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雅貴と谷川②
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「っなつき、痛かったよな?ぅえっえっ・・・」
雅貴は一向に泣き止まず、えずくように息を詰まらせるので、谷川は彼の背中を優しく撫でる。
良い年をした大人が子供のように泣いているというのに、見苦しいこともないなんて見目が良いというのは随分、得なことだと谷川は思った。
雅貴は、黙っていれば可愛らしく整った顔立ちのベビーフェイスだが、荒くれた男達を束ねる統率力には天性のものがあった。
実戦に置いても、谷川が卑怯な真似をするくらいなら潔く負けを認めるの対し、雅貴は多少の悪評がつこうとも勝つことを選んだ。
可愛らしい見た目と違って、中身はヤバくてえげつないと評判だった雅貴だが、恋に落ちれば一人の男だった。
「何言ってんだよ・・・もっと大怪我してた時なんて、いくらでもあっただろうが・・・。」
天神会に入る前の谷川は暴走族のリーダーをしていて、似たような連中と每日のように喧嘩し、豪快に乗り回すバイクや本人の気質もあって、怪我をしていない方が珍しい状態だった。
バイクで事故を起こした時は転倒したバイクの下敷きになり、右足を複雑骨折し数ヶ月入院した。
あの時も雅貴は、めちゃくちゃ怒って泣いて谷川はバイクは卒業すると約束し、チームのリーダーも次の世代に譲り、ムチャをするなら、せめて目の届くところにいてほしいと請われて、彼の家に入った。
谷川がヤクザになったのは、その時だ。それからも、大人しくなったわけではないが、行動を把握できる分、雅貴は安心だった。
「っ、こんかいのは、ぜんぜんちがっうぅえっっ・・・」
雅貴は泣きっぱなしで、谷川はまるで雅貴が自分の分まで泣いてくれているような気分になった。自分が、そういった目的で男から襲われる等、考えてもなかっただけに混乱も大きかったが、時間とともに終わった事だと自身に言い聞かせ、医者から確認された際も、もう大丈夫だから退院すると言った。
「・・・変わんねぇなぁ、お前は・・・。」
この男は昔から、自分みたいなデカくてガラの悪い男を何かと心配してくれた。
身長も自分の方が7cm程高いし、体付きは細身とはいえ華奢ではなく、目付きも悪い。
周りからは極道の家に生まれた雅貴より谷川のほうが、それっぽいと言われていた。
ようやく立ち上がった雅貴の涙に濡れた黒い瞳が谷川を写し、谷川の頬を両手で包む。
切れ長の瞳の涼しい顔立ちに残る傷に羽根のようなキスを落とす。
今、この手の中にあるのは紛れもなく自分の宝物だ。
この宝物を傷付けた奴らが懲罰を受けようが、刑期が伸びようが関係ない。
手の届くところに、引きずり出して殺す。
「帰ろう・・・夏樹・・・」
いつまででも、ここにいる意味はなかった。
出所後は、毎回、ホテルで過ごしていた。
谷川は大きな犯罪歴はないものの、バイクを乗り回していた頃から何度か警察の世話になっており、留置所で開放されることもあれば、器物損壊などで短い服役をすることもあった。
雅貴は今回も、いつものホテルのスイートルームを谷川の出所日に合わせ用意していた。
服役が決まった時は、つい叱ってしまったが、息苦しい塀の中から自分の元へ帰ってくる愛しい恋人を存分に甘やかしてやりたい気持ちはいつもと同じだった。
妊活を始めて投薬されるのはホルモン剤の一種で、体への害は低いとされてはいるが、副作用は避けられない。
男性の場合、精子を卵子の役割をはたす疑似卵子に作り変えることによって、同性間での受精が可能になった。
しかし現在の医学では、まだ男性本人の妊娠出産までにはいたっていない。
専用のホルモン剤を体に投与し、ある程度体内で精子を卵子に寄せ、それを体外に取り出したあと、さらに別のホルモン剤で疑似卵子を作るのだが、疑似卵子なれる精子は半分以下で、とにかく数をこなして運にまかせるしかなかった。
