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第4部 四神を愛しなさいと言われました
84.思いつきで行動するのは少し問題です
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『玄武様?』
香子は自分が今どこにいるのかさっぱりわからなかった。
山が近い位置に見える。少し離れたところには滝がある、とても大きな湖だった。
『ここは、どこですか?』
『我の領地内の湖だ。名は知らぬ』
『えええ?』
とてもキレイな湖だとは思ったが、何故ここに連れてこられたのだろうと香子は混乱した。玄武の腕の中にいるから寒くないが、湖の周りはところどころ氷が張っている。試しにはーっと息を吐けば真っ白だった。
『ふむ、これでは映らぬか。湖面があまりよく見えぬな』
(映る?)
香子は首を傾げた。
そうしてやっと玄武がしたいことに思い至った。
『玄武様、もしかして……私の姿を私に見せようとしてくれて、ですか?』
まさかな、とは思ったが、香子はそれ以外思いつかなかった。おそるおそる聞けば、頷かれて頭を抱えたくなった。
四神宮に戻った後が怖いと香子は思う。朝食は終え、食後のお茶を飲んでいた時ではあるが侍女たちがまだ玄武の室にいた。それがいきなり消えたのである。侍女たちの狼狽ぶりを思うと、香子は頭が痛くなるのを感じた。
(めったなことは言うものではないわね)
『……素敵な湖ですね』
海ではないだろうと香子は思った。きっと玄武から離れたらとても寒いのだろう。もちろん玄武が香子を放すことはないだろうから安心はしている。
『ああ、そなたに見せたいと思った』
香子はまじまじと玄武の顔を見た。領内と言っていたから、ここは玄武の領地の中なのだろう。とてもキレイな場所だが、あまりにも寒すぎるからこの時期は人の姿も見えない。この湖を鏡として、香子の姿を見せてくれようと考えた玄武を香子は愛しく思った。
四神は香子の予想の斜め上のことをしたりするから面白い。
『とても嬉しいのですけれども、できればこれから出かけるとか、一言侍女たちに伝えたかったです。心配させてしまいますから』
『……そうだな。黒月には伝えた』
『ああ、念話でしたっけ?』
香子は首を傾げた。
四神間ではやりとりができるはずだが、黒月には一方通行のはずである。香子も四神にくっついていれば声を出さずに会話ができるというものだ。
香子は黒月がどこにいただろうかと考えた。
昨夜は玄武の室に運ばれて、今朝は玄武の室で朝食を取った。その際黒月はおそらく香子の部屋の前にいたのではないかと香子は予想した。ということは延夕玲や香子の部屋付きの侍女たちには伝えられているのだろう。ただ、玄武の室にいた侍女たちが気の毒ではあった。
『玄武様、ここはとても美しいですね。でも、私の姿を見るだけならお風呂でも見られると思いますよ?』
『……そうであったな』
玄武が珍しく苦笑した。香子は玄武がこの景色を見せてくれたことを嬉しく思った。だがそろそろ戻らないといけないだろう。
『玄武様の領地をいろいろ見て回りたいのはやまやまですが、今日のところは戻りましょう。また連れてきていただけますか?』
『ああ、そなたが望むならどこへでも』
そういうことをさらりと言うのだからずるいと香子は思う。にっこりして、玄武の胸に頭をもたせかけた。
『でも、こんなに突然ではいけませんよ。玄武様の館へお邪魔する際は、きちんと事前に連絡をしてくださいね』
『……わかった』
玄武は納得がいかなかったようだが、返事をした。
そして一瞬で先ほどまでいた玄武の室に戻ったのだった。
侍女たちが泣いて喜んだのだのを見て、香子はやはりめったなことを言うものではないと肝に命じた。
しかし大きな鏡を用意するというのも難しい。四神宮にある鏡も上半身から上が映るものはあるが、さすがに姿見はない。
(やっぱりお風呂で確認しよ……)
水面がゆらぐだろうが、大体の姿は確認できるはずである。
それにしても理不尽だと思ったのは、部屋に戻ったら黒月に怒られたことだ。
『……花嫁様、また何かおっしゃられたのではないですか?』
『……自分の姿をしっかり確認したいとは思ったけど、まさか大きな湖に連れて行かれるとは思わないじゃない』
『玄武様は思いつきで行動されることが多いのですから、花嫁様にしっかりしていただかなければ困ります』
『……それは玄武様の問題じゃないの……』
しかし黒月は聞いてくれなかった。背の高い美人が両腕を組んで仁王立ちしている。そんな姿に逆らえるはずもなかった。
翌日は久しぶりに張錦飛に書を習った。
意外と練習の時間が取れないせいか、なかなか上達しない。香子はため息を吐いた。
なにせまともに書の練習に付き合ってくれるのは青龍ぐらいで、白虎と共にいるとついつい虎の姿になってもらってもふもふを堪能してしまう。もふもふには勝てないのだ。
日がな一日何をしているわけでもないのに、何故字の練習ができないのだろうと香子は首を傾げた。
『筆が手に合ってない可能性もありますな』
『筆、ですか』
『さよう。今度何本かお持ちしましょう』
『ありがとうございます。お願いします』
書を書くのには筆も関係してくれるのかと香子は感心した。弘法大師のように書に優れているのならば筆の良し悪しは関係ないかもしれないが、香子はほぼ筆を使ったことがない。せいぜい小中の書道の時間に習った程度である。
少しはそれで書がキレイに書けるようになれたらいいなと香子は思った。
香子は自分が今どこにいるのかさっぱりわからなかった。
山が近い位置に見える。少し離れたところには滝がある、とても大きな湖だった。
『ここは、どこですか?』
『我の領地内の湖だ。名は知らぬ』
『えええ?』
とてもキレイな湖だとは思ったが、何故ここに連れてこられたのだろうと香子は混乱した。玄武の腕の中にいるから寒くないが、湖の周りはところどころ氷が張っている。試しにはーっと息を吐けば真っ白だった。
『ふむ、これでは映らぬか。湖面があまりよく見えぬな』
(映る?)
