541 / 598
第4部 四神を愛しなさいと言われました
89.そろそろそんな話になりまして
しおりを挟む
皇太后は笑うのを堪えていたようだった。
香子からすれば笑いごとではないのだが、やりとりを楽しんでもらえたのならよかったと思った。普段は冷静だが、眷属はひとたびつがいが関わるとあほになるようである。
紅児が紅夏に嫁ぐまでは紅夏がうるさくてしかたなかった。香子はちら、と白雲を見やる。こちらはこちらで勝手に侍女頭の陳秀美を捕らえ、結婚も秒読みである。香子が婚礼を挙げた後は白雲と陳、青藍と延夕玲が結婚するに違いなかった。
『では青藍様、顔合わせの日が決まりましたらご連絡差し上げます』
『承知した』
『ですが』
皇太后はそこで言葉を切った。
『もし花嫁様になんらかの用事があって青藍様が付き従う必要がありましたら、そちらを優先してくださいませ』
『……それは何故か?』
本当に不思議そうに青藍が聞く。ここらへんのしきたりとか、機微などは伝わらないものらしい。皇太后も一瞬困ったような表情を浮かべた。
『青藍様は四神の眷属でございましょう。花嫁様を優先されるのは当然でございます。その際は妾も花嫁様に付き従いますので』
『……そなたに従おう』
夕玲に小声で説明され、青藍は夕玲に微笑みかけた。夕玲はとても困ったような表情で、頬を染めた。至近距離で見る四神の眷属の美しさに抗える者はいないのである。
(ま、いっかー)
香子は笑顔である。
眷属が香子に必要以上に近づいてくることはないので、それによるダメージはないが、四神と顔は似通っているので本当になんだかなぁと香子は思う。ただその雰囲気は全然違うので、顔も姿形も似ていても間違えることはない。ただ眷属の見分けはもしかしたら難しいかもしれないと香子は考える。
(ここだから区別できてるけど、領地に行ったらわからなくなるかも?)
香子はあまり人の顔が覚えられる性質ではないので、今頃になってちょっと心配になった。
『香子、如何か?』
全然関係ないことを考えているのを、白虎には気づかれてしまった。これは香子が白虎の腕の中にいるからしかたないことかもしれない。
『なんともありません』
香子はそっと白虎の腕を衣裳の上から撫でた。
おいしい紅茶をいただき、お茶菓子を食べ、香子は慈寧宮を辞した。
婚礼の日取りなどはまた改めて通知が来るそうである。楊という女官についてはまず四神宮の主官である趙文英に話をしてから後日迎えることとなった。さすがにいきなり連れて戻ったら趙の胃がおかしくなってしまうかもしれないと香子は思っていたので、それは助かった。
白雲から女官が増えることを伝えられた趙が胃を押さえたかどうか香子は知らない。
それよりも茶会が終わった後、白虎が香子を抱いたまま四神宮の室に飛び、本性を現して香子に甘えまくったことの方が問題ではあった。すぐに玄武が追いかけ、昼間から香子が白虎に襲われることは阻止されたのでそちらも大した問題にはならなかった。
『虎~もふもふ~もふもふ~』
香子が白虎の毛を堪能して至福の表情を浮かべたぐらいである。
皇太后と皇后、皇帝の口添えにより、香子と四神の婚礼は二か月後に行われることと決まった。
『結婚式かぁ……』
イマイチ香子には実感がない。
結婚式に出たのも紅児と紅夏のが初めてなのである。元の世界でもそんな機会はなく、香子は誰かの結婚式に出たことがなかった。
故に、何をするものなのかよくわからない。
中国の時代劇は見ていたので手順などはなんとなくわかるが、結婚相手が四人という時点で香子は混乱していた。
『婚礼はそなたにとって厭うものか?』
日中、青龍を椅子にした形でお茶を啜っていると青龍にそう聞かれた。
『いえ……まだ自分のことと実感が湧かないだけです』
香子は素直に答えた。ククッと青龍が喉の奥で笑う。
『実感とは……すでに我らと交わっているというのにまだしないものなのか?』
香子は首を傾げた。そうしてから、そういえばこの国では普通女性は結婚してからしか肌を許さないのだったということを思い出した。
『ああ、そうでしたね……』
玄武に抱かれた時点で香子は”初めて”ではなかったから、身体を重ねたイコール結婚とは考えていなかったのである。
これは見ようによってはあばずれと思われてもしかたないと香子はこめかみを指で押さえた。
『そなたの国では違うのであったか』
『……結婚するまで守っている女性もいるでしょうし、国によってはそれが当たり前ではあるのですが、私の国ではそのう……』
『そなたが気に病むことではない。これからは我らにしか抱かれることはないのだから』
『そ、それもそうです、ね……』
香子は別にどうしてもHしたいわけではないからそれでいい。青龍が気にしていないようで、香子はほっとした。
『だが……少し妬けるな』
『……え?』
持っていた茶杯を奪われ、卓の上に戻される。そうして青龍は香子を抱いたまま立ち上がった。
『青龍様……』
『抱きはせぬ。そなたを愛でたいだけだ』
ここで逆らってもしょうがないことを香子はよく知っていた。
青龍が気にしていないなんてことはなかった。
『夕飯はちゃんと食べたいです……』
『そなたはそればかりだな……』
そんな色気のない香子でも、青龍は捕らえ、午後は甘く啼かせたのだった。
