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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
93.つい自分と重ねてしまいます
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それほど時間を置かず、無事馬遼とは連絡が取れた。
紅夏には、馬紅児という娘に心当たりがないか聞いてくるよう言ってあった。結果はビンゴで、香子は思わずまた椅子から立ち上がってしまった。とにかくまずは秦皇島から一緒に出てきた養父と紅児を引き合わせなければならない。
周りがばたばたと動き出す。
『紅夏、馬遼たちを連れてきてくれる?』
と頼むと、紅夏は何やら考えるような顔をした。
『花嫁様、失礼ですがあの娘を養父に会わせた後どうなされるおつもりか?』
(どうする、ってー……)
その時点では紅児のその後の処遇までは考えていなかったことにはっとする。
『……んー、どうしよう?』
香子は首を傾げた。
『……侍女が足りないと聞いておりますが』
そこで助け船を出したのは白雲だった。きっと陳の仕事量が増えたのが気に食わないのだろう。
『そういえばそうだったわね』
目線を上に向けて考える。
紅児が王都に出てきたのは、秦皇島で誰かに嫁いで一生を終える、という気はなかったからだ。発端としては花嫁の髪の色が紅児のように赤いと聞き、もしかしたら同国人かもしれないという一縷の望みにかけてやってきた。
ということはここで養父に返すのは下策だろう。かと言ってセレスト王国から行方不明者の捜索願いが出されているかどうかもわからないこの状況(まだ何も聞いていない)で、ただ紅児を四神宮に留めておくことはできない。もちろん花嫁の我儘として紅児を住まわせておくことはできるだろうがいらぬトラブルを引き寄せる可能性もある。
『……侍女……そうね、彼女がよければ部屋付きの侍女として勤めてもらおうかしら。趙にも提案してもらえる?』
白雲に答えると、紅夏も共に頷いた。
『まぁ……部屋付きじゃなくてもいいけど、足りないのは部屋付きだもんねぇ……』
誰かが部屋にいるのが当り前、というのにはやはり慣れない。香子が一人きりになれるのは今のところ自分の寝室だけである。だがぶつぶつ何かを呟いていれば居間の方に丸聞こえだし、プライベートはないのかと改めて考えてしまうのだった。
『セレスト王国から捜索願いが出されていないかどうか調べてもらう必要もあるわよね。もし家族がいるなら返してあげたいわ……』
呟くように言いながら香子は少ししんみりしてしまった。香子がこちらの世界に飛ばされて二か月以上が経った。それまで約半年に一度帰国し親に顔を見せていた。高校を卒業してからは家族と離れていることが当り前だったのだ。それによくも悪くも慣れてしまっていたからもう二度と会えないという実感に乏しいのかもしれない。けれど紅児は違う。香子とは違うのだ。
『返す、というのは帰国させるということですか』
珍しく紅夏から聞かれ、香子は目を瞬かせた。
『ええ、そのつもりだけど? もちろんこれから調査をしてもらって、捜索願いの有無とか、もし出されていたらセレスト王国への連絡とか……そう考えると紅児を返すのは最短で七、八か月後ってことになるかしら。できれば私がここにいる間に彼女の将来の目途がつけばいいのだけど』
『わかりました』
どうも紅夏は紅児を気にかけているようである。迎えに行ったから、というのもあるのかもしれないと香子は結論付けた。
四神や黒月を除く眷属への対応はそれでよかったのだが、黒月、及び延夕玲は難色を示した。一緒に呼ばれた陳秀美は居心地が悪そうで、香子は少し悪いことをしたと思った。
そうは言っても香子の意志である。黒月は意外と早い段階で嘆息しながらも紅児を四神宮で預かることを了承してくれた。夕玲もためらいながらではあるが一応了承したが、最後に鈴の鳴るような綺麗な声で、
『……花嫁様、私共は花嫁様を困らせようと思って言っているわけではありません。ただ……心配なのです』
こう言ってくれたのが香子としては嬉しかった。思わず手招きして、戸惑う夕玲の髪を優しく撫でる。
『夕玲、ありがとう。貴女たちの気持ちはとても嬉しいわ』
『花嫁様……』
純粋な瞳が眩しい。
『何かあればきっと四神がどうにかしてくださるはずだから』
だがそう言った途端黒月や夕玲の目が残念な子を見るようなそれに変わった。何故だ。
その後しばらく四神宮の中は慌ただしく、結局準備が整ったのはその日の夕方だった。
紅夏に紅児を呼びに行ってもらい、改めて身なりを整える。侍女たちも心得たもので手早く香子を着飾り、あまり青龍を待たせることはなかった。
謁見の間に入ると紅児が待っていた。紅児は香子たちを見ると一瞬驚いたような表情をした。
(ん?)
