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㉟あの時の荷物
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土砂崩れが起きた二日後の午後、レストランには純也と国生がいた。
ゴルフコースは水没したままだが、レストランの営業は明日から再開予定になっている。
純也は厨房で明日の仕込みや準備をしながら、国生はジャマにならない程度の距離をとって控えめな声量で会話をしていた。
営業すると言っても、断りきれなかった客が一組入っているだけだ。
その客のために開けるだけなので、準備の方もしれていた。
倉本は、友緖に付き添って外にでたため、しばらく帰ってこない。
土砂崩れの現場から、友緖の妹、美緒の所有品と本人のものと思われる白骨が一部分であるが発見されたため、友緖は一昨日から、警察に行って照合するためのDNAを提出したり所有品を確認したりと、辛い現実と向き合っていた。
「国生さん・・・確認しときたいんですけど・・・二年前のあの時、冷凍庫に入れといてくれって頼んできたの、あれってもしかして・・・」
あの時とは、純也が入社した年の夏のことである。入ってそうそうに啓介に惚れた純也は、仲を取りもってやる代わりに一つ頼みをきいてほしいと国生にもちかけられた。
純也に割り当てられている冷蔵庫がある。冷凍庫と一体化になっている業務用だ。個人的な予約の食材はこちらにいれる。間違い防止のためだ。
主にライブキッチン用となるが、頻繁にあるわけじゃない。冷蔵庫は常に空いている。
その冷蔵庫の冷凍室に、数日間、荷物を預かって欲しいと言われたのだ。
「あ、ばれた?」
国生の協力あって純也の今の幸せな日々は、始まっている。荷物の中身はろくでもなかったが、啓介との未来を天秤にかければ、どちらが重いかなんて分かりきっている。
ろくでもないので、あえて詳細は聞かなかった。
その荷物は、数日間預かった後、再び、国生に引き取られていった。
その後のことは、どうでもいいので聞かなかった。
約束通り国生は、純也の片思い成就のために力を貸してくれて、啓介との距離が急速に縮まっていったため、啓介以外のことを考える余裕も必要も感じなかった。
「ばれた?・・・じゃないですよ!演技派すぎません?よく、あんな初めて聞いた感出せましたね!!」
この数日、食材の整理で冷蔵庫を覗いている時、ふいに思い出したのだ。
見たことのない男達が、国生の案内で細長い袋を冷蔵庫まで運んできた日のことを。
純也は、軽い好奇心で袋に付いていたファスナーを下げ、中身を見た。国生も止めなかった。
そして、純也は速攻でファスナーを戻した。
得体の知れない荷物と食材を一緒に入れておくのはプロとして抵抗があるが、肉は肉かと思い受け入れ、運び出された後、冷凍庫内を掃除して消毒した。
「あん時、ほんと助かったわ。後処理頼んだとこに、すぐは無理って言われてさ。俺が自分でしても良かったんだけど、数日なら待った方がいいかなって。」
「そもそも、なんで?風見さんのこと、いつから知ってたんですか?」
「お前さ、辰巳さんの奥さんが事故で亡くなってんのはしってんだろ?」
「聞いてます。お墓参りで有休とってるし。」
「風見の父親も事故で死んでんのは?」
「それも、聞いてますけど?」
友緖が母親の命日に休みをとって帰省したのは知っていたが、父親の時に休みをとっていた記憶はない。
しかし、既に亡くなっているのは確かだ。
「同じ命日なんだよ、その二人。」
「えっ?」
「同じ事故で死んでんの。トンネルの崩落事故。お前、この辺の奴じゃねぇから、あんま知らねぇだろうけど、隣の県との境にトンネルあんだろ?あそこ、昔、一回崩れてんだよ。」
純也の出身は、まったく違う土地だ。こんな自然豊かな環境でもなく、そういった意味でも国生とは似ていた。
「国生さんだってそうでしょ。今だにコース管理でシティボーイって言われてるって啓介さんから聞きましたよ。」
