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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
96.いまいち読めません
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今回の茶会には四神の誰それを連れてくるようにとの指定はなかったことから、紅児について聞かれるのだろうということは容易に想像がついた。四神宮の侍女に誰がなろうとこちらの勝手のはずだと香子は思うのだが、そうもいかないのが世の中らしい。面倒くさいものである。
明日のことである。四神はどなたが付き添ってくれるのかと首を傾げて尋ねれば、彼らはしばし顔を見合わせ、結局玄武が一緒に来てくれることとなった。最初は玄武と白虎が行くようなことを言っていたが、さすがに指定されたわけでもないのに二神が行く必要はないだろうとお断りした。白虎だけなら黒月が難色を示したかもしれないが、玄武も共に参加するならば安心だろう。
延夕玲に確認させ、出席者は皇太后、皇后、徳妃ということがわかった。徳妃のところにも四神宮の侍女に推薦してほしいという申し出がいったのだろうか。
(だから、四神宮に勤めて何をさせたいのよ……)
出世には一番遠い場所だと思うのだが、身分のある人々の考えというのは本当にわからない。嫌な考えが一瞬脳裏をよぎったが、香子は軽く首を振って忘れることにした。
翌日の昼食後、香子は侍女たちによって黒地に緑の、玄武の刺繍がされた衣装で慈寧宮へ向かった。別段玄武との関係を強調する必要もないので簪などは少なめである。あまり華美にして女性陣を刺激しないようにとの判断だ。いちいち理由を聞いているとうんざりしてしまうので、香子ももうそこらへんはスルーすることにしていた。
『此度は玄武様とかえ。映えるのぅ』
いつも通り建物の表まで迎えに出てきた皇太后が楽しそうに笑む。
『老佛爷、茶会にお招きいただきありがとうございます』
玄武の腕の中から礼を言うのはいつものこと。そして目を伏せてはいるが皇后からの不満はよく伝わってくる。
(なんかわかってやだなぁ……)
だからといって皇后が何かできるはずもない、と香子は思っていたがそれは正確ではなかった。
『異国からの客人を侍女にしたと聞いたが』
きた、と香子は内心冷汗をかく。表面はあくまでにこやかに答えた。
『はい、どうも海向こうにある大陸の大国から来たそうです』
『ほほう。海向こうというと、セレスト王国かのぅ』
『老佛爷はなんでもご存知でいらっしゃるのですね』
『なに、かつてあの国の庶民の常識というのを聞いたことがあってのぅ。目を剥いたものじゃ』
『そうですね。国によって常識が違うので面白いと思います』
皇后と徳妃が聞きたそうな表情をしたが皇太后はあえて気付かないふりをした。なので香子も当たり障りのない返事に留めた。
(セレスト王国の庶民の常識? あとでエリーザに教えてもらおうっと)
もちろん正直に知らない、なんて顔はしない。
『失礼ですが、その娘の話は信用に値するのでしょうか?』
皇后の口からもっともな質問が飛び出す。
『四神に判断してもらいました。大丈夫です』
『……まぁ、でしたら安心ですわね……』
にっこりと笑んで返すと、皇后は驚いたように一瞬目を見開いた。そして、そこで黙るかと思ったがそうでもなかった。
『ですが花嫁様、侍女一人の話を聞くのに四神を同席させるのは失礼ではありませんか。そのようなことは本来花嫁様さえも関わることではございませんよ』
確かに雇い入れに関しては趙文英たちに任せるのが普通だろう。しかし今回はケースがケースだけに口を挟まないわけにはいかなかった。
『まだ慣れないもので……。勉強になります』
香子の椅子と化している玄武の背後からブリザードもかくやと思うほどの冷気が漂ってくる。確認しなくても冷気を発している主ぐらいわかる。
(ははははは……)
円卓の斜め向かいに腰掛けている皇后は少し満足そうな笑みを浮かべていたが、玄武の背後からの威圧感を察したのか白い顔をひきつらせた。きっと誰かさんは人を殺せそうな表情をしているに違いないが、さすがに明らかに四神の眷属とわかる者を咎めることはできないのだろう。皇后は代わりに香子を睨みつけた。
なんという悪循環。香子はため息をつきたくなった。
その日はそこで終るものと思っていたが、
『皇后、そういえば何か用意したようなことを言ってはおらなんだか?』
皇太后の言葉に皇后がはっとしたような顔をした。
『そうでした。大祭にと美しい布を手に入れたのです。是非花嫁様に見ていただきたいのですが』
香子は眉をひそめそうになった。当然だが言葉通りの意味ではないだろう。
とはいえたまに顔を合わせる相手といつまでも反目しあっていたいわけではない。香子はちら、と皇太后を窺った。……何か企んでいるような笑みを浮かべている。
『それは妾も見てみたいものよのぅ』
『老佛爷も是非に』
『それは楽しみじゃのぅ、花嫁様』
『……そうですね』
