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第4部 四神を愛しなさいと言われました
134.皇太后とお茶をしました
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『老佛爷は意地悪です』
御花園の四阿で、香子はそう皇太后に拗ねてみせた。以前であれば『なんと失礼な!』といきり立ったであろう皇后もコロコロ笑っている。香子は皇后が穏やかに過ごせるようになったことが本当に嬉しいと思った。
皇帝との夫婦の関係がどうなっているのか、香子は知らない。皇后が話してくれるならば聞くだろうが、香子から聞くつもりはなかった。
香子の両隣に玄武と白虎が腰かけている。四神はいつだって香子を膝に乗せておきたいようだが、石でできた椅子は小さいので、香子は一人で座ると決めていた。椅子ぐらい一人で座らせてもらいたいものである。
軽く時候の挨拶など他愛のない話をしてから、
『明日にでも玄武様の領地へ見学に向かいたいと思っています』
と香子は皇太后に伝えた。
『……まだ決定ではないのですね?』
『はい。どちらへ向かうか決める為に見学に参ります』
香子はきっぱりと答えた。
現時点で白虎の領地へ向うことはないと、すでに香子は決めている。それは白虎の眷属が如何に料理を習おうと覆ることはない。
白虎は言葉を間違えたのだ。
だから、最初の選択肢からは消えてしまった。
あくまで最初の、である。
『……西へ向かう可能性はありますかのぅ?』
皇太后に聞かれて苦笑した。西、と言われたら白虎の領地への話だろう。白虎は全く動揺することなく茶を啜っている。
『……まだどことは決めかねております』
香子はさらりと答えた。選択肢にないなんて、皇太后に伝える必要はない。
『これは無粋なことを。申し訳ありません』
皇太后は笑んだ。
それからは玄武の領地はどのようなところなのかという話になった。玄武は、
『一年を通して暑くなることはない』
と答えた。それはそうだろうと香子は思った。気候のことはわかっているが、街並みや見どころやそういうことである。玄武はいろいろな場所を知っているはずだが、そこが見どころとは考えていないようだった。そういうものかもしれないと香子も納得した。
『北へ向かったことはありませんなぁ。夏は避暑にいいのでしょうか』
『避暑にはなるだろうが。ここからは遠いのではないか』
『それもそうですね』
玄武の答えに、皇太后は頷いた。
『……避暑と言えば、承徳に宮殿があるのではないですか?』
香子は元の世界にいた時、友人と承徳に行ったことがあった。承徳にはかつて皇族が利用していた避暑山荘があったはずである。
ただ、香子は承徳に行ったは行ったが、特にこれといった印象はなかった。行きは電車(火車)で五時間座っていき、現地の旅行会社に山に連れて行かれたり、帰りは電車の時間にうまく接続できないからと長距離バスに乗せられて散々な目に遭ったというぐらいである。こんなことなら別にタクシーをチャーターして、観光をし、帰りはまた電車で帰ればよかったと思ったぐらいだ。
なんにせよ当たり外れはあるものなので、そういう意味で印象は薄かった。
ただ、承徳で食べたヘーゼルナッツを使った料理はおいしかなったなと思った。香子はどこまでも食いしん坊らしい。
皇太后は目を丸くした。
『……花嫁様はよくご存知ですのぅ』
『元の世界では普通に観光できる場所でしたので』
『何度聞いても信じられませんが、誰でも行ける場所になっているというのは面白いものですな』
皇太后はそう言って、ほ、ほ、と笑った。
『ところで、玄武様の領地へは何日滞在されるご予定ですか?』
『一晩です』
そう答えれば、皇太后は笑んだ。わかっているくせにと香子は思うがあえて言わない。
こうして聞くことで、香子が最終的にどの領地に行くのかを予想しているのだろう。もしかしたら賭けでもしているのかもしれないと香子は思う。
香子がどの神に嫁ぐかということが娯楽になっているのならばそれはそれでいいと香子は思う。
(いろんなことがあったなぁ……)
異世界トリップしてこちらの世界に来てから一年が過ぎた。なかなか気持ちが安定しなかったというのもあるが、香子としてはずっとジェットコースターに乗せられていたような気分である。穏やかな日もあったといえばあったが、夜は必ず愛されていたし、一人になれるという環境もなかった。いわば気の休まる時がなかったいうのが正しい。
『花嫁様の決断、楽しみにしておりますぞ』
皇太后はそう言って、楽しそうに笑んだ。
『……戻ってきても、すぐには決められないと思います』
それだけは香子も言わせてもらった。玄武の領地に行ったから、はい、どこそこに行きますと名言できるものではないはずだ。
香子もいろいろ複雑なのである。
(自分のことだし……)
『そうですな。花嫁様と四神が後悔されないよう、お願いいたします』
『はい……』
後悔といえば、と香子は考える。
以前から気になっていたことを四神に尋ねるいい機会だと香子は思った。ただ、聞いたことで寝室に連れ込まれてしまう危険もはらんでいる。そういうことを、香子は四神に聞こうとしていた。