しかも、その後さらにそれをパートナーの精子と人工授精させた後、代理出産の女性の体に着床させなければならず、いくつもの壁を乗り越えて、やっと我が子を授かれるのだ。
子供を作りたいと言い出したのは雅貴だった。二人で話し合って、谷川がホルモン剤の投与を受けることになった。
当然、谷川の体にも副作用は現れた。実戦と筋トレで鍛えた体は引き締まった筋肉を纏っていたが、数ヶ月で肌や肉質は柔らかくなり、体毛が薄くなった。
日によっては体調が悪い時もあったし、ひどく気分が落ち込む時もあった。
それでも、谷川は弱音を吐かなかった。二人で決めたことだからと、きちんと通院を続けた。
大きな怪我を負うような喧嘩もすることはなくなったし、一人の外出や車の運転も、雅貴が頼めば控えてくれた。
普段なら、車には必ず運転手を付けているが、今日は自分が運転するからと車を置いて帰らせた。
二人きりが良かった。
誰の目にも、今のこの最愛の人を晒したくない。
「・・・俺・・・もうお前に合わせる顔がねぇなって思ってた・・・子供作るって決めた時、自分で酒やめるって言ったのに、結局、酒のんで、でも後ろめたくなって迎えも呼ばずに、自分で車運転して帰ろうとして、飲酒でつかまって・・・出所も・・・遅くなったし・・・」
こんな時まで、自分を責めないでほしい。飲酒運転で捕まったことなど、もう済んだことだ。
谷川は妊活を始めてからの2年間、禁酒していた。担当の医者は、やめなくても控えるだけでいいと言ったが中途半端は難しいと言って、ずっと飲まなかった。
「飲んだってつっても少量だろ・・・酒気帯びですんだじゃねぇか。」
きっと、飲もうとしても飲めなかったんだろうと思う。雅貴からしたら適量さえ守ってくれれば、ぜんぜん飲んでくれて構わない。
けれど、自分が言い出した子作りに真剣に取り組んでくれるのは嬉しかった。
もう問題は飲酒がどうだとか服役したとかではない。
今、この最愛の宝物である自身の恋人が傷付いていることだ。
雅貴は一向に泣き止まず、えずくように息を詰まらせるので、谷川は彼の背中を優しく撫でる。
良い年をした大人が子供のように泣いているというのに、見苦しいこともないなんて見目が良いというのは随分、得なことだと谷川は思った。
雅貴は、黙っていれば可愛らしく整った顔立ちのベビーフェイスだが、荒くれた男達を束ねる統率力には天性のものがあった。
実戦に置いても、谷川が卑怯な真似をするくらいなら潔く負けを認めるの対し、雅貴は多少の悪評がつこうとも勝つことを選んだ。
可愛らしい見た目と違って、中身はヤバくてえげつないと評判だった雅貴だが、恋に落ちれば一人の男だった。
「何言ってんだよ・・・もっと大怪我してた時なんて、いくらでもあっただろうが・・・。」
天神会に入る前の谷川は暴走族のリーダーをしていて、似たような連中と每日のように喧嘩し、豪快に乗り回すバイクや本人の気質もあって、怪我をしていない方が珍しい状態だった。
バイクで事故を起こした時は転倒したバイクの下敷きになり、右足を複雑骨折し数ヶ月入院した。
あの時も雅貴は、めちゃくちゃ怒って泣いて谷川はバイクは卒業すると約束し、チームのリーダーも次の世代に譲り、ムチャをするなら、せめて目の届くところにいてほしいと請われて、彼の家に入った。
谷川がヤクザになったのは、その時だ。それからも、大人しくなったわけではないが、行動を把握できる分、雅貴は安心だった。
「っ、こんかいのは、ぜんぜんちがっうぅえっっ・・・」
雅貴は泣きっぱなしで、谷川はまるで雅貴が自分の分まで泣いてくれているような気分になった。自分が、そういった目的で男から襲われる等、考えてもなかっただけに混乱も大きかったが、時間とともに終わった事だと自身に言い聞かせ、医者から確認された際も、もう大丈夫だから退院すると言った。
「・・・変わんねぇなぁ、お前は・・・。」