香子は内心首を傾げた。そして自らの状況に思い当たる。今日は白虎ではなく青龍に抱き上げられてきていた。
(まぁ普通ではないわよね)
軽蔑されなければいいけれど、と思いながら声をかける。
『紅児、何度も呼び出して悪いわね。……今いらっしゃるから確認してもらえる?』
笑みを浮かべて言うと紅児は何のことかわからないと言うように目をパチパチさせた。
『連れて参りました』という紅夏の声と共に、紅児の後ろから馬遼と馬遼より老けたように見える男性が現れた。その男性は紅児の姿を見るなり目を見開き、
『……紅児……!! 無事だったのか!!』
と声を張り上げた。紅児が振り向く。
『お……おとっつぁん……!!』
二人はお互いを確認するとすぐに抱きしめ合い、再会を喜んだ。その様子を見て香子も胸が熱くなる。そっと青龍の腕に触れると、青龍は頷いた。それに香子は安堵した。
紅児の養父は善人のようだ。それがわかっただけでも話を進めるのに十分だった。
紅夏には、馬紅児という娘に心当たりがないか聞いてくるよう言ってあった。結果はビンゴで、香子は思わずまた椅子から立ち上がってしまった。とにかくまずは秦皇島から一緒に出てきた養父と紅児を引き合わせなければならない。
周りがばたばたと動き出す。
『紅夏、馬遼たちを連れてきてくれる?』
と頼むと、紅夏は何やら考えるような顔をした。
『花嫁様、失礼ですがあの娘を養父に会わせた後どうなされるおつもりか?』
(どうする、ってー……)
その時点では紅児のその後の処遇までは考えていなかったことにはっとする。
『……んー、どうしよう?』
香子は首を傾げた。
『……侍女が足りないと聞いておりますが』
そこで助け船を出したのは白雲だった。きっと陳の仕事量が増えたのが気に食わないのだろう。
『そういえばそうだったわね』
目線を上に向けて考える。
紅児が王都に出てきたのは、秦皇島で誰かに嫁いで一生を終える、という気はなかったからだ。発端としては花嫁の髪の色が紅児のように赤いと聞き、もしかしたら同国人かもしれないという一縷の望みにかけてやってきた。
ということはここで養父に返すのは下策だろう。かと言ってセレスト王国から行方不明者の捜索願いが出されているかどうかもわからないこの状況(まだ何も聞いていない)で、ただ紅児を四神宮に留めておくことはできない。もちろん花嫁の我儘として紅児を住まわせておくことはできるだろうがいらぬトラブルを引き寄せる可能性もある。
『……侍女……そうね、彼女がよければ部屋付きの侍女として勤めてもらおうかしら。趙にも提案してもらえる?』
白雲に答えると、紅夏も共に頷いた。
『まぁ……部屋付きじゃなくてもいいけど、足りないのは部屋付きだもんねぇ……』
誰かが部屋にいるのが当り前、というのにはやはり慣れない。香子が一人きりになれるのは今のところ自分の寝室だけである。だがぶつぶつ何かを呟いていれば居間の方に丸聞こえだし、プライベートはないのかと改めて考えてしまうのだった。
『セレスト王国から捜索願いが出されていないかどうか調べてもらう必要もあるわよね。もし家族がいるなら返してあげたいわ……』
呟くように言いながら香子は少ししんみりしてしまった。香子がこちらの世界に飛ばされて二か月以上が経った。それまで約半年に一度帰国し親に顔を見せていた。高校を卒業してからは家族と離れていることが当り前だったのだ。それによくも悪くも慣れてしまっていたからもう二度と会えないという実感に乏しいのかもしれない。けれど紅児は違う。香子とは違うのだ。
『返す、というのは帰国させるということですか』
珍しく紅夏から聞かれ、香子は目を瞬かせた。
『ええ、そのつもりだけど? もちろんこれから調査をしてもらって、捜索願いの有無とか、もし出されていたらセレスト王国への連絡とか……そう考えると紅児を返すのは最短で七、八か月後ってことになるかしら。できれば私がここにいる間に彼女の将来の目途がつけばいいのだけど』
『わかりました』
どうも紅夏は紅児を気にかけているようである。迎えに行ったから、というのもあるのかもしれないと香子は結論付けた。
四神や黒月を除く眷属への対応はそれでよかったのだが、黒月、及び延夕玲は難色を示した。一緒に呼ばれた陳秀美は居心地が悪そうで、香子は少し悪いことをしたと思った。
そうは言っても香子の意志である。黒月は意外と早い段階で嘆息しながらも紅児を四神宮で預かることを了承してくれた。夕玲もためらいながらではあるが一応了承したが、最後に鈴の鳴るような綺麗な声で、
『……花嫁様、私共は花嫁様を困らせようと思って言っているわけではありません。ただ……心配なのです』
こう言ってくれたのが香子としては嬉しかった。思わず手招きして、戸惑う夕玲の髪を優しく撫でる。
『夕玲、ありがとう。貴女たちの気持ちはとても嬉しいわ』
『花嫁様……』
純粋な瞳が眩しい。
『何かあればきっと四神がどうにかしてくださるはずだから』
だがそう言った途端黒月や夕玲の目が残念な子を見るようなそれに変わった。何故だ。
その後しばらく四神宮の中は慌ただしく、結局準備が整ったのはその日の夕方だった。
紅夏に紅児を呼びに行ってもらい、改めて身なりを整える。侍女たちも心得たもので手早く香子を着飾り、あまり青龍を待たせることはなかった。
謁見の間に入ると紅児が待っていた。紅児は香子たちを見ると一瞬驚いたような表情をした。
(ん?)
香子は内心首を傾げた。そして自らの状況に思い当たる。今日は白虎ではなく青龍に抱き上げられてきていた。
(まぁ普通ではないわよね)
軽蔑されなければいいけれど、と思いながら声をかける。
『紅児、何度も呼び出して悪いわね。……今いらっしゃるから確認してもらえる?』
笑みを浮かべて言うと紅児は何のことかわからないと言うように目をパチパチさせた。
『連れて参りました』という紅夏の声と共に、紅児の後ろから馬遼と馬遼より老けたように見える男性が現れた。その男性は紅児の姿を見るなり目を見開き、
『……紅児……!! 無事だったのか!!』
と声を張り上げた。紅児が振り向く。
『お……おとっつぁん……!!』
二人はお互いを確認するとすぐに抱きしめ合い、再会を喜んだ。その様子を見て香子も胸が熱くなる。そっと青龍の腕に触れると、青龍は頷いた。それに香子は安堵した。
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