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第4部 四神を愛しなさいと言われました
117.四神が片時も離れてくれなくて困っています
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本気で口説くとはどういうことなのかと香子は考える。
目の前にいる青龍に聞こうものなら、すぐに実践されてしまうだろう。とても危険な香りがするので、香子はまだ聞いてはいけないと自分の心にブレーキをかけた。
『そ、そのようなことをされずとも、私はすでに嫁いでおりますのに……』
これでごまかせるとは香子も思っていない。こうして牽制するぐらいしかできないだけである。
『だがそなたはまだ我の領地にいるわけではない。そなたを閉じ込めて、昼も夜もなく抱き合えて初めて我は安心するであろうな』
『ううう……』
香子は両手で自分の顔を覆った。その綺麗な面で迫らないでほしかった。
(だからっ、メンクイなんだって言ってるでしょおおおおお!)
『香子』
覆った手をやんわりと外され、更に青龍の顔が近づいてくる。
そうして口唇が重なった。
「んっ……」
半開きになっていた唇にするりと青龍の長い舌が入り込んでくる。そして香子の舌を優しく絡め取り、あやすように舐めた。
香子は、首の後ろが痺れるような感覚に襲われた。
口づけは優しいのに、青龍の腕は香子を抱きこんでいるからとても逃げられない。いつだって香子は四神の膝に乗せられているから、四神が香子をどうにかしようと思えばすぐにこうして彼女を翻弄することができる。
香子は力が入らない手で青龍の胸を軽く叩いた。
そんな風に口づけをされたら何もできなくなってしまう。
その手をやんわりと青龍に囚われて、香子は何度も青龍から口づけられてしまった。
「んっ、んっ……」
まだ昼間なのに身体に甘い感覚が走るのが香子は嫌だった。誰かの領地へ行ったなら、昼も夜もなく抱かれることが当たり前になってしまう。それはとても怖いと香子は思う。
『香子、そう怯えるな……』
「あっ……」
口づけの合間に背を撫でられてそう囁かれ、また唇を塞がれた。
(もー、青龍様のくせに……)
香子は内心悪態をついた。
青龍と過ごした翌日、張錦飛が来た。
香子に書を教える為である。
年が明けてから一度張はこちらに来ていたが、婚礼を挙げてからは初である。
『花嫁様、こたびはまことにおめでとうございます』
張はとても嬉しそうにそう言って平伏した。
『ありがとうございます。お立ち下さい』
香子は内心慌てて張に立ってもらった。本当は自ら張が立つのを手伝いたかったのだが、何故か今は玄武の腕の中である。香子の頭の中では盛大に?が飛び交っていた。
書を習うのに何故自分は玄武の腕の中にいるのだろう。
『張よ、苦労をかけるな』
『もったいないお言葉です。四神の花嫁に書を教えるなど、存外の喜びでございます』
張は玄武に声をかけられたことで、感激したように身を震わせた。
『すまぬが、見ていてもよいだろうか。どうも落ち着かぬ故、な』
『はい。なにかありましたらお声がけをお願いします』
そういえば張は四神の神官だったと香子は思い出した。皇太后とは違った熱を、香子は張に感じた。
そうしていつも通り茶室で書を習う。
見本の書を見ながら、張の指示を聞きつつできるだけ正確に筆を走らせる。しかしなかなか香子は上達しない。
『この角度はいいのですが……こちらは太すぎますな。もう少し力を抜いて書いてみましょう』
張も苦笑していた。
『婚礼の準備はたいへんだったと思いますがなぁ……』
いやはや、と張は顎髭を撫でる。
『申し訳ありません。なかなか専念できませんでした……』
『玄武様は付き合ってはくださらないのですかな?』
『あー……』
日中香子と過ごすのは白虎と青龍である。その二神が協力をしてくれないことにはなかなか書の練習もままならない。
椅子に腰かけて香子たちの様子を見守っていた玄武が、口角を上げた。
『我も明るいうちに香子と過ごせるのならば、付き合えるであろうな』
『ほうほう……野暮なことを申しました』
張がほっほっほっと笑う。その笑い方を見て、やっぱりバルタン星人かなと香子は思った。
かなりダメ出しをされながら、香子は真剣に書と向き合った。張は何度も困ったように顎鬚を撫でる。それを香子は申し訳なく思った。とにかく筆で字を書くということが、香子は不得手であった。
(私こんなに不器用だったのね……)
自分の能力を再認識して、香子はげんなりした。だが美しい字を書きたい気持ちはあるのだ。
せいぜい一小時(一時間)ほどであったが、神経を使う為香子もかなり疲れた。
『ありがとうございました……』
『婚礼を挙げられたこと、誠にめでたく存じます。またご尊顔を拝すことができ、これ以上の喜びはありませぬ。短い間ではございますが、書を通じて花嫁様と知己を得られた。老い先短い老人にとって、この上ない幸せでございました』
『張老師?』
香子は戸惑った。
張の言い方はまるで、今生の別れのようだったからだ。
『張よ』
玄武は香子を抱き上げ、張に声をかけた。
『香子が望むのであれば変わらず参るがよい。我らのことは気にするに能わず』
『もったいないお言葉でございます……』
香子はよくわからなかったが、その後玄武も交えて張とお茶をし、いつも通り張を見送ったのだった。
目の前にいる青龍に聞こうものなら、すぐに実践されてしまうだろう。とても危険な香りがするので、香子はまだ聞いてはいけないと自分の心にブレーキをかけた。
『そ、そのようなことをされずとも、私はすでに嫁いでおりますのに……』
これでごまかせるとは香子も思っていない。こうして牽制するぐらいしかできないだけである。
『だがそなたはまだ我の領地にいるわけではない。そなたを閉じ込めて、昼も夜もなく抱き合えて初めて我は安心するであろうな』
『ううう……』
香子は両手で自分の顔を覆った。その綺麗な面で迫らないでほしかった。
(だからっ、メンクイなんだって言ってるでしょおおおおお!)
