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斎藤と山本の苦労③
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出勤時と同じように仕事終わりには、斎藤と山本が一京と和輝を自宅まで送って行く。
そういう意味では二人が一緒に住んでくれているのは大変有り難かった。
「一京!!明日休みだし、心霊スポット寄って帰ろうぜ!」
それぞれが帰り支度を始めた中、和輝のいきいきした声が聞こえた。
よく通る声だ。
内容に関係なく。
「どこだ?あまり危ない場所なら寄れない。」
本当に言ったあの人・・・。今日、一京が仕事の電話をしている時、和輝が斎藤と山本に
「今日、帰りに心霊スポット行かねぇ?一京には俺から言うから。」
あまりにも唐突だった。
「心霊スポットですか?どうしたんすか、急に・・・。」
「そうですよ。和輝さん、今までそんなの興味なかったですよね?」
「谷川さんから聞いた!バイク乗ってた時は、よく仲間と行ったって!!」
あの人世代のヤンキーあるあるだなと、二人は察する。今日、二人で出た時に話を聞いたのだろう。
一緒について行った山本も、二人がそんな話をしていたとは知らなかったが、きっとあの時だと心当たりがあった。
二人がテイクアウト用のドリンクと菓子を買うためにカフェに入った時、山本は車で待っていたので自分が知らないとなったらその時だ。
店内が少し混んでいたらしく、思ったより時間がかかっていた。
髪型のせいもあり元ヤン感バリバリの和輝であるが、スーツさえ大人しければ、わりあい町中に馴染む。
問題は谷川の方で、50代になった今もスラリとしたスタイルでスーツを着こなしたイケおじは、絶対に一般庶民じゃない感でどこにいても人目をひいた。
二人の並んだ姿は、遊びなれた紳士がヤンチャな若い愛人を連れているようで無駄にわけありの空気が漂う。
山本の知らない間に店内でも目立ちまくっていた。
「遠慮すんなっていってんだろうが!!欲しいもん全部言えよ。」
等と、落ち着いた見た目を裏切る少し荒っぽい口調で和輝につよめる谷川。
「俺、もう十分です。一京達の差し入れありがとうございます!」
等と、強気な見た目を裏切る何とも控えめな和輝。
「・・・一京は、お前はここに来たら絶対にチーズタルトを頼むっつってたぞ・・・」
「えっ!?いや、ほんと、大丈夫なんで・・・」
「なぁ、チーズタルトここにあるだけ全部くれよ。」
「えっ!ちょっ、待って!!一個っ!みんなに一個ずつでいいです!!」
どんなに促しても冷たいカフェオレしか頼まない和輝に谷川が強引に貢いでいた。
実の息子は当然可愛いけれど、その恋人であるこの子はまた別で可愛い。
付き合いが長くなっても、ずっと控えめなままだ。
自分の若い頃を思い返して、和輝の5年という自分よりはるかに長い懲役の間、何もなかったらしいことにほっとした。
無事、務めを終えて帰ってきてくれなら、もうそれでいい。
自分の夫が息子に
「ムショでは、何があるか分かんねぇんだぞ。周りの男共は禁欲生活で獣になってるからな・・・。」
と言い出した時はギョッとした。
確かに自分もムショでは悲惨な記憶があるが、あれは稀なことだ。ホルモン剤の投与中だったこともあるし。
あまり不安を煽るのは、やめてやってほしかった。
そんな・・・和輝と引き離され絶望していた一京に追い打ちをかけるようなこと・・・。
案の定、一京は和輝を心配して寝れない日が増えた。
服役経験者の自分が、監視や規律が厳しくてヤクザの世界よりずっと安全だと言っても、もう駄目だった。
「谷川さん、ありがとうございます!!ここのチーズタルト美味しいから、みんな喜ぶと思う!」
嘘のない笑顔と言葉も、ずっと昔から変わらない。一京が友人として和輝を家につれてきた時から、いずれ二人は恋人になるんだろうと思っていた。