香子は首を傾げた。
そうしてやっと玄武がしたいことに思い至った。
『玄武様、もしかして……私の姿を私に見せようとしてくれて、ですか?』
まさかな、とは思ったが、香子はそれ以外思いつかなかった。おそるおそる聞けば、頷かれて頭を抱えたくなった。
四神宮に戻った後が怖いと香子は思う。朝食は終え、食後のお茶を飲んでいた時ではあるが侍女たちがまだ玄武の室にいた。それがいきなり消えたのである。侍女たちの狼狽ぶりを思うと、香子は頭が痛くなるのを感じた。
(めったなことは言うものではないわね)
『……素敵な湖ですね』
海ではないだろうと香子は思った。きっと玄武から離れたらとても寒いのだろう。もちろん玄武が香子を放すことはないだろうから安心はしている。
『ああ、そなたに見せたいと思った』
香子はまじまじと玄武の顔を見た。領内と言っていたから、ここは玄武の領地の中なのだろう。とてもキレイな場所だが、あまりにも寒すぎるからこの時期は人の姿も見えない。この湖を鏡として、香子の姿を見せてくれようと考えた玄武を香子は愛しく思った。
四神は香子の予想の斜め上のことをしたりするから面白い。
『とても嬉しいのですけれども、できればこれから出かけるとか、一言侍女たちに伝えたかったです。心配させてしまいますから』
『……そうだな。黒月には伝えた』
『ああ、念話でしたっけ?』
香子は首を傾げた。
四神間ではやりとりができるはずだが、黒月には一方通行のはずである。香子も四神にくっついていれば声を出さずに会話ができるというものだ。
香子は黒月がどこにいただろうかと考えた。
昨夜は玄武の室に運ばれて、今朝は玄武の室で朝食を取った。その際黒月はおそらく香子の部屋の前にいたのではないかと香子は予想した。ということは延夕玲や香子の部屋付きの侍女たちには伝えられているのだろう。ただ、玄武の室にいた侍女たちが気の毒ではあった。
『玄武様、ここはとても美しいですね。でも、私の姿を見るだけならお風呂でも見られると思いますよ?』
『……そうであったな』
玄武が珍しく苦笑した。香子は玄武がこの景色を見せてくれたことを嬉しく思った。だがそろそろ戻らないといけないだろう。
『玄武様の領地をいろいろ見て回りたいのはやまやまですが、今日のところは戻りましょう。また連れてきていただけますか?』
『ああ、そなたが望むならどこへでも』
そういうことをさらりと言うのだからずるいと香子は思う。にっこりして、玄武の胸に頭をもたせかけた。
『でも、こんなに突然ではいけませんよ。玄武様の館へお邪魔する際は、きちんと事前に連絡をしてくださいね』
『……わかった』
玄武は納得がいかなかったようだが、返事をした。
そして一瞬で先ほどまでいた玄武の室に戻ったのだった。
侍女たちが泣いて喜んだのだのを見て、香子はやはりめったなことを言うものではないと肝に命じた。
しかし大きな鏡を用意するというのも難しい。四神宮にある鏡も上半身から上が映るものはあるが、さすがに姿見はない。
(やっぱりお風呂で確認しよ……)
水面がゆらぐだろうが、大体の姿は確認できるはずである。
それにしても理不尽だと思ったのは、部屋に戻ったら黒月に怒られたことだ。
『……花嫁様、また何かおっしゃられたのではないですか?』
『……自分の姿をしっかり確認したいとは思ったけど、まさか大きな湖に連れて行かれるとは思わないじゃない』
『玄武様は思いつきで行動されることが多いのですから、花嫁様にしっかりしていただかなければ困ります』
『……それは玄武様の問題じゃないの……』
しかし黒月は聞いてくれなかった。背の高い美人が両腕を組んで仁王立ちしている。そんな姿に逆らえるはずもなかった。
翌日は久しぶりに張錦飛に書を習った。
意外と練習の時間が取れないせいか、なかなか上達しない。香子はため息を吐いた。
なにせまともに書の練習に付き合ってくれるのは青龍ぐらいで、白虎と共にいるとついつい虎の姿になってもらってもふもふを堪能してしまう。もふもふには勝てないのだ。
日がな一日何をしているわけでもないのに、何故字の練習ができないのだろうと香子は首を傾げた。
『筆が手に合ってない可能性もありますな』
『筆、ですか』
『さよう。今度何本かお持ちしましょう』
『ありがとうございます。お願いします』
書を書くのには筆も関係してくれるのかと香子は感心した。弘法大師のように書に優れているのならば筆の良し悪しは関係ないかもしれないが、香子はほぼ筆を使ったことがない。せいぜい小中の書道の時間に習った程度である。
少しはそれで書がキレイに書けるようになれたらいいなと香子は思った。
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