『香子』
覆った手をやんわりと外され、更に青龍の顔が近づいてくる。
そうして口唇が重なった。
「んっ……」
半開きになっていた唇にするりと青龍の長い舌が入り込んでくる。そして香子の舌を優しく絡め取り、あやすように舐めた。
香子は、首の後ろが痺れるような感覚に襲われた。
口づけは優しいのに、青龍の腕は香子を抱きこんでいるからとても逃げられない。いつだって香子は四神の膝に乗せられているから、四神が香子をどうにかしようと思えばすぐにこうして彼女を翻弄することができる。
香子は力が入らない手で青龍の胸を軽く叩いた。
そんな風に口づけをされたら何もできなくなってしまう。
その手をやんわりと青龍に囚われて、香子は何度も青龍から口づけられてしまった。
「んっ、んっ……」
まだ昼間なのに身体に甘い感覚が走るのが香子は嫌だった。誰かの領地へ行ったなら、昼も夜もなく抱かれることが当たり前になってしまう。それはとても怖いと香子は思う。
『香子、そう怯えるな……』
「あっ……」
口づけの合間に背を撫でられてそう囁かれ、また唇を塞がれた。
(もー、青龍様のくせに……)
香子は内心悪態をついた。
青龍と過ごした翌日、張錦飛が来た。
香子に書を教える為である。
年が明けてから一度張はこちらに来ていたが、婚礼を挙げてからは初である。
『花嫁様、こたびはまことにおめでとうございます』
張はとても嬉しそうにそう言って平伏した。
『ありがとうございます。お立ち下さい』
香子は内心慌てて張に立ってもらった。本当は自ら張が立つのを手伝いたかったのだが、何故か今は玄武の腕の中である。香子の頭の中では盛大に?が飛び交っていた。
書を習うのに何故自分は玄武の腕の中にいるのだろう。
『張よ、苦労をかけるな』
『もったいないお言葉です。四神の花嫁に書を教えるなど、存外の喜びでございます』
張は玄武に声をかけられたことで、感激したように身を震わせた。
『すまぬが、見ていてもよいだろうか。どうも落ち着かぬ故、な』
『はい。なにかありましたらお声がけをお願いします』
そういえば張は四神の神官だったと香子は思い出した。皇太后とは違った熱を、香子は張に感じた。
そうしていつも通り茶室で書を習う。
見本の書を見ながら、張の指示を聞きつつできるだけ正確に筆を走らせる。しかしなかなか香子は上達しない。
『この角度はいいのですが……こちらは太すぎますな。もう少し力を抜いて書いてみましょう』
張も苦笑していた。
『婚礼の準備はたいへんだったと思いますがなぁ……』
いやはや、と張は顎髭を撫でる。
『申し訳ありません。なかなか専念できませんでした……』
『玄武様は付き合ってはくださらないのですかな?』
『あー……』
日中香子と過ごすのは白虎と青龍である。その二神が協力をしてくれないことにはなかなか書の練習もままならない。
椅子に腰かけて香子たちの様子を見守っていた玄武が、口角を上げた。
『我も明るいうちに香子と過ごせるのならば、付き合えるであろうな』
『ほうほう……野暮なことを申しました』
張がほっほっほっと笑う。その笑い方を見て、やっぱりバルタン星人かなと香子は思った。
かなりダメ出しをされながら、香子は真剣に書と向き合った。張は何度も困ったように顎鬚を撫でる。それを香子は申し訳なく思った。とにかく筆で字を書くということが、香子は不得手であった。
(私こんなに不器用だったのね……)
自分の能力を再認識して、香子はげんなりした。だが美しい字を書きたい気持ちはあるのだ。
せいぜい一小時(一時間)ほどであったが、神経を使う為香子もかなり疲れた。
『ありがとうございました……』
『婚礼を挙げられたこと、誠にめでたく存じます。またご尊顔を拝すことができ、これ以上の喜びはありませぬ。短い間ではございますが、書を通じて花嫁様と知己を得られた。老い先短い老人にとって、この上ない幸せでございました』
『張老師?』
香子は戸惑った。
張の言い方はまるで、今生の別れのようだったからだ。
『張よ』
玄武は香子を抱き上げ、張に声をかけた。
『香子が望むのであれば変わらず参るがよい。我らのことは気にするに能わず』
『もったいないお言葉でございます……』
香子はよくわからなかったが、その後玄武も交えて張とお茶をし、いつも通り張を見送ったのだった。
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