555 / 568
第4部 四神を愛しなさいと言われました
103.求められすぎるのもたいへんなのです
しおりを挟む
それからの日々は、香子にとってとてもたいへんだった。
結婚したのだからと四神が四六時中触れてこようとするのである。
『四神宮にいる間は生活は変えたくありません!』
とうとう香子はぶち切れた。途端に四神が少し情けない顔をする。それはほんの少しの表情の変化なのだが、香子にはそう見えた。
『……そなたはもう少し四神の花嫁という自覚を持った方がよい』
朱雀が不満そうに言う。
『それは、そうかもしれませんけど……まだどなたの領地に行くとも決めていないのですから……』
朱雀の言い分はもっともだと香子も思うのだが、性生活についてはもっと話し合わなければならないだろうとも考えた。
それに、まだ香子は白虎の領地へも、玄武の領地へも行っていない。
『……次は我の領地であったか』
白虎がさらりと言う。
『そうですね』
『すぐにでも連れていけるぞ』
『……すぐには困ります』
いきなり連れ去られて一晩姿を消したら延夕玲や四神宮の主官である趙文英の心労が増えてしまう。
『白雲、白虎様の領地へはいつ頃向かえるのかしら?』
『受け入れ態勢は整っておりますので、いつでもかまいません。すぐにでも』
白雲に聞いたらしれっとそう答えられて、香子は頭が痛くなった。
四神も花嫁も婚礼の後は誰にも会う必要はないのだが、いろいろなところからお祝いの品は届いたし、面会希望も殺到したという。それを趙や王英明が捌いたとは香子も聞いた。
(何か忘れている気がする……)
白虎の領地へ向かう前に、香子はしなければならないことがあったような気がした。絶対に忘れてはいけないような……。
首を傾げる。頭の飾りが重くて、首が思った以上に曲がってしまった。その首を、香子の椅子になっている玄武がそっと戻す。
そう、抗議する間も香子は誰かの腕の中なのだ。
『香子、如何した?』
玄武のバリトンが降ってくる。耳に心地よすぎて、つい香子はうっとりしてしまった。
(って、そうじゃない!)
ハッとする。
四神は顔だけでなく声もよすぎるからいけないと香子は思う。
『いえ、白虎様の領地に向かう前に、何か忘れているような気がしまして……』
『我らと抱き合うことだろう』
玄武にさらりと言われて香子は身もだえた。
『……抱き合うことしか考えていないのですか……?』
そう拗ねたように香子が聞けば、四神は素直に頷いた。四神は花嫁が愛しくてならず、その愛情表現は”抱く”ことに集約されている。
香子は頬を染めて絶句した。
『……白、白虎様の領地へ向かう前にしなければならないことがあるはずです! それを考えてください。抱き合う以外のことでお願いします!』
黙っていると玄武に抱きこまれてそのまま押し倒されそうになるので、香子は必死にそう言った。
『……理性とやらもすべて溶けてしまえばいいものを』
朱雀がククッと喉の奥で笑いながら言う。香子はムッとした。
『冗談じゃないですよ……』
白雲に聞いてみたが、白雲も知らないようだ。ということは香子自身が言われたことか、考えたことなのだろうと香子は思う。
『うーん……』
白虎に関係すること……と考えてから思い出した。
『老佛爷に、聞いた方がいいかも……』
皇太后は無類の白虎好きである。それも、わざわざ白虎の側にいたいということで西の地へ移り住んだほどであった。皇太后曰く、白虎の雰囲気が先代の皇帝に似ているとのことだったが。
当の白虎は少し面倒くさそうではある。
さっそく夕玲を呼び、皇太后へ文を書いてもらうことにした。
そうして届けてもらってから、一日も経たないうちに返事があった。
明日慈寧宮に白虎と共に参られたし、と。
『明日は老佛爷のところでお茶ですね』
午後の、昼食の後ということで、その日の夜、香子はしっかり玄武と朱雀によってむさぼられてしまったのだった。
(このままではいけない……)
香子は切実にそう思った。四神はいくら香子を抱いても足りなそうだが、香子からしたら爛れまくっているのである。
結婚したことで、四神は本気で香子を孕ませようとしているみたいだ。
(……でも、心が伴っていないと子はできないんだっけ?)
