俺、前科持ちのヤクザだけど世界で一番お姫様かもしれない。

豆腐屋

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祝宴

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 「「「ご苦労様でしたっ!!!」」」

 由緒ある料亭の広間に、男達の声が響く。今日は貸し切りだ。周りの目を気にすることもない。
 広い座敷の間に膳が並べられ、スーツ姿の男達がずらりと並んで座っている。
 
 美容院もそうだが、自分達のようなものが一般の店を使うとき、少々高くついてでも貸し切ることは周りへの配慮だと一京は思っている。

 昔と違い、ヤクザと呼ばれる男達も大分変わり、服装や髪型といった見た目だけでは分からないものを増えた。
 シノギと呼ばれる収入源も、割とホワイトなものが多い。で、なければ現代ではやっていけなくなった。

 「和輝さん、ご苦労様でした!!」

 「お疲れ様でした!!」

 刑務所まで迎えに来てくれていた後輩や、今、初めて再会する仲間や先輩方、知らない顔もちらほらいる。さすがに組員全員参加とはいかないため、主役である和輝と関係の深いものをメインに人選していた。

 「ありがとな、俺のために、わざわざ・・・」

 「何言ってんすか、もうっ!!俺ら、楽しみにしてたんすから、当たり前っすよ!!」

 瓶ビールを持って、後輩の斎藤と山本が和輝の席まで来てくれる。
 広い座敷の上座に二つ並んで一京と和輝の席はあり、

 「「「これ、もう結婚式じゃん・・・」」」

と、仲間達に思われながら宴会を進めていた。



 「一京から聞いただろう?これからお前には、若頭補佐としてしっかりやって欲しい。」

 「はい・・・俺で務まるか分かりませんが、やれるだけやらせてもらいます。」

 「お前しかいねぇさ。今じゃ、こいつは俺の言うこともろくにきかねぇ。和輝、お前がついててやってくれ。」

 入れ代わり立ち代わり、後輩やら先輩やらがビールを注ぎ労いの言葉をかけ、一先ず波がひくと会長である一京の父、藤丸 雅貴(フジマル マサタカ)が二人の前に腰をおろした。

 事務所に寄って、会長を乗せこの会場までの道すがらの車中で会長からは、ご苦労だったと言葉をもらった。
 会長と顔を合わせるのは久しぶりというほどではなかった。毎月ではなかったが、時折、一京と共に面会に来てくれていて、出所する一ヶ月ほど前にも顔を合わせていた。

 「和輝からは、ちゃんと返事をもらった。もうムチャはさせねぇし、二度とムショなんかにやらない。」

 隣から腕を伸ばした一京が和輝の肩を抱き、自分の方へ抱き寄せた。
 手に持ったグラスのビールが波打って、和輝は慌ててバランスをとる。

 「あぶねぇよ、一京。」

 先程から、一口でも飲めば足されを繰り返して、グラスの中のビールはまったく減らない。

 「他のもん、もらうか?」

 継ぎ足され続けているにしても、あまり減らない和輝のグラスを見て一京は問う。

 「あー、わりぃ、久しぶりだから、あんま飲める気しなくて・・・」

 「だったらソフトドリンクにするか?」

 「いや、しらけんだろ、さすがに・・・」

 二人のやりとりを見ながら、雅貴は和輝が戻って来たことを心から祝った。
 
 和輝の服役が決まった時の息子は、誰の慰めの言葉も届かない程、絶望していた。
 けれど、刑期を終えれば自分の元へ戻ってくるという希望が息子を生かしていた。

 「和輝、お前には、本当に感謝している。俺は死んでてもおかしくなかった。あれからは、平和なもんだ。」

 平和になった。あの時、敵対していた鰆目組は潰れて、同業者達の間では名前をだすこともタブーのようになっている。

 特に、この天神会の組員の前では絶対に。


 「瀬戸さんって、何かイメージと違うっすね・・・俺、もっと傾国の美女みたいな人かと思ってました。」

 「俺も!!普通に男らしいっすね。」

 斎藤と山本は、追加の瓶ビールを廊下で後輩から受け取った。本来なら部屋まで運んでくれるが、店側になるべく面倒をかけないよう、追加のドリンクや料理は部屋の前に待機している若い者に仲介させている。

 酔って店の人間にちょっかいを出す者があらわれると厄介なのだ。
 
 部屋の前の廊下で護衛を受け持っている若い弟分達は、和輝が服役後に入ってきたので、顔を知らなかった。
 噂に聞く和輝は、それはもう一京に愛されていて彼が傍から離れたしまったが故に、一京が闇落ちしたと言われていた。

 一体、どれほどの恋人だったのかとイメージばかりが膨らんだ。

 良かった!!普通に健康そうな人だ!!普通のヤクザだ!!

 今日の祝宴で、やっと噂の恋人を見れると思ったが和輝の普通っぷりに安心した。
 
 あの死神みたいな人の恋人には見えない!!

 彼らが組に入って初めてしたヤクザらしい仕事は、一京が殺した男の遺体を山に埋めることだった。
 
 拷問の末に死んだ男達の遺体は見るに耐えず、一京の直属の部下である斎藤と山本でさえ顔をしかめ、新入り達には荷が重いと自分達も処理を手伝った。ある程度いたぶられて内臓のために外国の組織に売られた男達の末路は知らないが、生きているわけはないと嫌でも分かる。 

 元幹部の中には地面に頭をすり付け土下座し謝りながら命乞いする者、諦めて死を受け入れている者 どっちにしろ一京は三人の言葉に一切耳をかさず、拷問し続けかろうじて生きている状態で体ごと内蔵を売ったのが最後の仕上げだったと記憶している。
 一京は、あの日が恋人と付き合って10年目の記念日だと言っていた。
 すべては、彼の恋人のためだったのだ。本来なら、きっと特別で幸せな一日を過ごすはずだったのだろうと想像がついた。

 はっきりとした事情も知らず、言われるがままに仕事をこなし、何人かの同期は気がおかしくなって組を抜けた。後から思えば、殺人現場を目にしておいて簡単に抜けさせてもらえるわけはないので、もう今生で会うことはないだろう。
 
 いくらヤクザとはいえ、こんなに人を殺すのかと思うほどの死体を短期間で目にし、一京の人が人にほどこすとは思えないほど残酷な拷問は、あれがヤクザなら自分達はヤクザにはなれないと思うほどだった。

 なのに、その原因ともなった恋人は5年経てば戻ってくるだと?もう二度とシャバに戻って来れないとかじゃなく?

 新人達は驚愕した。5年は確かに長いが待てない期間ではないだろうと・・・。
 しかし、それを口すれば自分達の命もないことも理解していた。

 彼らが初めてみた一京は、ただ美しかった。切れ長の黒い瞳が、憂いを帯び危うい色気を放っていた。

 長身のスラリとしたスタイルで細身の黒いスーツを着こなし、まるでモデルように見えた。
 彼自身の黒髪が血色が悪くなった青白い肌を余計に際立せ、整った顔は人形のようだった。その美しいビジュアルと人とは思えないほどの残酷さは彼を裏社会に置ける圧倒的なカリスマにまで押し上げた。

 
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