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第4部 四神を愛しなさいと言われました
120.巻き込まないでほしいのです
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白虎が部屋から出て行った後、香子は「はーーっ……」と深く息を吐いた。
紅児がお茶を淹れた。心配そうな顔をしている。
香子は笑んだ。
そしてお茶を啜る。
『疲れた……』
ポツリと呟いた。
『花嫁様』
白風が嬉しそうに声をかけてきた。嬉しそう、とは言っても四神も眷属もあまり表情が動かない為、香子は雰囲気を感じ取っているだけである。延夕玲が一瞬眉を寄せた。楊芳芳がスッと目を細める。
怖い、と香子は思った。
『なあに?』
『白虎様はとても素敵ですよね』
『ええ、そうね』
素敵というのは間違いない。
『白虎様の腕の中に囚われていたいと思いますよね』
『うん?』
何が言いたいのかこの眷属はと、香子はいぶかしげな顔をした。
『……白風、誘導してはなりません』
夕玲が笑みを浮かべて窘めた。
『お尋ねするぐらい、よいではありませんか』
『それは尋ねているのではありません。言葉の勉強もした方がいいのではなくて?』
『なっ……我は貴方たちよりもはるかに長命なのですよ!?』
そうなんだろうなぁと香子は思う。ここにすんなり来たということは成人しているのではないだろうか。黒月は例外だが、白風は少なくとも五十年以上生きていることに間違いはない。
でもなぁと香子は改めて考える。
どんなに長生きしていたとしても、環境や性格によって学べるものは違うはずだ。
ちら、と夕玲たちと白風を見やる。
白風は女性だから、今まで白虎の領地から一歩も出ることなく大事に育てられたに違いない。
『お茶、ごちそうさま。疲れたから少し休むわね』
そう言って、香子は寝室へ向かった。
なんだか、自分の足で歩いたのは久しぶりだと思った。
『……ほんに、疲れたのだな』
涼やかな声が囁かれた。澄んでいて、その声に溶けてしまいそうだと香子はぼんやり思う。
力強い腕に抱きこまれて、香子はふふっと笑んだ。この腕の中は安心していいところだと知っている。
というよりも、四神の腕の中はいつだって安心できるのだ。
髪を優しく撫でる手の動きが心地いい。香子は無意識に、その胸に頭を擦り寄せた。
『ほんに香子は愛らしい。……何故このように愛しい存在を厭うたのか。思い込みというのは怖いものだな』
香子はそのまま夕飯だと声をかけられるまで眠った。
目が覚めた時、香子は青龍の腕の中にいた。
「? え? なんで? どうして?」
動揺しすぎて元の言葉が出てしまった。そんな香子を青龍が笑いながら改めて抱きしめる。くっついているから、言葉が違っても香子が言いたいことは青龍にもわかった。そうでなくてもこの雰囲気で言いそうなことはわかるだろう。
『どうしてもそなたと過ごしたくてな』
「あ……」
それで青龍は香子に添い寝していたらしい。寝ている間に手を出されなかったということだけでもポイントが高いのに、そんなことを言われたら胸がきゅーんとなってしまう。香子は頬が熱くなるのを感じた。
『そ、そうでした、か……』
『さすがに三日は疲れただろう。我と過ごすのは明日の夜からでよいな?』
『はい……って、えええええ?』
『言質はとったぞ。優しくする故、頼む』
「あうううううう……」
至近距離でなによりも美しい顔を見せながらそんなことを言うのはずるいと香子は思う。青龍の涼やかな声もそうだが、体格も全てが香子の好みなのである。天皇は香子の好みがわかっていて四神を用意したのかと思ってしまうぐらいだ。
実際にはそんなことはないだろうが。
『……準備が必要じゃありませんか』
『話はつけてある』
『そんなああああ!』
どこまで青龍は用意周到なのだろう。そこまで思ってから香子ははっとした。
『も、もしかして……』
『うん?』
『夕玲、ですか? 青龍様に提案したのは……』
『……そういうこともあるやもしれぬな』
青龍はそっと目を逸らし、否定はしなかった。
香子はため息をついた。
女同士の争いに香子を巻き込まないでほしい。
とりあえず夕飯に呼ばれたので、衣服と髪型を整えてもらい青龍に食堂まで運ばれた。
そんなわけで、香子は夕飯を食べている間もなんとなく不機嫌だった。
視線を下に向ければたわわな胸が見える。胸のおかげで足下が見えないとか初めて経験していると香子は思う。
『髪の色を固定する為に丸一日……でも胸の大きさの固定には三日も必要だったんですね』
『髪の色と体型では比べようがなかろう』
白虎に言われ、香子は頷いた。
『でも、たいへんでしたから』
そこに至るまでの葛藤もある。そもそも白虎に抱かれるということのハードルが高いのだ。いくらもふもふをこよなく愛す香子であっても、そのもふもふに抱かれるということは許容範囲外だったのである。
玄武、朱雀、青龍に抱かれることで心がある程度安定し、それで白虎にやっと抱かれることができるようになったにすぎない。
ごはんはいつも通りおいしかった。
香子が大好きな清蒸魚(蒸した魚に白髪ねぎやしょうがなどをのせ、高温に熱した油を回しかけた料理)も大きな物が出された。いつもこんな大きなお皿をどこにしまっているのだろうと香子は思う。
口から尾までで1mを超えていそうな魚である。
魚介類は主に香子の為に用意されているので、香子は遠慮なく白身魚をいただいた。
『おいしい……魚ってどうしてこんなにおいしいのでしょう。やっぱり厨師のおかげですね』
魚というだけでおいしいのではない。それをおいしく調理してくれる人がいて初めて食べられるのだと、香子は感謝を忘れないようにした。