香子からすれば笑いごとではないのだが、やりとりを楽しんでもらえたのならよかったと思った。普段は冷静だが、眷属はひとたびつがいが関わるとあほになるようである。
紅児が紅夏に嫁ぐまでは紅夏がうるさくてしかたなかった。香子はちら、と白雲を見やる。こちらはこちらで勝手に侍女頭の陳秀美を捕らえ、結婚も秒読みである。香子が婚礼を挙げた後は白雲と陳、青藍と延夕玲が結婚するに違いなかった。
『では青藍様、顔合わせの日が決まりましたらご連絡差し上げます』
『承知した』
『ですが』
皇太后はそこで言葉を切った。
『もし花嫁様になんらかの用事があって青藍様が付き従う必要がありましたら、そちらを優先してくださいませ』
『……それは何故か?』
本当に不思議そうに青藍が聞く。ここらへんのしきたりとか、機微などは伝わらないものらしい。皇太后も一瞬困ったような表情を浮かべた。
『青藍様は四神の眷属でございましょう。花嫁様を優先されるのは当然でございます。その際は妾も花嫁様に付き従いますので』
『……そなたに従おう』
夕玲に小声で説明され、青藍は夕玲に微笑みかけた。夕玲はとても困ったような表情で、頬を染めた。至近距離で見る四神の眷属の美しさに抗える者はいないのである。
(ま、いっかー)
香子は笑顔である。
眷属が香子に必要以上に近づいてくることはないので、それによるダメージはないが、四神と顔は似通っているので本当になんだかなぁと香子は思う。ただその雰囲気は全然違うので、顔も姿形も似ていても間違えることはない。ただ眷属の見分けはもしかしたら難しいかもしれないと香子は考える。
(ここだから区別できてるけど、領地に行ったらわからなくなるかも?)
香子はあまり人の顔が覚えられる性質ではないので、今頃になってちょっと心配になった。
『香子、如何か?』
全然関係ないことを考えているのを、白虎には気づかれてしまった。これは香子が白虎の腕の中にいるからしかたないことかもしれない。
『なんともありません』
香子はそっと白虎の腕を衣裳の上から撫でた。
おいしい紅茶をいただき、お茶菓子を食べ、香子は慈寧宮を辞した。
婚礼の日取りなどはまた改めて通知が来るそうである。楊という女官についてはまず四神宮の主官である趙文英に話をしてから後日迎えることとなった。さすがにいきなり連れて戻ったら趙の胃がおかしくなってしまうかもしれないと香子は思っていたので、それは助かった。
白雲から女官が増えることを伝えられた趙が胃を押さえたかどうか香子は知らない。
それよりも茶会が終わった後、白虎が香子を抱いたまま四神宮の室に飛び、本性を現して香子に甘えまくったことの方が問題ではあった。すぐに玄武が追いかけ、昼間から香子が白虎に襲われることは阻止されたのでそちらも大した問題にはならなかった。
『虎~もふもふ~もふもふ~』
香子が白虎の毛を堪能して至福の表情を浮かべたぐらいである。
皇太后と皇后、皇帝の口添えにより、香子と四神の婚礼は二か月後に行われることと決まった。
『結婚式かぁ……』
イマイチ香子には実感がない。
結婚式に出たのも紅児と紅夏のが初めてなのである。元の世界でもそんな機会はなく、香子は誰かの結婚式に出たことがなかった。
故に、何をするものなのかよくわからない。
中国の時代劇は見ていたので手順などはなんとなくわかるが、結婚相手が四人という時点で香子は混乱していた。
『婚礼はそなたにとって厭うものか?』
日中、青龍を椅子にした形でお茶を啜っていると青龍にそう聞かれた。
『いえ……まだ自分のことと実感が湧かないだけです』
香子は素直に答えた。ククッと青龍が喉の奥で笑う。
『実感とは……すでに我らと交わっているというのにまだしないものなのか?』
香子は首を傾げた。そうしてから、そういえばこの国では普通女性は結婚してからしか肌を許さないのだったということを思い出した。
『ああ、そうでしたね……』
玄武に抱かれた時点で香子は”初めて”ではなかったから、身体を重ねたイコール結婚とは考えていなかったのである。
これは見ようによってはあばずれと思われてもしかたないと香子はこめかみを指で押さえた。
『そなたの国では違うのであったか』
『……結婚するまで守っている女性もいるでしょうし、国によってはそれが当たり前ではあるのですが、私の国ではそのう……』
『そなたが気に病むことではない。これからは我らにしか抱かれることはないのだから』
『そ、それもそうです、ね……』
香子は別にどうしてもHしたいわけではないからそれでいい。青龍が気にしていないようで、香子はほっとした。
『だが……少し妬けるな』
『……え?』
持っていた茶杯を奪われ、卓の上に戻される。そうして青龍は香子を抱いたまま立ち上がった。
『青龍様……』
『抱きはせぬ。そなたを愛でたいだけだ』
ここで逆らってもしょうがないことを香子はよく知っていた。
青龍が気にしていないなんてことはなかった。
『夕飯はちゃんと食べたいです……』
『そなたはそればかりだな……』
そんな色気のない香子でも、青龍は捕らえ、午後は甘く啼かせたのだった。
35
お気に入りに追加
4,015
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる