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第4部 四神を愛しなさいと言われました

86.もふもふは必要なのです

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 張錦飛が帰った後、香子は白虎の室に連れて行かれた。
 そこで本性を現わしてもらい、香子は白虎のもふもふを堪能した。なにかあってはいけないと、玄武が傍らで控えている。本性を現した四神を止められるのは四神しかいないからだった。
 毎回香子も悪いとは思うのだが、真っ白なもふもふに逆らえるはずもなく埋もれた。

(はう~もふもふ~もふもふ~気持ちいい~)

 一見少し硬そうにも見えた白虎の毛は極上の触り心地なのである。香子はどうにか涎を垂らさないように耐えながら、白虎をはふはふと吸っていた。

『……そうしているとまるで赤子のようだな』

 白虎が苦笑する。唸るような低い声なのだが、もう香子は怖いとは思わない。けれど虎の姿に抱かれるのはまだ怖い。

香子シャンズ、今宵はそなたと過ごしたい』

 そう言われて香子はビクッとした。慣れなければとは香子も思うが、やはりこの姿に抱かれるのは抵抗がある。

『……ならぬか?』
『いえ、玄武様と、朱雀様がよろしければ……』

 香子は真っ赤になった。ここに来てまもなく一年が経とうとしているのに、己が”抱かれる”話をするのが香子は苦手なままだ。こればっかりは何年経っても慣れないのではないかと香子は思う。
 それで思い出した。

『玄武様のご領地は、いつ頃ならば見頃でしょう』

 花の見頃のような言い方をしてしまった。

『そうさな。五月ぐらいであればよいだろうが……そこまで我らが耐えられるかどうか』

 室の隅に控えている玄武が不穏なことを言う。香子は苦笑した。
 王城の四神宮にいる期間は、本来であれば一年である。香子がここに来た時は三月であったはずだから、あと一月もすれば一年が経ってしまう。滞在は延ばせると聞いたので、香子は滞在を延ばすつもりでいるが、さすがに二月以上も延ばすのは難しいかもしれない。

『……香子、そろそろ戻るぞ』
『……はい』

 白虎が耐えられなくなってきたようだ。香子はまだ触れていたかったが断念した。それぐらい白虎の毛の触り心地はいい。
 白虎が人型になり、白虎はそのまま香子を膝に横抱きにした。

『では、我は戻る』

 玄武がそこまで見届けて寝室から出て行こうとするのを、香子は『玄武様』と声をかけて呼び止めた。

『香子、如何か?』
『……どれぐらいなら、玄武様は待てますか?』

 香子が四神のうち誰に嫁ぐかを決めるのを。玄武は口元を少し持ち上げた。

『……待てと言われれば、この命尽きるまで待とう』
『……そんな気の長い話はしていません』
『香子、我はすぐにでもそなたを持ち帰りたい』

 耳元で白虎にそう言われて、香子は内心慌てた。そうでなくても白虎は他の三神と違い、嫉妬の心があるのだった。
 そして香子はどうにか耐えているが、玄武のバリトンも、白虎のバスも耳に心地良すぎてたまらないのだ。そして何度も言及しているが、香子はメンクイなのである。それだけでなく、もう四神のことが好きなのでなんでも言うことを聞いてしまいたくてしょうがない。
 しかしそれで流されてしまったら絶対後悔することを知っているから、香子は耐えているのである。

『……持ち帰りは許可しません……』

 香子はどうにかそう伝えた。白虎の領地に持ち帰られたらもう四神宮には戻ってこられないではないか。

『それは残念だ』
『……四神宮を離れるまでにはいろいろ決めておかなければいけません。玄武様の領地を見せてもらい、白虎様の領地にも行ってから判断したいです』

 香子も自分で言っていて図々しいとは思うが、こればかりは譲れない。

『そう言っていたな。だが、時には流されてもいいのではないか?』

 白虎がククッと喉の奥で笑う。

『……すでに流されてこちらの世界に来ていますよ』

 そう考えるとすごい流されっぷりだと香子は思う。飛行機に乗っていたと思ったらこちらの世界に連れてこられたのだ。せめてスーツケースも一緒に届けてほしかったと思う。スーツケースの中にはお茶とか本とか着替えとかいろいろ詰めに詰めていたのだ。あまりの量の多さに空港で難色を示されたほどである。でも日本航空の職員はこれで帰国だということで、そのとんでもない量の荷物を過料なしで飛行機に載せてくれたのだ。
 香子は思い出したら腹が立ってきた。

『玄武様、天皇ティエンホワンからの返事はないんですよね?』
『……ないな』

 香子はため息をついた。これでは香子が生きている間に返事をもらえることはないかもしれない。
 けれどそれもしかたないことだろう。なにせ相手は神様である。

(考え方も時間の流れも違うのはわかるけど、やっぱ納得はいかないよね)

 納得がいかなくても香子がこちらの世界に来てしまったことには変わりがない。折り合いをつけて生きていくしかないのだ。
 その日の夜、香子は朱雀の熱を受けて白虎と共に過ごした。まだ朱雀の熱がないと白虎に抱かれるのは難しい。
 でかくて白い虎に襲われるという恐怖もあるが、その動物の姿に抱かれるということにどうしても抵抗を覚えてしまうからだった。

(慣れる日なんて、くるの?)

 そこに愛が生まれても、先代の花嫁はとてもたいへんだったのではないだろうかと香子は思ったのだった。
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