上 下
27 / 34

斎藤と山本の苦労

しおりを挟む
 「案外、普通に出来上がってくんだな。」

 斎藤は、一京と和輝を迎えに行く道の途中で建設中のマンションに目を向ける。

 隣の助手席には山本が座っている。運転手をどちらがするかは決まっていないが、割合的には斎藤が多かった。

 「建ててる奴らは何も知らねぇし、そんなもんだろ。」

 一京達の住んでいるタワーマンションとまではいかないが、なかなか高級志向のお高めマンションで、庶民には手が出ない賃貸料になっている。買うともれば、更にだ。

 ここの土地の買収に天神会がこっそり協力したこともあり、一京から住みたいなら口を聞くと言われたが二人とも断った。

 だって、ここ俺らが死体埋めたとこだし。

 「でも、やっぱあれさ、どうせなら地鎮祭前に埋めた方がマシだったんじゃね?」

 「お前、意外とそういうの信じんのな。てか、真面目に運転しろよ。これ、和輝さんの復帰に合わせて買った新車だぞ。」

 斎藤と山本にとっても和輝のいない5年は、なかなかの激務だった。
 一京が仕事を詰めれば、部下の二人も必然的に忙しくなる。
一京と違って二人には普通に休日が存在したので、遥かにマシだが、和輝のいない時間を仕事で埋める一京を見ているのは苦しかった。 

 それに、重労働なのは死体処理だ。いくらマニュアルがあっても細かいところは、その都度違う。
 特に一京に特別扱いされた死体は、マニュアルには沿わない。

 ここには、鰆目組の組員を何人か埋めた。山に埋めた奴らもいるが、ある日急に一京が

 『人柱が欲しいと言われたから、今日の奴らはそっちに埋める。』

 と言ってきて、 ここに埋めにきた。

 見物客がいたのにはびびった。

 下っ端共が使えれば楽だったのに、きっと客がいるから自分達二人だけだったんだと悟った。
 重機が使えたので良かった。手掘りだったら、こっちも死んでた。

 しかし、世の中には悪趣味な人間がいるもんだと思った。このご時世に人柱だなんて・・・。

 山本と斎藤は二人になった時、案外、死体ってそこら中に埋まってんじゃないかって話をした。 
 
 「あっ、けどあそこって、もともと建ってたビルがそもそも事故物件だったんだろ?なんかセクハラだか痴漢だかで訴えられた政治家が飛び降り自殺したとかで・・・」

 ふいに山本が思い出して斎藤をちらりと見る。斎藤もそれを聞いて、そうだったと思い出した。

 「あったな・・・そういう話。事故かなんかで体に後遺症の残った息子も道連れの親子心中の飛び降りだっけ・・・」
  
 二人が生まれる前の事件だが、事務所を構えていたビルの屋上から国会議員が息子と共に飛び降り自殺をしていた。
 ビル自体は老朽化で取り壊しになり、そろそろ事件も世間から忘れ去られただろうタイミングで、ビルの周りの土地もいくつか買い取り、今のマンションが建つことになった。

 今年中には完成予定だという、このマンションはきっとすぐに満室になるだろう。

 もうすでに、半分以上の部屋には予約が入っていると聞いている。

 曰く付きの土地の割に問題なく工事が進み部屋が埋まっていくのは、人柱が務めを果たしているからなのかもしれない。

 絶対に住みたくないけれど。 
 
 「まぁでも、そういうは、また別にお祓いとかしてんじゃねぇの?」

 目的地のタワーマンションが近付いて、二人は気を引き締めた。

 

