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第4部 四神を愛しなさいと言われました

140.玄武の領地で散策をします

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 街へ出るのに馬車を用意された。
 いきなり玄武が街へ姿を現わせば領民たちが困ってしまうからだろう。

『……まどろっこしいが……』
『必要なことでございますよ』

 黒流は玄武にそう言って笑んだ。

『もし花嫁様を抱いた玄武様が街にいきなり現れたら、どのようなことになるとお思いですか?』

 黒流に聞かれて、玄武は首を傾げた。その全くわかっていない様子に、香子は思わず笑みを浮かべた。

『玄武様は領民に好かれているのですね?』
『もちろんそれもありますが、領民たちは玄武様を心配しています。花嫁様に出会われ、仲睦まじくされていると予想はしていてもその姿を見たことはありません。そんな中いきなり街に玄武様が現れたりしたら、領民たちが混乱してしまいます』

 黒流の説明に香子は目を丸くした。確かに領民がパニックを起こしてしまうというのはいただけない。

『玄武様、馬車で参りましょう』
『かまわぬが……香子はもう少し警戒した方がいいのではないか?』
『? 何を、ですか?』
『わからぬのならばよい』

 玄武はそう言って、ククッと喉の奥で笑った。だいぶ表情が豊かになってきたとはいえ、玄武の笑みも貴重であることに変わりはない。香子は頬が熱くなるのを感じた。
 そして、やっぱり玄武のことが好きだと思う。

(……でも、玄武様のところに嫁ぎますとは言えないんだよねぇ)

 それこそ最初から玄武様だけの花嫁だったならば、香子も紆余曲折を経てもっと早く頷いただろうが、なにせ四神から求愛されているのである。結局一人目、という形で選ぶこともできず四神と婚礼を挙げ、未だどの神の領地に向かうか決めかねていた。

香子シャンズ、そう気に病むな』

 馬車の椅子に腰かけたところで、玄武が香子の頬を撫でた。
 黒月も一緒に乗るのかと思ったら、黒月は馬車と並走するという。眷属の身体能力はすごいのでそれぐらい余裕であることはわかるが、それはそれでどうなのだと香子は思った。

『我が横を走っていれば、玄武様が乗っていることは一目瞭然です。領民たちを安心させることも玄武様と花嫁様の務めでございます』

 黒月はきっぱりと言った。それを聞いた黒流が目を丸くしたので、香子は面白いなと思ったがそれは余談である。
 馬車の中で、玄武と香子は二人きりだ。
 玄武は馬車の椅子にも香子を下ろしたりしないで、大事そうに膝に横抱きにしている。それがなんだか気恥ずかしくて、香子は頬の熱が去らなくて困ってしまう。

『……少しは意識しているのか』

 玄武がポツリと呟いた。

『……玄武様のことでしたら、もちろん……んっ……』

 香子の答えを待たず、玄武は香子をきつく抱きしめて口づけた。香子は一瞬身体を硬くしたが、誰も見ていないとわかっていたからすぐに身体の力を抜いた。
 玄武の長い舌が香子の舌を絡め取り、何度も吸ったり舐めたりする。

「んんっ……」

 そうされてしまえば、香子はもうされるがままだ。
 ただでさえ好きな人と一緒で、その好きな人に口づけられているのだ。香子が逆らえるはずはなかった。

(警戒って、そういう……)

 漢服の襟元から玄武の手が入ってきた。

「んっ……」

 入ってきた大きな手がやわやわと香子のたわわな胸を揉む。胸なんて揉まれても感じたことはなかったというのに、香子としては四神に触れられると甘やかな感覚が腰の奥に溜まっていくのが不思議だった。
 何度も角度を変えて口づけられ、胸もずっと揉まれる。そんなにされていたら抱かれたくなってしまうではないかと、香子は生理的な涙で濡れた目で玄武を睨んだ。
 馬車が停まったのがわかった。

「はぁ……」

 やっと口づけから解放され、漢服の襟元を直される。香子はまた玄武を睨んだ。

『……想いが抑えられぬ』
『~~~~っ! ……玄武様はずるいです』
『そうか』
『そうです!』

 馬車の扉が開かれた。

『到着しました。ここからは歩いていただきます』

 黒流だった。彼は御者と共に前に座っていた。

『わかった』

 玄武は香子を抱いたまま、馬車を下りた。
 馬車を停める駐車場のようなところに馬車は停まっていた。広いところに二台ほど馬車が停まっている。定期的に走る馬車がここにもあるのかと香子は思った。

『香子、あっちが街だ』

 玄武に促されて反対側を見れば、両脇に店が並んでいる広い通りがあった。本当に、道が広い。向かいの店に行くのも遠いと思えるような、そんな幅だった。

『わぁ……』

 香子は思わず驚きの声を上げた。

『ここが領地での一番の大通りとなります。どこか店に寄られますか?』

 黒流に聞かれ、

『少しぶらぶらしたいです。入りたいと思う店があったら、寄ってもらってもいいですか?』

 と香子は答えた。黒流は口元に笑みを浮かべた。ほんのわずかではあったが、それが笑みだと香子にはわかった。

『かしこまりました』

 建物の色は全体的に黒っぽい。古い町並みというかんじだ。往来を歩く人々がじっと玄武たちを見ていた。そのぶしつけな視線に香子は笑みを浮かべた。
 すごく見られているというのが面白かったのだ。
 玄武の腕に抱かれたまま、通りを歩く。香子は楽しそうに室内履きを履いた足をぶらぶらさせた。さすがに裸足というわけにはいかないので履いてはいるが、香子が足を下に付けることはない。

『楽しそうだな』
『楽しいです』
『何が楽しい?』

 香子は玄武の胸に顔を摺り寄せた。
 聞いてくれたことが嬉しかったのだ。

『玄武様と、こうして一緒に街に出ているのが嬉しいのです……』
『……館に戻りたくなった』
『なんでですか!? まだ歩き始めたばかりでしょう!?』

 香子はびっくりして玄武を叱る。それを領民たちは目を丸くして見守っていた。
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