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第4部 四神を愛しなさいと言われました
87.手ぐすねを引いて待っていたみたいです
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翌日、香子は皇太后に誘われてお茶をしに向かった。
白虎の腕に抱かれて、である。皇太后の要請もあり、青龍も一緒であった。今回は、玄武、青龍、白虎、黒月、青藍、白雲、延夕玲、そして侍女たちという、それだけで室内が満杯になってしまうような大所帯である。
毎回お付きの数が多いとは思っているが、それはもうしかたないことだった。
慈寧宮の一番広い部屋に通されて、白虎の腕に抱かれたままお茶を啜る。香子も椅子に腰掛けることがあるのだが、最近の四神は食事時以外香子を膝から下ろそうとしないので香子も諦めた。夕玲がそう皇太后に伝えてくれたせいか、今日はわざわざ長椅子まで用意してくれたようだった。
申し訳ないと思いつつ、何故自分が申し訳なく思わなければいけないのかと香子も考えてしまう。
『寒い時期は特に紅茶がおいしいですね』
『花嫁様にそう教えてもらった故、紅茶を飲むようにしている。おかげで通じも増えました』
『それはよかったです!』
とかく女性は身体が冷えやすい。紅茶は身体が温まりやすいので飲まれた方がいいですよと香子は皇太后や皇后に伝えていた。
紅茶はわざわざ南方から取り寄せる為運送コストはかかるが、それぐらい皇室が金を回さなくてどうすると香子は思う。別に楊貴妃のように急がせる必要はないが、冬の紅茶の流通経路は作ってもらった方がいいのではないかと香子は考えた。
『それにしても、花嫁様はほんに博識じゃ。それだけでなく、花嫁様はこの国に連ならない異国の地の出身と聞きましたぞ』
香子は一瞬お茶を噴きそうになった。
『……え……それは、どなたが……』
ギギギ……とぎこちなく香子は首を巡らせる。夕玲と青藍を見れば、夕玲がそっと目を伏せた。香子が異世界から呼び出されたということを皇太后は知っているが、言葉の違う別の国出身ということは伝えていなかったはずだ。今更隠すようなことではないが、他人から伝えられているというのが香子としては複雑である。
『花嫁様、夕玲は我が命に従ったまでのこと。咎があるとすれば妾に』
『いえ……今は特に隠していることでもありませんから。ただ、何度も言うようですが老佛爷のやり方は悪手です』
『……咎を妾一人が負うとお伝えしてもでしょうか』
どう伝えたら理解してもらえるだろうかと香子は考える。
『……私は、この国の歴史に興味がありますのでこの国の制度なども多少は理解しているつもりです。ですがそうではなく、身分制度自体がない世界や国から唐に来た者であった場合、老佛爷がどのような立場の方か理解できないかもしれません。そしてその者がどうしても許せないと考えたとしたら、どうなりますか?』
『……花嫁様がいたところも、身分制度はないようなことをおっしゃられていましたな』
皇太后が少し考えるような顔をした。
『表向きはありません。ただしかつてはありましたし、現在もなんとなくは残っているものです。一応は平等を謳ってはおりますが』
『建前というものですな』
『そうなります』
生き物というのは無意識に自分より上か下という存在を必要とするようだ。
雑談ではあったが、こういう話は疲れると香子は思う。
『老佛爷、先日は我が侍女の婚礼にお力添えをいただきまことにありがとうございました』
『花嫁様の婚礼も近いでしょう。衣裳だけでなく装飾品を選ぶのも楽しみでございますな』
『……あ、はい……』
紅児の結婚式に、皇太后が少なからず関わった件について香子は礼を言ったが、皇太后は香子の結婚式について言及した。
『花嫁様がこちらへいらして、まもなく一年になりますな。どなたに嫁がれるか、そろそろお決めになられたのではありませんか?』
『ええと、その……』
一年が経つまでにまだ一月ある、ではなくもう一月しかない、だったことにようやく香子は気づいた。紅児の結婚式にしても急ぎではあったがそれなりに時間がかかったのだ。四神の婚礼ともなればどれほどの準備が必要だろうか。それにやっと思い至り、香子は眩暈を覚えた。
『江緑、そなに香子をいじめるでない』
香子の椅子になっていた白虎が助け舟を出した。
『ほ、ほ……ですが決めねばならぬのではないでしょうか?』
『……香子が我らの花嫁であることは変わらぬ。まずはどこの領地に滞在するかどうか決める程度のことだ』
玄武が口を開いた。
『となると、婚礼自体は四神と花嫁様で挙げればよろしいのでしょうか?』
『それで問題なかろう。あとは香子がどこに向かうかを決めればよい』
(ええええ……)
確かにそうすれば誰に嫁ぐかを早く決めろとせっつかれることもない。何故そんな簡単なことに気付かなかったのかと香子は内心頭を抱えた。
『これからの準備となります故、早くても二か月後になりますか。腕が鳴りますな』
皇太后がとても楽しそうに笑む。香子は内心冷汗を掻いた。
『あのぅ……できれば婚礼の前に玄武様や白虎様の領地を見に行きたいと思っているのですが……』
『それは重畳。ですがあとは向かわれる領地の選定となります故、婚礼が先でもよろしいのではないでしょうか』