会話の流れで布を見ることになっているのが解せない。天壇に皇后は入れない。つまり香子に用意した物で間違いないだろう。
『では後日準備が整いましたらご連絡いたしますわ』
(まー、ここに持って来させて済むものではないよね)
今度はとうとう後宮へ足を踏み入れることになりそうだ。香子は内心盛大にため息をついた。
明日のことである。四神はどなたが付き添ってくれるのかと首を傾げて尋ねれば、彼らはしばし顔を見合わせ、結局玄武が一緒に来てくれることとなった。最初は玄武と白虎が行くようなことを言っていたが、さすがに指定されたわけでもないのに二神が行く必要はないだろうとお断りした。白虎だけなら黒月が難色を示したかもしれないが、玄武も共に参加するならば安心だろう。
延夕玲に確認させ、出席者は皇太后、皇后、徳妃ということがわかった。徳妃のところにも四神宮の侍女に推薦してほしいという申し出がいったのだろうか。
(だから、四神宮に勤めて何をさせたいのよ……)
出世には一番遠い場所だと思うのだが、身分のある人々の考えというのは本当にわからない。嫌な考えが一瞬脳裏をよぎったが、香子は軽く首を振って忘れることにした。
翌日の昼食後、香子は侍女たちによって黒地に緑の、玄武の刺繍がされた衣装で慈寧宮へ向かった。別段玄武との関係を強調する必要もないので簪などは少なめである。あまり華美にして女性陣を刺激しないようにとの判断だ。いちいち理由を聞いているとうんざりしてしまうので、香子ももうそこらへんはスルーすることにしていた。
『此度は玄武様とかえ。映えるのぅ』
いつも通り建物の表まで迎えに出てきた皇太后が楽しそうに笑む。
『老佛爷、茶会にお招きいただきありがとうございます』
玄武の腕の中から礼を言うのはいつものこと。そして目を伏せてはいるが皇后からの不満はよく伝わってくる。
(なんかわかってやだなぁ……)
だからといって皇后が何かできるはずもない、と香子は思っていたがそれは正確ではなかった。
『異国からの客人を侍女にしたと聞いたが』
きた、と香子は内心冷汗をかく。表面はあくまでにこやかに答えた。
『はい、どうも海向こうにある大陸の大国から来たそうです』
『ほほう。海向こうというと、セレスト王国かのぅ』
『老佛爷はなんでもご存知でいらっしゃるのですね』
『なに、かつてあの国の庶民の常識というのを聞いたことがあってのぅ。目を剥いたものじゃ』
『そうですね。国によって常識が違うので面白いと思います』
皇后と徳妃が聞きたそうな表情をしたが皇太后はあえて気付かないふりをした。なので香子も当たり障りのない返事に留めた。
(セレスト王国の庶民の常識? あとでエリーザに教えてもらおうっと)
もちろん正直に知らない、なんて顔はしない。
『失礼ですが、その娘の話は信用に値するのでしょうか?』
皇后の口からもっともな質問が飛び出す。
『四神に判断してもらいました。大丈夫です』
『……まぁ、でしたら安心ですわね……』
にっこりと笑んで返すと、皇后は驚いたように一瞬目を見開いた。そして、そこで黙るかと思ったがそうでもなかった。
『ですが花嫁様、侍女一人の話を聞くのに四神を同席させるのは失礼ではありませんか。そのようなことは本来花嫁様さえも関わることではございませんよ』
確かに雇い入れに関しては趙文英たちに任せるのが普通だろう。しかし今回はケースがケースだけに口を挟まないわけにはいかなかった。
『まだ慣れないもので……。勉強になります』
香子の椅子と化している玄武の背後からブリザードもかくやと思うほどの冷気が漂ってくる。確認しなくても冷気を発している主ぐらいわかる。
(ははははは……)
円卓の斜め向かいに腰掛けている皇后は少し満足そうな笑みを浮かべていたが、玄武の背後からの威圧感を察したのか白い顔をひきつらせた。きっと誰かさんは人を殺せそうな表情をしているに違いないが、さすがに明らかに四神の眷属とわかる者を咎めることはできないのだろう。皇后は代わりに香子を睨みつけた。
なんという悪循環。香子はため息をつきたくなった。
その日はそこで終るものと思っていたが、
『皇后、そういえば何か用意したようなことを言ってはおらなんだか?』
皇太后の言葉に皇后がはっとしたような顔をした。
『そうでした。大祭にと美しい布を手に入れたのです。是非花嫁様に見ていただきたいのですが』
香子は眉をひそめそうになった。当然だが言葉通りの意味ではないだろう。
とはいえたまに顔を合わせる相手といつまでも反目しあっていたいわけではない。香子はちら、と皇太后を窺った。……何か企んでいるような笑みを浮かべている。
『それは妾も見てみたいものよのぅ』
『老佛爷も是非に』
『それは楽しみじゃのぅ、花嫁様』
『……そうですね』
会話の流れで布を見ることになっているのが解せない。天壇に皇后は入れない。つまり香子に用意した物で間違いないだろう。
『では後日準備が整いましたらご連絡いたしますわ』
(まー、ここに持って来させて済むものではないよね)
今度はとうとう後宮へ足を踏み入れることになりそうだ。香子は内心盛大にため息をついた。
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