聞くのは四神宮に戻ってからにしようと、香子は思ったのだった。
御花園の四阿で、香子はそう皇太后に拗ねてみせた。以前であれば『なんと失礼な!』といきり立ったであろう皇后もコロコロ笑っている。香子は皇后が穏やかに過ごせるようになったことが本当に嬉しいと思った。
皇帝との夫婦の関係がどうなっているのか、香子は知らない。皇后が話してくれるならば聞くだろうが、香子から聞くつもりはなかった。
香子の両隣に玄武と白虎が腰かけている。四神はいつだって香子を膝に乗せておきたいようだが、石でできた椅子は小さいので、香子は一人で座ると決めていた。椅子ぐらい一人で座らせてもらいたいものである。
軽く時候の挨拶など他愛のない話をしてから、
『明日にでも玄武様の領地へ見学に向かいたいと思っています』
と香子は皇太后に伝えた。
『……まだ決定ではないのですね?』
『はい。どちらへ向かうか決める為に見学に参ります』
香子はきっぱりと答えた。
現時点で白虎の領地へ向うことはないと、すでに香子は決めている。それは白虎の眷属が如何に料理を習おうと覆ることはない。
白虎は言葉を間違えたのだ。
だから、最初の選択肢からは消えてしまった。
あくまで最初の、である。
『……西へ向かう可能性はありますかのぅ?』
皇太后に聞かれて苦笑した。西、と言われたら白虎の領地への話だろう。白虎は全く動揺することなく茶を啜っている。
『……まだどことは決めかねております』
香子はさらりと答えた。選択肢にないなんて、皇太后に伝える必要はない。
『これは無粋なことを。申し訳ありません』
皇太后は笑んだ。
それからは玄武の領地はどのようなところなのかという話になった。玄武は、
『一年を通して暑くなることはない』
と答えた。それはそうだろうと香子は思った。気候のことはわかっているが、街並みや見どころやそういうことである。玄武はいろいろな場所を知っているはずだが、そこが見どころとは考えていないようだった。そういうものかもしれないと香子も納得した。
『北へ向かったことはありませんなぁ。夏は避暑にいいのでしょうか』
『避暑にはなるだろうが。ここからは遠いのではないか』
『それもそうですね』
玄武の答えに、皇太后は頷いた。
『……避暑と言えば、承徳に宮殿があるのではないですか?』
香子は元の世界にいた時、友人と承徳に行ったことがあった。承徳にはかつて皇族が利用していた避暑山荘があったはずである。
ただ、香子は承徳に行ったは行ったが、特にこれといった印象はなかった。行きは電車(火車)で五時間座っていき、現地の旅行会社に山に連れて行かれたり、帰りは電車の時間にうまく接続できないからと長距離バスに乗せられて散々な目に遭ったというぐらいである。こんなことなら別にタクシーをチャーターして、観光をし、帰りはまた電車で帰ればよかったと思ったぐらいだ。
なんにせよ当たり外れはあるものなので、そういう意味で印象は薄かった。
ただ、承徳で食べたヘーゼルナッツを使った料理はおいしかなったなと思った。香子はどこまでも食いしん坊らしい。
皇太后は目を丸くした。
『……花嫁様はよくご存知ですのぅ』
『元の世界では普通に観光できる場所でしたので』
『何度聞いても信じられませんが、誰でも行ける場所になっているというのは面白いものですな』
皇太后はそう言って、ほ、ほ、と笑った。
『ところで、玄武様の領地へは何日滞在されるご予定ですか?』
『一晩です』
そう答えれば、皇太后は笑んだ。わかっているくせにと香子は思うがあえて言わない。
こうして聞くことで、香子が最終的にどの領地に行くのかを予想しているのだろう。もしかしたら賭けでもしているのかもしれないと香子は思う。
香子がどの神に嫁ぐかということが娯楽になっているのならばそれはそれでいいと香子は思う。
(いろんなことがあったなぁ……)
異世界トリップしてこちらの世界に来てから一年が過ぎた。なかなか気持ちが安定しなかったというのもあるが、香子としてはずっとジェットコースターに乗せられていたような気分である。穏やかな日もあったといえばあったが、夜は必ず愛されていたし、一人になれるという環境もなかった。いわば気の休まる時がなかったいうのが正しい。
『花嫁様の決断、楽しみにしておりますぞ』
皇太后はそう言って、楽しそうに笑んだ。
『……戻ってきても、すぐには決められないと思います』
それだけは香子も言わせてもらった。玄武の領地に行ったから、はい、どこそこに行きますと名言できるものではないはずだ。
香子もいろいろ複雑なのである。
(自分のことだし……)
『そうですな。花嫁様と四神が後悔されないよう、お願いいたします』
『はい……』
後悔といえば、と香子は考える。
以前から気になっていたことを四神に尋ねるいい機会だと香子は思った。ただ、聞いたことで寝室に連れ込まれてしまう危険もはらんでいる。そういうことを、香子は四神に聞こうとしていた。
聞くのは四神宮に戻ってからにしようと、香子は思ったのだった。
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