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㉑倉本の幸せ
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友緖の妹が二年間行方不明、だから白花岳には妹を探しにきた、という衝撃的な話を聞いた面々は各自、仕事にもどったものの話が中途半端に終わったことでモヤモヤが残り、結局、業務終了後のレストランに再び集まった。
帰った東雲を除いた六人で。
ウエイトレスの二人が全員分のコーヒーを用意して、フロアの適当なテーブルを二つくっつけて六人で座った。
あいかわらず純也は啓介の隣、国生は倉本の隣、みちるは友緖の隣をぴったりとマークしている。
「私、ずっと後悔してました。テントじゃなくて山小屋だから大丈夫なんて言ってたけど女の子が一人、山に泊りがけで行くなんて危ないに決まってるのに・・・。行かせなきゃ かった・・・。美緒は、四つ下だけど、昔から私よりずっとしっかりしてたんです。知らない場所も知らない人も、ぜんぜん平気だし・・・。」
「山小屋って、隣の赤峰山のですよね?そこで一泊したんですか?」
赤峰山の山小屋は周りがキャンプ場になっていて、家族客も多い。
みちるは、アウトドアとは無縁のため利用したことはないが、事件の話等は聞いたことはなかった。
「うん・・・そのはずなんだけど・・・山小屋に着いたって連絡もあったし、山小屋の記録にも妹の名前は残ってたから・・・」
そうだと思っていた。けれど、今となってはどうなのか分からない。
あまり人付き合いを広げない友緖と違って、妹の美緒はフットワークが軽く友人の多いタイプだった。
その反面、一人で出掛けることも好きで普段から一人でアウトドアにもよく行っていた。
普段からそうだったので、心配しつつも送り出してしまったのだ。
「帰ってくる予定の日も、妹から『今から帰る』って、ちゃんと連絡があったんです。後から調べてもらったら下山届も提出済でした。でも帰ってきませんでした。」
「警察は?」
「行きました・・・。でも、捜査はしてくれなくて。行方不明届を出しただけって感じで・・・。下山届があるんだから、山で行方不明になったわけじゃないって言われたけど、私・・・美緒は・・・まだ山にいるんじゃないか、って・・・。」
「友緖・・・それは・・・。」
まだ山にいる・・・それは生きているという可能性を捨てていると言っているようなものだ。
「美緒は・・・もう生きていないと思います・・・。」
「分かんねぇだろ!!それはまだ・・・っ」
国生が、思わず口を挟む。山で命を落とすことはありえる話だ。しかし下山届を出していたのなら、やはり山はおりていたと考えるのが普通じゃないだろうか?
「うまく言えないんですけど・・・私の妹は、きっともうこの世にいない・・・そう感じるんです・・・。連れて帰らなきゃ、あの子を山に一人にはしておけないから・・・。」
「でも、この山にいるとは限らないだろ?」
「それも・・・うまく言えないんですけど・・・」
「でも、よくこっちに転職できたね?社員の求人はださないって聞いたけど、知り合いでもいたの?」
繁忙期に出すバイトの求人は別として、社員の求人は職安や求人情報系フリーペーパーの類には出していない。
純也は友緖と共に働いていて知っているが、友緖は怪異に対して敏感なタイプではない。かといって啓介のように、まったく気付かないわけでもない。
普通の人よりかは分かるというか、ものによっては気付いたり見えたりしているといった様子だった。
レストランで接客する分には問題ないし、実際に客人気も高い。
純也には怪異に対する能力云々より、そちらの方が特殊な能力に見えた。
いくらずば抜けて可愛い顔をしていると言っても、たかがウエイトレスにここまでするかというぐらい、友緖にはファンがついている。
特別なサービスをしているわけでもないのに、異常なほど彼女に好意を持ってしまう人間がいつのまにか何人もいた。
それを常日頃、間近で見ている純也達からしてみれば、東雲が友緖を探して追いかけてきたとしてもありえる話だった。
「小原で働いていた時、ここの会社の人に声をかけられたことがあったんです。白花岳のゴルフ場にこないかって・・・。その時は家を出るつもりも転職も考えてなかったから断ったんですけど、気が変わったらいつでも連絡してほしいって名刺もらってて・・・。一年以上経ってたから迷ったんですけど、ダメもとで連絡したら雇ってもらえました。」
