俺、前科持ちのヤクザだけど世界で一番お姫様かもしれない。

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ホテルの朝

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 翌日、和輝は思ったよりも早く目が覚めてしまった。
 一京にしっかりと抱き込まれていたが、自分より体温の低い一京の肌が少し冷たく感じて、掛け布団を肩まであげた。
 二人とも下着姿で寝てしまったから、体が冷えてしまったのかもしれない。

 風呂から出て後、二人で寝ても余裕なベッドにはふわふわの布団が用意され、二人で倒れ込んだ。
 ベッドに転がってぎゅうぎゅう抱きしめあって、キスしたり、一京と次の日の予定なんかの話していたはずだが気がついたら眠っていた。

 ふと一京の顔を覗き込むと、しっかり目が開いていてビックリする。

 「おはよ、一京。起こしちまったよな?ごめん。」

 「おはよう、和輝。いや、むしろ起こしてほしいくらいだ、お前がいるのに一人で寝てたくない。」

 「いくらなんでも、まだ早いだろ?」

 ベッドの時計は朝の6時半をさしている。塀の中にいた頃と変わらない時間に起きてしまった。
 一京が和輝と同じようにベッドの上で、上半身を起こす。
 
 「一京、寒くねぇ?さっき、肩が冷たくなってた・・・」

 「和輝が、温かいからいい。」

 そう言うと一京は、再び和輝を抱きしめてベッドに倒れ込む。

 「うおっっ!!」

 「和輝、今日は何がしたい?」

 「仕事は?平日だろ、今日。」

 まるで、休みのように話をふってくる一京を怪訝に思う。

 「昨日、親父達が言ってだろ?ちょっと休めって。」

 「一京は、だろ。俺はちげぇよ。」

 5年も留守にしておいて、戻ってきていきなり恋人と二人の休暇が許されるわけがない。
 ずっと働きっぱなしだったという一京には休みが必要だが、自分はすぐに復帰しなければ周りに迷惑をかけるだけだ。

 「親父だって谷川さんだって、俺が一人で休むなんて思っちゃいねぇよ。」
  
 「いや、でも、俺は・・・」
  
 「和輝がいないと、休めない。そんなに気になるなら親父には電話を入れる。」

 そういって、一京はサイドボードのスマートフォンに手を伸ばす。

 さすがに早すぎないか?と思ったが、一京はあっという間に電話をかけてしまい、あっさり繋がったことにより俺も普通に休みで良かったことが判明した。

 簡単に休めるのも何か寂しい・・・

 そう言うと

 「谷川さんも出所後は親父と一緒に休暇とってたからな。」

 谷川さんが、というより親父がさせてたんだけど・・・。

 「マジで?谷川さんも?」

 「あぁ、しかもあの人は、一回じゃねぇから。」

 谷川は若い頃は血の気が多く喧嘩になるとやりすぎてしまうことも多かった。人だけでなく、暴れ方が豪快で、めちゃくちゃ物も壊す。
 示談や罰金で済んだこともあれば、服役したこともある。
昔を知る同業者は、随分落ち着いたと口を揃えて言う。

 和輝は、落ち着いてからの谷川しか知らないので、あの理想の兄貴分である谷川もそうしていたなら、間違っていないのだと思ってきた。

 「じゃあ、こういう休みって普通ってこと?」

 「あぁ、当然の権利だ。だから、和輝は心配しなくていい。」

 「そっか!!じゃあ、俺、ホテルの朝飯食いたい。」

 「分かった。」

 一京が朝食の電話をしている間に、和輝はシャワーを浴びにいく。
 昨日の夜、シャンプーしなかったので、アメニティのシャンプーを使ってみたかったのだ。
 
 昨日、一京の髪を洗っている時すごく良い匂いがしたし、今朝の一京も良い匂いがした。
 いつもの美容院のものも気に入っているけれど、ちょっと浮気心が疼いてしまった。

 バスルームに移動すると、一京が追いかけてきた。

 「シャワーか?」

 そう聞かれたので、理由を話すと

 「俺がする!!俺が和輝の髪をシャンプーするから、俺ももう一回、和輝にシャンプーしてほしい!」

 と、言い出して二人で一緒にシャワーを浴びることになった。

 「前から使っているやつより気に入ったなら変えるか?」

 「あのシャンプー、一京と一緒に住み始めた時から、ずっと使ってるから変えたくない。家で使うのは、今のがいい。」

 和輝と一京は天神会に入会とほぼ同時に同棲を始めたが、当時の和輝には、ほとんど収入がなく同棲をしたら、経済的に一京に頼りきった生活になることが分かっていたため、最初は、もう少し待ってほしいと断った。
 
 けれど、待てないと言い張る一京が何かと手を回し、会長の雅貴が組が所有してあるマンションを一部屋用意するから、社宅だと思って二人で住めと言ってきて、二人の同棲はスタートした。

 「思い出深いっていうか・・・気に入ってるし・・・」

 一京にシャンプーしてもらいながら、和輝は懐かしい当時を思い出した。
 予想通り経済的に一京に頼りきった生活になったが、同棲を誘ってきた一京は生活能力がまったくなく、そっちは和輝が担当している。

 「和輝・・・可愛い♡♡♡」

 思い出を大切にしてくれてる!!と感動した一京は、まだシャンプーの泡だらけの和輝を抱きしめた。
 
 和輝、可愛い♡そんな風に思ってくれてたなんて嬉しい!!

 泡のせいで目を開けられない和輝は、

 「一京っ!!先にシャンプー流してくれよ!!」

 と、腕の中でもがいた。

 二人でじゃれ合いながらシャワーを浴びていると、そろそろ出ようと和輝が一京を急かす。

 一京としては、裸でイチャつくのはすごく幸せを感じるので、まだまだ堪能したい。
 抱きしめたまま離さず、少ししぶった態度を見せると

 「・・・朝飯食いたい・・・」

 と、腕の中の和輝にすまなそうな顔で上目遣いにおねだりされ、シャワーを切り上げた。


 「すげぇ美味そうっ!!」

 綺麗にセットされた朝食を見て和輝が嬉しそうにはしゃぐ。
 
 可愛い・・・食べ物で喜ぶ和輝、可愛い・・・このホテルにして良かった♡

 キラキラ輝く薄茶の瞳を見て、一京も嬉しくなる。
 服役中の話を聞いた時は、どうしたら和輝の心の傷を癒せるか、そればかり考えてしまったが、少しでも元気になってくれたら、浮かれ気分で予約したこのホテルも役に立ったというものだ。

 昨晩、和輝が寝た後、山本と斎藤に和輝と同室だった人間と関わっていただろう人間を調べるように言っておいた。
 起きてしまったことは消せないが、和輝を傷付けた奴らをどうにかしないと、気が収まらない。
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