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片思い⑧
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知り合いが働いている小綺麗な居酒屋がある。それなりに今風ではあるが、お洒落なだけでなく、ドリンクの種類も多く料理も美味しい。
健生は知り合いを通して、その居酒屋の個室を予約した。
ハッキリと明言しているわけではないが、誰が見ても分かるレベルでカップル向けなので、男二人であることをつげると別の席を進められたが、少し強引に押し切った。
男同士、だだの友人ならいくら仲が良くても花まで飾られたあんな可愛らしく、ピッタリ二人分な個室に入りたいわけがない。
その個室を指名した時点で、空気を読めと言いたかった。
予約したいなら、いつでも言えと言ってきたのは向こうなだけに、渋られると腹が立つ。
こっちは、デートを成功させられるかどうかに必死なのだ。
女二人なら、あっさり通すくせに・・・。
「車、格好いいね。この年式、久しぶりに見たよ。」
「すっげぇ、探したんです。どうしてもコレが良くて。どうぞ、金井さん乗ってくだい。足元、高いから乗り気にくいかも、気を付けて。」
好きな人が、自分の車の助手席に乗るのって、なんでこんなに気分が上がるんだろう・・・。
待ち合わせは、金井の自宅の近くのコンビニの駐車場だった。予約を入れた店は、そこから車で20分ほどで、もちろん健生は、待ち合わせには早めに着いていた。
好きな人を一人待たせて、何かあったらいけない。
いつもより金井さんの匂いがする・・・。
あの柔軟剤の香りがいつもよりはっきり香る気がした。普通の呼吸をするのと、なんら変わらない要領で、強く匂いを取り込んだ。
金井は、スーツではなかった。仕事が終わってから着替えてくれたんだろう。
そのせいで、いつもより香るのかもしれない。
清潔感のあるカジュアルな白いシャツと黒縁眼鏡の組み合わせが良い。
シンプルなベージュのチノパンも、金井のイメージを壊さない。
健生は、金井のために助手席のドアを開け、そしてドアを閉める時、彼を自分の世界に閉じ込めた気分になった。
この人は、罠にかかりに来てくれたのだ。
「今日の店、知り合いが働いてるんです。」
「わざわざ、予約入れてくれてありがとう。ほんと、ごめんね。全部、任せちゃって・・・。」
「気にしないでください!前から、店に顔出せってひつこかったんで。なにより、誘ったの俺だし。」
運転しなれた自分の車なのに、ずっとドキドキしている。ハンドルを握る手は両手とも汗ばんでる。
「車も出してもらっちゃったけど、辻君は飲まないの?」
「酒は飲まないわけじゃないんスけど、好きでもないんで。」
嘘ではない。外見的に、いかにも飲みそうだとか好きそうだと思われがちだが、健生はアルコールを好んで飲まない。
酒がないなら楽しめない席など、それだけの価値なのだ。
「なんだか、すごく可愛い部屋だね。」
「でしょう?」
予約の部屋に通されると金井は驚いた顔をしたものの、いつものように柔らかく笑ってくれた。
改めてみると、本当に可愛い。店側もSNSに載せてくれることを期待しているので、撮影OKの張り紙がある。
良かった!!ドン引かれないで!!
