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㉙水没
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啓介は、客のいないレストランのフロアの窓からコースを眺めていた。
外に面した壁一面がガラス張りになっていて、そこから見える景色はレストランの売りの一つでもある。
あいにく今日の天気は悪い。
啓介が山から降りるのが遅れた日から丸一日、雨は降り続け、二日たった今日も断続的だが続いている。
コースは大きな水溜りの中に沈んでしまっていた。
降り続いた雨が、容赦なくコースを浸水させたのだ。
「啓介さん・・・。」
純也は、後ろから近づくとそっと肩を抱く。こんな誰に見られるか分からない場所で、いつもなら恥ずかしがって咎めてくるのに、今日は反応がない。
この目の前に広がる景色が、啓介の心を奪ってしまっている。
純也も、この光景を見た時は衝撃を受けた。ここまで広範囲に渡って水が溜まっているとは思っていなかったからだ。
公道はまだ通れるが敷地に入ってからの施設まで上がってくる私道は今は通行止めで、関係者以外は行き来できないようになっている。
土砂崩れ等、万が一を考えてのことだ。
そういうこともあり、今は予約を断って施設内に客を入れていない。
天候が回復してもゴルフコースは、水がひいてから更に整備で整えての再開になるので、レストランや宿泊施設に比べ遅い再開になる。
傷みやすい食材を使いきっておくために、純也と倉本は出勤していた。
こういった状況なので、主に働いているのは啓介のいるコース管理と支配人だけで、今は昼食を食べ終わった後だ。
なかなか豪華なランチになったが、どう見ても啓介の気持ちは沈んだままだった。
いつも通り、笑顔で美味しいと言ってくれたけれど・・・。
まだ周りには部下達がいるというのに、純也からのボディタッチに無反応なのは、それどころではないぐらいに気に病んでいるからだろう。
今季、オープンしたばかりだったコースがそうそうに水没し、今だ復旧の目処がたっていない。
雨は小雨ながら降ったり止んだりを繰り返し、近隣では落雷もあった。
天候が回復へ迎えばいいが、悪化するようなら残っている従業員達も山から降りて、避難しなければならない。
啓介達、コース管理も今日は昼食をとった後は、そのまま解散の予定だ。まだ雷も鳴っているし、無理は禁物だ。
「悪い・・・純也、片付かないな・・・。」
食事をとったテーブルの上には、まだ食器が残っている。
そのまま席で談笑している者がほとんどだ。
国生は、いつの間にか倉本のいる厨房に入っていた。
「気にしなくていいですよ。お客さんもいないし。」
啓介は、すぐ後ろにいる純也に声をかけるが、やはり咎めるような内容ではなかった。
声は明らかに元気がなく、表情も無理をして笑顔を作ったのが分かった。
こんなの辛いに決まってる・・・。
この人は決して弱音を吐くことはないけれど、辛くないはずがない。毎日、あんなに手をかけているコースだ。
一番大切な人が、目の前で傷付いているのに自分にできることが何もないのが悔しい。
啓介はやんわりと純也の手を己の肩から外す。窓から離れるように数歩歩いて上司の顔を作ると、フロアにいる部下達に食器を片付け解散するよう伝えた。
部下の様子を見届けている啓介は、ちゃんと仕事中の上司の顔をしている。
純也は、啓介にそんなに頑張らないで欲しかった。こんな自然災害、誰もどうもできない。
仮に事前に予知できたとしても、防ぎようがないのだ。
「俺、片付けに行ってくるけど、啓介さんは、もう少しいてください。」
この状況で、一人で帰したくない。さすがにないと思うが、外の様子を見に行く可能性もないとはいえない。
「絶対ですよ!先に一人で帰らないで下さい!」
「分かった。だったら何か手伝えることがあるなら、言ってくれ。」
本当は、ゆっくりしてほしいけれど何かしてもらうのも気分転換になるかもしれない。
「すごいな・・・中の水圧やばくないか?」
啓介は、厨房の中にある食洗機に耳をつけて中の音を聞いている。
「啓介さん、そろそろ離れて!!中でお湯使ってるし危ないです!!」
「もう少し聞きたい!!これ、よく食器が割れないな?」
純也が知る限り、この食洗機の機械で事故が起こったことはないが、起動中の機械は外側まで熱を帯びている。
そんなにぴったり耳をつけられると心配だ。好奇心旺盛なのは、啓介の魅力の一つだが程々にしてほしい。
だが、可愛い。
ピュアってこういうこと?
