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祝宴②

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 「和輝、無理しなくていい。ノンアルコールビールかウーロン茶を用意させるから、もう飲むな。」

 「いや、でも・・・せっかく・・・」

 「一京の言うとおりだ。無理するもんじゃねぇ、好きに楽しんでくれ。」

 一京が和輝の手からビールのグラスを取り上げようと手をのばす。主役の自分がソフトドリンクなんて飲んでたら場がしらけると、かたくなにビールを飲んでいた和輝だが、雅貴からもうながされ、渋々とグラスを一京に渡した。

 「和輝さん、こっちどうぞ。」

 「あぁ、山本、サンキュー!」

 すかさず、山本が新しいグラスとウーロン茶を差し出す。山本は長い付き合いの後輩だ。今は席を離れている斎藤も。
 斎藤と一緒に入会して以来、ずっと一京の下に付いている。
 
 山本と斎藤は当たり前のように、和輝の周りのこともしてくれるので、初めは落ち着かなかった。
 天神会に入会した時、和輝は既に一京と付き合っていたので、会長の息子の恋人という立場を利用していると思われないよう、極力、一京とセットにされるのは断った。

 けれど、別行動をとる方が周りに迷惑をかけてしまうのだ。山本か斎藤のどちらかが、和輝に付いて回り一京に事細かく報告を入れたり、移動の度に写真を撮って送ったりと手間が大きい。
 そして、一京にやめるよう頼んでもやめてくれない。当然のことだと主張された。
 一京も仕事にならないだろうと思い、そう訴えるとだったら一緒にいろと言われた。

 それを数回繰り返し、結局、ほとんどの仕事を一緒にされている。多分、周りもその方が都合が良いのだと和輝は思っている。
 一京がワガママばっかり言うから。

 「和輝さん、俺も斎藤も和輝さんが戻ってきてくれて、本当に嬉しいっす!!」

 この言葉は心からの言葉だ。入会してから、ずっと一京の下に付き、この世界のいろはを学んだ。
 自分達が付いてきた兄貴分が、名を上げていくのは誇らしかった。
 随分と、血が流れはしたが。

 普通に良い人なんだよな、和輝さんって・・・。気がつけば自分も斎藤もこの人を、守ることが当たり前になっていた。

 「一京、ムチャばっか言ってたんじゃねぇの?」
 
 「多少、気ままに振る舞ってくれたほうが、大物感が出ていいですよ。」

 もちろん組の中には、まだまだ会長世代の組員も残っている。
 一京が裏切り者3人を処分した際、とばっちりを避けるように自ら身を引いた者達もいたため、若いものを補充し短期間で随分、若返りが進んだ。

 和輝も、簡単に報告は受けていたが余計な責任を感じないよう配慮され、大分オブラートに包まれてた内容になっていた。 

 「甘やかされてんな、一京は。」

 自分を抱き寄せたまま、隙間なくくっついている恋人をからかうように和輝が笑った。
 
 真実を知らずに笑う上司の恋人。いや、若頭補佐になるなら和輝だって自分達の上司だ。
 彼の前任者は、杉山という男で会長と古い付き合いのあるヤクザらしいヤクザだった。

 一京が生まれる前から天神会にいて、和輝のことも二人が恋人関係になる、ただの友人だった頃から知っていた。なのに、杉山はあの襲撃事件で会長だけではなく二人が巻き込まれて死んでも構わないと思っていたのだ。構わないというより、できれば跡取りである一京も恋人である和輝も一緒に死んでもくれた方が都合が良かった。

 一京が、それを一番許せなかったことを山本達は分かっていた。和輝はきちんと上下関係をわきまえていたし、一京の恋人だからと他の人間に大きな態度をとることもなかった。
 
 なのに、杉山は和輝のことが一京の恋人であるというだけで殺したかったのだ。一京の恋人なら、いつか自分を抜いて上につくだろうと思うと我慢できないと言って・・・。
 そんな事実、和輝の耳に入れるわけにはいかない。

 墓場まで持っていけ、それが一京との固い約束だ。



 「元気そうじゃねぇか。心配して損したぜ。」

 「谷川さん!!」

 瓶ビールを片手に、谷川というベテラン組員が二人の席まで来て会長の隣に座る。
 座敷なので、席はあってないようなものなので、大分、部屋の中も好き勝手に乱れていた。

 谷川は会長の付き人兼秘書で、面倒見の良いさっぱりとした男だ。
 二人はプライベートでもパートナーであるが、谷川はあまりそういった面を人前で見せることはない。

 彼も、若い頃は傷害やら器物損壊で服役したことがあった。
 年を重ねた今は、そういったことから身を引き、組の収入源になる多様な種の店の経営に関わっている。

 会長からの信頼もあつく、あの事件の現場にもいたので、今日も当然、一緒に和輝の出所を祝っていた。

 「あざっすっ!!」

 彼に懐いていた和輝が嬉しそうに礼を言う。
 谷川は、和輝が手に持っているのがウーロン茶だと分かると、何も言わず瓶ビールを下ろした。
 谷川は、そういった気遣いが自然にできる男で、彼を慕う若い連中は多い。

 「予定通り戻ってきてくれてよかったぜ、一京が寂しがって仕事ばっかしてたからよ。」

 谷川も、当然、一京のしていたことは知っている。止めても無駄なことは分かっていたので、和輝を悲しませることになるようなことにだけはなるな、とだけ言った。

 「和輝が戻ってきたなら、もうそんなこともねぇだろ。少しゆっくりしろよ。かまわねぇだろ、雅貴?」

 「あぁ、こいつ和輝の面会に行くぐらいしか、休みらしい休みをとってないからな。せっかくだ、ちゃんと休め。」

 「一京、お前・・・そんな無理してたのか?」

 和輝は初めてしる事実に、体をくっつけたままの至近距離で、一京を見つめる。

 一京は余計なことを・・・という思いもあったが周りに迷惑や心配をかけている自覚もあったので、否定はしなかった。

 「和輝が戻ってきた時に、いいとこ見せたかったんだ。」

 「俺は、そんな・・・お前が無理してまで・・・」

 「やめろ!!それ以上、ここでイチャつくな!!どうせ、今晩、上等なホテルとってんだろ!!」

 くっついているだけならまだしも、本格的なラブシーンは気まずい。
 そういったことが不得意な谷川は慌ててとめる。

 そんな谷川を山本が

 「谷川さん、一京さんのサプライズ台無しっすよ!!」

と、笑った。

 一京は、谷川の言った通り今夜は和輝と二人でホテルに泊まるつもりだった。
 サプライズとまではいかないが、少し驚かそうとして和輝には言っていなかった。
 予約を取ったのは斎藤だったので、山本達は知っていたが谷川には話していなかった。
 なぜ・・・と思ったが、そういえばこの人が昔、出所した時・・・と昔を思い出した。

「ちょうどいいじゃねぇか、ここらで一度ちゃんと休め。」

 雅貴が、場をまとめるように柔らかな声でいう。息子の平穏を心から願っていた。
 
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