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雅貴と谷川③
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いつものホテルのスイートルームは、期待を裏切ることなく華やかな非日常なのに、二人の空気は重いままだった。
ベッドルームのふかふかな羽毛布団に谷川を座らせると、話せるとこだけでいいから、と事情を聞いた。
病院で説明されてはいたが、本人の口から聞きたかった。一番大切な人の言葉を信じたい。
見せてくれと頼んで、上の服だけ脱いで貰らった。病院で渡された抗生物質入の塗り薬の袋に胸部と書いてあり、どうしても気になって、知らないふりはできなかった。
普段のさっぱりした口調の谷川とは別人で、視線も合わさらない。
病室では彼のほうがしっかりしていたけれど、個人部屋とはいえ病院という場所柄、気丈にふるまっていたのかもしれない。
絨毯の床に座った雅貴は、目の前の恋人の手を握っていた。
「出所予定日の2日前の風呂に入ってる時、急に母乳が出たんだ・・・俺・・・焦ったけど・・・どうしようもねぇし、とりあえず周りにバレないように風呂から出て、でも、見られてたみたいで、次の日、若い奴ら4人に絡まれて・・・」
『お前、子作り中の人妻か?こんなところじゃ欲求不満だろ?』
欲求不満はどっちだと怒鳴りつけてやればよかった。でも、あの時の谷川は騒ぎを起こしなくないという気持ちから、とっさの反応が遅れてしまった。
妊活中のホルモン剤の副作用で、男性から母乳がでるようになるというのは有名な話だ。
有名だが、それが症状として現れる人数は極わずかで、むしろ、ほとんどの男性には現れない。
希少価値ゆえなのか、男性の母乳が性癖の変態共が出現し始め、母乳を出すためにホルモン剤を投与するという問題が発生している。
「夏樹、母乳でてたのか?知らなかった・・・」
「初めて出たんだ、それまでは出てない・・・母乳だせって、すっげえひつこくって・・・だせって言われても、自分で出せるもんでもねぇし・・・服脱がされて胸触られて・・・俺・・・必死で抵抗して何発か相手殴って・・・そん時、怪我させたみたいで・・・」
相手が怪我したからなんだ?強姦魔に手加減する必要性を微塵も感じない。
谷川の上半身は内出血の跡がひどく、殴られたのか蹴られたのか腹部は広範囲が紫色に変色している。
肩や腕には、力任せに掴まれた指の跡が残っていた。中でも胸部は一際痛々しく、指の跡の内出血や引っ掻いたようなキズ、ガーゼで保護されていた先端は、噛みつかれた歯型から血が滲んで、乾いて固まっていた。
あまりの悲惨さに、相手への怒りが一気にこみ上がり、目の前が赤く見えた。
何も知らず、無力だった自分にもだ。
二日間まともに風呂に入れていないから、シャワーが浴びたいと谷川が言い、仕事の電話を終わらせてから自分も後から行くと言うと、迷ったような表情をされたが心配だからと押し通した。
本当に心配だった。傷が酷かったし、精神面も・・・きっと、真実をすべて話すなんてことはできない。
彼から聞いた話以外で、もっと酷い事があったのではないかと思う。
夏樹・・・お前が負い目を感じる必要なんてどこにもない。
できるなら、自分一人でやり遂げてしまいたかったが、あまり谷川の傍を離れたくない。
もしかしたら、谷川は一人になりたいと思っているかもしれないけれど、可能な限り目を離したくなかった。
信用できる部下に詳細を探らせ、内容はきつく口止めした。
どんな内容を報告されても受け止める心の準備をして、電話をかけた。
「谷川さん、被害届ださない約束してるみたいっすよ。」
「はぁ?なんで?」
「なんか、出さない代わりに予定通りに出所できるって約束だったみたいです。」
「なんで、あいつの刑期が伸びるんだよ!!被害者だぞ!!」