そして香子の呟きを聞いた侍女たちは、後ほど厨房へそれを伝えに行くのだった。
紅児がお茶を淹れた。心配そうな顔をしている。
香子は笑んだ。
そしてお茶を啜る。
『疲れた……』
ポツリと呟いた。
『花嫁様』
白風が嬉しそうに声をかけてきた。嬉しそう、とは言っても四神も眷属もあまり表情が動かない為、香子は雰囲気を感じ取っているだけである。延夕玲が一瞬眉を寄せた。楊芳芳がスッと目を細める。
怖い、と香子は思った。
『なあに?』
『白虎様はとても素敵ですよね』
『ええ、そうね』
素敵というのは間違いない。
『白虎様の腕の中に囚われていたいと思いますよね』
『うん?』
何が言いたいのかこの眷属はと、香子はいぶかしげな顔をした。
『……白風、誘導してはなりません』
夕玲が笑みを浮かべて窘めた。
『お尋ねするぐらい、よいではありませんか』
『それは尋ねているのではありません。言葉の勉強もした方がいいのではなくて?』
『なっ……我は貴方たちよりもはるかに長命なのですよ!?』
そうなんだろうなぁと香子は思う。ここにすんなり来たということは成人しているのではないだろうか。黒月は例外だが、白風は少なくとも五十年以上生きていることに間違いはない。
でもなぁと香子は改めて考える。
どんなに長生きしていたとしても、環境や性格によって学べるものは違うはずだ。
ちら、と夕玲たちと白風を見やる。
白風は女性だから、今まで白虎の領地から一歩も出ることなく大事に育てられたに違いない。
『お茶、ごちそうさま。疲れたから少し休むわね』
そう言って、香子は寝室へ向かった。
なんだか、自分の足で歩いたのは久しぶりだと思った。
『……ほんに、疲れたのだな』
涼やかな声が囁かれた。澄んでいて、その声に溶けてしまいそうだと香子はぼんやり思う。
力強い腕に抱きこまれて、香子はふふっと笑んだ。この腕の中は安心していいところだと知っている。
というよりも、四神の腕の中はいつだって安心できるのだ。
髪を優しく撫でる手の動きが心地いい。香子は無意識に、その胸に頭を擦り寄せた。
『ほんに香子は愛らしい。……何故このように愛しい存在を厭うたのか。思い込みというのは怖いものだな』
香子はそのまま夕飯だと声をかけられるまで眠った。
目が覚めた時、香子は青龍の腕の中にいた。
「? え? なんで? どうして?」
動揺しすぎて元の言葉が出てしまった。そんな香子を青龍が笑いながら改めて抱きしめる。くっついているから、言葉が違っても香子が言いたいことは青龍にもわかった。そうでなくてもこの雰囲気で言いそうなことはわかるだろう。
『どうしてもそなたと過ごしたくてな』
「あ……」
それで青龍は香子に添い寝していたらしい。寝ている間に手を出されなかったということだけでもポイントが高いのに、そんなことを言われたら胸がきゅーんとなってしまう。香子は頬が熱くなるのを感じた。
『そ、そうでした、か……』
『さすがに三日は疲れただろう。我と過ごすのは明日の夜からでよいな?』
『はい……って、えええええ?』
『言質はとったぞ。優しくする故、頼む』
「あうううううう……」
至近距離でなによりも美しい顔を見せながらそんなことを言うのはずるいと香子は思う。青龍の涼やかな声もそうだが、体格も全てが香子の好みなのである。天皇は香子の好みがわかっていて四神を用意したのかと思ってしまうぐらいだ。
実際にはそんなことはないだろうが。
『……準備が必要じゃありませんか』
『話はつけてある』
『そんなああああ!』
どこまで青龍は用意周到なのだろう。そこまで思ってから香子ははっとした。
『も、もしかして……』
『うん?』
『夕玲、ですか? 青龍様に提案したのは……』
『……そういうこともあるやもしれぬな』
青龍はそっと目を逸らし、否定はしなかった。
香子はため息をついた。
女同士の争いに香子を巻き込まないでほしい。
とりあえず夕飯に呼ばれたので、衣服と髪型を整えてもらい青龍に食堂まで運ばれた。
そんなわけで、香子は夕飯を食べている間もなんとなく不機嫌だった。
視線を下に向ければたわわな胸が見える。胸のおかげで足下が見えないとか初めて経験していると香子は思う。
『髪の色を固定する為に丸一日……でも胸の大きさの固定には三日も必要だったんですね』
『髪の色と体型では比べようがなかろう』
白虎に言われ、香子は頷いた。
『でも、たいへんでしたから』
そこに至るまでの葛藤もある。そもそも白虎に抱かれるということのハードルが高いのだ。いくらもふもふをこよなく愛す香子であっても、そのもふもふに抱かれるということは許容範囲外だったのである。
玄武、朱雀、青龍に抱かれることで心がある程度安定し、それで白虎にやっと抱かれることができるようになったにすぎない。
ごはんはいつも通りおいしかった。
香子が大好きな清蒸魚(蒸した魚に白髪ねぎやしょうがなどをのせ、高温に熱した油を回しかけた料理)も大きな物が出された。いつもこんな大きなお皿をどこにしまっているのだろうと香子は思う。
口から尾までで1mを超えていそうな魚である。
魚介類は主に香子の為に用意されているので、香子は遠慮なく白身魚をいただいた。
『おいしい……魚ってどうしてこんなにおいしいのでしょう。やっぱり厨師のおかげですね』
魚というだけでおいしいのではない。それをおいしく調理してくれる人がいて初めて食べられるのだと、香子は感謝を忘れないようにした。
そして香子の呟きを聞いた侍女たちは、後ほど厨房へそれを伝えに行くのだった。
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