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新しい村で愛されています(続々編)

23.思ってたのと違う

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「無理! 吐く! こんなの無理ぃ!」

 ファンはよくやったと思う。ロイに一筋も傷を負わせることなくやりきった。だが、抱えて運ばれたロイがたいへんだったようだ。どうも10mの柵が問題だったようで、あの上って下りてでやられてしまったらしい。蒼褪めているロイが心配で俺はおろおろしてしまった。

「な、なんでルイはあれで平気だったわけっ!?」

 え? そんなこと言われても俺はなんか目をつむってる間にジェットコースターに乗ったような気分だったからなんとも……。ってこの世界にジェットコースターはないよな。もちろんフリーフォールだってないよな。

「……うーん?」

 もしかしたらファンとハレのお兄さんが高スペックすぎて、俺にはあんまり影響がなかったのかもしれないとも思い直した。

「ハレー? 俺のこと抱いて、競技できる? 最後に回復魔法かけてくれればいいから」
「ルイさまを、ですか?」
「うん」

 そう言ったらロイが慌てた。

「だっ、だめだよっ……あんなの二回も、させられないっ、し……ううう……」

 相当気持ち悪そうだ。

「ロイの状態って、魔法でどうにかならないの?」
「状態異常を治せる者はいるか?」
「では私が」

 ファンとハレのお兄さんが魔法で治してくれたので俺はほっとした。

「ありがとうございました。助かります」

 用意された長椅子に腰掛けてロイに膝枕をする。ロイは俺の腰に抱き着いてきた。その頭を優しく撫でる。

「さすがに続行は難しいですよね」

 ハレが頭を掻いた。

「俺じゃだめ?」

 再度提案してみたが、ロイがぎゅうぎゅう俺に抱き着いていて動けそうもない。

「ルイはだめ。……ちょっと待って」
「でも気分悪くなっちゃうなら、ロイにだってさせたくないよ?」
「もうちょっとだけ!」

 ロイもなかなかに頑固だと思う。

「でも……」
「ルイはだめなの!」
「だけど俺はロイの旦那なんだよ!」
「でもだめ! ルイは僕の夫だけど僕の方が身体は強いもん! ルイは絶対に怪我しちゃいけないんだから!」
「もうっ……!」

 はーっと周りからため息が聞こえてきた。呆れさせてしまっただろうか。

「俺たち、辞退します」

 リーダー格と思われる青年がスッと前に出てそう言った。

「……え……?」
「悪いことをしたな」

 インがすまなさそうに言う。そういえばここの準備とか誰がしたんだろう。

「いえ、天使さまがこんなに愛らしい方だと知れてよかったです。ただ……」

 青年は言葉を濁した。

「なんだ。言ってみろ」
「実はまだ童貞ってのが三人ぐらいいるんですよ。せめてソイツらの相手だけでもお願いすることはできないでしょうか」
「急ぎではないんだよな?」
「はい。まだ十代です」
「わかった。今度場を整えてやる」
「ありがとうございます」

 青年はインに頭を下げた。

「全員辞退でいいのか?」
「はい!」

 インが再度確認すると、みな即答した。なんだか拍子抜けした。

「……よかった」

 ほっとして呟く。なんかみんなにこにこして俺たちを見ているようで少し居心地が悪い。

「?」

 首を傾げると、何人かが口元を押さえて顔を後ろにそらした。なんなんだろう。

「そうか……しかしこれはどうするかな……」

 せっかく設置したものをどうするか考えているらしい。

「訓練とかに使えるなら使えばいいんじゃないかな」
「それもそうだな。柵はほぼ足場がない状態にして壁上りに使えばいいか」

 ……壁上りの技術なんて何に使うんだろう? 疑問に思ったが俺には関係ないのでロイの髪を撫でていることにした。でもやっぱり気になったのでハレを手招きする。

「ルイさま、なにか……」
「ハレは、俺を抱いてさっきのできそう?」

 ハレは少し難しい表情をした。

「……できないことはないと思いますが、怪我を全くしないという保証はありません」
「でも回復魔法は使えるよな。時間とか測らないでやってみたらどう?」
「急ぐ必要がなければなんとか」
「じゃ、やってみせて」
「ルイ、だめだって言ってるじゃん!」
「俺が責任とるからいいよ」
「ルイが怪我したらどうするのさ!」

 ロイがどうしても放してくれない。

「ルイ、あんまり困らせるな」

 インまでそんなことを言う。俺はちょっとムッとした。

「だって、ロイがすごくつらかったっていうから……なんか少しでも共有したくて、さ……」

 何を言ってるのかわからないかもしれなかったが、俺は俺なりにロイの気分が悪くなった原因を知りたかったのだ。

「ルイさま。僕一人でやってきますから、見ていただいてもいいですか?」
「うん……」

 ハレがそう言って、スタート地点に立った。軽く飛び跳ねてウォーミングアップをする。そして。
 ハレの動きはとてもリズミカルだった。筋肉質ながたいがキレイに躍動する。火の輪も水の輪も一回足を軽くついたぐらいで抜けたし、岩ルートも難なく抜けた。柵も上る、というより飛ぶように上って下りて、最後の400mも軽やかに走ってきた。さすがは元王宮勤めの兵士である。最後は歓声が起きた。

「ルイさま、如何でしたか?」
「うん、かっこよかったよ」
「それならよかったです」

 その後、俺がそこにいる間護衛の兵士たちが同じコースを何度も辿り、問題点などを話していた。なんか、いい訓練施設ができたかんじでよかったのかな? でもお騒がせしちゃったから謝らないとだめだよな。

「ね、ロイ」

 まだロイが俺の膝から離れない。インがいらいらしたように横に立っていた。

「なーに?」
「みなさんに謝らないといけないと思うんだけど」
「何を?」

 ばっとロイが顔を上げた。

「え、だって……本当は俺のこと……」
「ルイが謝ることなんて一つもないよ。謝るとしたらインさんでしょ。ねー?」
「……ああ。俺が決めたことだからな」

 苦虫をかみつぶしたような顔をしているインのことも好きだなぁって思うんだから、俺も大概重症だ。
 インは改めて練兵場を見回した。そして、

「今日は本当に済まなかった。いずれこの補填はしよう。今夜はありったけの料理と酒を用意する。これからもよろしく頼む!」

 と威厳のある声音で全員に告げた。

「やったーっ! ただ酒だー!」
「やったーっ! ただ飯だー!」
「村長太っ腹ーっ!」

 みんなが喜んでくれたからいいのかもしれない。うん、そういうことにしておこう。
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