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第4部 四神を愛しなさいと言われました

122.胸の高鳴りが止められないのです

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「……はうううう~……」

 玄武と朱雀に甘く激しく愛された翌朝、香子は床単シーツを頭まで引き上げて悶えていた。行為中は夢中で何を言っているとか、何をされているのかはよくわからない。だが翌朝にはそれがありありと思い出されてしまうので、毎回こうして悶えているのである。
 これだけ四神に抱かれているというのに、香子はいつまで経っても慣れない。
 そんな香子を玄武も朱雀も好ましく思っていた。

香子シャンズ

 床単の上から、玄武がそっと香子を抱きしめた。

『そろそろそなたの顔を見せてはくれぬか?』
「あう……」

 甘いバリトンの囁きに、香子はすぐに陥落した。
 もぞもぞと床単から半分だけ顔を出す。するととても嬉しそうな顔をした玄武と目が合った。

『わ……あ……』

 あまり表情が動かないはずの玄武の綻んだ顔に、香子は胸がきゅううっとなるのを感じた。これがときめきなのかと、香子は胸を喘がせた。

『香子』

 床単をそっとはがされ、玄武の顔が近づいてくる。
 そのまま唇が塞がれて、香子は陶然となった。
 だがなし崩し的に朝から昨夜の続きが始まることはない。
 何故なら。
 ぐううううう~~……と香子のおなかが鳴る。香子は真っ赤になった。

『……伝えてはある』

 ベッドの反対側にいたらしい朱雀が身体を起こしてそう言った。朱雀も昨夜は一緒に寝たらしい。
 玄武は香子の舌を舐めると、名残惜しそうに唇を離した。そして玄武、朱雀、香子は少し笑った。


 朝食を終えて食休みをしてからは青龍との時間だった。
 今日は日中は白虎と過ごすのではないかと香子は思ったが、白虎は三日間も香子を独占したので青龍が白虎と話したらしい。

『そなたと過ごす時間を白虎兄に代わっていただいた』

 青龍は涼やかな声でそう香子に告げた。

『そうですか。……あの』

 香子としては些か複雑だった。
 青龍の室である。居間の長椅子に腰かけた青龍の上に、香子は横抱きにされてお茶を飲んでいた。
 その頬を青龍の手が優しく撫でた。

『……わかっている。今は触れるだけだ』

 そう言いながらも青龍の黒い瞳は寂しそうに揺れている。表情はあまり動かないが、その分瞳が正直だと香子は思った。だからといってここで絆されて抱かれるわけにもいかない。
 流されたら楽かもしれないが、後悔するのは香子なのである。

(そのうち、そういうのも気にならないぐらい抱かれたくなるのかな……)

 そんなことをぼんやり思って、香子はうっすらと頬を染めた。

『……香子』
『はい?』
『その顔は反則だ』
『えっ?』

 持っていた蓋椀をやんわりと奪われて卓に置かれた。
 青龍は香子を抱いたまま立ち上がり、戸惑う香子を寝室へ運んでしまう。

『青龍さ、ま……』
『……あまり煽ってくれるな』
『えっ? 煽って、なん……んっ……』

 本当にちょっとした香子の仕草が四神の心に触れるらしい。日中だというのに香子は剥かれて、抱かれる一歩手前まで愛撫をされてしまったのだった。


「あああああ~~~~、もうっ!」

 夕食前に一旦部屋に戻されて、香子は声を上げた。
 青龍が色っぽすぎる! と香子は憤った。

「あんなのっ、あんなのぉっ……!」

 香子がこうやって叫んでいるのはよくあることなので延夕玲は気にしない。部屋の外で控えている黒月も同様である。
 紅児も慣れてはいるが、四神がまた香子に無体を働いた結果だとわかっているので心中穏やかではない。白風は少し不満そうだった。

『花嫁様』

 白風がそんな香子に声をかけた。途端に部屋の中の空気が緊迫する。けれど香子はそれに気づいていない。

『なあに?』
『もしや青龍様にひどいことを……』
『青龍様がかようなことをするはずがありません』

 白風の科白に被せるようにして夕玲が否定した。

『……延殿は見ていたわけではないでしょう』
『花嫁様ははっきりした御方です。どなたかに無体を働かれたなら、黙ってはいません。青龍様は花嫁様を深く愛しておいでです』
『白虎様も、天に届く珠穆朗玛峰(エベレスト)に負けぬほど花嫁様を愛していらっしゃいます』
「ええー……」

 いきなり始まった夕玲と白風の争いを見て、香子は困ってしまった。

『や、止めよう?』

 そう声をかけながら、こっちの世界にもエベレストがあるんだなぁとかのん気なことを香子は思った。
 夕玲にキッと睨まれる。

『……花嫁様』
『は、はいっ!』
『結局どなたの領地へ向われるおつもりなのですか!? すでに婚礼は挙げられているのですからそろそろお決めくださいませ!』
『え、えーと……』

 香子は目を泳がせる。矛先が自分に来てしまい、香子は戸惑った。

『ま、まだ玄武様の領地を見学していないし……』
『……そうですね。玄武様のご領地の見学に行かれたらお決めになるのですよね?』
『そ、そのつもり、です……』

 ずずいっと迫ってくる夕玲の笑みが、香子はとても怖いと思った。なにせ目が笑っていないのである。

『延殿、花嫁様が怯えていらっしゃるではないですか!』

 白風が更に言う。頼むから空気を少しは読んでくれと香子は思う。

『……白風、大丈夫よ。それよりおなかがすいたから、支度を手伝ってくれない?』
『失礼しました!』

 そう、夕飯前なのである。
 他の侍女たちが呼ばれ、衣裳と髪型を整えられたら青龍が悠然とやってきた。そして当たり前のように香子を抱き上げる。

『お迎えに……来てくださらなくてもよかったのに……』
『そなたとは片時も離れたくないのだ』
『~~~~~っ!』

 香子は胸がきゅーんとして、たまらなくなったのだった。
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