この男は昔から、自分みたいなデカくてガラの悪い男を何かと心配してくれた。
身長も自分の方が7cm程高いし、体付きは細身とはいえ華奢ではなく、目付きも悪い。
周りからは極道の家に生まれた雅貴より谷川のほうが、それっぽいと言われていた。
ようやく立ち上がった雅貴の涙に濡れた黒い瞳が谷川を写し、谷川の頬を両手で包む。
切れ長の瞳の涼しい顔立ちに残る傷に羽根のようなキスを落とす。
今、この手の中にあるのは紛れもなく自分の宝物だ。
この宝物を傷付けた奴らが懲罰を受けようが、刑期が伸びようが関係ない。
手の届くところに、引きずり出して殺す。
「帰ろう・・・夏樹・・・」
いつまででも、ここにいる意味はなかった。
出所後は、毎回、ホテルで過ごしていた。
谷川は大きな犯罪歴はないものの、バイクを乗り回していた頃から何度か警察の世話になっており、留置所で開放されることもあれば、器物損壊などで短い服役をすることもあった。
雅貴は今回も、いつものホテルのスイートルームを谷川の出所日に合わせ用意していた。
服役が決まった時は、つい叱ってしまったが、息苦しい塀の中から自分の元へ帰ってくる愛しい恋人を存分に甘やかしてやりたい気持ちはいつもと同じだった。
妊活を始めて投薬されるのはホルモン剤の一種で、体への害は低いとされてはいるが、副作用は避けられない。
男性の場合、精子を卵子の役割をはたす疑似卵子に作り変えることによって、同性間での受精が可能になった。
しかし現在の医学では、まだ男性本人の妊娠出産までにはいたっていない。
専用のホルモン剤を体に投与し、ある程度体内で精子を卵子に寄せ、それを体外に取り出したあと、さらに別のホルモン剤で疑似卵子を作るのだが、疑似卵子なれる精子は半分以下で、とにかく数をこなして運にまかせるしかなかった。
しかも、その後さらにそれをパートナーの精子と人工授精させた後、代理出産の女性の体に着床させなければならず、いくつもの壁を乗り越えて、やっと我が子を授かれるのだ。
子供を作りたいと言い出したのは雅貴だった。二人で話し合って、谷川がホルモン剤の投与を受けることになった。
当然、谷川の体にも副作用は現れた。実戦と筋トレで鍛えた体は引き締まった筋肉を纏っていたが、数ヶ月で肌や肉質は柔らかくなり、体毛が薄くなった。
日によっては体調が悪い時もあったし、ひどく気分が落ち込む時もあった。
それでも、谷川は弱音を吐かなかった。二人で決めたことだからと、きちんと通院を続けた。
大きな怪我を負うような喧嘩もすることはなくなったし、一人の外出や車の運転も、雅貴が頼めば控えてくれた。
普段なら、車には必ず運転手を付けているが、今日は自分が運転するからと車を置いて帰らせた。
二人きりが良かった。
誰の目にも、今のこの最愛の人を晒したくない。
「・・・俺・・・もうお前に合わせる顔がねぇなって思ってた・・・子供作るって決めた時、自分で酒やめるって言ったのに、結局、酒のんで、でも後ろめたくなって迎えも呼ばずに、自分で車運転して帰ろうとして、飲酒でつかまって・・・出所も・・・遅くなったし・・・」
こんな時まで、自分を責めないでほしい。飲酒運転で捕まったことなど、もう済んだことだ。
谷川は妊活を始めてからの2年間、禁酒していた。担当の医者は、やめなくても控えるだけでいいと言ったが中途半端は難しいと言って、ずっと飲まなかった。
「飲んだってつっても少量だろ・・・酒気帯びですんだじゃねぇか。」
きっと、飲もうとしても飲めなかったんだろうと思う。雅貴からしたら適量さえ守ってくれれば、ぜんぜん飲んでくれて構わない。
けれど、自分が言い出した子作りに真剣に取り組んでくれるのは嬉しかった。
もう問題は飲酒がどうだとか服役したとかではない。
今、この最愛の宝物である自身の恋人が傷付いていることだ。
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