継続可能な最高の幸せ!ただし、怪異ありきで。

豆腐屋

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⑲スーツの男2

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 謎のスーツの男は、現場に到着した国生により少々手荒に叩き起こされ、男性陣に囲まれながら従業員が昼食をとっているレストランの小部屋に押し込まれた。
 
 そして逃げられないよう、二つある出入り口のどちからも遠い席に座らされ、さらに友緖とは最大限の距離を取られている。

 「すみません・・・私、知ってる人です・・・すぐに分からなくて・・・騒ぎを起こしてしまって・・・」

 スーツの男は東雲(シノノメ)と言い、友緖が白花岳に来るまで住んでいた、彼女の地元での知り合いのようだった。

 殴られて倒れ込んだ拍子にサングラスが外れ素顔を見た友緖は、やっと男の正体が分かったようで、申し訳無さそうに周りに何度も頭を下げた。

 友緖は東雲に、レストランの氷とビニール袋で作った即席の氷嚢とお手拭きのタオルを渡し、腫れてきた頬を冷やすように言い、すぐに分からなかったことを謝っていた。

 「仕方ないですよ、声のかけ方、完全に不審者だったし、乱暴だったし、サングラスかけてるし。長い間、会ってなかったんですよね?友緖さんは悪くないです!」

 みちるは友緖の隣に座って身を乗り出し、事情聴取されてる男から友緖を隠しつつ、背中を撫でている。 
 切れ長の瞳が冷ややかに男を睨み、まるで東雲の視線すら友緖に届くことが許せないかのようだ。

 「・・・知り合いだったのか・・・悪いことしたな・・・。」
 
 啓介も申し訳無さそうに、表情を暗くする。

 「啓介さんも、悪くないです!」

 現場にはおらず当時の状況を見ていない純也だが、啓介が傷付くことだけはあってはならないので、そく否定する。現実が何であれ、啓介の行動が正解だ。
 隣に座り肩を抱くように擦り、騒ぎの元凶である男から守るように庇う。

 「結局、お前なんなんだ?内容次第じゃ警察呼ぶからな。友緖に乱暴しやがって。ストーカーか?」

 倉本の射るような目が、東雲を真っ直ぐに捉える。だいたいの人間なら怯えて萎縮する程の目力だ。
 
 国生も最初は倉本を庇うように座ろうとしたが、会話するのにやりずらいから、後ろに居ろと言われ後方からずっと東雲を睨んでいる。
 周りから見えづらいが、テーブルの下で倉本の腹あたりに腕を回りしていた。

 「俺は、ストーカーとかじゃねぇよ!友緖ちゃんとは飲み屋で知り合って、よく一緒に飲んでた!!」

 「飲み屋?友緖が・・・?」

 倉本は、『飲み屋』という言葉に過剰に反応し、一番奥の友緖を勢いよく振り返った。強いショックを受けたような表情だ。
 自分の中のイメージと合わない。愛らしい容姿で人気のある彼女は、客から差し入れやプレゼントを贈られることも多いが、アルコールの類は飲まないからと言って周りに譲っている。
 
 「辰巳さん、風見だって25だぜ?飲み屋に行くぐらいあるって。」

 国生がフォローするように口を挟む。可愛がってるのは知っているが、あくまでも上司と部下だ。あまりプライベートなことに口煩くなってはいけない。

 仲が拗れて辛い思いする倉本を見たくない。

 「でも、友緖さんはお酒苦手なのに!!友緖さん、何で飲み屋なんかに?」

 友緖は飲まないというより、飲めない。それに、騒がしい場所を好まないのも知っている。
 
 「友人の実家がやってるお店なんです。私、ここに来る前は妹と二人暮らしで、よく一緒にご飯食べに行ってました。私も妹も、そこの料理が好きで・・・。」

 「・・・何系の料理だ?居酒屋メニューか?家庭料理か?」

 「辰巳さん!!今は張り合わねぇでっ!!」

 国生は、さっきから度々、上司のラインを超えそうになる倉本を宥める。

 「そんなに・・・特別なものはないんです・・・母が亡くなった時に、食事に誘ってくれて・・・メニューにない普通のお味噌汁とか塩サバとかで夕食出してくれて・・・気持ちが落ち着くまで二人でご飯食べにおいで、お代はいらないって言ってくれて何度かお世話になった後は、お客さんで通ってました。妹も私も飲めないから申し訳なかったんですけど・・・。」 

