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雅貴と谷川④

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 「夏樹、すげぇ我慢してくれたんだよな?お前が本気で暴れたら、あんなガキ共怪我ぐらいですんでねぇよ・・・俺との三ヶ月って約束と子供のこと考えて・・・ありがとう夏樹・・・だから、もう後のことは心配しなくていいから。」

 「雅貴・・・俺・・・」

 外らすように伏せられていた目が上げられ、ようやく視線が合わさった。
 切れ長の瞳に張られた涙の膜がこぼれ落ちる前に、キスをする。

 「心配しなくていい。してほしいことがあるなら、なんでも言ってくれよ。お前のためなら、何でもしてやりたい。お前の望むこと何でも叶えてやりたい。俺の気持ちが変わってないって伝わってほしい。」  

 谷川は面倒見が良くて兄貴肌なせいか、甘えるのが下手で雅貴にしてみれば、そういったところも可愛いかった。

 「・・・体、洗ってほしい・・・」 

 素肌の胸に顔を擦り寄せられ、愛しい気持ちが溢れる。

 「うん・・・俺に洗わせて、夏樹・・・。」



 上質なホテルのボディソープをしっかり泡だて、傷口にしみないよう注意して、谷川の体を泡で包み込んでいく。
 泡立てる時にはスポンジを使ったが、肌の上には手のひらを滑らせた。
  
 どんな小さな怪我も見逃さないように。

 「ここも、噛まれたのか?」

 上半身程ではないが、下半身にも暴行の痕跡はあった。柔らかな太腿の内側に近い皮膚に歯型がついている。

 「・・・作業着のパンツの上から・・・」

 「ごめんな、夏樹・・・辛いこと言わせて・・・でも、俺、お前がこんな酷いことされてんのに、知らないことがある方が耐えらんねぇよ・・・」

 すらりと伸びる長い脚は、無駄な筋肉も脂肪もなく滑らかな肌が艶めかしい。
 細身のパンツを履いて厳ついバイクに跨っていた時なんて、最高に色っぽかった。
  
 布の上からでも、むしゃぶりつきたい気持ちは分かるが、雅貴以外の人間に許される行為ではない。
 この代償は、どうしてやろうか・・・と歯型を睨んだ。

 両側から括れた細く長い足首にも、掴まれたような跡が残っている。
 よくこの長身を支えられるなと心配になるほど細く括れ、アキレス腱が無防備なほど、くっきりと浮き出ている。
  
 「泡流すから、痛かったらちゃんと言えよ。」

 「ん・・・」

 「夏樹、髪も洗うか?」

 「洗う・・・洗ってほしい。」

 「まかせて。」

 バスチェアに座った谷川の後ろに立ち、首や肩にキスを落としながら返事をした。

 小さく息を漏らして体を揺らした恋人に、彼を愛する自分の気持ちが少しでも伝わることを願って。  

 シャンプーが終わるとトリートメントもした。谷川はカラーリングしていていない黒髪だが、服役中はリンスインシャンプーだったらしく、少し髪がパサついて軋んでいた。

 優しく地肌に指を這わせ、見えない傷やコブがないか注意深く探る。谷川の性格からして、細かい傷は傷と認識していない可能性もある。若い頃から怪我が絶えなかったせいか、多少の怪我は放ったらかしなのだ。
 何度、雅貴が無理矢理、病院につれていったことか・・・。
 自分が把握していなければ、まともに治療されず放置も考えられた。

 こんなことでついた傷が、消えない傷跡として谷川の肌に残るのは許せない。
  
 完治するまで、一日もかかさず確認するつもりだ。

 「夏樹、風呂でたら消毒しよ?俺が薬塗りたいから。」

 「あー、薬は別にいい。もう病院行く気もねぇし。ほっといても治んだろ。」

 案の定だ。もしかしたら、少し投げやりになっているのかもしれない。
 内出血はともかく、明らかに出血した傷口の放置はだめだ。
 病院に行かないのはまだしも、処方された薬は塗らさなければならない。

 しかも、今日は退院した初日なのに、今日からサボるなんてありえない。
 キレイに治らなかったら、どうするんだ。

 「いや、さすがに今日は塗ろうぜ?退院したてだし。」

 「・・・んー・・・」

 「なるべく痛くねぇようにするから、な?」

 「・・・絶対痛くすんなよ。」

 良かった!!
 いざとなれば夏樹は多少、薬がしみても我慢してくれる、約束できたことにほっとした。



 「今日はガーゼも貼っとこうぜ。」

 ベッドに座って、薬を用意する。雅貴は、大人しく言うことを聞いてくれる谷川に、いくらか安心していた。

 バスローブを肌蹴ると、痛々しく腫れた胸の突起が現れ心臓がギュッとなった。
 
 チューブから出した軟膏を指にとり、そっと幹部に塗布する。
 その様子を、じっと谷川は見ていた。
 
 「早く治るようにおまじないしとくな♡痛いのとんでけー♡」

 そうおどけたように言って、雅貴はガーゼの上からキスをした。見ていなければ、キスをされたと気づかないほどの優しいキス。

 夏樹の痛みが100倍になって、クソ共に飛んでいけばいいのに。

 「だったら、治るまでお前が薬塗れよ。毎回、ちゃんとおまじないもしろよ。」

 100倍返しの復讐を考えていた時に、ふいに谷川の言葉が聞こえびっくりした。
 恥ずかしそうに目をそらしているのが、まだ赤みのひいてない目元とあいまって、どこか幼くみえた。

 可愛い!!可愛い!!毎回、おまじないって・・・夏樹、可愛いー!!

 「なんだよ・・・何でもいうこときいてくれるんじゃねぇの?」

 突然のデレが心臓に悪い。さっきとは違う意味でギュッとしてる。鷲掴みだ。

 「なんでもきく!每日、俺が薬ぬっておまじないする!!」

 
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