ラブラブ・コロン

れなれな

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ママをしからないで

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 ゆううつなきぶんの、ゆうぞらでした。
 
 きょうもコロンは、ロンロンといっしょに、たびをしています。

 ちょっと、あめがふらないか、しんぱいです。

 あんのじょう、じゅうたくがいにさしかかったころ、こさめになりました。

 そのいえは、すみっこのほうにある、まずしいいえでしたから、おそうしきもほそぼそと、おこなっておりました。

「おかあさん……」
「キッくん、ちょっと……」

 おかあさんとよばれたおんなのひとは、せいねんをキッくんとよびました。

 キッくんは、つかれたおかあさんのかわりに、うけつけにつきました。

「このたびはどうも……」

 ことばじりをにごす、ちょうもんきゃくに、れいをして、そっとおこうでんをうけとります。

 そのあいまに、すっかりひえこんだ、おざしきにあがった、おかあさんを、キッくんがみつめました。

 しんだおばさんとおかあさんは、たったふたりのしまいでした。

 それが、おばさんはこのはるから、よくせきをしていて、さむくなってきたとおもったら、あっというまにはいえんで、なくなってしまったのです。

「キッくん……おかあさん、ねえさんのこと、ほんとうにショックよ。あんなにげんきで、ひがなわらってくらしていたねえさんが……こんなことになって」

 キッくんはいいました。

「だれだって、さいごはしんじゃうものだろ」
「そうね。キッくんはかしこい。ねえさんの、いったとおり……」

「それって、どういういみ?」

 おかあさんは、ちょうもんきゃくにおじぎをして、あいさつをしました。

 きんじょのおんせんで、ほかほかのゆげをあげた、おにいちゃんがかえってきました。

「キッくん、おかあさんも、いってくるから、おにいちゃんとここをたのむわね」
「ええっ、おかあさんまで」

 キッくんは、おおあわて。

 いそいで、そうしきのマナーのほんを、トイレでよみます。

 そのあいだも、ちょうもんきゃくはきます。

 キッくんは、ほんをてあらいばにおいて、またうけつけにつきました。

 そのとき、ちゃいろのろうけん、ロンロンがきゅーんとはなをならして、ちかづいてきました。

 なんだろう?

 キッくんはおもって、たちあがりました。

 くびのところに、しろいふわふわのものをつけたいぬです。

「ああ、こっちへきたらだめだ」
『なみだのにおいが、するでしゅ』
「へ?」

 ピンクのほっぺたをして、ちいさいおんなのこが、ロンロンのせなかからいいます。

『コロンは愛のようせい。はくりゅうのさとからきましゅた! たくさんの愛があつまるこのばしょで、おねんねさせてほしいでしゅ』
「え? え?」

 キッくんはわけがわかりません。

 コロンをのせた、そのいぬは、のそのそとかってにげんかんをあがって、リビングにはいっていきます。

「ああっ、ちょっと!」

 あわてたキッくんは、ぞうきんをもって、いいました。

「こらー、どそくではいったら、いけないんだぞ」
『ロンロン、どそくはいけまちぇん』
「というよりか、いぬはいえのなかにはいったら、いけないんだぞ。おばさんにいうぞ」

 そういって、キッくんはおばさんのいえいをみつめます。

「おばさん、いいかたがキツイひとだったけど、よくボクたちのきょうだいゲンカのあとで、アメをくれたっけな」

 そんなひとりごとをいいます。

 コロンはひとやすみして、ねむってしまいました。


 そのよる……。

「そうだ、おてあらいにほんを、おきっぱなしだった」

 キッくんは、つめたいろうかをわたって、ほんをとりにいきました。

 すると、トイレのなかから、だれかがすすりなくようなおとがします。

「おかあさん?」
「あっちへいって!」

 まるでたたきつけるようなひとことに、キッくんはおどろきました。

『おかあさんは、おばさんのことどうおもっていたんだろう……』

 そのあとはなんにもかんがえずに、ふゆもののコートをはおって、リビングのソファでねました。

 キッくんは、おばさんのことが、ほんとうはよくわからなかったのです。

『ちいさいころ、たまにいえにきて、おかあさんにもんくをいっていた』

 ちいさかったキッくんは、そのたびになみだをかくさない、おかあさんにこんわくしたのを、おぼえているだけでした。

「キッくん、ねた?」
「おきてるよ」

 あたまのうえから、かたりかけるおかあさんに、キッくんはなにごとかとおきあがります。

「キッくん、ねえさんね」
「なんにも、いわなくてもいいよ」

 なんとなく、いいよかんがしなくて、キッくんはくちをはさみました。

「おばさんはしんじゃったんだろ。もう、いいじゃないか」

 そういいました。

 キッくんはてっきり、おばさんをせめるのじゃないかと、おもいこんでしまったのです。

「ちがうの」
「なにがちがうの? おばさんは、おかあさんをこまらせる、わるいひとだった……そうでしょう」
「ううん、いまさらね」

 おかあさんは、そういってなみだをふくと、キッくんのよこのソファで、からだをよこたえました。

 キッくんはそのそばに、いっさつのにっきちょうを、みつけました。

「おばさんのか……」

 おばさんは、ついさいきんまで、かいていたようです。

『もっと、ミイちゃんがしっかりしてくれますように』
『いいこたちにそだってる。きっとキイチくんなんかはミイちゃんににたんだ』
『ミイちゃんが、もっとつよくなってくれますように』

 キッくんは、おかあさんにもんくをいっていた、おばさんをおもいだしました。

『こどもがけがをするなんて、おやのせきにんよ。もっとしっかりしなさい』
『ああ、あたまがいたい。そういうところ、キイチくんはあんたにそっくり』
『ないてるばあいじゃないのよ、あんたがそんなでこどもはどうするの』

 そういって、なおさらおかあさんをなかせました。

「ああ、そうだ。そうだった」

 キッくんは、ようやくおもいだしました。

 じぶんが、おばさんを、あまりよくおもっていなかったこと。

 そして、おさないころのじぶんが、ないたおかあさんをみて、おばさんをなじったこと。

「ひどいよ、ボクがけがをしたのはボクのせいなのに、ママをしかるなんて!」

 そういって、キッくんもないたのです。

 すると、おばさんはおどろいて、おろおろして、れいぞうこからブドウをだしてきていいました。

「キイチくんのだいすきなもの、おばさん、かってきたよ。もう、ママをしからないからね。ごめんね」

 おばさんは、たかいところからおちて、うでのほねをおってしまったキイチくんのために、おみまいをもってきてくれたのです。

 おもえば、おばさんは、やさしいひとだったのでした。

 そして、にっきちょうのさいごには、こうかいてありました。

『わたしがしんでも、ミイちゃんがなきませんように。つよく、いきてくれますように』

「おばさんはばかだなあ。こんなことがかいてあるのをみつかったら、おかあさんはなおさら、ないてしまうにきまってる」

 キッくんは、さいごのそのページをやぶって、むねポケットにしまいました。

 しゅっかんのひ、にっきちょうはそのまま、ひつぎにいれられて、かそうされました。

「おばさんはばかだったよ。でも、そこがいいところだった」

 おかあさんのかたをたたく、キッくんをみあげて、すみっこにいたコロンは、すこしホッとしました。

 おばさんのしは、なにものもきずつけず、かんぺきな愛をとげたのでした。

『こんかいも、なんにもできませんでちた』
「いいんだ、コロン。こういうときは、だまってれば」
『あい……』

 ふたりのたびのそらは、つづきます。
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