ミミズ一匹に大騒ぎしてたのに、今じゃ一緒に会議に出てる、と啓介が少し昔を懐かしんでいたことがあった。
「さすがに今は言われてねぇよ!何年働いてると思ってんだよ!!」
「きっとカゲでこっそり言われてるんですよ。事故の話続けてください。」
「こっち来て二年の奴に言われたくねぇけどな。・・・その事故の時、同じ車乗ってたんだよ、風見の父親と辰巳さんの奥さん。で、一緒に死んでんの。」
「えっ、知り合いだったんですか?」
「知り合いってか、不倫してたらしい。辰巳さんと結婚する前から。」
倉本の妻の、志都香(シズカ)は妻子ある男と不倫していた。結婚前から続いてる関係だった。むしろ、そのことがあったからこそ彼女の両親は倉本との見合いを強く希望し、急ぎ足で結婚まで漕ぎ着け新居を用意して新しい生活をスタートさせた。
けれど、結婚後も相手の男との関係は切れなかった。倉本は、ずっと何も知らなかった。
結婚後、専業主婦となった志都香は家では良い奥さんだった。明るくて社交的で自分とは正反対な性格が新鮮で、倉本は彼女との生活を悪くないと思っていた。
トンネルの崩落事故で妻が亡くなった時に、義理の両親から全てを聞いた。
泣きながら何度も謝られたが、倉本は感情が追いつかず他人事のように感じていた。
悪くないと想う日々だったが、正直、まだ家族ではなかった。
他の男と共に死んだというなら、尚更、彼女はもうその男のものだと思った。
不倫相手だった友緖の父親は、家族に内緒でこっそり仕事を休み、昼間に志都香と会って同じ車に乗っていた。
倉本は専業主婦の妻が自分のいない昼間を、どう過ごしているかなんて確認したことはなかった。
そして、遺体確認の現場で友緖の母親である風見 友美(カザミ ユミ)と顔を合わせた。
他人事のような倉本と違い、友美は憔悴していた。自分の夫の遺体に縋り付くように泣いていた。
崩れた天井の下敷きになったために、遺体の損傷は激しく、顔は残っていたが人の形は残っていなかった。変わり果てた夫に縋り付く姿は、深い愛情を感じた。
あれが家族であり夫婦というものなのか、と倉本は思った。
ゴルフコースは水没したままだが、レストランの営業は明日から再開予定になっている。
純也は厨房で明日の仕込みや準備をしながら、国生はジャマにならない程度の距離をとって控えめな声量で会話をしていた。
営業すると言っても、断りきれなかった客が一組入っているだけだ。
その客のために開けるだけなので、準備の方もしれていた。
倉本は、友緖に付き添って外にでたため、しばらく帰ってこない。
土砂崩れの現場から、友緖の妹、美緒の所有品と本人のものと思われる白骨が一部分であるが発見されたため、友緖は一昨日から、警察に行って照合するためのDNAを提出したり所有品を確認したりと、辛い現実と向き合っていた。
「国生さん・・・確認しときたいんですけど・・・二年前のあの時、冷凍庫に入れといてくれって頼んできたの、あれってもしかして・・・」
あの時とは、純也が入社した年の夏のことである。入ってそうそうに啓介に惚れた純也は、仲を取りもってやる代わりに一つ頼みをきいてほしいと国生にもちかけられた。
純也に割り当てられている冷蔵庫がある。冷凍庫と一体化になっている業務用だ。個人的な予約の食材はこちらにいれる。間違い防止のためだ。
主にライブキッチン用となるが、頻繁にあるわけじゃない。冷蔵庫は常に空いている。
その冷蔵庫の冷凍室に、数日間、荷物を預かって欲しいと言われたのだ。
「あ、ばれた?」
国生の協力あって純也の今の幸せな日々は、始まっている。荷物の中身はろくでもなかったが、啓介との未来を天秤にかければ、どちらが重いかなんて分かりきっている。
ろくでもないので、あえて詳細は聞かなかった。
その荷物は、数日間預かった後、再び、国生に引き取られていった。
その後のことは、どうでもいいので聞かなかった。
約束通り国生は、純也の片思い成就のために力を貸してくれて、啓介との距離が急速に縮まっていったため、啓介以外のことを考える余裕も必要も感じなかった。
