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第4部 四神を愛しなさいと言われました
96.確かに男性にはわからないかもしれない
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何故こんなことを説明しなければならないのかと、香子は遠い目をしたくなった。
白雲は、自分が抱くことで侍女頭である陳秀美の胸が大きくなるということは本人に伝えていないらしい。そもそも胸が大きすぎるのも困るということがわからないのだ。
それもそのはず、男には揺れるような胸がない。(胸筋は揺れないのだろうか?)
『胸ってね、歩いてるだけで揺れるのよ。大きければ大きいほど揺れるから肩も凝るし、揺れると付け根が痛くなるの。しかも大きすぎると下も見えなくなるから歩くのも危ないわね』
『……それで陳は胸を押さえるようにしていたのですか』
白雲はやっと合点がいったようだった。
香子は思い出す。陳は確かに目に見えて胸が大きくなっているように見受けられなかった。それは仕事に支障が出ないように布を巻いたりして押さえていたからなのだろう。
『押さえるのも痛いのよ』
『ではすぐに陳を娶る許可を取ります。四神宮での仕事を止めさせれば動く必要もなくなるでしょう』
『そういう問題じゃないでしょ。そもそも、なんで胸が大きくなることを伝えなかったの? 陳はどうして自分の身体が変化しているのかわからなくて不安なはずよ? 大事なつがいのはずなのにそういうことも伝えていないとか信じられない!』
感覚が違うと言われてしまえばそれまでだが、白雲に抱かれることで身体が変化していくことは絶対に伝えなければいけないことだと香子は思う。
『……失念しておりました』
白雲は頭を垂れた。そして気を取り直したように頭を上げる。
『すぐに伝えて参ります』
『待ちなさい! 伝えるならここで、よ。まずこちらに連れていらっしゃい』
『かしこまりました』
白雲は一瞬不思議そうな顔をしていたが、香子の憤りを感じ取ったのだろう、香子の言葉に従った。
『陳を探してまいります』
『……陳の仕事が忙しそうだったら邪魔しちゃだめよ。私はいくらでも待てるから』
『かしこまりました』
白雲は拱手すると、風のように白虎の室を出て行った。香子ははーっと深く嘆息した。これだから四神の眷属というものは、と香子は思う。
『……私、白雲は完璧だと思ってたんですよね』
『完璧とは?』
『ここに来た眷属の中でも一番年上で、冷静じゃないですか。ちゃんとフォローもしてくれるし、だから陳をつがいにすると聞いた時も白雲になら任せられると思ったんですよ』
実際のところ眷属と人というずれはあったし、陳も戸惑っていたことは確かだが比較的すんなりと白雲を受け入れている。
『……香子、あれも浮かれているのだ。今までつがいが現れなかったのだから』
そう白虎に言われて香子ははっとした。
白雲は白虎よりも先に生まれたと聞いている。先代の花嫁から最初に生まれた子らしい。となると、もうけっこうな歳になる。
『白雲に残された時間はそれほどないのですか?』
『あと百年ぐらいはあるだろう』
白虎が言う。そんなに長い間白虎の世話だけをしてきたのかと思ったら、香子は切なくなった。だからといって陳に胸のことを伝えなくていいわけではない。
『陳を連れて参りました』
表から声がかかった。
『入れ』
白虎が許可をする。室の扉が開かれ、白雲が陳を抱き上げたまま入ってきた。
もしかしてこれは――と香子は思う。
陳の胸を揺らさないように配慮した結果なのだろうか。四神も眷属もだが、やることが極端すぎて香子はどうかと思ってしまう。
陳はとてもうろたえていた。抱き上げられ、何故ここに連れてこられたのかわからないようである。
(だからあれほど説明をしろと……)
四神といい眷属といい、とにかく説明が足りない。
『白虎様、花嫁様、このような恰好で……』
