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㉔コース開き

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 啓介達の努力の甲斐ありゴルフコースは無事、日程通りにオープンを迎えた。

 初日に予約が集中するのをさけるため、オープン日は五月のゴールデンウィーク明けの平日に設定された。
 クラブの削り跡のないまっさらなフェアウェイやボールマーク一つないグリーンでプレイできる機会はそうそうない。
 啓介も確認のためだと言って、現場に向かう軽トラに自前のパターをつんでいる。


 レストランのお客さんからも、ゴルフコースの話題を出されることが増えたらしい。 
 ウエイトレス二人が、休憩時間に話していた。

 あんな衝撃的な秘密を抱えてた友緖も、普段の彼女は前のままで何かが変わった様子はなかった。
 ただ、休みの日に赤峰山に行ったり、白花岳の登山道や周辺の道路を回ったりはしていると話していた。
 
 それを聞いた倉本とみちるの心配して、すこし小言のようなことを言っていたが、止めろとは言えなかったようだった。
 純也と国生も、まったく心配しないわけでないが、彼らは常に自分の恋人が最優先なので、それ以外の人間を気にかけるだけでも特例といえた。 

 それなりに平和な日々が続いていた。

 そして最終的に限定メニューに冷麺は採用された。

 
 白花岳に来たばかりの頃の純也は、レストランから見えるゴルフコースに興味などなかった。

 啓介を好きなってから、外を眺めることが増えた。コースだけではなく、敷地内すべての地面から木々、花壇やベンチ、あらゆるものが啓介の努力で保たれた景色だと思うと誇らしく、そして愛おしい。
 


 ある日の空き時間、二階の窓から、とても肉眼で顔など確認できない程小さな作業着姿の従業員を見つけた友緖が

 「あれ、国生さんですね。」

 と倉本に話しかけ、その場にいた全員を絶句させた。

 「ほんと?料理長、あれ国生さんなんですか?」

  純也には、きらきらしていないから啓介じゃないということしか分からない。 

 「正解か間違いかも分かんねぇな・・・。」
 
 と言いながら倉本はスマホを取り出した。

 『なに?辰巳さん、珍しいじゃん。なんかあった?』

 スマホから国生の声が漏れてくる。

 「お前・・・今、レストランから見える・・・あぁ、そこの・・・窓から見てんだが・・・。」

 作業着姿の小さな人影は、窓際に立つ倉本達に向かって手を振った。

 「ほんとに、国生さんだったのっ!?」
 
 「友緖、お前、あいつの顔分かったのか?」

 ざわつく周りに、友緖は

 「すっごく目が良いんです、私。」

 と微笑んで答えた。

 「友緖さん、コンタクトレンズじゃないですかっ!!」 

 と、みちるがつっこんだが真相は闇に消えた。
 

 
 「風見って、そんな目がいいのか?」

 「でも、コンタクトレンズらしいんだよね・・・。」

 純也は、その日あったことを啓介に聞かせていた。二人でゆっくりお風呂のお湯に浸かり、なんでもない話をする。
 後ろにいる純也の胸板にもたれかかった啓介が、純也の手をとった。

 コースがオープンするまでは啓介が激務だったが、コースがオープンしてからは純也の方が忙しくなった。

 ラウンドからの泊まりの客が増え、日帰りでもディナーを予約する客も増えた。
 しかし、それも6月に入ると少しずつ落ち着いて、こうして二人の時間を楽しむ余裕が戻ってきた。 
 夏の避暑シーズンは、また忙しくなるだろうが啓介とイチャイチャする時間がなくなると仕事も頑張れない。

 大切な時間だ。似たようなことを国生も言っていた。
 
 忙しい時期も、良いことはあった。帰りが遅くなる純也にかわって啓介が夕食を用意してくれたり、自分もしてもらったからとマッサージしてくれたり、何かと甘やかしてくれた。

 ソファーで膝枕もしてもらった。体温の高い啓介の太ももでうとうとするのは最高だ。

 そして、明日は久しぶりに二人の休日が重なった。もちろん、甘い夜が待っている。

 啓介はお湯に浸かりながら、純也の手をムニムニと揉んでいる。 
 力加減が絶妙で気持ちいい。 

 そして、可愛い。どこか小動物のようで、構いたくなってしまう。 

 つい後ろから耳に噛み付いてしまった。

 「あっ、ん♡こら、まだ・・・。」

 「ふふっ♡真剣に俺の手、触ってる啓介さん可愛過ぎ♡♡」

 啓介は、まだマッサージを続けるつもりだったのに、純也に後ろから抱き込まれ口を塞がれた。
 
 「啓介さん、こっち向いて♡♡」

 「んっ♡ぁ♡ちゅ♡ぢゅっちゅ♡♡」
  
 二人の唇から漏れる音が、風呂場で響いてやけに大きく聞こえる。 

 マッサージしていた手は、いつの間にか恋人繋ぎでがっちり繋がれていた。

 「じゅんやっ、あっ♡あぁっ♡」

 キスをした唇が首筋に吸い付き、舌でなぞる。啓介は思わず体をよじるが、体に回された腕と繋がれた手が、それを許さかなかった。

 「啓介さんって可愛くて美味しい♡♡」

 「可愛いわけも、美味しいわけもないだろっっ!!」

 顔を赤くした啓介が純也の頭を押し返す。啓介本人から見えない位置に、赤い跡がつけられていた。

 「えー・・・本当なのに・・・。」

 自分の魅力を理解していないところも、啓介の魅力だ。分かっていないのが啓介なのだ。

 「でも・・・俺だけが分かってればいいかな♡♡」

 自分以外の誰かが、啓介の肌を味わうなんてあってはならない。体液なんてもっての外だ。
 純也は、再び啓介の柔らかくて甘い舌をからめとった。

 「んんっ♡んっ、じゅっやっ、風呂場はイヤだって・・・」

 「続きは、ゆっくりベッドでもらうね♡♡」
 
 



 純也が気付いた時には残っていた雪は、すっかり解けてなくなっていた。季節は初夏を迎え、啓介は梅雨入りのタイミングを気にしていた。
 
 雨は多くても少なくても悪い影響がでる。
 
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