、相手は阿呆なのでしょうか? 私たちを見なかったことにするなんて」

 敵は目前にいるのに、それを無かったことにするのはありえない、その数体の敵にどれだけの魔族や人が死んだのか覚えていないだろう。

「良いでしょう、本当の戦を知らないとみました。地獄というものを味わせてさしあげましょう」
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