「そうなんすけど・・・過剰防衛だってなったみたいで・・・」
「あぁっっ!?4対1でか?襲われて抵抗すんのに過剰なんかねぇだろっっ!!」
「これ・・・4人の中の1人、政治家の息子なんすよね・・・それじゃないっすか?」
「・・・4人は、いつシャバに出てくる?交通刑務所だ、長くはねぇだろ。」
「夏樹?」
電話を終わらせてバスルームに向かうと、あまりにも静かで不安になった。
内出血がよくなるまで、入浴は控えるように言われているようだから、シャワーだけのはずなのに・・・。
服を脱いで、浴室のドアを開けると谷川がバスチェアに座ったまま、じっとしている。
背中にも内出血の痣があり、胸が苦しくなった。
「夏樹?大丈夫か?」
「雅貴・・・あぁ、なんでもねぇよ・・・ちょっとぼぉとしてた・・・。」
「俺に、体、洗わせてくれよ。」
綺麗サッパリ洗い流してやりたい。ホテルに来てからずっと視線が合わない。
「雅貴・・・イヤじゃねぇの?本当は、もう・・・」
「え?」
「こんな・・・他の男の跡が残った体・・・」
「夏樹・・・そんなわけないだろ、何言って、」
「・・・4人の男に触られまくった跡が、そこらじゅうについてんだぞ・・・汚ねぇだろ・・・」
病院では泣いている俺を慰めてくれたのに、今は彼が泣いている。
声が震えて、言葉が途切れ、弱々しい後ろ姿に自分もまた泣きそうになった。
「夏樹・・・俺、お前がちゃんと帰ってきてくれて嬉しい。お前がいなくなるのが一番怖い。なぁ、こっち向いてくれよ。目、合わせてくれよ。」
座ったままの谷川に後ろから腕を回して、そっと抱きしめた。傷に触らないよう優しい力で。
ポタポタと涙が腕に落ちてくる。
「うっ・・・えぅっ・・・」
小さく漏れる嗚咽を飲み込むように、後ろから少し強引にキスをした。
涙を流す目元にもキスをして、零れ落ちようとする雫を舌で舐め取った。
「夏樹、愛してる。」
お前を傷つけた奴らは絶対に許さねぇよ。
お前の肌に触れた指を切り落とすか?噛み付いた歯は一本残らず折ってやろうか?
汚い言葉を吐いた喉を切り裂いて、 舌は引っこ抜いてやろうか?
ベッドルームのふかふかな羽毛布団に谷川を座らせると、話せるとこだけでいいから、と事情を聞いた。
病院で説明されてはいたが、本人の口から聞きたかった。一番大切な人の言葉を信じたい。
見せてくれと頼んで、上の服だけ脱いで貰らった。病院で渡された抗生物質入の塗り薬の袋に胸部と書いてあり、どうしても気になって、知らないふりはできなかった。
普段のさっぱりした口調の谷川とは別人で、視線も合わさらない。
病室では彼のほうがしっかりしていたけれど、個人部屋とはいえ病院という場所柄、気丈にふるまっていたのかもしれない。
絨毯の床に座った雅貴は、目の前の恋人の手を握っていた。
「出所予定日の2日前の風呂に入ってる時、急に母乳が出たんだ・・・俺・・・焦ったけど・・・どうしようもねぇし、とりあえず周りにバレないように風呂から出て、でも、見られてたみたいで、次の日、若い奴ら4人に絡まれて・・・」
『お前、子作り中の人妻か?こんなところじゃ欲求不満だろ?』
欲求不満はどっちだと怒鳴りつけてやればよかった。でも、あの時の谷川は騒ぎを起こしなくないという気持ちから、とっさの反応が遅れてしまった。
妊活中のホルモン剤の副作用で、男性から母乳がでるようになるというのは有名な話だ。
有名だが、それが症状として現れる人数は極わずかで、むしろ、ほとんどの男性には現れない。
希少価値ゆえなのか、男性の母乳が性癖の変態共が出現し始め、母乳を出すためにホルモン剤を投与するという問題が発生している。
「夏樹、母乳でてたのか?知らなかった・・・」
「初めて出たんだ、それまでは出てない・・・母乳だせって、すっげえひつこくって・・・だせって言われても、自分で出せるもんでもねぇし・・・服脱がされて胸触られて・・・俺・・・必死で抵抗して何発か相手殴って・・・そん時、怪我させたみたいで・・・」
