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豆腐屋

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㊲羨望

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 純也は、国生が羨ましくなった。国生と倉本に比べれば自分と啓介は、まだまだ月日が浅い。
 それに、国生が倉本に尽くし捧げてきたほどのものを、自分は啓介に与えられていない。

 恋人を思う、思いの強さで負けているわけはない。世界中のどんな恋人同士より、自分の啓介に対する愛は大きく重い自信がある。

 純也は、分かっていた。

 目の前の男の力を借りれば、ずっと願っていたことが実現できる。 
 
 タイムリミットは冬だ。この山の上の冬は、あっという間に来てしまう。

 「あっ♡辰巳さん、もうすぐ帰ってくるっぽい♡♡寄り道した割に、早かったな。」

 倉本から連絡の入ったスマホを見た国生の声が浮かれている。
 何年同棲していようが離れている時間は、やはり寂しいもの、一分でも早く腕の中に戻ってきてほしい。

 「・・・国生さん、次は俺から頼み事していいですか?明日の予約客のことなんですけど・・・。」

 純也は、握っていた包丁を置いて真剣な声で持ち掛けた。

 早いほうが良い。

 「いいぜ。関係はwin-winであるべきだ。言えよ。」 



 友緖の付き添いから戻ってきた倉本は、晴れ晴れとした顔をしていた。それは、あくまでも国生から見たもので、彼以外には普段と何が違うのか分からないだろう。

 「辰巳さん・・・おかえり。顔色が良くて安心した。んっ♡」

 国生は倉本の頬に触れると、薄い唇を奪った。厚みのない痩せた体を抱きしめると、自分の体にも腕が回る。
 国生が、思いっきり力をこめれば背骨ごと折れてしまいそうなほど、筋肉も脂肪も存在しない。

 「大聖、全部、お前のおかげだ。ありがとう、ずっと・・・。」

 「二人で・・・だよ、辰巳さん。俺、少しでも辰巳さんを幸せにできるのが幸せ。もっと幸せにしたい。もっと俺を幸せにして?」

 「大聖、俺はこれ以上・・・何も・・・。」

 倉本は少し高い位置にある国生の顔を見上げた。バランス良く整った男らしい顔だ。薄い顔立ちの自分と違い、一つ一つのパーツがはっきりしている。

 素直に外見を褒めると『面食いだもんね、辰巳さん。』とからかわれた。

 自分では、まったくそんなつもりはないが・・・仮に美しいものを好んだとしても大部分の人間が同じはずだ。

 「風見、どうだった?」

 「あの骨が妹の骨だって鑑定されても、それ以外が、まだ山に残ったままなら自分もここに残るって・・・。」

 「そっか・・・良かったね、辰巳さん♡」

 残りの骨が見つかることはねぇんだけど。

 あれは、土砂崩れから運良く発見されたんじゃない。別の場所で保存していたものを、そういう設定にしてもらっただけだ。
 必要ない部分は、とっくに処分している。倉本のために、友緖には妹のことには一区切りつけてもらう必要があった。

 妹は死んだ。けれど、体がに残っている。 そう結論が出たことで彼女は上手く、この山に囚われてくれた。

 国生は歳を重ねるうちに素直に父親を認めることができるようになった。 
 莫大な富を築き、何十年とそれを維持するには普通の人間ではありえない。

 自身の父の先を読む感の良さや判断の確かさ、なにより迷った時に相談すれば、確実な答えを教えてくれる。
 持つべきは息子に甘い、金と権力と知識を持った父親だ。いずれは跡を継がなければならないが、繋ぎに弟を据えとけば暫くは持つだろう。

 20歳の時の例の事件で、国生の霊感が強くなってしまったことを一番喜んだのは国生の父だった。惜しみない金の力で周りを黙らせ将来を守ってくれた。
 倉本の側にいて、彼に尽くすことにも協力してくれる。
 
 気が済んだら、帰ってこいという約束で。選ばれた人間だけが持つ鋭い第六感は人生を成功へ導いてくれる、というのが父の口癖だ。
 己がそうだったように。

 しかし、自分はまだ、この恋人との幸せな生活を手放す気はない。

 国生は父親の元へ戻るときが来たら、当然、倉本も連れて行く気でいる。自分の店でも持って、お気入り達を従業員として置いとくなりしてくれればいい。

 「辰巳さん、今日、佐柳から聞いたんだけど、明日、篠原の予約が入ってんだろ?」

 「あぁ、断りきれなかったらしいな。」

 「篠原が来るなら、あの東雲ってやつも来るんじゃねぇの?」

 「それは・・・分からねぇが・・・。」

 倉本の顔が、陰る。国生は、倉本の中に不安の一欠片さえ残したくなかった。

 やはり、あの東雲という男は放っておくわけにはいかない。

 東雲が、ここに出入りする限り倉本には不安が付き纏う。

 「でも、心配だから風見休ませてんでしょ?」

 「友緖は、妹のことで仕事どころじゃ・・・。」 

 「俺に、まかせて・・・辰巳さん♡」

 国生は、返事を聞かないうちに倉本の唇を奪った。



 「啓介さん♡おかえりなさい♡♡」

 先に帰っていた純也は、啓介が入ってくるなり思いっきり抱き締めた。

 「ただいま!っおい、純也、汚れるぞっ!!」

 雨は止んでいるが、まだ水は引いてはいない。啓介の作業着は、跳ねた泥で汚れていた。

 「じゃあ、俺も一緒にシャワー浴びようかな♡♡」

 「純也、大変だったんじゃないか?その・・・風見のことで・・・。」

 啓介は、まだ若い友緖が既に両親を亡くし、最後に残ったたった一人の家族である妹さえも失ってしまうことに、胸を痛めていた。
 
 そして、純也は啓介のそんな温かな優しさに胸を打たれた。

 「こんな時期だから、あんまり仕事に影響はないし、俺は風見さんと顔合わせてないから、よく知らないんですけど・・・啓介さんもやっぱり気になる?」

 「なるだろ!!骨が出てきたんだぞ!!・・・んっん♡」

 純也は、唐突に啓介の唇を塞いだ。

 そんな、思い詰めた顔をしないでほしい。友緖の妹のことは、もうどうにも出来ないことだ。

 どんなに啓介が胸を痛めようと、もう取り戻せない。

 「んっ、純也?」

 「啓介さんが・・・あんまり辛そうな顔をするから・・・風見さんのことは・・・俺も希望を持っていたかったけど・・・。」

 あのの正体に気付くまでは・・・。

 友緖の話を聞いてから、啓介があまりにも彼女の妹の生存を願ったからだ。

 「一番辛いのは風見だよな・・・。」

 明日は篠原が来る。

 純也は、正直なところ友緖の妹どころではなかった。
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