異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
上 下
577 / 608
第4部 四神を愛しなさいと言われました

125.四神全ての花嫁なのです

しおりを挟む
 侍女たちがやってきて、嬉々として香子の髪型や衣裳を整えて戻っていった。
 居間でお茶を淹れてもらい、ほっと一息ついたところで白虎が迎えにやってきた。
 それなりにいいタイミングである。四神間で連絡をしているのか、それとも侍女や眷属が香子の動きをよく見て報告しているのかどうか、香子は知らない。知ったところでどうするのだという思いもあり、香子も特に聞いたりはしなかった。

『白虎様』
香子シャンズ

 白虎は一度香子を抱き上げ、そのまま長椅子に腰かけた。
 侍女が白虎にも茶を淹れる。白雲は長椅子の脇に控えた。
 香子は無意識で白虎の胸に顔を擦り寄せた。

『……そなにかわいいことをすると、襲ってしまうぞ』
『……だめです』

 すぐにエロい方向へ持っていこうとする、と香子は膨れた。その頬を白虎が撫でる。
 こういう、穏やかな甘い時間が香子は好きだ。四神も香子とくっついていることで満たされるようで、やはり四神と花嫁というのは対なのだなと香子も思う。

(でも四神は四人で、花嫁は一人なんだよねぇ)

 花嫁の負担が大きすぎるのではないかと常々香子は思っている。だが香子の身体もまた人ではなくなっているので、四神の愛を存分に受け止めることができてしまう。
 それに、四神はまっすぐだ。
 本当に香子以外見ていないから、溢れんばかりの愛情で満たされるのがわかってしまう。

(以前は……こんなに素直に受け取れなかったのに……)

 お茶を啜りながら、香子はこの一年をぼんやりと振り返った。四神はずっと香子以外見ていない。気持ちが変化したのは香子の方である。
 よくわからないまま触れられて、混乱し、元の世界の倫理観に翻弄され、だが香子は四神を受け入れた。
 香子はため息を吐いた。

『香子、如何した?』
『……私の身は一つですから悩みが多いのです……』

 白虎が喉の奥でクククと笑った。

『ならば……攫ってしまうか』

 部屋にいる者たちがぎょっとした顔をする。
 香子は笑った。

『白虎様、だめですよ。そんなことをしたら嫌いになってしまいます』
『……それは困るな』

 実際には嫌いになどならないだろうと香子は思う。攫われたら攫われたで納得して白虎の領地にいるに違いない。ただ、領地の料理事情だけは改善してもらいたいとは思う。

『……白虎様に攫われたら、花嫁様は白虎様をお嫌いになるのですか!?』

 それに反応したのは白風だった。そういえば面倒くさいのがいた、と香子は思い出した。

『白風、控えよ』

 白雲が窘める。

『いいえ、黙ってはいられませぬ。花嫁様は白虎様と愛し合っていらっしゃるはずです。なのにどうして……』
『黙れ』

 白虎が低い声を発した。

『……白雲、その粗忽者を領地に帰らせろ』

 それは眷属にとってクビ宣言に他ならない。白風は青ざめた。

『白虎様』

 香子は白虎の腕に触れた。

白風バイフォンは白虎様の眷属ですからそう思ってしまうのもしかたありません』
『香子』
『ですが私は四神の花嫁です。私の夫は白虎様だけではないのですよ』

 これは白風に伝えた。

『……そ、それは重々承知して……』
『そなたが納得しようがしまいが、私が四神の花嫁であることに代わりはない。これ以上白虎様に恥をかかせるつもりなら領地へ帰りなさい。私にしっかり仕えるつもりなら、その軽率な言動を改めなさい。いいですね?』
『た、たいへん申し訳ありません!』

 白風はその場に伏した。
 眷属は己の神が一番であるが故に暴走してしまうものである。暴走しなくても己の神をけしかけるようなこともあるので注意が必要だ。
 楊芳芳は静かに平伏した。白風を止められなかったことを詫びているのだろう。香子は気にするなと手をひらひらした。
 例えここに延夕玲がいたとしても白風を止めることはできなかっただろうと香子は思うのだ。彼女たちはよく白風を教育してくれているようだが、眷属と人というのはのである。まして女性の眷属は数が少ないので特に蝶よ花よととても大事に育てられている。
 黒月は今でこそ香子の守護であると香子を一番に考えてくれているが、そんなことはめったにないのだ。

『白虎様、室に連れて行ってくださいませ。もふもふしたいです』
『そなたは……』

 白虎は苦笑したが、香子を抱いたまま立ち上がり、香子の望むようにした。


 白虎の室に移動して、香子は深くため息を吐いた。

『玄武兄を呼んだぞ』
『ありがとうございます』

 昼間であっても、白虎がその本性を現わすと理性を保つのが難しい。その為、必ず誰かが側にいるようにしている。その気遣いがありがたいと香子は思っていた。
 寝室に移動して、白虎はそっと香子をベッドに下ろす。そうしてから本性を現わした。

『……素敵です……』

 香子はうっとりと呟いて、その美しい真っ白の毛皮にダイブした。

(はー……もふもふ……もふもふー……)

 香子にとって至福のひと時である。この姿の白虎に抱かれるのはいつだって怖いが、こうして寄り添ってくっついて撫でさせてもらうのは幸せだった。

『なかなかに複雑ではあるな……』

 本性を現わすと白虎の声は更に低くなる。それをうっとりと聞きながら、香子は白虎を堪能した。
 いつのまにか玄武が来ていたことも気づかなかったほどである。

(最高の癒し……)

 だがやはり、白虎の領地に向かう決心はつかなかった。
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

処理中です...