『気にしなくていいわ。白雲、もしかして強引に連れてきたの?』
『白虎様の室で花嫁様がお待ちだとは伝えました』
『……まぁいいでしょう』
香子は頭が痛くなるのを感じた。抱き上げてきたことも問題だが、それについてはその場で言えなかったのだからしかたない。
『いきなり呼び出してごめんなさい。陳は困っていることはない?』
『い、いえ……特には、ございません……』
戸惑いながら陳が答える。けれどその手は無意識にか、己の胸に当てられた。
『陳、こちらに四神が来てから胸が育ってはいないかしら? 正直に答えて』
『えっ……あ、はい……何故か、胸が大きくなってきております。あのぅ、もしかして四神とこの胸の大きさに関係が……?』
香子はため息を吐きたくなった。陳はとても困っているようである。それは白雲が己の情報を伝えなかったせいだ。
『貴方たちの閨事情について詮索はしたくないのだけど、正確には白雲に抱かれるようになってから胸が大きくなっているのではなくて?』
『そ、そういえば……』
陳は己を抱き上げている白雲を見た。白雲が頷く。
『白雲様が、関係していたのですか……?』
『私も白虎様に抱かれるまで失念していたのだけど、抱かれれば抱かれるほど胸が育つみたいなのよ。成長を止めたいと思うなら白雲に相談してちょうだい』
『……秀美、すまなかった。我はこの歳になって初めてつがいを見つけた故、己がつがいに与える効果というものを忘れていた。秀美さえ手に入れれば他は些末なことであった』
『白雲様……』
香子としては陳は白雲に対して烈火のごとく怒ってもいいと思っている。だが、陳もまた白雲を深く愛しているようだった。
『……胸が大きくなることについては教えてほしかったです』
『すまない』
『花嫁様、ありがとうございます。白雲様とは今後しっかり話し合いたいと思います。白雲様、下ろしてください』
『それはできぬ。戻るのであれば我が連れていこう』
『一人で戻れます』
『ならぬ』
『白雲様!』
『胸が大きくなってたいへんなのだろう?』
なんだこのバカップル、と香子は思った。
でも大事なことが伝えられてよかったと笑んだのだった。
白雲は、自分が抱くことで侍女頭である陳秀美の胸が大きくなるということは本人に伝えていないらしい。そもそも胸が大きすぎるのも困るということがわからないのだ。
それもそのはず、男には揺れるような胸がない。(胸筋は揺れないのだろうか?)
『胸ってね、歩いてるだけで揺れるのよ。大きければ大きいほど揺れるから肩も凝るし、揺れると付け根が痛くなるの。しかも大きすぎると下も見えなくなるから歩くのも危ないわね』
『……それで陳は胸を押さえるようにしていたのですか』
白雲はやっと合点がいったようだった。
香子は思い出す。陳は確かに目に見えて胸が大きくなっているように見受けられなかった。それは仕事に支障が出ないように布を巻いたりして押さえていたからなのだろう。
『押さえるのも痛いのよ』
『ではすぐに陳を娶る許可を取ります。四神宮での仕事を止めさせれば動く必要もなくなるでしょう』
『そういう問題じゃないでしょ。そもそも、なんで胸が大きくなることを伝えなかったの? 陳はどうして自分の身体が変化しているのかわからなくて不安なはずよ? 大事なつがいのはずなのにそういうことも伝えていないとか信じられない!』
感覚が違うと言われてしまえばそれまでだが、白雲に抱かれることで身体が変化していくことは絶対に伝えなければいけないことだと香子は思う。
『……失念しておりました』
白雲は頭を垂れた。そして気を取り直したように頭を上げる。
『すぐに伝えて参ります』
『待ちなさい! 伝えるならここで、よ。まずこちらに連れていらっしゃい』
『かしこまりました』
白雲は一瞬不思議そうな顔をしていたが、香子の憤りを感じ取ったのだろう、香子の言葉に従った。
『陳を探してまいります』
『……陳の仕事が忙しそうだったら邪魔しちゃだめよ。私はいくらでも待てるから』
『かしこまりました』