「次は、俺が満足するまで注文しろよ。じゃないと、次こそこの店のチーズタルト買い占めるからな。」
二人はじゃれ合うように店を出ていった。
そんなに、その子に貢ぎたいんだぁ・・・って周りの目には気付かないまま。
「一京、場所なんだけど・・・」
和輝は、スマホに表示された地図を一京に見せながら、谷川に買ってもらったチーズタルトを食べている。
一人一つと言ったはずが、結構な量買い与えられてしまった。
手のひらより小さな個包装で、数日ならもつので助かった。
一京は、チーズタルトを噛りながら近寄ってきた和輝にデレて、何でもいうことを聞きそうなレベルになっている。
食べてる姿が可愛い♡♡
和輝は、普通に男っぽい外見である。だから、ギャップが活きる。
唇に付いたチーズタルトの欠片を舐め取る姿も、また良い。
離れ離れになった時間は日常の大切さを再確認させてくれた。
自分の恋人は生きているだけで、魅力が溢れている。
「こっちの神社か、この廃墟が行ってみたい!」
遠くはないが、辺鄙な場所だ。昼間に行っても気味が悪い。
「谷川さんのおすすめ!!」
「和輝、神社はともかく廃墟は危ない。谷川さんの若い頃からあるなら何十年も放置されたまんまだぞ!!何をきっかけに崩れるか分からないから、そっちはダメだ!」
言われてみれば!!
斎藤と山本は、一京に言われて気付いた。別の意味で怖い。
「壊そうとすると、良くないことが起こって何度も工事が中止になって放ったらかしになったって・・・すごくね?」
ど定番だ。谷川の話し方が余程上手かったのだろうか・・・自分も聞きたかった・・・と山本は少し和輝が羨ましくなった。
「谷川さんは、何か所も心霊スポット回って幽霊見たとかって言ってました?」
「谷川さんは、そういうの見えないって・・・」
完全な冷やかし!!不良の肝試しだって、ど定番だ。
谷川にしてみれば不良時代の楽しい思い出にすぎないのかもしれない。
和輝だって出所してから、まだ間がないし自由を満喫している時期だろう。
「和輝、行くなら神社の方だ。」
一京が許可したなら、自分達は同行するしかない。
そういう意味では二人が一緒に住んでくれているのは大変有り難かった。
「一京!!明日休みだし、心霊スポット寄って帰ろうぜ!」
それぞれが帰り支度を始めた中、和輝のいきいきした声が聞こえた。
よく通る声だ。
内容に関係なく。
「どこだ?あまり危ない場所なら寄れない。」
本当に言ったあの人・・・。今日、一京が仕事の電話をしている時、和輝が斎藤と山本に
「今日、帰りに心霊スポット行かねぇ?一京には俺から言うから。」
あまりにも唐突だった。
「心霊スポットですか?どうしたんすか、急に・・・。」
「そうですよ。和輝さん、今までそんなの興味なかったですよね?」
「谷川さんから聞いた!バイク乗ってた時は、よく仲間と行ったって!!」
あの人世代のヤンキーあるあるだなと、二人は察する。今日、二人で出た時に話を聞いたのだろう。
一緒について行った山本も、二人がそんな話をしていたとは知らなかったが、きっとあの時だと心当たりがあった。
二人がテイクアウト用のドリンクと菓子を買うためにカフェに入った時、山本は車で待っていたので自分が知らないとなったらその時だ。
店内が少し混んでいたらしく、思ったより時間がかかっていた。
髪型のせいもあり元ヤン感バリバリの和輝であるが、スーツさえ大人しければ、わりあい町中に馴染む。
問題は谷川の方で、50代になった今もスラリとしたスタイルでスーツを着こなしたイケおじは、絶対に一般庶民じゃない感でどこにいても人目をひいた。
二人の並んだ姿は、遊びなれた紳士がヤンチャな若い愛人を連れているようで無駄にわけありの空気が漂う。
山本の知らない間に店内でも目立ちまくっていた。
「遠慮すんなっていってんだろうが!!欲しいもん全部言えよ。」
等と、落ち着いた見た目を裏切る少し荒っぽい口調で和輝につよめる谷川。