毎日、山の中でマイナスイオンを浴びまくっているから?
ここが職場でなかったら・・・せめて、他に人がいなかったら、ぎゅうぎゅう抱き締めて可愛いと叫びまくりたい。
「マジっすか?俺も聞きたい!!」
さっきまで倉本の指示でゴミをまとめていた国生が、目を輝かせて近付いてくる。
「ぅおっ、嵐みてぇ!!」
啓介を真似て、食洗機に耳をつけた国生がはしゃいだ声を出す。
こっちに関しては、別にどうとも思わない。同じことをしていても、こうも心に響かないものかと少し冷めた気持ちで思う。
「国生さんまで・・・火傷しても知りませんよ。」
何とも思わないが、一応、声はかけておく。仕事中の啓介のことで世話になっているし、国生を頼ることも多い。
国生が来たことにより、ようやく場所を譲って耳をはずした啓介にほっとする。
「な?すごいだろ?」
そしてなぜか、啓介が得意そうにしている。フロアにいた時より元気になったようで嬉しい。
「そんなはしゃぐもんでもねぇだろ。」
奥で調理道具を片付けていた倉本が少し呆れたような顔と声で、こちらを見ている。
「すごいです、これ!」
啓介が倉本に返事をしながら再び耳をくっつけそうになるのを、純也が手を伸ばして防ぐ。
「そうか?慣れちまって何も思わねぇけど。」
「俺もです。」
まさか、食洗機で元気になってくれるとは思わなかった。一時的なものかもしれないけれど、落ち込みっぱなしよりずっと良い。
この食洗機には感謝して大切に使っていこうと思う。
「片付け終わったら、コーヒー入れますね。」
食器の洗浄が終わったので、乾燥に進める。次の工程に興味津々の啓介の気をそらそうと、純也は話題を変えた。
可愛いけれど、この場ではどうもできないので一旦可愛いのをしまってほしい。
そして二人きりの時に、存分に発揮してほしい。
外に面した壁一面がガラス張りになっていて、そこから見える景色はレストランの売りの一つでもある。
あいにく今日の天気は悪い。
啓介が山から降りるのが遅れた日から丸一日、雨は降り続け、二日たった今日も断続的だが続いている。
コースは大きな水溜りの中に沈んでしまっていた。
降り続いた雨が、容赦なくコースを浸水させたのだ。
「啓介さん・・・。」
純也は、後ろから近づくとそっと肩を抱く。こんな誰に見られるか分からない場所で、いつもなら恥ずかしがって咎めてくるのに、今日は反応がない。
この目の前に広がる景色が、啓介の心を奪ってしまっている。
純也も、この光景を見た時は衝撃を受けた。ここまで広範囲に渡って水が溜まっているとは思っていなかったからだ。
公道はまだ通れるが敷地に入ってからの施設まで上がってくる私道は今は通行止めで、関係者以外は行き来できないようになっている。
土砂崩れ等、万が一を考えてのことだ。
そういうこともあり、今は予約を断って施設内に客を入れていない。
天候が回復してもゴルフコースは、水がひいてから更に整備で整えての再開になるので、レストランや宿泊施設に比べ遅い再開になる。
傷みやすい食材を使いきっておくために、純也と倉本は出勤していた。
こういった状況なので、主に働いているのは啓介のいるコース管理と支配人だけで、今は昼食を食べ終わった後だ。
なかなか豪華なランチになったが、どう見ても啓介の気持ちは沈んだままだった。
いつも通り、笑顔で美味しいと言ってくれたけれど・・・。
まだ周りには部下達がいるというのに、純也からのボディタッチに無反応なのは、それどころではないぐらいに気に病んでいるからだろう。
今季、オープンしたばかりだったコースがそうそうに水没し、今だ復旧の目処がたっていない。
雨は小雨ながら降ったり止んだりを繰り返し、近隣では落雷もあった。
天候が回復へ迎えばいいが、悪化するようなら残っている従業員達も山から降りて、避難しなければならない。
啓介達、コース管理も今日は昼食をとった後は、そのまま解散の予定だ。まだ雷も鳴っているし、無理は禁物だ。
「悪い・・・純也、片付かないな・・・。」
