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第4部 四神を愛しなさいと言われました

144.その誘惑は激しすぎる ※R15

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 ……朱雀に熱を与えられなくても、香子は玄武によってひどく甘く蕩かされた。

『玄武、さまぁ……あっ、あっ……あぁっ……!』

 玄武に縋り付き、香子は啼いた。
 逃げられないように抱き込まれて、香子は幸せだと思った。このままずっと抱き合っていたいと思ってしまうほど、その交わりは甘すぎた。

(脳みそ蕩けそう……)

 玄武は香子に何も考えさせないようにしたのかもしれない。
 翌朝香子はすさまじい空腹によって目覚めた。

『おなか……すいたぁ……』

 玄武に抱かれただけなのになんで? と香子は泣きそうになった。そんな香子を玄武が抱き込む。

『……今用意させている。しばし待て』

 玄武はそう言うと、香子の口唇を塞いだ。

「んんっ……」

 玄武の唾液は甘露のようだった。香子はその甘さがもっとほしいと、積極的に口づけに応える。そうしてコクリとその唾液を飲んだ。

「んっ、んっ……」

 気持ちよさと舌に感じる心地よい甘さに、香子は朝から陶然となった。
 玄武がきつく香子を抱きしめ、

《用意ができたようだ》

 口づけを解かないまま、玄武は心話で香子に伝えた。香子が玄武の唾液をまたコクリと飲んでから、やっと口唇が離された。
 香子はふわふわした心地のまま睡衣ねまきを着せられ、その上から玄武の長袍を羽織らされた。玄武の腕に抱かれて寝室を出る。
 居間の卓子テーブルにはこれでもかと料理が並べられていて、香子は目を輝かせた。
 玄武が香子を抱いたまま長椅子に腰掛ける。黒月は邪魔にならない場所に控えていた。眷属がお茶を出す。

『たいへんお待たせいたしました』

 香子は首を振った。

『いえ、とてもおいしそうです!』

 そして両手を合わせ、香子はお茶を啜った。それはちょうどいい温度で、香子は目を丸くした。
 肉まんや野菜まん、春巻に揚げ餃子、饅頭マントウ油条ヨウテャオ(細長い揚げパンのようなもの)、饅頭に挟んでもいいしそのまま食べてもいい漬物や卵などの付け合わせの数々、豆乳も出されて香子は朝から幸せだった。
 四神宮のごはんもとてもおいしいのだが、ここでの気遣いもたまらなく嬉しかった。

(さすがに毎日こうではないだろうけど……)

 油条は豆乳に浸して食べると更においしく感じられる。朝から香子の好物である皮蛋ピータンも出され、香子はご機嫌だった。
 とにかくもてなされていると香子は感じた。
 ちら、と眷属たちを窺う。

(……本気、だよね……)

 彼らは完全に香子を落としにかかっていると香子は思う。とはいえ料理だけでは陥落しないぞ、と香子は気を引き締めた。
 けれど、朝食の後で五大連池と呼ばれる火山群の温泉地に連れて行かれたらもうだめだった。
 温泉とおいしい食事なんて、香子を落とすには十分である。

『玄武様……四神宮に戻りたいです……』

 昼食後、香子は息も絶え絶えになりながら玄武に訴えた。

香子シャンズ、如何した?』
『こ、ここは危険です……』
『なんだと?』
『ごはんもおいしいし、温泉も気持ちよすぎるし、絶対私を篭絡しようとしています!』

 玄武は香子が”危険だ”と言ったことに反応したが、その後の香子の訴えを聞いて口角を上げた。

『……当たり前だろう。早くそなたをここに迎えたくてしかたないのだから』
『ううう……』

 そんな表情はずるいと香子は思った。香子の頬がどんどん熱くなる。香子は思わず自分の頬に手を当てた。

『それとも……まだ我の愛は受け止められぬのか?』

 玄武は己の魅力を理解していて、少し悲しそうな顔を香子にして見せた。

『う、ううう……』
『うん?』
『玄武様はずるいですーっ!』

 香子はメンクイだし、玄武のバリトンで囁かれたらもうふにゃふにゃになってしまう。香子は態勢を整えなくてはいけないと思ったが、腕の中から逃れることはできないので、どちらにせよ詰んでいた。

『ふふふ……』

 すると噴き出すような声が聞こえ、香子はそちらを見た。

『母上!』
『あら、ごめんなさい。花嫁様があまりにも愛らしくて……たいへん失礼いたしました』

 黒月が母上と呼んだ小柄な女性は、明らかに他の眷属とは異なっていた。年は若く見えるが、香子はその女性が元は人なのだと気づいた。

『……失礼ですが黒月のお母上、でいらっしゃいますか?』
『まぁ、花嫁様が私めのような者に丁寧な言葉をかけてはいけませんわ』

 それを聞いて香子は笑ってしまった。黒月と言っていることが同じだったからである。

『私は、目上の方にはそれ相応の礼を尽くすものと教えられて育ちました。ご容赦ください』
『まぁ……それは素敵です。黒月は花嫁様を困らせてはいませんか? どうしても眷属に女性が少ないものですから、大事に大事に育ててしまいまして』
『母上!』
『黒月、今貴方のお母さまは私と話しているのよ。控えなさい。黒月は本当によくやってくれています』
『それならば……ほっとしました。これからも花嫁様の守護としてお側に置いてくださいませ』
『はい、こちらこそよろしくお願いします』

 そうなると、と香子は考える。黒月は守護だから、もし香子が玄武を選ばなくても彼女は付いてきてくれるはずではないかと。
 もちろんここでそれを言うのははばかられたので、香子は笑みで返した。
 四神宮に戻ったら、黒月にご両親のことを聞いてみようと香子は思った。

『邪魔をして申し訳ありませんでした。花嫁様のお姿を拝見できて、とても嬉しく思います』
『私も黒月のお母さまにお会いできて嬉しかったです』

 黒月の母はすぐに退出した。
 確かに自分の娘が仕えている相手を見たいと思うのは当たり前だろうと香子は思ったが、黒月は不機嫌そうだった。

『……そろそろ四神宮に戻ろうか』
『はい』
『黒月よ、香子に触れよ』
『失礼します』
『……お早めのお戻りをお待ちしています』

 黒流はそう言うと拱手し、香子たちを見送ったのだった。
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