 友緖は、両親がいない。それは、レストランの従業員達も知っていた。あまり踏み込んだことは聞けないので、純也は理由を聞いたことはない。
 何かと彼女を気にかけている倉本や、仲の良いみちるはもしかしたら、詳しい事情も知っているのかもしれない。 

 「俺、『蝶番ちょうつがい』で友緖ちゃんのこと聞いたけど、本人から聞いてないなら言えないって言われて・・・。もう、こっちには帰ってこねぇのか?」

 東雲のサングラスを外した素顔は、思っていたより若い。純也や国生と変わらないぐらいに見える。
 友緖も、そう変わらない歳だが彼女は去年の夏にバイトの学生と間違われていたので、あまり見た目はあてにならない。

 「『蝶番』?」

 あまり聞き慣れない言葉に、純也が聞き返す。自分の唯一知っている『蝶番』はドア等に使っている金具だが、話の流れからそれではないだろう。
 
 「あっ、お店の名前です。」

 「『蝶番』って、隣の県の?国道沿いの店か?」

 「そうです!!大石さん、知ってるんですか?」
 
 小さなお店なのに・・・と友緖が意外そうに驚く。

 「啓介さん、行ったことあるの?」

 「ゴルフの打ち上げで何度か行ったことある!『マリンサイド小原ゴルフ倶楽部』でラウンドした時は、その店使うのが定番なんだ。あの店、雰囲気も良いし、料理も美味いよな!!風見の知り合いの店だったのか!!」

 「『マリンサイド小原』?私、ここに来る前はそこでウエイトレスしてたんです!」

 『マリンサイド小原ゴルフ倶楽部』は、隣の県にあるゴルフ場だが、ここからだと県境のトンネルを抜ければ一時間もかからない。名前の通り海に面したコースが売りのゴルフ場である。

 「あそこにいたのか!海の見える景色が綺麗で、夏には必ず行ってる!ロングホールがめちゃくちゃ長いのが良い!!」

 「知らない間に会ってたかもしれないですね!二番ホールが特に長くてしんどいって言われてます。」

 「本当だな!二番ホールはドライバー失敗したら泣く!!」 

 ゴルフの話になると、啓介の曇っていた表情は消え声も生き生きとしている。それは非常に喜ばしいことだ。純也だって、愛する恋人には少しでも多くの幸せを感じてほしい。
 
 しかし、聴き逃がせない言葉があった。
 
 「啓介さん、ちょっと待って!!さっき、料理美味しいって言った?啓介さんも、その『蝶番』の料理好きなの?」

 「佐柳っ!お前もかよ!家でやれよ!!」

 「ん?あぁ、あの店の料理、酒によく合うんだ。あと、『マリンサイド小原』の鉄板焼きそば美味い!!行ったら絶対食べる!」

 「そのやきそば詳しく教えて下さい!!完璧に再現してみせるし、なんなら超えてみせます!!」 

 やきそばは専門外だが、負けるわけにはいかない。啓介の全ての『好き』を独占したい。

 「本当か、純也!!一人前ずつ鉄板に乗ってて、オプションで卵つけれるやつ!!」

 純也の気持ちを知ってか知らずか、啓介の瞳が嬉しそうに輝く。 

 「家でやれって!!」

 国生は再度、声をかけるが啓介はやきそばに、純也は啓介に夢中だった。
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