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大軍くる
情報くる。
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ヘラオが旅立ち、既に季節が変わろうとしていた。
俺たちは、いつもの日常を送りつつも魔獣たちの強化や作戦を何度も練り直し、万全を期していく。
そのとき、ヘラオが帰ってきた報せを受ける。
「ただいま戻りまた。遅くなり申し訳ございません」
「気にするな、疲れているところすまないが、で? どうだった?」
モルフィも座り、ヘラオが背中に背負っていた袋から地図を取り出すと、そこには事細かく、各地の情報が書かれていた。
「敵はかなり焦っております。不要な徴兵までおこない、早期に軍を立て直し、こちらに向かっております」
「つまり、ここに来るのは、練度の低い兵が主力だと?」
「間違いないかと、ただし、これは魔族側の状況で人間側の軍までは調べられませんでした。ただ、前回の戦闘で失った兵たちの関係者が集まり、義勇軍なるものを立ち上げて、連合軍とは別に行動を開始している噂までは」
「ふむ、わかった。でも、なんで今回は徴兵まで行って兵を整える? 魔国はそんなに疲弊しているのか?」
理解できない、大戦末期でないのだから、余力はあるに決まっている。
前回の戦闘で死傷した程度で、軍の再構築が不可能になることなど考えられない。
「その件なのですが、どうやらアマイモンの軍勢が、今回の遠征には参陣しないことが決まったようでして」
「? アマイモンって、あの?」
今まで聞くだけだったモルフィが訪ねてきた。
俺が頷いて応えておく、それこそ前回の戦闘の魔族軍の主力部隊は殆どがアマイモン配下だったのに、なぜ今回は参陣を拒む?
「しかし、懐かしいですね。アマイモンとまさか刃を交えることになるとは」
「あぁ、あんな優秀な魔族は少ない、あの時でかなりの歳だったが、今はどうしているのやら」
「我々と一緒に戦ったアマイモンは引退し、今は二代目が受け継いでいるとお聞きしましたが」
そうか、この杜に来てからどうやら、世界は想像以上に変わったようだ。
だが、アマイモンが参戦しないのは大きい、魔族は他の国から兵を集めているのも我慢できないほど焦り、兵を集めている。
「わかった! 詳しくは後で聞く、今は少し休んでくれ」
「申し訳ございません、では、お言葉に甘えて」
ヘラオに僅かな休息を与え、俺とモルフィは谷に向かう。
何度も繰り返し、谷そのものの癖を把握し、完璧なタイミングで勝負を決めなければならない。
「勝てますか?」
「勝てるのではない、勝たなければ俺もモルフィもヘラオも死んでしまう。せっかくこんな安寧の地を手に入れたのに、それを手放すわけがないだろう」
「うふふふ」
風を浴びながら、彼女と会話していると、突然笑い出した娘が不思議に思い、なぜ笑ったのかと聞くと、一歩だけ近くによって教えてくれた。
「なんだか、ケトル様楽しそうで、こんな大変な状況なのに」
「楽しそう? そうか、そうかもしれない。言葉や思考ではゆっくりできる世界に憧れていたが、いざ昔のような状況に戻ってみると」
ことっと、モルフィが肩に頭をのせてくる。
ふわっと、彼女独特のよい香りが鼻をかすめていく。
「そんなケトル様がいるなら、勝てますね。だから、私は二度と勝てますか? など、聞きません、必ず勝てると信じております」
「もちろんだ、勝って勝ち続けるしかない世界なら、止まるのは不可能だ。向けられた牙に対し俺は牙でしか立ち向かうことしか知らない底の浅い存在だ」
天を見上げると、曇天が広がっていた。
それは、俺たちの門出を祝福するかのような重く、そして深い雲ばかりが広がっている。
「さぁ! 来るぞ、敵は想像以上に早くやってくる」
「わかりました。こちらはいつ来ても大丈夫ですわ」
なんて心強いだろう、今回のような速度で動くなら必ず人間の兵は少ない。
魔族中心での行軍になる可能性が高い、やることは変わらない。