白雲は拱手すると、風のように白虎の室を出て行った。香子ははーっと深く嘆息した。これだから四神の眷属というものは、と香子は思う。
『……私、白雲は完璧だと思ってたんですよね』
『完璧とは?』
『ここに来た眷属の中でも一番年上で、冷静じゃないですか。ちゃんとフォローもしてくれるし、だから陳をつがいにすると聞いた時も白雲になら任せられると思ったんですよ』
実際のところ眷属と人というずれはあったし、陳も戸惑っていたことは確かだが比較的すんなりと白雲を受け入れている。
『……香子、あれも浮かれているのだ。今までつがいが現れなかったのだから』
そう白虎に言われて香子ははっとした。
白雲は白虎よりも先に生まれたと聞いている。先代の花嫁から最初に生まれた子らしい。となると、もうけっこうな歳になる。
『白雲に残された時間はそれほどないのですか?』
『あと百年ぐらいはあるだろう』
白虎が言う。そんなに長い間白虎の世話だけをしてきたのかと思ったら、香子は切なくなった。だからといって陳に胸のことを伝えなくていいわけではない。
『陳を連れて参りました』
表から声がかかった。
『入れ』
白虎が許可をする。室の扉が開かれ、白雲が陳を抱き上げたまま入ってきた。
もしかしてこれは――と香子は思う。
陳の胸を揺らさないように配慮した結果なのだろうか。四神も眷属もだが、やることが極端すぎて香子はどうかと思ってしまう。
陳はとてもうろたえていた。抱き上げられ、何故ここに連れてこられたのかわからないようである。
(だからあれほど説明をしろと……)
四神といい眷属といい、とにかく説明が足りない。
『白虎様、花嫁様、このような恰好で……』
『気にしなくていいわ。白雲、もしかして強引に連れてきたの?』
『白虎様の室で花嫁様がお待ちだとは伝えました』
『……まぁいいでしょう』
香子は頭が痛くなるのを感じた。抱き上げてきたことも問題だが、それについてはその場で言えなかったのだからしかたない。
『いきなり呼び出してごめんなさい。陳は困っていることはない?』
『い、いえ……特には、ございません……』
戸惑いながら陳が答える。けれどその手は無意識にか、己の胸に当てられた。
『陳、こちらに四神が来てから胸が育ってはいないかしら? 正直に答えて』
『えっ……あ、はい……何故か、胸が大きくなってきております。あのぅ、もしかして四神とこの胸の大きさに関係が……?』
香子はため息を吐きたくなった。陳はとても困っているようである。それは白雲が己の情報を伝えなかったせいだ。
『貴方たちの閨事情について詮索はしたくないのだけど、正確には白雲に抱かれるようになってから胸が大きくなっているのではなくて?』
『そ、そういえば……』
陳は己を抱き上げている白雲を見た。白雲が頷く。
『白雲様が、関係していたのですか……?』
『私も白虎様に抱かれるまで失念していたのだけど、抱かれれば抱かれるほど胸が育つみたいなのよ。成長を止めたいと思うなら白雲に相談してちょうだい』
『……秀美、すまなかった。我はこの歳になって初めてつがいを見つけた故、己がつがいに与える効果というものを忘れていた。秀美さえ手に入れれば他は些末なことであった』
『白雲様……』
香子としては陳は白雲に対して烈火のごとく怒ってもいいと思っている。だが、陳もまた白雲を深く愛しているようだった。
『……胸が大きくなることについては教えてほしかったです』
『すまない』
『花嫁様、ありがとうございます。白雲様とは今後しっかり話し合いたいと思います。白雲様、下ろしてください』
『それはできぬ。戻るのであれば我が連れていこう』
『一人で戻れます』
『ならぬ』
『白雲様!』
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なんだこのバカップル、と香子は思った。
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