健生は金井から、男二人でこんな個室に、等と咎められなかったことに安心した。例え思ったとしても、金井が口に出すとは思えないが、言葉なり空気なりで受け取ってしまうと、きっと、しばらく立ち直れない。
飾られたピンク色のガーベラを見て『可愛い』と笑う金井に、胸がキュンとする。
気を使ってくれたのかもしれないのは分かっていても、好きな人が笑ってくれるのは嬉しい。
健生はオーダー用のタブレットを操作しながら、金井にドリンクを聞く。
酒を飲むなら遠慮しなくていいと伝えると、
「じゃあ、この生搾りグレープフルーツサワーを・・・。」
と、タブレットの画面の写真を指差す。綺麗な指先だと思った。しっかりと男の手なのに、自分の手とはまるで違う。
爪が切りそろえられて手荒れもなく、あまり日にも焼けていない。
いつか、この手を遠慮なく触ってもいい日がくるのだろうか・・・。
健生は知り合いを通して、その居酒屋の個室を予約した。
ハッキリと明言しているわけではないが、誰が見ても分かるレベルでカップル向けなので、男二人であることをつげると別の席を進められたが、少し強引に押し切った。
男同士、だだの友人ならいくら仲が良くても花まで飾られたあんな可愛らしく、ピッタリ二人分な個室に入りたいわけがない。
その個室を指名した時点で、空気を読めと言いたかった。
予約したいなら、いつでも言えと言ってきたのは向こうなだけに、渋られると腹が立つ。
こっちは、デートを成功させられるかどうかに必死なのだ。
女二人なら、あっさり通すくせに・・・。
「車、格好いいね。この年式、久しぶりに見たよ。」
「すっげぇ、探したんです。どうしてもコレが良くて。どうぞ、金井さん乗ってくだい。足元、高いから乗り気にくいかも、気を付けて。」
好きな人が、自分の車の助手席に乗るのって、なんでこんなに気分が上がるんだろう・・・。
待ち合わせは、金井の自宅の近くのコンビニの駐車場だった。予約を入れた店は、そこから車で20分ほどで、もちろん健生は、待ち合わせには早めに着いていた。
好きな人を一人待たせて、何かあったらいけない。
いつもより金井さんの匂いがする・・・。
あの柔軟剤の香りがいつもよりはっきり香る気がした。普通の呼吸をするのと、なんら変わらない要領で、強く匂いを取り込んだ。
金井は、スーツではなかった。仕事が終わってから着替えてくれたんだろう。
そのせいで、いつもより香るのかもしれない。
清潔感のあるカジュアルな白いシャツと黒縁眼鏡の組み合わせが良い。
シンプルなベージュのチノパンも、金井のイメージを壊さない。
健生は、金井のために助手席のドアを開け、そしてドアを閉める時、彼を自分の世界に閉じ込めた気分になった。
この人は、罠にかかりに来てくれたのだ。
「今日の店、知り合いが働いてるんです。」
「わざわざ、予約入れてくれてありがとう。ほんと、ごめんね。全部、任せちゃって・・・。」
「気にしないでください!前から、店に顔出せってひつこかったんで。なにより、誘ったの俺だし。」
運転しなれた自分の車なのに、ずっとドキドキしている。ハンドルを握る手は両手とも汗ばんでる。
「車も出してもらっちゃったけど、辻君は飲まないの?」
「酒は飲まないわけじゃないんスけど、好きでもないんで。」
嘘ではない。外見的に、いかにも飲みそうだとか好きそうだと思われがちだが、健生はアルコールを好んで飲まない。
酒がないなら楽しめない席など、それだけの価値なのだ。
「なんだか、すごく可愛い部屋だね。」
「でしょう?」
予約の部屋に通されると金井は驚いた顔をしたものの、いつものように柔らかく笑ってくれた。
改めてみると、本当に可愛い。店側もSNSに載せてくれることを期待しているので、撮影OKの張り紙がある。
良かった!!ドン引かれないで!!
健生は金井から、男二人でこんな個室に、等と咎められなかったことに安心した。例え思ったとしても、金井が口に出すとは思えないが、言葉なり空気なりで受け取ってしまうと、きっと、しばらく立ち直れない。
飾られたピンク色のガーベラを見て『可愛い』と笑う金井に、胸がキュンとする。
気を使ってくれたのかもしれないのは分かっていても、好きな人が笑ってくれるのは嬉しい。
健生はオーダー用のタブレットを操作しながら、金井にドリンクを聞く。
酒を飲むなら遠慮しなくていいと伝えると、
「じゃあ、この生搾りグレープフルーツサワーを・・・。」
と、タブレットの画面の写真を指差す。綺麗な指先だと思った。しっかりと男の手なのに、自分の手とはまるで違う。
爪が切りそろえられて手荒れもなく、あまり日にも焼けていない。
いつか、この手を遠慮なく触ってもいい日がくるのだろうか・・・。
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