皇太后に言われてしまった。
できることならば、お手柔らかに頼みたいと香子は願った。
白虎の腕に抱かれて、である。皇太后の要請もあり、青龍も一緒であった。今回は、玄武、青龍、白虎、黒月、青藍、白雲、延夕玲、そして侍女たちという、それだけで室内が満杯になってしまうような大所帯である。
毎回お付きの数が多いとは思っているが、それはもうしかたないことだった。
慈寧宮の一番広い部屋に通されて、白虎の腕に抱かれたままお茶を啜る。香子も椅子に腰掛けることがあるのだが、最近の四神は食事時以外香子を膝から下ろそうとしないので香子も諦めた。夕玲がそう皇太后に伝えてくれたせいか、今日はわざわざ長椅子まで用意してくれたようだった。
申し訳ないと思いつつ、何故自分が申し訳なく思わなければいけないのかと香子も考えてしまう。
『寒い時期は特に紅茶がおいしいですね』
『花嫁様にそう教えてもらった故、紅茶を飲むようにしている。おかげで通じも増えました』
『それはよかったです!』
とかく女性は身体が冷えやすい。紅茶は身体が温まりやすいので飲まれた方がいいですよと香子は皇太后や皇后に伝えていた。
紅茶はわざわざ南方から取り寄せる為運送コストはかかるが、それぐらい皇室が金を回さなくてどうすると香子は思う。別に楊貴妃のように急がせる必要はないが、冬の紅茶の流通経路は作ってもらった方がいいのではないかと香子は考えた。
『それにしても、花嫁様はほんに博識じゃ。それだけでなく、花嫁様はこの国に連ならない異国の地の出身と聞きましたぞ』
香子は一瞬お茶を噴きそうになった。
『……え……それは、どなたが……』
ギギギ……とぎこちなく香子は首を巡らせる。夕玲と青藍を見れば、夕玲がそっと目を伏せた。香子が異世界から呼び出されたということを皇太后は知っているが、言葉の違う別の国出身ということは伝えていなかったはずだ。今更隠すようなことではないが、他人から伝えられているというのが香子としては複雑である。
『花嫁様、夕玲は我が命に従ったまでのこと。咎があるとすれば妾に』
『いえ……今は特に隠していることでもありませんから。ただ、何度も言うようですが老佛爷のやり方は悪手です』
『……咎を妾一人が負うとお伝えしてもでしょうか』
どう伝えたら理解してもらえるだろうかと香子は考える。
『……私は、この国の歴史に興味がありますのでこの国の制度なども多少は理解しているつもりです。ですがそうではなく、身分制度自体がない世界や国から唐に来た者であった場合、老佛爷がどのような立場の方か理解できないかもしれません。そしてその者がどうしても許せないと考えたとしたら、どうなりますか?』
『……花嫁様がいたところも、身分制度はないようなことをおっしゃられていましたな』
皇太后が少し考えるような顔をした。
『表向きはありません。ただしかつてはありましたし、現在もなんとなくは残っているものです。一応は平等を謳ってはおりますが』
『建前というものですな』
『そうなります』
生き物というのは無意識に自分より上か下という存在を必要とするようだ。
雑談ではあったが、こういう話は疲れると香子は思う。
『老佛爷、先日は我が侍女の婚礼にお力添えをいただきまことにありがとうございました』
『花嫁様の婚礼も近いでしょう。衣裳だけでなく装飾品を選ぶのも楽しみでございますな』
『……あ、はい……』
紅児の結婚式に、皇太后が少なからず関わった件について香子は礼を言ったが、皇太后は香子の結婚式について言及した。
『花嫁様がこちらへいらして、まもなく一年になりますな。どなたに嫁がれるか、そろそろお決めになられたのではありませんか?』
『ええと、その……』
一年が経つまでにまだ一月ある、ではなくもう一月しかない、だったことにようやく香子は気づいた。紅児の結婚式にしても急ぎではあったがそれなりに時間がかかったのだ。四神の婚礼ともなればどれほどの準備が必要だろうか。それにやっと思い至り、香子は眩暈を覚えた。
『江緑、そなに香子をいじめるでない』
香子の椅子になっていた白虎が助け舟を出した。
『ほ、ほ……ですが決めねばならぬのではないでしょうか?』
『……香子が我らの花嫁であることは変わらぬ。まずはどこの領地に滞在するかどうか決める程度のことだ』
玄武が口を開いた。
『となると、婚礼自体は四神と花嫁様で挙げればよろしいのでしょうか?』
『それで問題なかろう。あとは香子がどこに向かうかを決めればよい』
(ええええ……)
確かにそうすれば誰に嫁ぐかを早く決めろとせっつかれることもない。何故そんな簡単なことに気付かなかったのかと香子は内心頭を抱えた。
『これからの準備となります故、早くても二か月後になりますか。腕が鳴りますな』
皇太后がとても楽しそうに笑む。香子は内心冷汗を掻いた。
『あのぅ……できれば婚礼の前に玄武様や白虎様の領地を見に行きたいと思っているのですが……』
『それは重畳。ですがあとは向かわれる領地の選定となります故、婚礼が先でもよろしいのではないでしょうか』
皇太后に言われてしまった。
できることならば、お手柔らかに頼みたいと香子は願った。
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