妹がいなくなったことは友緖にとってはとんでもなく悲しい災難だ。たった一人で知らない土地に探しにくるほど、大切な存在だったのだ。
けれど、国生にとってはずっと待っていたものがやっとめぐってきた大きなチャンスだった。
倉本のための。
時間がないという東雲を、国生と倉本は外までおくった。
太陽の陽射しを受け、艷やかな光沢を放つ東雲のスーツを見ながら、国生は口を開いた。
ネイビーのピンストライプのスリーピーススーツ。市販のものではありえないほど、彼の体にぴったりだ。
深いエンジ色のネクタイも、安物の生地ではない。
「なぁ、お前・・・カタギじゃねぇよな?ヤクザだろ?それか片足つっこんでる半グレか?風見は知ってんのか?」
友緖は、再会した時、東雲が誰か分からなかった。それは、彼女と会っていた時は、このヤクザ然とした姿ではなかったからだろうと思う。
「・・・組に入ってる。友緖ちゃんは知らねぇと思う・・・言ってねぇから・・・。それに、前会ってた頃はヤクザに見えないように気をつけてた。」
「友緖が通っていたっていう店は、まともなとこなのか?」
大人しい性格だが、その容姿ゆえ友緖は人目を引く。今のレストランでも愛人や夜の店への誘いは耐えなかった。
そういった話に友緖がのるとは思わないが、飲み屋なんて場所は更に治安が悪いのでないかと思う。
「『蝶番』は、俺の入っている組の先代の会長の愛人だった人がやってる店だ・・・。昔はスナックだったらしいけど、今は娘と一緒だし居酒屋みたいなもんだよ。俺は今の店しか知らねぇ。客だって普通の奴らばっかだし。店の娘が、友緖ちゃんと友達なんだよ。友達っつても、だいぶ年上だけど・・・。自分の親父がヤクザだったことは言ってないらしくて・・・俺にもヤクザに見える格好で来るなって・・・。」
啓介がゴルフの帰りに寄っていると言ってたぐらいだから、おかしげな店ではないのだろう。立地的にも国道沿で、どうどうと営業している。
「辰巳さん、ちょっと待ってて。俺からあいつに釘刺してくっから。」
国生は倉本の耳元で囁くと、一人で東雲を連れて行く。停めてあった車の近くまでつくと表情を冷たく変えた。
「風見、連れて帰ろうなんて考えんじゃねぇぞ。あいつは、辰巳さんがもらったんだ。もう辰巳さんのもんなんだよ。」
帰った東雲を除いた六人で。
ウエイトレスの二人が全員分のコーヒーを用意して、フロアの適当なテーブルを二つくっつけて六人で座った。
あいかわらず純也は啓介の隣、国生は倉本の隣、みちるは友緖の隣をぴったりとマークしている。
「私、ずっと後悔してました。テントじゃなくて山小屋だから大丈夫なんて言ってたけど女の子が一人、山に泊りがけで行くなんて危ないに決まってるのに・・・。行かせなきゃ かった・・・。美緒は、四つ下だけど、昔から私よりずっとしっかりしてたんです。知らない場所も知らない人も、ぜんぜん平気だし・・・。」
「山小屋って、隣の赤峰山のですよね?そこで一泊したんですか?」
赤峰山の山小屋は周りがキャンプ場になっていて、家族客も多い。
みちるは、アウトドアとは無縁のため利用したことはないが、事件の話等は聞いたことはなかった。
「うん・・・そのはずなんだけど・・・山小屋に着いたって連絡もあったし、山小屋の記録にも妹の名前は残ってたから・・・」
そうだと思っていた。けれど、今となってはどうなのか分からない。
あまり人付き合いを広げない友緖と違って、妹の美緒はフットワークが軽く友人の多いタイプだった。
その反面、一人で出掛けることも好きで普段から一人でアウトドアにもよく行っていた。
普段からそうだったので、心配しつつも送り出してしまったのだ。
「帰ってくる予定の日も、妹から『今から帰る』って、ちゃんと連絡があったんです。後から調べてもらったら下山届も提出済でした。でも帰ってきませんでした。」
「警察は?」
「行きました・・・。でも、捜査はしてくれなくて。行方不明届を出しただけって感じで・・・。下山届があるんだから、山で行方不明になったわけじゃないって言われたけど、私・・・美緒は・・・まだ山にいるんじゃないか、って・・・。」
「友緖・・・それは・・・。」
まだ山にいる・・・それは生きているという可能性を捨てていると言っているようなものだ。
「美緒は・・・もう生きていないと思います・・・。」
「分かんねぇだろ!!それはまだ・・・っ」
国生が、思わず口を挟む。山で命を落とすことはありえる話だ。しかし下山届を出していたのなら、やはり山はおりていたと考えるのが普通じゃないだろうか?
