異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
上 下
545 / 608
第4部 四神を愛しなさいと言われました

93.眷属は己の神が一番なのです

しおりを挟む
 四神宮は静かだった。
 正確には、四神宮の中は、である。
 趙文英はここのところ毎日朝から大忙しであるらしいと香子は聞いた。
 それについては申し訳ないと香子も思うのだが、ことがことだけにどうしようもなかった。
 四神の衣装の保管や管理については四神宮で行うこととなった。眷属たちがきちんと保管をすることになっているが、実はすでに四神が一旦領地へ戻しに行った。というのも、四神の衣装は全て四神の領地の者たちが作っているので、何かあってはいけないと領地にいる眷属たちが持って帰ってきてもらうよう四神に訴えたのだった。

(眷属に言われてお使いをする四神とか……)

 想像しただけでぷくく……と香子は笑ってしまう。
 眷属たちもありえないほどの身体能力を有しているので、四神宮と領地の往復ぐらいなんということはない。ただ丸一日大事な衣装を持って走るというのは眷属たちもやりたくはなかったらしく、一瞬で移動が可能な四神に運ばせたのである。四神も移動自体は一瞬であるからそれ自体は苦ではなかったが、四神はみな一様に眷属たちに文句を言われた。
 曰く、

『何故花嫁様を連れていらっしゃらなかったのですか?』

 と。
 それを食事の席で淡々と告げられて、香子はどんな顔をしたらいいのかわからなかった。

『そ、そうなのですか……』

 としか答えようがなかった。

『婚礼を挙げる前にまた衣装を取りに行くが、そなたを伴わなければ衣装を渡さない勢いであったぞ』

 朱雀が口元に笑みを浮かべて茶化すように言う。

『それは……』

 香子は助けを求めるように白雲の方を見た。白雲はすぐにそれに気づき、口元に笑みをはいた。

『おそれながら……我もそうですが、眷属というものは己の神が第一でございます。故に、己の神の元に花嫁様を迎え入れたいと望むものなのです』

 その割に、眷属は己の”つがい”が絡むと香子に対してひどくぞんざいになるということも、香子は知っていた。

『……それなら、花嫁は一人ではなく四人いればよかったのではなくて?』

 たった一人で四神の愛を受け止めるのは、香子としてもなかなかに大変なのだ。なのでつい以前から思っていたことが口から出てしまった。

『それはできぬ』

 玄武が即答した。
 以前も聞いたかもしれないが、香子には到底理解できない。何故花嫁はたった一人なのかと。

『それはたった一人しか召喚できないのか、それともあえて一人しか召喚しないのかどちらなのですか?』

 これだけは気になったので、香子は尋ねた。

『……あえて一人であるはずだ。こればかりは天皇ティエンホワンのご意志によるもの。我らが知るものではない』
『まぁ……なんとなく一人という理由もわからないではないですが』

 四人もいたらある意味収拾がつかなくなるに違いない。一人一人の相手が決まっていて、みながみなその相手を好きになる保証なんてない。すんなりいけばいいが、そうでなければ修羅場が起きそうだ。だからといって香子が一人で受け止めるのも違うような気はする。

『わかりませんよね……』
『天皇に尋ねることはできようが……』
『そもそも返事がありませんよね』

 何故召喚されたのが中国の人ではなく香子だったのか。それが香子としては最大の謎である。

(帰国しようとしてたのになぁ……)

 それがなんの因果か世界の強制力に捕まって、香子はこちらの世界に連れてこられてしまった。世界レベルの誘拐など、香子としては勘弁してほしいと思うが今となっては遠い昔のようである。

『声はかけているのだがな』
『……無視されてるわけじゃないですよね?』

 玄武は苦笑した。

『……元来神というのは気まぐれなものだ。答えたい時に答えるし、答えたくなければ聞いていない。無視とは違う』

 白虎が補足した。珍しいこともあるものだと香子は思った。

『……私には到底理解できませんが、長い年月を生きているとそういうものなのかもしれませんね』

 そこで話は終わった。
 天皇のことをああでもないこうでもない言ってもしかたがないからだった。
 それよりも香子にとって頭が痛いのは己の衣装についてである。布はだいたい決まったのだが、次は仮縫いだ。それをまたわざわざ慈寧宮に行ってやらなければならない。
 香子はもう体型が変わらないから、前の衣装の型紙を使って作ってくれればそれで十分だと思っていたが違うのだという。

『花嫁様のお胸は、以前に比べてとても豊かにおなりでございますから』

 そういえばそうだったと香子は自分の胸を見て思い出した。
 白虎に抱かれるようになってから、なんとなく胸が重いのである。以前と比べて身体を動かすとゆさっと胸が揺れるのだ。
 できれば胸の下の支えがほしいぐらいである。そういうものはないかと侍女に尋ねたら、香子の言う通りに侍女が手作りした。おかげで下乳を支える物ができて、香子としては満足である。

(結局、この胸なのね……)

 確かに香子は自分の胸がコンプレックスではあったが、こんなゆさゆさ揺れるほどの胸は求めていなかった。

(まだ大きくなるのかしら?)

 そうしたらまた衣装を作る度に香子は付き合わされることになるのだろう。この先はもう婚礼さえ挙げればと香子も考えてはいるが、まだもう少し四神宮にはいることになっている。(白虎と玄武の領地を回る予定)
 白虎には聞いてみなければいけないと香子は思ったのだった。
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

巻き戻ったから切れてみた

こもろう
恋愛
昔からの恋人を隠していた婚約者に断罪された私。気がついたら巻き戻っていたからブチ切れた! 軽~く読み飛ばし推奨です。

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました

山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。 だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。 なろうにも投稿しています。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

処理中です...