「俺、もう十分です。一京達の差し入れありがとうございます!」
等と、強気な見た目を裏切る何とも控えめな和輝。
「・・・一京は、お前はここに来たら絶対にチーズタルトを頼むっつってたぞ・・・」
「えっ!?いや、ほんと、大丈夫なんで・・・」
「なぁ、チーズタルトここにあるだけ全部くれよ。」
「えっ!ちょっ、待って!!一個っ!みんなに一個ずつでいいです!!」
どんなに促しても冷たいカフェオレしか頼まない和輝に谷川が強引に貢いでいた。
実の息子は当然可愛いけれど、その恋人であるこの子はまた別で可愛い。
付き合いが長くなっても、ずっと控えめなままだ。
自分の若い頃を思い返して、和輝の5年という自分よりはるかに長い懲役の間、何もなかったらしいことにほっとした。
無事、務めを終えて帰ってきてくれなら、もうそれでいい。
自分の夫が息子に
「ムショでは、何があるか分かんねぇんだぞ。周りの男共は禁欲生活で獣になってるからな・・・。」
と言い出した時はギョッとした。
確かに自分もムショでは悲惨な記憶があるが、あれは稀なことだ。ホルモン剤の投与中だったこともあるし。
あまり不安を煽るのは、やめてやってほしかった。
そんな・・・和輝と引き離され絶望していた一京に追い打ちをかけるようなこと・・・。
案の定、一京は和輝を心配して寝れない日が増えた。
服役経験者の自分が、監視や規律が厳しくてヤクザの世界よりずっと安全だと言っても、もう駄目だった。
「谷川さん、ありがとうございます!!ここのチーズタルト美味しいから、みんな喜ぶと思う!」
嘘のない笑顔と言葉も、ずっと昔から変わらない。一京が友人として和輝を家につれてきた時から、いずれ二人は恋人になるんだろうと思っていた。
「次は、俺が満足するまで注文しろよ。じゃないと、次こそこの店のチーズタルト買い占めるからな。」
二人はじゃれ合うように店を出ていった。
そんなに、その子に貢ぎたいんだぁ・・・って周りの目には気付かないまま。
「一京、場所なんだけど・・・」
和輝は、スマホに表示された地図を一京に見せながら、谷川に買ってもらったチーズタルトを食べている。
一人一つと言ったはずが、結構な量買い与えられてしまった。
手のひらより小さな個包装で、数日ならもつので助かった。
一京は、チーズタルトを噛りながら近寄ってきた和輝にデレて、何でもいうことを聞きそうなレベルになっている。
食べてる姿が可愛い♡♡
和輝は、普通に男っぽい外見である。だから、ギャップが活きる。
唇に付いたチーズタルトの欠片を舐め取る姿も、また良い。
離れ離れになった時間は日常の大切さを再確認させてくれた。
自分の恋人は生きているだけで、魅力が溢れている。
「こっちの神社か、この廃墟が行ってみたい!」
遠くはないが、辺鄙な場所だ。昼間に行っても気味が悪い。
「谷川さんのおすすめ!!」
「和輝、神社はともかく廃墟は危ない。谷川さんの若い頃からあるなら何十年も放置されたまんまだぞ!!何をきっかけに崩れるか分からないから、そっちはダメだ!」
言われてみれば!!
斎藤と山本は、一京に言われて気付いた。別の意味で怖い。
「壊そうとすると、良くないことが起こって何度も工事が中止になって放ったらかしになったって・・・すごくね?」
ど定番だ。谷川の話し方が余程上手かったのだろうか・・・自分も聞きたかった・・・と山本は少し和輝が羨ましくなった。
「谷川さんは、何か所も心霊スポット回って幽霊見たとかって言ってました?」
「谷川さんは、そういうの見えないって・・・」
完全な冷やかし!!不良の肝試しだって、ど定番だ。
谷川にしてみれば不良時代の楽しい思い出にすぎないのかもしれない。
和輝だって出所してから、まだ間がないし自由を満喫している時期だろう。
「和輝、行くなら神社の方だ。」
一京が許可したなら、自分達は同行するしかない。
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