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第4部 四神を愛しなさいと言われました
113.日常に戻るまで少しかかりそうです
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……白虎の領地から戻ってきた夜のことを、香子は忘れたかった。
というか忘れたフリをした。
(……四神って、お互いに嫉妬しないんじゃなかったっけ?)
白虎がその限りでないことを香子は知っていたが、玄武と朱雀についてもなんだか様相が違っているように感じた。
朱雀の熱を与えられると何もわからなくなってしまうのだが、朝になれば何をされたか、自分が何を言ったかを香子は思い出してしまう。その度に床単を被って身もだえるのだ。
どんなに夜を重ねても、香子は慣れそうもなかった。
忘れたフリをして、玄武の室の居間に運ばれた朝食に舌鼓を打つ。食べ物がおいしいのは幸せだ。
ふかふかの饅頭があるだけで顔が綻んでしまう。手でちぎった時に上がる湯気、そしてその間に好きな具材を挟んで食べる至福は何事にも代えがたい。香子が一番好きなのは春巻だが、それだけでなく四神宮の料理はどれもおいしいのだ。
『おいしい……』
ごはんを食べている時間だけが平和だと香子は思う。今玄武が香子の椅子になっている状態だが、それは考えたら負けなのだ。
『香子』
玄武に頬に口づけられて、香子はビクッと震えた。
『ごまがついていたぞ』
『……教えていただければいいです……』
至近距離で言われ、香子は心臓がばくばくするのを感じた。とにかく四神の美貌は心臓に悪い。
『そなにつれないことを言ってくれるな』
『近いですー……』
玄武も最近は、香子が四神の顔を好きなのを知っていて顔を近づけてきたりするから香子はどきどきしっぱなしなのだ。
(ごはんの時間も平和じゃない!)
下手なことを言うと、朝食の後も寝室に連れ込まれてしまう危険性がある為、香子はムーッとした顔をしたままごはんを食べることしかできなかった。
それを見ていた給仕で控えている侍女たちが内心身もだえているとは知らずに。
そして白虎の領地へ行ったということで皇太后から呼び出しもあった。
(ですよねー……)
午後、青龍に襲われそうになった際皇太后から文が届いていると、香子は青藍から知らされた。おかげで青龍はその後機嫌が悪そうだった。
『青龍様、機嫌が悪いのでしたら部屋に戻ってもいいでしょうか?』
『……何故か』
『不機嫌な方と一緒にいたくないからです。理由はわかりますが、私にその不機嫌を向けられるのは不快ですので』
『……すまない』
青龍は慌てたように改めて香子を抱きしめた。こんなところが子どもっぽいと香子は思う。青龍は四神の中でも一番若いし、香子より長生きしているとはいえ世間知らずだ。
香子は青龍の背を優しく撫でた。
『青龍様、不機嫌で相手を操作しようとしてはいけません。私もしているかもしれませんが……一緒にいる時は穏やかな気持ちでいてほしいです』
『……穏やかな気持ちか。なかなか難しいな』
青龍は苦笑すると、香子を抱いたまま寝室へ向かった。
『もう……』
香子と結婚したことで、箍が外れているのかもしれない。
『そなたが愛しくてたまらぬ……』
『夕飯は食べたいです』
『……そうだな』
やっと青龍が口元に笑みを浮かべたので、香子はほっとした。
結局香子が皇太后からの文の内容を確認できたのは夕飯の席だった。
なんか悪いな、と香子は思ったが、本来返事はそんなに早く返す必要もなかったりする。王城での時間の流れは香子が思っているよりゆっくりしている。
『明後日の午後、ですか』
皇太后から茶会の誘いがあったが、明後日の午後だった。香子は拍子抜けした。
香子が疲れているだろうという配慮である。
皇太后は四神が瞬間移動することはなんとなく知っているだろうが、それでも移動にかかるストレスなどを考えてくれているのだなと香子は思った。ありがたいことである。
『香子』
それを聞いて、青龍が声をかけてきた。香子はギクリとする。
『今宵は我と過ごしてはくれぬか?』
『……そういうことは早く言ってください。明後日の夜でしたら、かまいません』
『待ち遠しいな』
そういう話を侍女や眷属が控えているところで言わないでほしいと香子は思う。四神にデリカシーを求めるのが難しいことはわかっているのだけれど。
その日の夜はいつも通り朱雀に抱き上げられて玄武の室へ移動した。
二神に抱かれるのも慣れてはきたと香子は思う。
抱かれたから好きになったわけではない。四神と花嫁は元々惹かれ合うものだとは香子も聞いている。抱かれれば抱かれるほど好きになってしまうのはどういうことなのだろうと香子はぼんやり思う。
熱を与えられれば何もわからなくなり、翌朝には自分の痴態を思い出して身もだえるのはいつものことだ。
(慣れる日なんてくるのかな……)
慣れたからといって、恥ずかしさはなくならないと香子は思うのだが。
朝食を終えて、ようやく部屋に戻ると香子は嘆息した。
部屋の隅には侍女が控えているし、女官の延夕玲と楊芳芳がいる部屋ではあるがここが一番ほっとする。
衣裳を直してもらい、お茶を一口飲んでぼんやりした。
そんな時、夕玲から話しかけられた。
『花嫁様、お聞きしたいことがございますがよろしいでしょうか?』
『なあに?』
夕玲はためらうように口を少し動かした。それでも意を決して、言葉を紡いだ。
『花嫁様は、その……青龍様にはあまり抱かれたくないのでしょうか?』
と。
というか忘れたフリをした。
(……四神って、お互いに嫉妬しないんじゃなかったっけ?)