食事をとったテーブルの上には、まだ食器が残っている。
そのまま席で談笑している者がほとんどだ。
国生は、いつの間にか倉本のいる厨房に入っていた。
「気にしなくていいですよ。お客さんもいないし。」
啓介は、すぐ後ろにいる純也に声をかけるが、やはり咎めるような内容ではなかった。
声は明らかに元気がなく、表情も無理をして笑顔を作ったのが分かった。
こんなの辛いに決まってる・・・。
この人は決して弱音を吐くことはないけれど、辛くないはずがない。毎日、あんなに手をかけているコースだ。
一番大切な人が、目の前で傷付いているのに自分にできることが何もないのが悔しい。
啓介はやんわりと純也の手を己の肩から外す。窓から離れるように数歩歩いて上司の顔を作ると、フロアにいる部下達に食器を片付け解散するよう伝えた。
部下の様子を見届けている啓介は、ちゃんと仕事中の上司の顔をしている。
純也は、啓介にそんなに頑張らないで欲しかった。こんな自然災害、誰もどうもできない。
仮に事前に予知できたとしても、防ぎようがないのだ。
「俺、片付けに行ってくるけど、啓介さんは、もう少しいてください。」
この状況で、一人で帰したくない。さすがにないと思うが、外の様子を見に行く可能性もないとはいえない。
「絶対ですよ!先に一人で帰らないで下さい!」
「分かった。だったら何か手伝えることがあるなら、言ってくれ。」
本当は、ゆっくりしてほしいけれど何かしてもらうのも気分転換になるかもしれない。
「すごいな・・・中の水圧やばくないか?」
啓介は、厨房の中にある食洗機に耳をつけて中の音を聞いている。
「啓介さん、そろそろ離れて!!中でお湯使ってるし危ないです!!」
「もう少し聞きたい!!これ、よく食器が割れないな?」
純也が知る限り、この食洗機の機械で事故が起こったことはないが、起動中の機械は外側まで熱を帯びている。
そんなにぴったり耳をつけられると心配だ。好奇心旺盛なのは、啓介の魅力の一つだが程々にしてほしい。
だが、可愛い。
ピュアってこういうこと?
毎日、山の中でマイナスイオンを浴びまくっているから?
ここが職場でなかったら・・・せめて、他に人がいなかったら、ぎゅうぎゅう抱き締めて可愛いと叫びまくりたい。
「マジっすか?俺も聞きたい!!」
さっきまで倉本の指示でゴミをまとめていた国生が、目を輝かせて近付いてくる。
「ぅおっ、嵐みてぇ!!」
啓介を真似て、食洗機に耳をつけた国生がはしゃいだ声を出す。
こっちに関しては、別にどうとも思わない。同じことをしていても、こうも心に響かないものかと少し冷めた気持ちで思う。
「国生さんまで・・・火傷しても知りませんよ。」
何とも思わないが、一応、声はかけておく。仕事中の啓介のことで世話になっているし、国生を頼ることも多い。
国生が来たことにより、ようやく場所を譲って耳をはずした啓介にほっとする。
「な?すごいだろ?」
そしてなぜか、啓介が得意そうにしている。フロアにいた時より元気になったようで嬉しい。
「そんなはしゃぐもんでもねぇだろ。」
奥で調理道具を片付けていた倉本が少し呆れたような顔と声で、こちらを見ている。
「すごいです、これ!」
啓介が倉本に返事をしながら再び耳をくっつけそうになるのを、純也が手を伸ばして防ぐ。
「そうか?慣れちまって何も思わねぇけど。」
「俺もです。」
まさか、食洗機で元気になってくれるとは思わなかった。一時的なものかもしれないけれど、落ち込みっぱなしよりずっと良い。
この食洗機には感謝して大切に使っていこうと思う。
「片付け終わったら、コーヒー入れますね。」
食器の洗浄が終わったので、乾燥に進める。次の工程に興味津々の啓介の気をそらそうと、純也は話題を変えた。
可愛いけれど、この場ではどうもできないので一旦可愛いのをしまってほしい。
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