 「一京、俺ら・・・こんなことしてていいのか?」

 天神会の事務所には若頭になった一京に与えられた個室がある。当然のように、和輝も一緒に使っている。

 「いい。」

 一京は、自分のデスクの上に和輝を座らせ、自分は椅子に座って和輝の太腿に頭を乗せていた。

 オフィス仕様の膝枕である。
 和輝は、少々とまどいながらも一京の頭を撫でてやる。
 
 時折、一京は和輝の太腿に顔を押し付けて、スーツ越しの感触を味わっていた。

 「和輝、斎藤と山本が帰ってきたら、今受け持ってる店の巡回に行こう。」

 あと一時間は帰って来ないけど。適当に外回りの仕事に行って、3時まで帰ってくんなって言ったから。
 だから、巡回も本当は済んでる。

 「オシャレな店が増えてたよな!!カフェとか!」

 「夜の店ばっかじゃやってけねぇならな。」

 資金面で言えば問題ないが、夜の店は面倒くさい。つけがたまって消える客や、突然いなくなる従業員の女、ああいうのは夜ならではだ。

 店に定期的に顔を出すのも自分の夜の時間がとられるから嫌だし、何よりああいう店に和輝を連れて行きたくない。
 なので、今は健全な飲食店をメインに受け持っている。

 一京が和輝の太腿を撫でる。フルオーダーの高級スーツだけあって生地の手触りが良い。
 一京にとっては和輝の太腿という中身ありきなので、膝枕の邪魔にならないという点を評価している。

 家でも和輝と一緒で、職場でも和輝と一緒・・・すごく良い。これ以上の幸せってきっとない。
 
 ~♪♫~♪♫~♪♫~

 一京の仕事用のスマホがなる。メッセージだ。

 和輝の膝に頭をのせたまま画面を開くと、山本からだった。
 頼んでおいたお使いも無事終わったようだ。 


 「また、死体埋めんの?」

 一京が和輝とイチャイチャするために外に追い出された斎藤と山本は、店を巡回しながらそれとは別に頼まれたお使いをこなしていた。

 「あれだよ、和輝さんが服役中に同室だったってやつ。」
 
 「主犯のやつ?同業者だったじゃん!!他所の奴に手だしたら、揉めんだろ。」

 「そいつ一人を差し出すか、組員全員死ぬかの二択を提示して、身柄をもらえることになってるらしい・・・。」

 「マジっ!?」

 和輝を傷付け不安にさせたという理由で、あと数日で死ぬ男だ。あと二人、悪乗りしてきた奴らもいたが元凶はこの男なので、とりあえずこいつは殺す。

 「埋めるとこが、また建設現場でさ。だから日程に合わせて殺さないと埋めれる期間決まってんだよ。ちょっと身柄引き渡しの日時の確認で、向こうの事務所寄るわ。」

  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】

NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生 SNSを開設すれば即10万人フォロワー。 町を歩けばスカウトの嵐。 超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。 そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。 愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる

KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。 ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。 ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。 性欲悪魔(8人攻め)×人間 エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』

君が好き過ぎてレイプした

眠りん
BL
 ぼくは大柄で力は強いけれど、かなりの小心者です。好きな人に告白なんて絶対出来ません。  放課後の教室で……ぼくの好きな湊也君が一人、席に座って眠っていました。  これはチャンスです。  目隠しをして、体を押え付ければ小柄な湊也君は抵抗出来ません。  どうせ恋人同士になんてなれません。  この先の長い人生、君の隣にいられないのなら、たった一度少しの時間でいい。君とセックスがしたいのです。  それで君への恋心は忘れます。  でも、翌日湊也君がぼくを呼び出しました。犯人がぼくだとバレてしまったのでしょうか?  不安に思いましたが、そんな事はありませんでした。 「犯人が誰か分からないんだ。ねぇ、柚月。しばらく俺と一緒にいて。俺の事守ってよ」  ぼくはガタイが良いだけで弱い人間です。小心者だし、人を守るなんて出来ません。  その時、湊也君が衝撃発言をしました。 「柚月の事……本当はずっと好きだったから」  なんと告白されたのです。  ぼくと湊也君は両思いだったのです。  このままレイプ事件の事はなかった事にしたいと思います。 ※誤字脱字があったらすみません

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

勇者よ、わしの尻より魔王を倒せ………「魔王なんかより陛下の尻だ!」

ミクリ21
BL
変態勇者に陛下は困ります。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

処理中です...