白虎がその限りでないことを香子は知っていたが、玄武と朱雀についてもなんだか様相が違っているように感じた。
朱雀の熱を与えられると何もわからなくなってしまうのだが、朝になれば何をされたか、自分が何を言ったかを香子は思い出してしまう。その度に床単を被って身もだえるのだ。
どんなに夜を重ねても、香子は慣れそうもなかった。
忘れたフリをして、玄武の室の居間に運ばれた朝食に舌鼓を打つ。食べ物がおいしいのは幸せだ。
ふかふかの饅頭があるだけで顔が綻んでしまう。手でちぎった時に上がる湯気、そしてその間に好きな具材を挟んで食べる至福は何事にも代えがたい。香子が一番好きなのは春巻だが、それだけでなく四神宮の料理はどれもおいしいのだ。
『おいしい……』
ごはんを食べている時間だけが平和だと香子は思う。今玄武が香子の椅子になっている状態だが、それは考えたら負けなのだ。
『香子』
玄武に頬に口づけられて、香子はビクッと震えた。
『ごまがついていたぞ』
『……教えていただければいいです……』
至近距離で言われ、香子は心臓がばくばくするのを感じた。とにかく四神の美貌は心臓に悪い。
『そなにつれないことを言ってくれるな』
『近いですー……』
玄武も最近は、香子が四神の顔を好きなのを知っていて顔を近づけてきたりするから香子はどきどきしっぱなしなのだ。
(ごはんの時間も平和じゃない!)
下手なことを言うと、朝食の後も寝室に連れ込まれてしまう危険性がある為、香子はムーッとした顔をしたままごはんを食べることしかできなかった。
それを見ていた給仕で控えている侍女たちが内心身もだえているとは知らずに。
そして白虎の領地へ行ったということで皇太后から呼び出しもあった。
(ですよねー……)
午後、青龍に襲われそうになった際皇太后から文が届いていると、香子は青藍から知らされた。おかげで青龍はその後機嫌が悪そうだった。
『青龍様、機嫌が悪いのでしたら部屋に戻ってもいいでしょうか?』
『……何故か』
『不機嫌な方と一緒にいたくないからです。理由はわかりますが、私にその不機嫌を向けられるのは不快ですので』
『……すまない』
青龍は慌てたように改めて香子を抱きしめた。こんなところが子どもっぽいと香子は思う。青龍は四神の中でも一番若いし、香子より長生きしているとはいえ世間知らずだ。
香子は青龍の背を優しく撫でた。
『青龍様、不機嫌で相手を操作しようとしてはいけません。私もしているかもしれませんが……一緒にいる時は穏やかな気持ちでいてほしいです』
『……穏やかな気持ちか。なかなか難しいな』
青龍は苦笑すると、香子を抱いたまま寝室へ向かった。
『もう……』
香子と結婚したことで、箍が外れているのかもしれない。
『そなたが愛しくてたまらぬ……』
『夕飯は食べたいです』
『……そうだな』
やっと青龍が口元に笑みを浮かべたので、香子はほっとした。
結局香子が皇太后からの文の内容を確認できたのは夕飯の席だった。
なんか悪いな、と香子は思ったが、本来返事はそんなに早く返す必要もなかったりする。王城での時間の流れは香子が思っているよりゆっくりしている。
『明後日の午後、ですか』
皇太后から茶会の誘いがあったが、明後日の午後だった。香子は拍子抜けした。
香子が疲れているだろうという配慮である。
皇太后は四神が瞬間移動することはなんとなく知っているだろうが、それでも移動にかかるストレスなどを考えてくれているのだなと香子は思った。ありがたいことである。
『香子』
それを聞いて、青龍が声をかけてきた。香子はギクリとする。
『今宵は我と過ごしてはくれぬか?』
『……そういうことは早く言ってください。明後日の夜でしたら、かまいません』
『待ち遠しいな』
そういう話を侍女や眷属が控えているところで言わないでほしいと香子は思う。四神にデリカシーを求めるのが難しいことはわかっているのだけれど。
その日の夜はいつも通り朱雀に抱き上げられて玄武の室へ移動した。
二神に抱かれるのも慣れてはきたと香子は思う。
抱かれたから好きになったわけではない。四神と花嫁は元々惹かれ合うものだとは香子も聞いている。抱かれれば抱かれるほど好きになってしまうのはどういうことなのだろうと香子はぼんやり思う。
熱を与えられれば何もわからなくなり、翌朝には自分の痴態を思い出して身もだえるのはいつものことだ。
(慣れる日なんてくるのかな……)
慣れたからといって、恥ずかしさはなくならないと香子は思うのだが。
朝食を終えて、ようやく部屋に戻ると香子は嘆息した。
部屋の隅には侍女が控えているし、女官の延夕玲と楊芳芳がいる部屋ではあるがここが一番ほっとする。
衣裳を直してもらい、お茶を一口飲んでぼんやりした。
そんな時、夕玲から話しかけられた。
『花嫁様、お聞きしたいことがございますがよろしいでしょうか?』
『なあに?』
夕玲はためらうように口を少し動かした。それでも意を決して、言葉を紡いだ。
『花嫁様は、その……青龍様にはあまり抱かれたくないのでしょうか?』
と。
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