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第4部 四神を愛しなさいと言われました
110.眷属たちの認識と花嫁の思い(前半白雲視点)
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白風は比較的すんなり納得したが、他の白虎の眷属たちは違った。
『昼食は召し上がられずに四神宮に戻るとおっしゃるのか』
『これはゆゆしきこと』
『厨師は何をしているのか』
白虎と香子が庭園を白風に案内してもらっている間、白雲は少し席を外し、眷属たちが集まっている場所へ顔を出した。
『……まだかようなことを言っているのか』
白雲はため息をついた。
眷属はその神が一番である故に、花嫁を尊重しないきらいがある。だが仕えている神にとって花嫁が至上の存在となるのだ。花嫁を大事にできない眷属など切り捨てられてしまうだろう。
だが、これまで花嫁に会ったことがない眷属にはそれがわからない。
『白雲! 白虎様はいったいどうなされたのだ』
『四神にとって花嫁は一人しかおらぬと伝えたはずだ。人から神の花嫁として嫁がれたのだ。少しでも心地いい場所にいたいと思われるのはおかしいことではない』
『白雲は花嫁の肩を持つというのか?』
『そうではない。事実を述べたまでだ』
白虎の眷属は頭が固いわけではない。ただ、自分たちが盲目であるが故に花嫁もそうだろうと思い込んでいたのだった。
『白虎様にとって花嫁は一人だが、花嫁にとって伴侶は四柱いるのだぞ。四神はみな素晴らしい。優劣など花嫁にはつけられぬ。ならば優劣がつけられるところはどこであろうな?』
そこまで言われて、眷属たちははっとしたようだった。
『……厨師の派遣はできるだろうか』
『おそらく許可を取っている最中であろう。時期がくれば白虎様から声がかかる』
『あいわかった。そのように厨師には伝えておこう』
『頼んだぞ』
話を終えて、白雲は庭園を散策している白虎と花嫁の元へ向かった。
* *
庭園の四阿で、香子は用意されたお茶を啜っていた。
白虎の膝の上である。行儀が悪いとは思ったが、香子は足をぶらぶらさせた。
ずっと地に足を付けていないとなんとなく足がだるくなってくるような気がする。今の香子の身体は神に近くなっているので足がだるくなるようなことは決してないのだが、あくまで気分である。
『香子、如何した?』
『ずっと地に足を付けていないというのが不思議だなぁと思いまして』
『我が運ぶ故、問題はなかろう』
『……そういう話じゃないんですよー』
四神は花嫁を片時も放したくないし、できることならばずっと床で共に過ごしたいと思っていることを香子は知っている。だから香子を抱き上げて運ぶということも容認しているのだ。本当は今でも香子は慣れないだけれど。
『……四神宮に戻ったら少し歩きたいです』
『……あまり歩かせたくはないが』
『何度も言ってますけど、歩き方を忘れてしまいそうで嫌なんですよー』
『忘れてしまえばいいだろう』
白虎が本気で言っていることがわかるから、香子は苦笑してしまう。それぐらい四神にとって花嫁は大事で、閉じ込めておきたい存在なのだ。
こんな状態で誰かの領地に移った際、香子はその地で歩くことができるのだろうかと疑問に思った。
だが口には出さない。白虎の眷属は白虎のことを好きすぎると香子は認識した。例えば、という話をしたとして、ここに香子がもう移ってくると思い込んでしまうかもしれない。そして他の神の話をするのもNGだ。
(眷属も、白虎様の気質を受け継いでいるのかな……)
今は穏やかに香子を撫でている白虎だが、他の神に嫉妬するし、香子への独占欲も強いのだ。そこは三神とは違うところである。
正直香子としても、己がここまで気を遣う必要があるかどうか疑問であった。
(まぁでも、このタイミングでこちらの視察に来てよかったかも)
眷属の気質も違うことがわかってよかったと香子は思う。庭園から見える景色は本当に美しい。高い山々の上の方は白くなっている。あれは万年雪だろうか。
白虎に頼んだら、あの雪のあるところまで連れて行ってもらえるだろうかと香子はぼんやり思った。
そして、どのタイミングで頼めるかとも考える。
今頼んでいいものかどうか、香子も考えてしまうのだ。
『香子?』
『あ……いえ、山の上の方はどうなっているのかなって……』
『どれ、連れて行ってやろう』
『いえ、今でなくても……』
『次にここに来る機会はなかなかなかろうて』
それはそうなんだけど、と香子が思う間に白虎は本性を現わした。
『では参ろうぞ』
どういう原理ですでに香子が白虎の背の上に乗っているのか、香子にはわからなかったが慌てて白虎の背に伏せた。
『昼前にはお戻りください』
『わかった』
白雲にそう言われて白虎が返事をする。白風はおろおろしているようだった。それに香子はちょっと悪いことをしたと思う。
でも高い山のてっぺんに連れて行ってもらえると思ったら、わくわくしてきた。
『行ってきます』
白雲と白風にそう声をかけた時、香子の身体はもう白虎の館からは出てしまっていた。もふもふの白い毛並みに包まれているからなのか、風も全く冷たいとは感じない。あの山は何mあるのだろうと、香子はわくわくしてきた。