心はもう伴っていると香子は思う。だがそう簡単に産まれるものではないから、四神は香子を求めてやまない。
先代の花嫁は、先代の白虎に嫁いで五十年ほどで一人目の子を産んだと聞いた。しかもその間、先代の白虎は片時も花嫁を放さなかったという。
五十年なんて、香子は全然生きていない。よしんば生きていたとしてもそれなりに長い年月と言えるだろう。
(想像もつかないわね……)
翌日の昼食後、侍女たちに着飾られて香子は白虎の腕の中に収まった。
『このまま領地へ連れていきたいが』
『だめですよ』
せめて皇太后に聞いてからである。それに、香子が一晩いなくなれば厨房の食材なども困るだろう。せめて二、三日前には伝えるべきだと香子は主張した。
四神はろくに食べないかもしれないが(香子を抱いた日の朝は除く)、香子はとにかく食べるのである。
白虎は不満そうだったがそれだけは譲れなかった。
そうして慈寧宮へと向かったのだった。
結婚したのだからと四神が四六時中触れてこようとするのである。
『四神宮にいる間は生活は変えたくありません!』
とうとう香子はぶち切れた。途端に四神が少し情けない顔をする。それはほんの少しの表情の変化なのだが、香子にはそう見えた。
『……そなたはもう少し四神の花嫁という自覚を持った方がよい』
朱雀が不満そうに言う。
『それは、そうかもしれませんけど……まだどなたの領地に行くとも決めていないのですから……』
朱雀の言い分はもっともだと香子も思うのだが、性生活についてはもっと話し合わなければならないだろうとも考えた。
それに、まだ香子は白虎の領地へも、玄武の領地へも行っていない。
『……次は我の領地であったか』
白虎がさらりと言う。
『そうですね』
『すぐにでも連れていけるぞ』
『……すぐには困ります』
いきなり連れ去られて一晩姿を消したら延夕玲や四神宮の主官である趙文英の心労が増えてしまう。
『白雲、白虎様の領地へはいつ頃向かえるのかしら?』
『受け入れ態勢は整っておりますので、いつでもかまいません。すぐにでも』
白雲に聞いたらしれっとそう答えられて、香子は頭が痛くなった。
四神も花嫁も婚礼の後は誰にも会う必要はないのだが、いろいろなところからお祝いの品は届いたし、面会希望も殺到したという。それを趙や王英明が捌いたとは香子も聞いた。
(何か忘れている気がする……)
白虎の領地へ向かう前に、香子はしなければならないことがあったような気がした。絶対に忘れてはいけないような……。
首を傾げる。頭の飾りが重くて、首が思った以上に曲がってしまった。その首を、香子の椅子になっている玄武がそっと戻す。
そう、抗議する間も香子は誰かの腕の中なのだ。
『香子、如何した?』
玄武のバリトンが降ってくる。耳に心地よすぎて、つい香子はうっとりしてしまった。
(って、そうじゃない!)
ハッとする。
四神は顔だけでなく声もよすぎるからいけないと香子は思う。
『いえ、白虎様の領地に向かう前に、何か忘れているような気がしまして……』
『我らと抱き合うことだろう』
玄武にさらりと言われて香子は身もだえた。
『……抱き合うことしか考えていないのですか……?』
そう拗ねたように香子が聞けば、四神は素直に頷いた。四神は花嫁が愛しくてならず、その愛情表現は”抱く”ことに集約されている。
香子は頬を染めて絶句した。
『……白、白虎様の領地へ向かう前にしなければならないことがあるはずです! それを考えてください。抱き合う以外のことでお願いします!』
黙っていると玄武に抱きこまれてそのまま押し倒されそうになるので、香子は必死にそう言った。
『……理性とやらもすべて溶けてしまえばいいものを』
朱雀がククッと喉の奥で笑いながら言う。香子はムッとした。
『冗談じゃないですよ……』
白雲に聞いてみたが、白雲も知らないようだ。ということは香子自身が言われたことか、考えたことなのだろうと香子は思う。
『うーん……』
白虎に関係すること……と考えてから思い出した。
『老佛爷に、聞いた方がいいかも……』
皇太后は無類の白虎好きである。それも、わざわざ白虎の側にいたいということで西の地へ移り住んだほどであった。皇太后曰く、白虎の雰囲気が先代の皇帝に似ているとのことだったが。
当の白虎は少し面倒くさそうではある。
さっそく夕玲を呼び、皇太后へ文を書いてもらうことにした。
そうして届けてもらってから、一日も経たないうちに返事があった。
明日慈寧宮に白虎と共に参られたし、と。
『明日は老佛爷のところでお茶ですね』
午後の、昼食の後ということで、その日の夜、香子はしっかり玄武と朱雀によってむさぼられてしまったのだった。
(このままではいけない……)
香子は切実にそう思った。四神はいくら香子を抱いても足りなそうだが、香子からしたら爛れまくっているのである。
結婚したことで、四神は本気で香子を孕ませようとしているみたいだ。
(……でも、心が伴っていないと子はできないんだっけ?)
心はもう伴っていると香子は思う。だがそう簡単に産まれるものではないから、四神は香子を求めてやまない。
先代の花嫁は、先代の白虎に嫁いで五十年ほどで一人目の子を産んだと聞いた。しかもその間、先代の白虎は片時も花嫁を放さなかったという。
五十年なんて、香子は全然生きていない。よしんば生きていたとしてもそれなりに長い年月と言えるだろう。
(想像もつかないわね……)
翌日の昼食後、侍女たちに着飾られて香子は白虎の腕の中に収まった。
『このまま領地へ連れていきたいが』
『だめですよ』
せめて皇太后に聞いてからである。それに、香子が一晩いなくなれば厨房の食材なども困るだろう。せめて二、三日前には伝えるべきだと香子は主張した。
四神はろくに食べないかもしれないが(香子を抱いた日の朝は除く)、香子はとにかく食べるのである。
白虎は不満そうだったがそれだけは譲れなかった。
そうして慈寧宮へと向かったのだった。
応援ありがとうございます!
9
お気に入りに追加
3,965
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる