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第4部 四神を愛しなさいと言われました
104.白虎の領地へ向う前にしなければならなかったこととはなんでしょう
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皇太后に誘われて、慈寧宮でお茶をすることになった。
向かったのは、白虎に抱かれた香子、玄武、白雲、黒月、延夕玲、楊芳芳である。夕玲と芳芳は香子付の女官なので付き従うのが当然である。もちろんその他に侍女も二人ほどいる。何かあった時の連絡用だということは香子にもわかるのだが、こんなに必要かな? と毎回思ってしまう。雇用を考えれば何人いてもかまわないかと、香子は思い直した。
何故そんなとりとめもないことを香子が考えているのかといえば、
『白虎様のご領地へ。では贈り物を用意せねばなりませぬな』
皇太后が満面の笑みを浮かべ、とんでもないことを言っているからである。
『花嫁様の衣裳も急いで作らせねばならぬでしょう』
『……江緑、衣裳はいらぬ。それよりも香子がそなたに聞きたいことがあるそうだ』
白虎がうんざりしたように皇太后に言う。そんな不遜な態度でも皇太后は嬉しそうだった。
『ほう、花嫁様、何か?』
『そのぅ……白虎様の領地へ向かう前に何かしなければいけないことがあったような気がしまして……もし、老仏爺でしたらご存知かなと……』
香子は自分で言っていて申し訳ないと思った。けれど皇太后はとても嬉しそうに笑んだ。
『それは妾に白虎様のお姿を見せることでしょうな。花嫁様はほんにかわいらしい。して、いつ頃白虎様のご領地へ向かわれるおつもりか?』
白虎の領地へ向かうと皇太后に報告をすることが”しなければならないこと”だったのだろうか? 香子は首を傾げた。
けれど皇太后がそう言うのならばそれでいいのだろう。
『……今すぐでもかまわぬが』
『それはなりません』
白虎の応えに、皇太后はきっぱりと答えた。
『何故か?』
白虎は唸るような声を発した。とんとんと軽く白虎の腕を叩き、香子は窘めた。皇太后に威嚇するのはやめてほしい。
『贈り物が必要ですし、四神宮の準備もございましょう。下々のことを考えぬのはよいことではございません。少しは花嫁様を見習ってくださいませ』
香子は皇太后の言葉に目を丸くした。白虎大好きな皇太后が白虎にだめ出しをしているのが、何気に面白かった。
白虎が眉をピクリと動かす。香子はそれに気づくと、白虎の頬に触れた。
『白虎様、だめですよ』
『……そなたがそう言うのならば』
『ほ、ほ……仲睦まじい姿を見せていただきありがとうございます。早急に用意させますので、しばしお待ちくだされ』
皇太后は終始とても楽しそうだった。
お茶を啜り、またお茶菓子をお土産として持たされてしまった。香子が好きだというお菓子も毎回用意されている。
(杏仁酥、ホント好きなんだよねぇ……)
大陸のお菓子は乾きものが多いのだが、この中華クッキーは硬さといい味といい香子の好みなのである。たまに歯が欠けるのではないかと思うぐらい硬いのもあるのだが、香子は気に入っている。
『いただけるのは嬉しいんですけど、食べる機会があまりないんですよねー』
『夕飯後に出させればよかろう』
『それもそうですね』
玄武に言われて、香子は頷いた。今日は白虎も香子を連れ去ることはできなかったようである。
そこらへんは四神の裁量によるのだろうと香子も思う。
とにかく近々白虎の領地へ向うということは四神宮内で周知しなければならない。それは夕玲と主官の趙文英にお願いすることになるだろう。
『……跳べるというのに準備など……面倒だな』
白虎が嫌そうな顔をしているのを見て、香子は笑ってしまったのだった。
それから一週間もしないうちに白虎の領地へ持っていく贈り物が届いた。
それらを白虎が自ら運ぶというのもシュールだなと香子は思う。皇帝のところへは白虎が直接出向いて、『我の領地へ香子を連れて行く』と一方的に伝えたことで一時混乱したのだとか。
正式に香子が白虎の領地へ向うわけではないということを知り、皇帝と中書令である李雲が胸を撫でおろしたというのは余談である。
正式に向かうとなると、人側で何かやることがあるようだった。
皇太后と会ってから一週間後、香子が白虎の領地に向かう日を迎えた。
今回も留守番だからなのか、黒月は不機嫌そうである。珍しく白雲に、『白雲兄、花嫁様をくれぐれも頼みましたぞ』などと頼んでいる。それもまた黒月の成長なのだろうなと香子は顔を綻ばせてしまった。けれどそれを黒月に窘められる。
『花嫁様、白虎様の領地に向かわれるのがそなに嬉しいのですか?』
『えっ? そ、それも楽しみだけど……』
黒月の様子が見慣れないから、とはとても言えず、香子は言葉を濁した。
今回は白虎に抱かれ、白雲も共に向かうのみである。
一泊で戻ってくるのだからと香子は思ってしまうが、黒月にとっては大事であるようだ。
『香子』
見送りをと来てくれた玄武に声をかけられて、香子はそちらを見た。
『一晩で帰れそうもなければ迎えに参ろう』
『あ、はい……』
二晩泊ったら、強制的にそちらへ嫁ぐことになってしまうからだろう。
そこで香子は思い出した。
本当は、玄武の領地へ先に向かわなければならなかったのではないかと。
(そういえば、白虎様は本性が強いから……)
そう思った時には見慣れない場所に移動していて、香子はどうしようと途方に暮れたのだった。
向かったのは、白虎に抱かれた香子、玄武、白雲、黒月、延夕玲、楊芳芳である。夕玲と芳芳は香子付の女官なので付き従うのが当然である。もちろんその他に侍女も二人ほどいる。何かあった時の連絡用だということは香子にもわかるのだが、こんなに必要かな? と毎回思ってしまう。雇用を考えれば何人いてもかまわないかと、香子は思い直した。
何故そんなとりとめもないことを香子が考えているのかといえば、
『白虎様のご領地へ。では贈り物を用意せねばなりませぬな』
皇太后が満面の笑みを浮かべ、とんでもないことを言っているからである。
『花嫁様の衣裳も急いで作らせねばならぬでしょう』
『……江緑、衣裳はいらぬ。それよりも香子がそなたに聞きたいことがあるそうだ』
白虎がうんざりしたように皇太后に言う。そんな不遜な態度でも皇太后は嬉しそうだった。
『ほう、花嫁様、何か?』
『そのぅ……白虎様の領地へ向かう前に何かしなければいけないことがあったような気がしまして……もし、老仏爺でしたらご存知かなと……』
香子は自分で言っていて申し訳ないと思った。けれど皇太后はとても嬉しそうに笑んだ。
『それは妾に白虎様のお姿を見せることでしょうな。花嫁様はほんにかわいらしい。して、いつ頃白虎様のご領地へ向かわれるおつもりか?』
白虎の領地へ向かうと皇太后に報告をすることが”しなければならないこと”だったのだろうか? 香子は首を傾げた。
けれど皇太后がそう言うのならばそれでいいのだろう。
『……今すぐでもかまわぬが』
『それはなりません』
白虎の応えに、皇太后はきっぱりと答えた。
『何故か?』
白虎は唸るような声を発した。とんとんと軽く白虎の腕を叩き、香子は窘めた。皇太后に威嚇するのはやめてほしい。
『贈り物が必要ですし、四神宮の準備もございましょう。下々のことを考えぬのはよいことではございません。少しは花嫁様を見習ってくださいませ』
香子は皇太后の言葉に目を丸くした。白虎大好きな皇太后が白虎にだめ出しをしているのが、何気に面白かった。
白虎が眉をピクリと動かす。香子はそれに気づくと、白虎の頬に触れた。
『白虎様、だめですよ』
『……そなたがそう言うのならば』
『ほ、ほ……仲睦まじい姿を見せていただきありがとうございます。早急に用意させますので、しばしお待ちくだされ』
皇太后は終始とても楽しそうだった。
お茶を啜り、またお茶菓子をお土産として持たされてしまった。香子が好きだというお菓子も毎回用意されている。
(杏仁酥、ホント好きなんだよねぇ……)
大陸のお菓子は乾きものが多いのだが、この中華クッキーは硬さといい味といい香子の好みなのである。たまに歯が欠けるのではないかと思うぐらい硬いのもあるのだが、香子は気に入っている。
『いただけるのは嬉しいんですけど、食べる機会があまりないんですよねー』
『夕飯後に出させればよかろう』
『それもそうですね』
玄武に言われて、香子は頷いた。今日は白虎も香子を連れ去ることはできなかったようである。
そこらへんは四神の裁量によるのだろうと香子も思う。
とにかく近々白虎の領地へ向うということは四神宮内で周知しなければならない。それは夕玲と主官の趙文英にお願いすることになるだろう。
『……跳べるというのに準備など……面倒だな』
白虎が嫌そうな顔をしているのを見て、香子は笑ってしまったのだった。
それから一週間もしないうちに白虎の領地へ持っていく贈り物が届いた。
それらを白虎が自ら運ぶというのもシュールだなと香子は思う。皇帝のところへは白虎が直接出向いて、『我の領地へ香子を連れて行く』と一方的に伝えたことで一時混乱したのだとか。
正式に香子が白虎の領地へ向うわけではないということを知り、皇帝と中書令である李雲が胸を撫でおろしたというのは余談である。
正式に向かうとなると、人側で何かやることがあるようだった。
皇太后と会ってから一週間後、香子が白虎の領地に向かう日を迎えた。
今回も留守番だからなのか、黒月は不機嫌そうである。珍しく白雲に、『白雲兄、花嫁様をくれぐれも頼みましたぞ』などと頼んでいる。それもまた黒月の成長なのだろうなと香子は顔を綻ばせてしまった。けれどそれを黒月に窘められる。
『花嫁様、白虎様の領地に向かわれるのがそなに嬉しいのですか?』
『えっ? そ、それも楽しみだけど……』
黒月の様子が見慣れないから、とはとても言えず、香子は言葉を濁した。
今回は白虎に抱かれ、白雲も共に向かうのみである。
一泊で戻ってくるのだからと香子は思ってしまうが、黒月にとっては大事であるようだ。
『香子』
見送りをと来てくれた玄武に声をかけられて、香子はそちらを見た。
『一晩で帰れそうもなければ迎えに参ろう』
『あ、はい……』
二晩泊ったら、強制的にそちらへ嫁ぐことになってしまうからだろう。
そこで香子は思い出した。
本当は、玄武の領地へ先に向かわなければならなかったのではないかと。
(そういえば、白虎様は本性が強いから……)
そう思った時には見慣れない場所に移動していて、香子はどうしようと途方に暮れたのだった。
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