「うまく言えないんですけど・・・私の妹は、きっともうこの世にいない・・・そう感じるんです・・・。連れて帰らなきゃ、あの子を山に一人にはしておけないから・・・。」
「でも、この山にいるとは限らないだろ?」
「それも・・・うまく言えないんですけど・・・」
「でも、よくこっちに転職できたね?社員の求人はださないって聞いたけど、知り合いでもいたの?」
繁忙期に出すバイトの求人は別として、社員の求人は職安や求人情報系フリーペーパーの類には出していない。
純也は友緖と共に働いていて知っているが、友緖は怪異に対して敏感なタイプではない。かといって啓介のように、まったく気付かないわけでもない。
普通の人よりかは分かるというか、ものによっては気付いたり見えたりしているといった様子だった。
レストランで接客する分には問題ないし、実際に客人気も高い。
純也には怪異に対する能力云々より、そちらの方が特殊な能力に見えた。
いくらずば抜けて可愛い顔をしていると言っても、たかがウエイトレスにここまでするかというぐらい、友緖にはファンがついている。
特別なサービスをしているわけでもないのに、異常なほど彼女に好意を持ってしまう人間がいつのまにか何人もいた。
それを常日頃、間近で見ている純也達からしてみれば、東雲が友緖を探して追いかけてきたとしてもありえる話だった。
「小原で働いていた時、ここの会社の人に声をかけられたことがあったんです。白花岳のゴルフ場にこないかって・・・。その時は家を出るつもりも転職も考えてなかったから断ったんですけど、気が変わったらいつでも連絡してほしいって名刺もらってて・・・。一年以上経ってたから迷ったんですけど、ダメもとで連絡したら雇ってもらえました。」
妹がいなくなったことは友緖にとってはとんでもなく悲しい災難だ。たった一人で知らない土地に探しにくるほど、大切な存在だったのだ。
けれど、国生にとってはずっと待っていたものがやっとめぐってきた大きなチャンスだった。
倉本のための。
時間がないという東雲を、国生と倉本は外までおくった。
太陽の陽射しを受け、艷やかな光沢を放つ東雲のスーツを見ながら、国生は口を開いた。
ネイビーのピンストライプのスリーピーススーツ。市販のものではありえないほど、彼の体にぴったりだ。
深いエンジ色のネクタイも、安物の生地ではない。
「なぁ、お前・・・カタギじゃねぇよな?ヤクザだろ?それか片足つっこんでる半グレか?風見は知ってんのか?」
友緖は、再会した時、東雲が誰か分からなかった。それは、彼女と会っていた時は、このヤクザ然とした姿ではなかったからだろうと思う。
「・・・組に入ってる。友緖ちゃんは知らねぇと思う・・・言ってねぇから・・・。それに、前会ってた頃はヤクザに見えないように気をつけてた。」
「友緖が通っていたっていう店は、まともなとこなのか?」
大人しい性格だが、その容姿ゆえ友緖は人目を引く。今のレストランでも愛人や夜の店への誘いは耐えなかった。
そういった話に友緖がのるとは思わないが、飲み屋なんて場所は更に治安が悪いのでないかと思う。
「『蝶番』は、俺の入っている組の先代の会長の愛人だった人がやってる店だ・・・。昔はスナックだったらしいけど、今は娘と一緒だし居酒屋みたいなもんだよ。俺は今の店しか知らねぇ。客だって普通の奴らばっかだし。店の娘が、友緖ちゃんと友達なんだよ。友達っつても、だいぶ年上だけど・・・。自分の親父がヤクザだったことは言ってないらしくて・・・俺にもヤクザに見える格好で来るなって・・・。」
啓介がゴルフの帰りに寄っていると言ってたぐらいだから、おかしげな店ではないのだろう。立地的にも国道沿で、どうどうと営業している。
「辰巳さん、ちょっと待ってて。俺からあいつに釘刺してくっから。」
国生は倉本の耳元で囁くと、一人で東雲を連れて行く。停めてあった車の近くまでつくと表情を冷たく変えた。
「風見、連れて帰ろうなんて考えんじゃねぇぞ。あいつは、辰巳さんがもらったんだ。もう辰巳さんのもんなんだよ。」
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