「ばれた?・・・じゃないですよ!演技派すぎません?よく、あんな初めて聞いた感出せましたね!!」
この数日、食材の整理で冷蔵庫を覗いている時、ふいに思い出したのだ。
見たことのない男達が、国生の案内で細長い袋を冷蔵庫まで運んできた日のことを。
純也は、軽い好奇心で袋に付いていたファスナーを下げ、中身を見た。国生も止めなかった。
そして、純也は速攻でファスナーを戻した。
得体の知れない荷物と食材を一緒に入れておくのはプロとして抵抗があるが、肉は肉かと思い受け入れ、運び出された後、冷凍庫内を掃除して消毒した。
「あん時、ほんと助かったわ。後処理頼んだとこに、すぐは無理って言われてさ。俺が自分でしても良かったんだけど、数日なら待った方がいいかなって。」
「そもそも、なんで?風見さんのこと、いつから知ってたんですか?」
「お前さ、辰巳さんの奥さんが事故で亡くなってんのはしってんだろ?」
「聞いてます。お墓参りで有休とってるし。」
「風見の父親も事故で死んでんのは?」
「それも、聞いてますけど?」
友緖が母親の命日に休みをとって帰省したのは知っていたが、父親の時に休みをとっていた記憶はない。
しかし、既に亡くなっているのは確かだ。
「同じ命日なんだよ、その二人。」
「えっ?」
「同じ事故で死んでんの。トンネルの崩落事故。お前、この辺の奴じゃねぇから、あんま知らねぇだろうけど、隣の県との境にトンネルあんだろ?あそこ、昔、一回崩れてんだよ。」
純也の出身は、まったく違う土地だ。こんな自然豊かな環境でもなく、そういった意味でも国生とは似ていた。
「国生さんだってそうでしょ。今だにコース管理でシティボーイって言われてるって啓介さんから聞きましたよ。」
ミミズ一匹に大騒ぎしてたのに、今じゃ一緒に会議に出てる、と啓介が少し昔を懐かしんでいたことがあった。
「さすがに今は言われてねぇよ!何年働いてると思ってんだよ!!」
「きっとカゲでこっそり言われてるんですよ。事故の話続けてください。」
「こっち来て二年の奴に言われたくねぇけどな。・・・その事故の時、同じ車乗ってたんだよ、風見の父親と辰巳さんの奥さん。で、一緒に死んでんの。」
「えっ、知り合いだったんですか?」
「知り合いってか、不倫してたらしい。辰巳さんと結婚する前から。」
倉本の妻の、志都香(シズカ)は妻子ある男と不倫していた。結婚前から続いてる関係だった。むしろ、そのことがあったからこそ彼女の両親は倉本との見合いを強く希望し、急ぎ足で結婚まで漕ぎ着け新居を用意して新しい生活をスタートさせた。
けれど、結婚後も相手の男との関係は切れなかった。倉本は、ずっと何も知らなかった。
結婚後、専業主婦となった志都香は家では良い奥さんだった。明るくて社交的で自分とは正反対な性格が新鮮で、倉本は彼女との生活を悪くないと思っていた。
トンネルの崩落事故で妻が亡くなった時に、義理の両親から全てを聞いた。
泣きながら何度も謝られたが、倉本は感情が追いつかず他人事のように感じていた。
悪くないと想う日々だったが、正直、まだ家族ではなかった。
他の男と共に死んだというなら、尚更、彼女はもうその男のものだと思った。
不倫相手だった友緖の父親は、家族に内緒でこっそり仕事を休み、昼間に志都香と会って同じ車に乗っていた。
倉本は専業主婦の妻が自分のいない昼間を、どう過ごしているかなんて確認したことはなかった。
そして、遺体確認の現場で友緖の母親である風見 友美(カザミ ユミ)と顔を合わせた。
他人事のような倉本と違い、友美は憔悴していた。自分の夫の遺体に縋り付くように泣いていた。
崩れた天井の下敷きになったために、遺体の損傷は激しく、顔は残っていたが人の形は残っていなかった。変わり果てた夫に縋り付く姿は、深い愛情を感じた。
あれが家族であり夫婦というものなのか、と倉本は思った。
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