貴方色に染まる

浅葱

文字の大きさ
上 下
106 / 117
本編

106.礼物

しおりを挟む
礼物 贈物


 案の定紅児ホンアールの姿を見た養母は絶句した。何故ここに紅児がいるのかわからないというように目を白黒させ、夫と紅児を交互に見、紅夏ホンシャーにキッときつい眼差しを向けた。

「……これは、どういうことですか?」

 養母の反応が養父と全く同じだったことに紅児は内心慌てた。だがそれよりももっと慌てたのは養父だった。

「あー! いやそのお前めえ、こりゃあ……」
「あんたは黙っちょれっ!!」

 説明しようとした養父だったが、すごい剣幕で遮られる。紅児は肩を竦めた。

「紅夏様、説明してください」

 狭い戸口の側で向き合う4人。紅児は頭が痛くなった。暖石と紅夏のおかげで紅児は寒さを感じないが、さすがに座りたい。しかしここでそれを言うのは憚られた。

「先ほど岳父(妻の父。ここでは紅児の養父のこと)にも伝えましたが、つい先日セレスト王国から紅児の叔父が王都に参りました。事後報告になりますが、紅児と夫婦になりましたので共に海を渡る運びとなりましたこと、ご挨拶に参りました」

 ハラハラしていた紅児と養父を尻目に紅夏が淡々と伝える。
 さすが夫婦といおうか、養母もまた鳩が豆鉄砲をくらったような表情をし、紅夏と紅児の顔を交互に見、「……あぁ……そうですか……」と呟くように応えた。それからはっと何かを思い出したように、

「しばれるから中へ!」

 と2人を家の中に招き入れた。


「……こちらが紅児の叔父からです」

 家の中に山と積まれた贈物の量に養父母は目を白黒させた。
 そうでなくても毎回紅夏、紅児、王都の親戚の馬からいろいろもらっているのに、更に今回は四神の花嫁からも、そして紅児の叔父からももらったとあってはその驚愕ぶりは押して知るべしである。しかも紅児の叔父からの分量が異常に多い。

「こ、こなにいただいて……」

 養父母は恐縮して小さくなった。

「紅児が世話になった3年分としては少ないぐらいだと申しておりましたので、どうぞお納めください」

 紅児もこくこくと頷いた。持って帰れと言われても困ってしまう。
 ただこの量、中身は多少気になっている。しかしいくらなんでもここで開けてほしいと頼むわけにもいかないので後で紅夏に聞くことにする。(養父母への贈り物は全て事前に紅夏が確認している)
 すると養父母は顔を見合わせ、少し困ったように言った。

「……なら、ありがたくいただくが……少し、そのぅ、親戚に分けてもええじゃろうか……?」

 申し訳なさそうな物言いに紅児はピンときた。いきなりこんなに大量の贈り物をもらったとあっては村の者たちが黙っているわけがない。多少はおすそ分けをしないと、養父母もここで暮らしづらくなるかもしれないと思った。

「これはおとっつあんとおっかさんの物だから、好きに使っておくれ。あ、でも花嫁様からの贈り物は絶対誰にもあげないでね」
「ああ、もちろん、もちろんだとも……」

 涙ぐんで何度も頷く養父母を見ているうちに、やっと紅児は彼らが身に着けている棉袄(綿入れ)は自分が贈った物だということに気付いた。

(使ってくれているんだ……)

 それだけで紅児は胸が熱くなった。

「ところで……海を渡るっちゅうことは、国へけえるのけ……?」

 養母が気を取り直したようにお茶を淹れ、再び座ると言いづらそうに聞いてきた。紅児はコクンと頷いた。もしかしたら船に乗れないかもしれないが、今のところは帰国の予定である。

「そうか……」

 養父は体の前で腕を組むと、少し考え込むような難しい表情をした。それは言うか言うまいか逡巡しているようだったが、しばらくして再び口を開いた。

「……その、な……言いたくなきゃ言わんでええが……親父さんは……そのぅ……見つかったんか……?」

 すまなさそうな養父の問いに紅児は首を振った。

「そうか……」

 そしてまたしばらく沈黙が続いた。ただそれは、それほど心地悪いとは紅児には思えなかった。そうしてふと、今まで聞けないでいた疑問が自然と口からこぼれた。

「ねぇ、おとっつぁん、おっかさん、あたしがここに流れ着いた時って……どんなかんじだったの?」

 養父母は息を飲んだ。
 その様子に、今まで聞かされていたことは大分オブラートに包んだものだったのだなと気付いてしまった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

侍女から第2夫人、そして……

しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。 翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。 ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。 一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。 正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。 セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...