相手が怪我したからなんだ?強姦魔に手加減する必要性を微塵も感じない。
谷川の上半身は内出血の跡がひどく、殴られたのか蹴られたのか腹部は広範囲が紫色に変色している。
肩や腕には、力任せに掴まれた指の跡が残っていた。中でも胸部は一際痛々しく、指の跡の内出血や引っ掻いたようなキズ、ガーゼで保護されていた先端は、噛みつかれた歯型から血が滲んで、乾いて固まっていた。
あまりの悲惨さに、相手への怒りが一気にこみ上がり、目の前が赤く見えた。
何も知らず、無力だった自分にもだ。
二日間まともに風呂に入れていないから、シャワーが浴びたいと谷川が言い、仕事の電話を終わらせてから自分も後から行くと言うと、迷ったような表情をされたが心配だからと押し通した。
本当に心配だった。傷が酷かったし、精神面も・・・きっと、真実をすべて話すなんてことはできない。
彼から聞いた話以外で、もっと酷い事があったのではないかと思う。
夏樹・・・お前が負い目を感じる必要なんてどこにもない。
できるなら、自分一人でやり遂げてしまいたかったが、あまり谷川の傍を離れたくない。
もしかしたら、谷川は一人になりたいと思っているかもしれないけれど、可能な限り目を離したくなかった。
信用できる部下に詳細を探らせ、内容はきつく口止めした。
どんな内容を報告されても受け止める心の準備をして、電話をかけた。
「谷川さん、被害届ださない約束してるみたいっすよ。」
「はぁ?なんで?」
「なんか、出さない代わりに予定通りに出所できるって約束だったみたいです。」
「なんで、あいつの刑期が伸びるんだよ!!被害者だぞ!!」
「そうなんすけど・・・過剰防衛だってなったみたいで・・・」
「あぁっっ!?4対1でか?襲われて抵抗すんのに過剰なんかねぇだろっっ!!」
「これ・・・4人の中の1人、政治家の息子なんすよね・・・それじゃないっすか?」
「・・・4人は、いつシャバに出てくる?交通刑務所だ、長くはねぇだろ。」
「夏樹?」
電話を終わらせてバスルームに向かうと、あまりにも静かで不安になった。
内出血がよくなるまで、入浴は控えるように言われているようだから、シャワーだけのはずなのに・・・。
服を脱いで、浴室のドアを開けると谷川がバスチェアに座ったまま、じっとしている。
背中にも内出血の痣があり、胸が苦しくなった。
「夏樹?大丈夫か?」
「雅貴・・・あぁ、なんでもねぇよ・・・ちょっとぼぉとしてた・・・。」
「俺に、体、洗わせてくれよ。」
綺麗サッパリ洗い流してやりたい。ホテルに来てからずっと視線が合わない。
「雅貴・・・イヤじゃねぇの?本当は、もう・・・」
「え?」
「こんな・・・他の男の跡が残った体・・・」
「夏樹・・・そんなわけないだろ、何言って、」
「・・・4人の男に触られまくった跡が、そこらじゅうについてんだぞ・・・汚ねぇだろ・・・」
病院では泣いている俺を慰めてくれたのに、今は彼が泣いている。
声が震えて、言葉が途切れ、弱々しい後ろ姿に自分もまた泣きそうになった。
「夏樹・・・俺、お前がちゃんと帰ってきてくれて嬉しい。お前がいなくなるのが一番怖い。なぁ、こっち向いてくれよ。目、合わせてくれよ。」
座ったままの谷川に後ろから腕を回して、そっと抱きしめた。傷に触らないよう優しい力で。
ポタポタと涙が腕に落ちてくる。
「うっ・・・えぅっ・・・」
小さく漏れる嗚咽を飲み込むように、後ろから少し強引にキスをした。
涙を流す目元にもキスをして、零れ落ちようとする雫を舌で舐め取った。
「夏樹、愛してる。」
お前を傷つけた奴らは絶対に許さねぇよ。
お前の肌に触れた指を切り落とすか?噛み付いた歯は一本残らず折ってやろうか?
汚い言葉を吐いた喉を切り裂いて、 舌は引っこ抜いてやろうか?
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