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第4部 四神を愛しなさいと言われました
114.白虎の領地はどうだったのかと聞かれました
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香子は一瞬固まった。
延夕玲が言った言葉を頭の中でくり返してみる。
(私が、青龍様にあまり抱かれたくないのか? って……)
抱かれたくないわけではない。ただ、そんな科白を夕玲の口から聞かされたことが意外過ぎてどう反応したらいいかわからないだけである。
『……も、申し訳ありません』
しかし夕玲はその沈黙を無礼と思ったようだった。頬を真っ赤に染めて平伏しようとした夕玲を、香子は止めた。
『謝る必要はないわ。夕玲がそんなことを聞いてくるなんて、ちょっと意外だっただけよ』
にっこりし、夕玲にも長椅子に腰かけるよう香子は促した。
『それはなりません』
『……命令よ』
『かしこまりました』
夕玲はしぶしぶ香子の隣に腰かけた。なんとも居心地が悪そうだが、香子に聞いたことが聞いたことだけにしかたないと諦めてもらうことにした。
『そうね。青龍様に抱かれたくないわけじゃないの。ただ、青龍様の特性上抱かれるとなると時間が長くなるから、ちょっと覚悟が必要なのよ』
『……青龍様の特性上、ですか?』
『ええ、四神によってその特性は違うの。さすがにそれは教えられないけど』
香子はそこまで言って、部屋の隅に控えている紅児をチラ、と見やった。案の定紅児は頬を染めて耐えていた。ここでいじってしまったらセクハラになってしまうだろうと、香子は見なかったことにした。
『そうなのですね……』
夕玲の頬は赤く染まったままだった。それを眺めながら、香子は内心、
(美少女の頬染め、ありがとうございます!)
と手を合わせて拝んでいた。絶対に誰にも見せられない図である。香子は表に出さないように耐えた。何度も言うが、香子はメンクイなのである。恋愛感情はないが、美少女を眺めるのも好きなのだ。きっとこんなことを黒月に知られたら冷たい目で見られてしまうことがわかっているし、侍女たちにも引かれてしまうことはわかっているので香子は耐えるのみである。
『……夕玲の不安はわかるけど、婚礼を挙げたらあとは青藍にお任せしてしまえばいいのよ』
『なっ……!?』
夕玲は絶句した。
あれ? これはセクハラじゃないよね? と香子は内心慌てたが、顔には出さなかった。
慈寧宮に向かう日となった。
昼食の後、香子は白虎の腕に抱かれて皇太后に会いに向かった。交渉事があった場合白虎だけでは不安だからと玄武も共にいる。四神を付き添いさせるとか贅沢すぎると香子も思うのだが、白虎でなくとも四神が共にいると皇太后が喜ぶので、香子はもう気にしないことにした。
白雲、黒月、夕玲、楊芳芳と侍女たちが付き従う。
『おお、よくいらした』
『老仏爺、本日はお招きありがとうございます』
白虎の腕の中から香子は挨拶した。今日は皇后も一緒だった。皇后も笑顔で香子たちを迎えた。
香子は白虎に抱かれたまま椅子に腰かける形だ。腰掛けづらいのだが、もう四神は香子を直接椅子に座らせる気はないらしい。
『ほ、ほ……。白虎様の溺愛ぶりは、ほんに眼福ですのぅ』
そんな姿を皇太后に見せるのは無礼ではないかと香子は思ってしまうのだが、皇太后は嬉しそうに笑った。
『して、花嫁様。白虎様の領地は如何でしたか?』
聞かれるとは思っていたが、香子はどう答えたものかと考える。皇太后からの呼び出しを受ける前から何をどう話したらいいものかと香子は悩んでいた。
包み隠さず本音を言うのはよくない。だからといって世辞を言うのも違う。
そんなわけで、こんな答えになってしまった。
『風光明媚で、素敵な場所でした。白虎様の館で過ごしたので気候の変化はわかりませんでしたが、きっと朝晩は冷えるのでしょう』
『妾もできるだけ白虎様のお側にと西に居を移しましたが、あそこまで遠くへは向かえませぬな』
皇太后がうんうんと頷いて言う。確かにあの土地に年寄りが移り住むのは過酷だろうと香子も内心同意した。
『気に入られましたか?』
直球で聞かれて、香子はお茶を噴きそうになった。どれだけ皇太后は白虎推しなのだろうと香子は呆れた。
『……なんとも言えません。近くにある高い山の風景は素敵でしたが。まだ玄武様の領地も見に行っておりませんし』
『ではできるだけ早く見に行った方がよろしいでしょう』
『そうですね』
だが、と香子は思う。
玄武の領地へ行ったら、さすがにもうどこへ移り住むのか決めなければならないと。
すでにこちらに召喚されて一年は経っている。四神と婚礼も挙げ、香子は名実ともに四神の花嫁となった。だからこそ、そんなに急がなくてもいいのではないかと思ってしまう。
(でも、私の考えは甘いんだよね……)
誰とも離れたくないなんて、そんなわがままは通らない。
『白虎様は、ご自身の領地が花嫁様にとって過ごしやすい土地だとは思われますか?』
皇太后の問いに、白虎はすぐには答えなかった。
『そうさな……領地自体は変えようがないが、館は快適とは言えぬ。香子を迎えるのならば、もう少し変える必要があるだろう』
『何を変えるのでしょうか?』
『それは香子と話すことだ』
皇太后に教えることではない、と白虎はぴしゃりと言い切った。皇太后は目を丸くした。
『ほんに、花嫁様がいらしてよかったです』
『えっ?』
『花嫁様がいらっしゃる故、白虎様は妾とこうして話をしてくださるのですから』
皇太后はとても嬉しそうに言い、香子には是非白虎様の領地に、と少しばかり圧をかけた。
決めるのは香子だが、皇太后は本当に白虎が好きなのだなと香子は思ったのだった。
延夕玲が言った言葉を頭の中でくり返してみる。
(私が、青龍様にあまり抱かれたくないのか? って……)
抱かれたくないわけではない。ただ、そんな科白を夕玲の口から聞かされたことが意外過ぎてどう反応したらいいかわからないだけである。
『……も、申し訳ありません』
しかし夕玲はその沈黙を無礼と思ったようだった。頬を真っ赤に染めて平伏しようとした夕玲を、香子は止めた。
『謝る必要はないわ。夕玲がそんなことを聞いてくるなんて、ちょっと意外だっただけよ』
にっこりし、夕玲にも長椅子に腰かけるよう香子は促した。
『それはなりません』
『……命令よ』
『かしこまりました』
夕玲はしぶしぶ香子の隣に腰かけた。なんとも居心地が悪そうだが、香子に聞いたことが聞いたことだけにしかたないと諦めてもらうことにした。
『そうね。青龍様に抱かれたくないわけじゃないの。ただ、青龍様の特性上抱かれるとなると時間が長くなるから、ちょっと覚悟が必要なのよ』
『……青龍様の特性上、ですか?』
『ええ、四神によってその特性は違うの。さすがにそれは教えられないけど』
香子はそこまで言って、部屋の隅に控えている紅児をチラ、と見やった。案の定紅児は頬を染めて耐えていた。ここでいじってしまったらセクハラになってしまうだろうと、香子は見なかったことにした。
『そうなのですね……』
夕玲の頬は赤く染まったままだった。それを眺めながら、香子は内心、
(美少女の頬染め、ありがとうございます!)