『わぁ……』
そうして、香子は白虎と共に風になったのだった。
『昼食は召し上がられずに四神宮に戻るとおっしゃるのか』
『これはゆゆしきこと』
『厨師は何をしているのか』
白虎と香子が庭園を白風に案内してもらっている間、白雲は少し席を外し、眷属たちが集まっている場所へ顔を出した。
『……まだかようなことを言っているのか』
白雲はため息をついた。
眷属はその神が一番である故に、花嫁を尊重しないきらいがある。だが仕えている神にとって花嫁が至上の存在となるのだ。花嫁を大事にできない眷属など切り捨てられてしまうだろう。
だが、これまで花嫁に会ったことがない眷属にはそれがわからない。
『白雲! 白虎様はいったいどうなされたのだ』
『四神にとって花嫁は一人しかおらぬと伝えたはずだ。人から神の花嫁として嫁がれたのだ。少しでも心地いい場所にいたいと思われるのはおかしいことではない』
『白雲は花嫁の肩を持つというのか?』
『そうではない。事実を述べたまでだ』
白虎の眷属は頭が固いわけではない。ただ、自分たちが盲目であるが故に花嫁もそうだろうと思い込んでいたのだった。
『白虎様にとって花嫁は一人だが、花嫁にとって伴侶は四柱いるのだぞ。四神はみな素晴らしい。優劣など花嫁にはつけられぬ。ならば優劣がつけられるところはどこであろうな?』
そこまで言われて、眷属たちははっとしたようだった。
『……厨師の派遣はできるだろうか』
『おそらく許可を取っている最中であろう。時期がくれば白虎様から声がかかる』
『あいわかった。そのように厨師には伝えておこう』
『頼んだぞ』
話を終えて、白雲は庭園を散策している白虎と花嫁の元へ向かった。
* *
庭園の四阿で、香子は用意されたお茶を啜っていた。
白虎の膝の上である。行儀が悪いとは思ったが、香子は足をぶらぶらさせた。
ずっと地に足を付けていないとなんとなく足がだるくなってくるような気がする。今の香子の身体は神に近くなっているので足がだるくなるようなことは決してないのだが、あくまで気分である。
『香子、如何した?』
『ずっと地に足を付けていないというのが不思議だなぁと思いまして』
『我が運ぶ故、問題はなかろう』
『……そういう話じゃないんですよー』
四神は花嫁を片時も放したくないし、できることならばずっと床で共に過ごしたいと思っていることを香子は知っている。だから香子を抱き上げて運ぶということも容認しているのだ。本当は今でも香子は慣れないだけれど。
『……四神宮に戻ったら少し歩きたいです』
『……あまり歩かせたくはないが』
『何度も言ってますけど、歩き方を忘れてしまいそうで嫌なんですよー』
『忘れてしまえばいいだろう』
白虎が本気で言っていることがわかるから、香子は苦笑してしまう。それぐらい四神にとって花嫁は大事で、閉じ込めておきたい存在なのだ。
こんな状態で誰かの領地に移った際、香子はその地で歩くことができるのだろうかと疑問に思った。
だが口には出さない。白虎の眷属は白虎のことを好きすぎると香子は認識した。例えば、という話をしたとして、ここに香子がもう移ってくると思い込んでしまうかもしれない。そして他の神の話をするのもNGだ。
(眷属も、白虎様の気質を受け継いでいるのかな……)
今は穏やかに香子を撫でている白虎だが、他の神に嫉妬するし、香子への独占欲も強いのだ。そこは三神とは違うところである。
正直香子としても、己がここまで気を遣う必要があるかどうか疑問であった。
(まぁでも、このタイミングでこちらの視察に来てよかったかも)
眷属の気質も違うことがわかってよかったと香子は思う。庭園から見える景色は本当に美しい。高い山々の上の方は白くなっている。あれは万年雪だろうか。
白虎に頼んだら、あの雪のあるところまで連れて行ってもらえるだろうかと香子はぼんやり思った。
そして、どのタイミングで頼めるかとも考える。
今頼んでいいものかどうか、香子も考えてしまうのだ。
『香子?』
『あ……いえ、山の上の方はどうなっているのかなって……』
『どれ、連れて行ってやろう』
『いえ、今でなくても……』
『次にここに来る機会はなかなかなかろうて』
それはそうなんだけど、と香子が思う間に白虎は本性を現わした。
『では参ろうぞ』
どういう原理ですでに香子が白虎の背の上に乗っているのか、香子にはわからなかったが慌てて白虎の背に伏せた。
『昼前にはお戻りください』
『わかった』
白雲にそう言われて白虎が返事をする。白風はおろおろしているようだった。それに香子はちょっと悪いことをしたと思う。
でも高い山のてっぺんに連れて行ってもらえると思ったら、わくわくしてきた。
『行ってきます』
白雲と白風にそう声をかけた時、香子の身体はもう白虎の館からは出てしまっていた。もふもふの白い毛並みに包まれているからなのか、風も全く冷たいとは感じない。あの山は何mあるのだろうと、香子はわくわくしてきた。
『わぁ……』
そうして、香子は白虎と共に風になったのだった。
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