「奇襲っていうのは、一度だけなら有効だ、だから今回は真っ向勝負だ」
俺たちは、いつもの日常を送りつつも魔獣たちの強化や作戦を何度も練り直し、万全を期していく。
そのとき、ヘラオが帰ってきた報せを受ける。
「ただいま戻りまた。遅くなり申し訳ございません」
「気にするな、疲れているところすまないが、で? どうだった?」
モルフィも座り、ヘラオが背中に背負っていた袋から地図を取り出すと、そこには事細かく、各地の情報が書かれていた。
「敵はかなり焦っております。不要な徴兵までおこない、早期に軍を立て直し、こちらに向かっております」
「つまり、ここに来るのは、練度の低い兵が主力だと?」
「間違いないかと、ただし、これは魔族側の状況で人間側の軍までは調べられませんでした。ただ、前回の戦闘で失った兵たちの関係者が集まり、義勇軍なるものを立ち上げて、連合軍とは別に行動を開始している噂までは」
「ふむ、わかった。でも、なんで今回は徴兵まで行って兵を整える? 魔国はそんなに疲弊しているのか?」
理解できない、大戦末期でないのだから、余力はあるに決まっている。
前回の戦闘で死傷した程度で、軍の再構築が不可能になることなど考えられない。
「その件なのですが、どうやらアマイモンの軍勢が、今回の遠征には参陣しないことが決まったようでして」
「? アマイモンって、あの?」
今まで聞くだけだったモルフィが訪ねてきた。
俺が頷いて応えておく、それこそ前回の戦闘の魔族軍の主力部隊は殆どがアマイモン配下だったのに、なぜ今回は参陣を拒む?
「しかし、懐かしいですね。アマイモンとまさか刃を交えることになるとは」
「あぁ、あんな優秀な魔族は少ない、あの時でかなりの歳だったが、今はどうしているのやら」
「我々と一緒に戦ったアマイモンは引退し、今は二代目が受け継いでいるとお聞きしましたが」
そうか、この杜に来てからどうやら、世界は想像以上に変わったようだ。
だが、アマイモンが参戦しないのは大きい、魔族は他の国から兵を集めているのも我慢できないほど焦り、兵を集めている。
「わかった! 詳しくは後で聞く、今は少し休んでくれ」
「申し訳ございません、では、お言葉に甘えて」
ヘラオに僅かな休息を与え、俺とモルフィは谷に向かう。
何度も繰り返し、谷そのものの癖を把握し、完璧なタイミングで勝負を決めなければならない。
「勝てますか?」
「勝てるのではない、勝たなければ俺もモルフィもヘラオも死んでしまう。せっかくこんな安寧の地を手に入れたのに、それを手放すわけがないだろう」
「うふふふ」
風を浴びながら、彼女と会話していると、突然笑い出した娘が不思議に思い、なぜ笑ったのかと聞くと、一歩だけ近くによって教えてくれた。
「なんだか、ケトル様楽しそうで、こんな大変な状況なのに」
「楽しそう? そうか、そうかもしれない。言葉や思考ではゆっくりできる世界に憧れていたが、いざ昔のような状況に戻ってみると」
ことっと、モルフィが肩に頭をのせてくる。
ふわっと、彼女独特のよい香りが鼻をかすめていく。
「そんなケトル様がいるなら、勝てますね。だから、私は二度と勝てますか? など、聞きません、必ず勝てると信じております」
「もちろんだ、勝って勝ち続けるしかない世界なら、止まるのは不可能だ。向けられた牙に対し俺は牙でしか立ち向かうことしか知らない底の浅い存在だ」
天を見上げると、曇天が広がっていた。
それは、俺たちの門出を祝福するかのような重く、そして深い雲ばかりが広がっている。
「さぁ! 来るぞ、敵は想像以上に早くやってくる」
「わかりました。こちらはいつ来ても大丈夫ですわ」
なんて心強いだろう、今回のような速度で動くなら必ず人間の兵は少ない。
魔族中心での行軍になる可能性が高い、やることは変わらない。
「奇襲っていうのは、一度だけなら有効だ、だから今回は真っ向勝負だ」
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