と手を合わせて拝んでいた。絶対に誰にも見せられない図である。香子は表に出さないように耐えた。何度も言うが、香子はメンクイなのである。恋愛感情はないが、美少女を眺めるのも好きなのだ。きっとこんなことを黒月に知られたら冷たい目で見られてしまうことがわかっているし、侍女たちにも引かれてしまうことはわかっているので香子は耐えるのみである。
『……夕玲の不安はわかるけど、婚礼を挙げたらあとは青藍にお任せしてしまえばいいのよ』
『なっ……!?』
夕玲は絶句した。
あれ? これはセクハラじゃないよね? と香子は内心慌てたが、顔には出さなかった。
慈寧宮に向かう日となった。
昼食の後、香子は白虎の腕に抱かれて皇太后に会いに向かった。交渉事があった場合白虎だけでは不安だからと玄武も共にいる。四神を付き添いさせるとか贅沢すぎると香子も思うのだが、白虎でなくとも四神が共にいると皇太后が喜ぶので、香子はもう気にしないことにした。
白雲、黒月、夕玲、楊芳芳と侍女たちが付き従う。
『おお、よくいらした』
『老仏爺、本日はお招きありがとうございます』
白虎の腕の中から香子は挨拶した。今日は皇后も一緒だった。皇后も笑顔で香子たちを迎えた。
香子は白虎に抱かれたまま椅子に腰かける形だ。腰掛けづらいのだが、もう四神は香子を直接椅子に座らせる気はないらしい。
『ほ、ほ……。白虎様の溺愛ぶりは、ほんに眼福ですのぅ』
そんな姿を皇太后に見せるのは無礼ではないかと香子は思ってしまうのだが、皇太后は嬉しそうに笑った。
『して、花嫁様。白虎様の領地は如何でしたか?』
聞かれるとは思っていたが、香子はどう答えたものかと考える。皇太后からの呼び出しを受ける前から何をどう話したらいいものかと香子は悩んでいた。
包み隠さず本音を言うのはよくない。だからといって世辞を言うのも違う。
そんなわけで、こんな答えになってしまった。
『風光明媚で、素敵な場所でした。白虎様の館で過ごしたので気候の変化はわかりませんでしたが、きっと朝晩は冷えるのでしょう』
『妾もできるだけ白虎様のお側にと西に居を移しましたが、あそこまで遠くへは向かえませぬな』
皇太后がうんうんと頷いて言う。確かにあの土地に年寄りが移り住むのは過酷だろうと香子も内心同意した。
『気に入られましたか?』
直球で聞かれて、香子はお茶を噴きそうになった。どれだけ皇太后は白虎推しなのだろうと香子は呆れた。
『……なんとも言えません。近くにある高い山の風景は素敵でしたが。まだ玄武様の領地も見に行っておりませんし』
『ではできるだけ早く見に行った方がよろしいでしょう』
『そうですね』
だが、と香子は思う。
玄武の領地へ行ったら、さすがにもうどこへ移り住むのか決めなければならないと。
すでにこちらに召喚されて一年は経っている。四神と婚礼も挙げ、香子は名実ともに四神の花嫁となった。だからこそ、そんなに急がなくてもいいのではないかと思ってしまう。
(でも、私の考えは甘いんだよね……)
誰とも離れたくないなんて、そんなわがままは通らない。
『白虎様は、ご自身の領地が花嫁様にとって過ごしやすい土地だとは思われますか?』
皇太后の問いに、白虎はすぐには答えなかった。
『そうさな……領地自体は変えようがないが、館は快適とは言えぬ。香子を迎えるのならば、もう少し変える必要があるだろう』
『何を変えるのでしょうか?』
『それは香子と話すことだ』
皇太后に教えることではない、と白虎はぴしゃりと言い切った。皇太后は目を丸くした。
『ほんに、花嫁様がいらしてよかったです』
『えっ?』
『花嫁様がいらっしゃる故、白虎様は妾とこうして話をしてくださるのですから』
皇太后はとても嬉しそうに言い、香子には是非白虎様の領地に、と少しばかり圧をかけた。
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